第105話 新しい扉
いつも読んでいただきありがとうございます。
今回はゼラモードが新たなスキルカードを披露します。
これまで物語を支えてきた転移方法に代わる、新しい移動手段が登場しますので、ぜひ最後までお楽しみください。
ゼラモード食品の工場を一通り見学し終えた悠真たちは、再び応接室へ戻ってきた。
窓の外では大型トラックが次々と工場を出入りし、休むことなく商品を運び出している。
その様子を眺めながら、光は静かに口を開いた。
「さて、今日はこの辺りにしておくかの」
悠真たちも頷く。
工場の規模も、人の多さも、どれも想像以上だった。
異世界の工場とは比べものにならない。
そんな悠真たちの表情を見て、光は少し嬉しそうに笑った。
「お主たちも、いずれここまで育てるんじゃ」
「頑張るよ」
悠真が答えると、光は満足そうに頷いた。
「そうじゃ、その意気じゃ」
そして懐から数枚のカードを取り出した。
「それと、これからは屋根裏の穴に頼る必要も、少なくなるかもしれん」
「え?」
悠真は思わず聞き返した。
光はカードを机の上へ並べる。
見た目はスキルカードによく似ている。
しかし、表面には今まで見たことのない紋様が刻まれていた。
中央には小さな扉のような印。
その周囲を幾何学模様が囲んでいる。
「新しいスキルカードじゃ」
ララが目を輝かせる。
「新しいカード!」
「これは通信と転移、その二つの役目を持つ」
レオンも身を乗り出した。
「通信まで?」
「そうじゃ」
光が説明を始めようとした、その時だった。
「その前に、一人呼んでおくか」
光は机の電話を手に取り、短く言葉を交わした。
数分もしないうちに扉が開く。
「失礼いたします」
入ってきたのは三十代後半ほどの男性だった。
黒いスーツをきっちり着こなし、眼鏡の奥の目は穏やかだが鋭い。
「お呼びでしょうか、会長」
「うむ」
光はカードを二枚取り、その男性へ差し出した。
「これは新しい通信兼転移カードじゃ」
男性は驚いたようにカードを見る。
「私が預かるのでしょうか」
「そうじゃ」
光は頷いた。
「しばらく東京へ行くことになる」
「その間、静岡はお主に任せる」
「何かあれば、このカードで連絡してくれ」
男性は深く頭を下げた。
「承知いたしました」
悠真はそのやり取りを見ながら尋ねた。
「この人は?」
「第一秘書じゃ」
光が答える。
「会社のことはほとんど任せておる」
「そうなんだ」
秘書は悠真たちへ向き直る。
「初めまして。秘書を務めております、高橋と申します」
レオンたちも軽く頭を下げた。
「よろしくお願いいたします」
高橋はカードを大切そうに胸ポケットへしまう。
「会長、お気を付けて」
「ああ、留守は頼んだぞ」
高橋が部屋を出ると、光は改めて悠真たちの方へ向き直った。
「さて、これで安心じゃ」
「静岡へ戻る時も困らん」
悠真はようやく納得した。
「なるほど」
「向こうにもカードを持ってる人が必要なんだ」
「その通りじゃ」
光は笑った。
「では改めて説明しよう」
カードを一枚持ち上げる。
「まず、一枚だけなら通信ができる」
「通信?」
悠真が聞き返す。
「離れた相手の姿と声が、このカードへ映る」
「えっ?」
ララが目を丸くする。
「そんなことまでできるんですか?」
光はカードを軽く握る。
次の瞬間、カードの表面が淡く輝き、まるで静かな湖の水面のように揺れ、そこへ映像が映る仕組みになっていることが分かる。
「すごい……」
リズは感心したように呟いた。
「スキルカードというより、芸術品ですね」
「人間の知恵も随分学んだからの」
光はどこか誇らしげだった。
悠真は思わず笑う。
「テレビ電話みたいだ」
「あれは便利じゃからの。」
「少し参考にさせてもらったんじゃ。」
ララはカードを覗き込みながら目を輝かせている。
「早く見てみたいです!」
レオンも静かに頷いた。
「戦略面でも非常に有用ですね」
「便利な道具ほど慎重に扱わねばならん」
光は穏やかに言う。
「だから転移はさらに条件を付けてある」
そう言って、もう一枚のカードを持ち上げた。
「転移には二枚必要じゃ」
悠真たちは自然と身を乗り出した。
光は二枚のカードを重ねて見せた。
「まず一枚で通信を行う」
「相手が今どこにいるのか、安全かどうかを確認する」
「そして双方が転移を承認したあと、それぞれが二枚のカードを重ねる」
カードが重なった瞬間、淡い光が周囲へ広がる。
次の瞬間、光の足元に見慣れない魔法陣が浮かび上がった。
「これが転移魔法陣じゃ」
ララは思わず息を呑む。
「すごい……」
「場所を選ばず転移できるんですね」
光は頷く。
「ただし、カードを持つ者同士だけじゃ」
「勝手に転移することもできん」
