第111話 カミシロフーズ誕生
いつも読んでいただきありがとうございます。
今回は石版探しの前に、悠真たちの拠点を少し掘り下げる回になっています。
今まで名前のなかった会社も、ついに正式な名前が決まりました。
それでは第111話をお楽しみください。
神々の国の朝は静かだった。
空には雲一つなく、どこまでも澄み切った青空が広がっている。眼下には白い雲海がゆっくりと流れ、その上へ築かれた神々の都は、朝日を浴びて柔らかな光に包まれていた。
昨夜の宴の賑わいが嘘のように、神殿の回廊には穏やかな空気が流れている。
悠真は大きく息を吸い込んだ。
「今日で帰るんだな。」
その時、奥の扉がゆっくりと開いた。
モーガントを先頭に、十二神が姿を現す。
「もう出発するのか。」
モーガントが穏やかな表情で尋ねる。
「はい。皆さんには本当にお世話になりました。」
悠真が頭を下げると、神々もそれぞれ微笑んだ。
「次はゆっくり話そう。」
ペレナートが笑顔で言う。
「今度は私の国にも来てください。」
エレーナが優しく微笑む。
豪快な笑い声を上げたのはオオザトだった。
「次は酒でも飲みながら勝負しようではないか!」
「まずは石版を集めてからですね。」
悠真が苦笑すると、周囲から笑いが起こる。
ラリーは腕を組みながら静かに口を開いた。
「焦る必要はない。一枚ずつ確実に集めることだ。」
マリリンも小さく頷く。
「油断だけはしないで。」
短い言葉だったが、その瞳には仲間を案じる優しさがあった。
悠真は十二神を見渡した。
最初に神々の国へ来た時は緊張しかなかった。
だが今は違う。
頼れる仲間として笑い合える存在になっていた。
「ありがとうございました。」
改めて深く頭を下げる。
神々も静かに頷いた。
ゼラモードが懐から双界カードを取り出す。
「それでは戻るとしよう。」
カードを手にしたゼラモードがスキルを発動すると、カードが淡く輝き始めた。
すぐにカードの上へガイオの姿が映し出される。
『ゼラモードさん。』
「ガイオ、今から戻る。」
『承知しました。受け入れます。』
短い確認を終える。
双方が転移を承認した瞬間、双界カードが強く光を放った。
次の瞬間、悠真たちの景色が白く染まる。
光が収まると、そこは見慣れたガイオの屋敷だった。
「お帰りなさい。」
待っていたガイオが笑顔で迎える。
「無事で何よりです。」
「ただいま。」
悠真も笑顔を返した。
応接室へ移動すると、全員が席へ着く。
ガイオがお茶を用意し、一息ついたところでレオンが切り出した。
「それで、神々の国では何が分かった?」
悠真は順番に説明を始めた。
十二神それぞれが石版を管理していたこと。
すでに回収された石版。
まだ所在が判明しているもの、していないもの。
神々から聞いた情報を一つ残らず共有していく。
全てを聞き終えたガイオは静かに頷いた。
「つまり、残る石版は五枚ということですね。」
「そうですね。」
悠真も頷く。
「まだ半分近く残ってる。」
リズは地図を見つめながら言った。
「でも、少しずつ目的地が見えてきましたね。」
ララも笑顔を見せる。
「一枚ずつ集めていけば、きっと全部そろいます。」
ゼラモードは静かに湯飲みを置いた。
「焦る必要はない。」
「大事なのは確実に集めることじゃ。」
その落ち着いた言葉に、一同の表情も自然と引き締まる。
しばらく石版について話し合ったあと、悠真はふとゼラモードへ顔を向けた。
「そうだ、おじいちゃん。」
「ん?」
「静岡で約束したこと、覚えてる?」
ゼラモードは少しだけ目を細める。
「もちろんじゃ。」
「ヴァレルターニアへ戻ったら、お主が育てた畑や工場を見せてくれるという約束じゃな。」
悠真は嬉しそうに笑った。
「うん。」
「ぜひ見てもらいたいんだ。」
「楽しみにしておった。」
ゼラモードも柔らかく笑う。
「お主がどんな事業を築いたのか、この目で確かめさせてもらおう。」
レオンは二人の会話を聞き、懐から転移カードを取り出した。
「それじゃ行こうか。」
「グラード・マーケットまで送る。」
悠真たちは立ち上がる。
レオンの転移カードが光を放ち、一行の姿はゆっくりと光へ包まれていった。
次の瞬間。
賑やかな人々の声が耳へ飛び込んでくる。
荷車が行き交い、商人たちの呼び込みが街中へ響いていた。
活気あふれるグラード・マーケット。
ゼラモードはゆっくりと周囲を見回す。
街を歩く人々の笑顔。
忙しく働く商人。
整えられた道路。
絶え間なく流れる物流。
ゼラモードは街の様子をゆっくりと見渡し、小さく頷いた。
「活気のある良い街じゃ。」
悠真は嬉しそうに笑う。
「まずは、俺たちの店へ案内するよ。」
「ユウジと師匠が切り盛りしてる和食の店なんだ。」
「ほう。」
「それは楽しみじゃな。」
「そのあとに畑と工場も見てもらうよ。」
「静岡で約束したからね。」
ゼラモードは優しく頷いた
「もちろん覚えておる。」
「お主たちが築き上げたもの、この目でしっかり見届けさせてもらおう。」
一行は賑わう通りを歩き始めた。
