第110話 神々の宴
いつも読んでいただきありがとうございます。
前回で残る石版の手掛かりが全て判明しました。
今回は少し息抜き回です。普段あまり見ることのない神々の日常や、それぞれの個性を楽しんでいただけたら嬉しいです。
それでは、第110話をお楽しみください。
残る五枚の石版の手掛かりが明らかになると、雲海の上に建つ神殿を包んでいた張り詰めた空気が、少しずつ和らいでいった。
神殿の大広間は白い石で造られ、天井を支える柱は一本もない。それでも広大な空間は不思議な力によって支えられており、開かれた窓の向こうには果てしない雲海が広がっていた。柔らかな陽光が差し込み、黄金色に染まった雲がゆっくりと流れている。
石版の話し合いを終えた十二柱の神々も、それぞれ安堵したように息をついていた。
「これで、ようやく全ての手掛かりが揃いましたね」
モーガントが穏やかに言うと、ゼラモードは満足そうに頷いた。
「うむ。長かったな」
そして周囲を見渡し、にやりと笑う。
「せっかくだ。今日は宴にしよう」
その一言に、神々の表情が一斉に明るくなった。
「宴ですか?」
エレーナが目を輝かせる。
「今日はわしが持って来てる。もちろん料理は地球のものだ」
その言葉に、今度は神々がざわついた。
「地球の料理?」
「初めて聞くな」
「どんな味なんだ?」
次々と興味深そうな声が上がる。
悠真も思わず笑みを浮かべた。
神といっても、初めて見るものへの反応は人間と変わらないらしい。
ゼラモードが軽く手を振ると、空間が淡く揺らぐ。
次の瞬間、大きな机の上へ次々と料理が並び始めた。
唐揚げ、寿司、天ぷら、焼き鳥、餃子、ラーメン、焼きそば、お好み焼き、カレーライス。
さらにプリンやショートケーキ、シュークリームまで並び、色鮮やかな料理が机いっぱいに広がっていく。
たちまち神殿中に香ばしい匂いが満ちた。
「な、なんだこの香りは……」
ラリーが思わず鼻をひくつかせる。
「見たことのない料理ばかりだ」
マリリンも興味深そうに料理を眺めている。
「これは美しいですね」
オルニードは寿司を見つめながら感心したように呟いた。
「見た目だけでも楽しめる料理とは」
「我慢できん!」
オオザトが勢いよく立ち上がろうとする。
しかし、その瞬間。
「待て」
ゼラモードの一言で動きが止まった。
「いただきます、だ」
「いただきます?」
聞き慣れない言葉に神々は顔を見合わせる。
ゼラモードは笑いながら説明した。
「食材や料理を作ってくれた者への感謝を込める、地球の挨拶だ」
「なるほど……」
モーガントは静かに頷いた。
「素晴らしい文化ですね」
他の神々も次々と頷く。
ゼラモードが悠真へ視線を向けた。
「悠真、お前が手本を見せてやれ」
「はい」
悠真は軽く頭を下げると、両手を合わせた。
「いただきます」
その姿を見て、十二柱の神々も同じように手を合わせる。
「いただきます」
声が綺麗に揃い、神殿へ静かに響いた。
次の瞬間。
「うまい!」
最初に声を上げたのはオオザトだった。
唐揚げを一口食べるなり目を丸くし、勢いよく二つ目へ手を伸ばす。
「肉が柔らかい! しかも、この衣は何だ!」
「少しは落ち着け」
ラリーが呆れながら言うものの、自分も焼き鳥を口へ運んだ瞬間、驚いたように目を見開いた。
「……これは確かにうまい。」
その様子を見ていた悠真は、小さく笑った。
神々の宴は、想像以上に賑やかなものになりそうだった。
神々は思い思いに料理へ手を伸ばし、あちこちで驚きの声が上がっていた。
「この麺料理も面白いな」
ラリーは箸を器用に使いながらラーメンをすすり、満足そうに頷く。
「この白いものは何です?」
マリリンが恐る恐るプリンを口へ運ぶと、その滑らかな食感に目を丸くした。
「……溶けました。」
その一言に周囲から笑いが起こる。
「甘いものも悪くないな。」
オルニードはショートケーキをゆっくり味わいながら微笑んだ。
「地球には、こんな文化があるのですね。」
「気に入ったなら何よりだ。」
ゼラモードは嬉しそうに神々の様子を眺めていた。
料理が一通り行き渡った頃、モーガントが静かに口を開く。
「ペレナート、一つだけ話しておきたいことがある。」
和やかだった空気が少しだけ引き締まる。
ペレナートは湯飲みを置き、モーガントへ視線を向けた。
「何だ?」
「ロペ家の件だ。」
その言葉に、悠真の表情も自然と変わる。
ロペ家。
あの館の中に広がる異空間。
悠真もレオンも、あの場所で堕天使との戦いに敗れた。
「人間と堕天使を戦わせるのはやめろ。」
モーガントは静かな口調だったが、その瞳には強い意思が宿っていた。
「堕天使も命だ。見世物のように扱うべきではない。」
ペレナートは少しだけ目を閉じ、小さく息を吐いた。
「……昔から何度も言われているな。」
「当然だ。」
モーガントは視線を逸らさない。
「私は神として認めることはできない。」
しばらく沈黙が流れる。
やがてペレナートは肩をすくめた。
「分かった。今後は見直そう。」
その返答に、モーガントも静かに頷いた。
「それでいい。」
険悪な雰囲気になることもなく、二人の会話はそこで終わった。
ゼラモードは満足そうに微笑む。
「互いに言いたいことを言えるのは悪いことじゃない。」
その言葉に神々も頷き、再び宴が始まった。
「悠真。」
エレーナが声を掛ける。
「石版集めは大変でしょうが、無理はしないでくださいね。」
「ありがとうございます。」
「私たちも、それぞれの地域で気を配っておく。」
モーガントも続けた。
「何か異変があれば、すぐ知らせよう。」
「助かります。」
悠真は深く頭を下げる。
十二柱の神々が協力してくれる。
それだけでも心強かった。
窓の外では、夕日に照らされた雲海が黄金色に輝いている。
残る石版を探す旅は、いよいよ本格的に始まる。
だが今だけは、そのことを忘れ、この穏やかな時間を楽しもう。
悠真は湯気の立つ料理へ再び箸を伸ばき、神々の笑い声が雲の上の神殿へいつまでも響き渡っていた。
第110話を読んでいただきありがとうございました。
ここまで石版探しの情報整理が続いたので、今回は神々との宴を描いてみました。神様といっても、初めて食べる地球の料理に驚く姿はどこか人間らしく、書いていて楽しい回でした。
次回はいよいよ神々の国を後にし、ゼッタ地区のグラード・マーケットへ向かいます。悠真はゼラモードへ工場の運営を託し、残る石版を求める新たな旅へ出発します。
次回もよろしくお願いいたします。