レオンは腕を組みながら感心したように言う。
「相手の承認が必要なのですね」
「そうじゃ」
光は穏やかに笑う。
「便利なものほど、安全でなければならん」
リズも静かに頷いた。
「よく考えられています」
悠真はふと疑問を口にする。
「でも、今このカードを持ってる人って、おじいちゃん以外にいるの?」
光は小さく笑った。
「一人だけおる」
「悠生じゃ」
「父さん?」
「試作品として渡しておいた」
「全国展開の準備で静岡と東京を行き来することが増えての」
「何度も新幹線を使うより便利じゃからな」
悠真は納得したように頷く。
「なるほど」
「早速繋いでみるか」
光はカードへ静かに魔力を流した。
淡い光がカード全体を包み込む。
やがて水面のように揺れ始め、一人の男性の姿が映し出された。
「親父、どうした?」
悠生だった。
少し疲れた表情をしているが、元気そうだ。
悠真は思わず前へ出た。
「父さん!」
悠生の表情が一変する。
「悠真か?」
「ずいぶんと久しぶりだな」
「うん……久しぶり」
何年も離れて暮らしていた父。
こうして顔を見るだけで、不思議と安心する。
悠生は笑みを浮かべた。
「元気そうでよかった」
「父さんもね」
そのやり取りを見ていたララが、小さく声を漏らした。
「本当にカードの中に映ってます……」
リズも感心したように見つめている。
「まるで目の前にいるようですね」
レオンは静かに頷いた。
「これほど鮮明な映像を映し出すカードは初めて見ます」
悠生は三人へ視線を向けた。
「その人たちは、悠真の仲間なのかい」
「そうなんだ」
悠真は順番に紹介する。
「レオン」
「リズ」
「ララ」
三人は画面へ向かって丁寧に頭を下げた。
「初めまして」
悠生も軽く頭を下げ返す。
「悠真がお世話になっています」
ララは少し照れくさそうに笑った。
「こちらこそです」
光が話を戻す。
「今どこにおる?」
「ちょうど東京の実家へ戻ったところだ」
悠真は目を丸くした。
「家にいるの?」
「ああ」
悠生は頷く。
「東京の拠点もだいぶ形になったからな」
「今日は久しぶりに実家へ顔を出してる」
光は満足そうに笑う。
「ちょうどよい」
「こちらから行こうと思っとったところじゃ」
「もちろん構わない」
悠生は迷いなく答えた。
「承認する」
悠生の声がカードから聞こえる。
光は二枚のカードを重ねた。
淡い光が広がり、五人の足元を包み込む大きな転移魔法陣が現れる。
「全員、魔法陣の中へ」
悠真たちは頷き、レオン、リズ、ララとともに魔法陣へ入った。
「行くぞ」
光がカードを軽く握る。
次の瞬間、魔法陣が眩く輝き、一行の姿は東京へと消えた。悠真たちは東京の実家のリビングへ立っていた。
「着いた……」
悠真が辺りを見回す。
見慣れたソファ。
テーブル。
テレビ。
そこに悠生が立っていた。
「本当に一瞬だな」
悠生は少し笑う。
「久しぶりだ、悠真」
「うん」
二人は少し照れくさそうに笑い合った。
その時だった。
廊下から足音が聞こえる。
「あら悠真、帰ってきたの?」
母がリビングへ入ってきた。
そして、その場で立ち止まる。
「え……?」
悠真。
悠生。
光。
そしてレオン、リズ、ララ。
一度に大勢の姿が目に入り、しばらく言葉が出ない。
やがて母は苦笑した。
「今日はずいぶん賑やかね」
その一言で、部屋の空気が一気に和らぐ。
「ただいま」
悠真がそう言うと、母は優しく微笑んだ。
「おかえりなさい」
光も笑う。
「久しぶりじゃの」
「本当に久しぶりです」
母は少し呆れたように肩をすくめた。
「帰ってくるなら、せめて一本電話してください」
悠真は思わず吹き出した。
ララもつられて笑う。
リズはその温かな空気を静かに見つめていた。
「素敵なご家族ですね」
レオンも穏やかな表情で頷く。
「安心できる場所というのは、こういうものなのでしょう」
悠真は改めて家族を見渡した。
母。
父。
祖父。
そして、大切な仲間たち。
離れていた時間は長かった。
それでも、この場所には確かな温もりがあった。
その光景を胸に刻みながら、悠真は静かに笑った。
第105話を読んでいただきありがとうございました。
今回は新しいスキルカードと、久しぶりの家族の再会を描きました。
このカードは今後、物語の重要な移動手段として活躍していく予定です。また、屋根裏の穴についても近いうちに新たな展開を予定しています。
そして、ゼラモード、悠生、悠真が揃ったことで、これから地球とヴァレルターニア、そして神々の国を繋ぐ新たな物語が本格的に動き始めます。
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