まず向かうのは、ユウジと師匠が営む和食店だった。
賑わう通りを歩きながら、一行は一軒の店の前で足を止めた。
木の温もりを感じる落ち着いた店構え。昼時ということもあり、多くの客で賑わっていた。
「ここだよ。」
悠真が扉を開ける。
「いらっしゃ……おっ、悠真!」
厨房から顔を出したユウジが笑顔を見せた。
「帰ってきたんだな!」
その声に反応し、奥で料理を作っていた師匠も顔を上げる。
「おう、帰ったか。」
「ただいま。」
悠真が笑顔で返す。
ユウジはゼラモードへ目を向けた。
「もしかしてこの人がおじいちゃん?」
「そう。」
悠真が頷く。
「ゼラモードだ。」
ゼラモードは穏やかに頭を下げた。
「初めまして。」
「悠真がお世話になっております。」
師匠は笑って手を振る。
「世話になってるのはこっちだ。」
「まあ、座ってくれ。」
ほどなくして料理が運ばれてきた。
炊き立ての白いご飯に、香ばしく焼き上げた焼き魚。湯気とともに出汁の香りが立ちのぼる味噌汁。じっくり味の染みた肉じゃがに、小鉢と漬物が彩りを添える。
ゼラモードは一品ずつ丁寧に箸を進めた。
やがて静かに頷く。
「美味い。」
その一言に、ユウジと師匠が顔を見合わせて笑う。
「素材の持ち味をよく生かしておる。」
「毎日でも食べたくなる味じゃ。」
「長く愛される店になるじゃろう。」
師匠は照れくさそうに頭をかいた。
「そう言ってもらえると嬉しいな。」
ゼラモードは店内を見回しながら悠真へ視線を向けた。
「ところで悠真。」
「この店や工場の名前は何というんじゃ?」
悠真は少し困ったように笑う。
「店には特に名前を付けてないし、工場もそのまま工場って呼んでるだけかな。」
「そうか。」
ゼラモードは小さく頷いた。
「では、お主の会社の名前は?」
悠真は一瞬言葉を失った。
「……。」
レオンも苦笑する。
「そういえば、会社名も決めてなかったな。」
ゼラモードは穏やかに笑う。
「会社には名が必要じゃ。」
「働く者の誇りとなり、商いの顔にもなる。」
悠真は腕を組み、しばらく考え込んだ。
やがて顔を上げる。
「決めた。」
皆の視線が集まる。
「会社名は……カミシロフーズ。」
静かな店内に、その名が響いた。
ユウジは嬉しそうに笑う。
「いい名前だ!」
師匠も大きく頷いた。
「覚えやすくていい。」
ゼラモードは満足そうに微笑む。
「良い名じゃ。」
「今日から、お主たちの会社はカミシロフーズじゃな。」
食事を終えた一行は店をあとにし、悠真の案内で畑へ向かった。
一面に広がる畑では、青々と育った作物が風に揺れ、多くの人々が収穫作業に励んでいる。
ゼラモードは土を手に取り、ゆっくりと確かめた。
「管理が行き届いておる。」
「良い畑じゃ。」
悠真は少し照れながら笑う。
「みんなのおかげだよ。」
続いて工場へ向かうと、入口ではガレスが待っていた。
「悠真さん、お帰りなさい。」
「ゼラモード様、お待ちしておりました。」
ガレスは工場内を案内しながら、生産量や出荷状況を丁寧に説明していく。
ゼラモードは作業場、倉庫、商品の保管方法、荷積みの様子まで、一つひとつ目を配りながら歩いた。
一通り見終えると、満足そうに頷く。
「短期間でここまで築き上げたのは見事じゃ。」
その言葉にガレスは安堵の表情を浮かべた。
「ありがとうございます。」
ゼラモードは続ける。
「ただ、さらに良くできる。」
商品の配置。
作業の流れ。
荷物を運ぶ順番。
人員の配置。
どれも今ある仕組みを生かしながら効率を高める提案だった。
ガレスは何度も頷きながら熱心に耳を傾ける。
「勉強になります。」
「すぐに改善へ取り組みます。」
ゼラモードは優しく微笑み、悠真へ向き直った。
「悠真。」
「これからお主は残る石版を探しに行かねばならん。」
「会社のことまで一人で抱える必要はない。」
悠真は少し申し訳なさそうに笑う。
「でも、みんなに負担を掛けるのは……。」
ゼラモードは肩へそっと手を置いた。
「仲間を信じることも代表の務めじゃ。」
「しばらくの間、わしもカミシロフーズを手伝おう。」
「ガレスたちと力を合わせ、さらに良い会社へ育てていく。」
ガレスは深く頭を下げた。
「よろしくお願いいたします。」
悠真も祖父を見つめ、安心したように笑う。
「ありがとう、おじいちゃん。」
ゼラモードは優しく頷いた。
「会社のことは安心して任せるのじゃ。」
「お主は、お主にしかできぬ役目を果たしてこい。」
悠真は力強く頷く。
新たな名を得たカミシロフーズ。
頼れる仲間と、世界一の経営者である祖父の支えを得て、悠真たちは残る五枚の石版を求め、新たな一歩を踏み出すのだった。
第111話を読んでいただきありがとうございました。
グラード・マーケットで始まった事業も、今回ようやく「カミシロフーズ」という会社名が決まりました。
ずっと「工場」や「店」と呼んでいたので、このタイミングで名前を付けられて自分でもすっきりしています。
次回からはいよいよ残る石版を求め、新たな冒険が始まります。
これからも応援よろしくお願いいたします。




