第103話 ゼラモード
いつも読んでいただきありがとうございます。
ついに悠真は、石版の謎を追って祖父・神代光のもとへ辿り着きます。
長く張ってきた伏線が少しずつ繋がり始める回です。ぜひ最後までお楽しみください。
巨大な工場群を前に、悠真たちはしばらく言葉を失っていた。
山々に囲まれた広大な敷地。
大型トラックが何台も行き交い、工場の煙突からは白い蒸気がゆっくりと立ち上っている。
その正面に掲げられた大きな看板。
『ゼラモード食品』
「「「「そのままじゃん!」」」」
四人の声が見事に重なった。
悠真は思わず頭を抱える。
「もう少し隠す気はなかったのか……」
レオンも苦笑する。
「これだけ堂々としていると、逆に清々しいな」
悠真たちは正門へ向かった。
守衛室から男性が出てくる。
「ご用件をお伺いします」
悠真は一歩前へ出た。
「神代光さん……それか神代悠生さんはいらっしゃいますか?」
「失礼ですが、お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか」
「神代悠真です。伝えていただければ分かると思います」
守衛は少し驚いた表情を浮かべたが、すぐに内線電話を手に取った。
短く何かを話す。
数秒後、その表情が変わった。
「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
「え?」
「ご案内いたします」
悠真たちは顔を見合わせながら、守衛の後をついて歩き始めた。
工場へ向かうのかと思ったが違った。
敷地の奥には、洋館のような立派な建物が建っている。
中へ案内されると、高級ホテルのような応接室だった。
「こちらで少々お待ちください」
飲み物が運ばれてくる。
ララは落ち着かない様子で部屋を見回していた。
「すごいですね……」
「工場の応接室とは思えないな」
レオンも感心している。
しばらくして。
コンコン、と扉が叩かれた。
「失礼するぞい」
ゆっくりと扉が開く。
悠真は思わず目を見開いた。
「え……」
老人ではなかった。
三十代後半から四十代前半ほどに見える男性。
黒髪。
穏やかな笑み。
そして何より。
自分によく似ていた。
まるで十数年後の自分が立っているようだった。
男性は柔らかく笑う。
「おやおや。悠真が来たと聞いて驚いたわい」
悠真を見つめながら目を細める。
「生まれた時に会って以来じゃな。もうこんなに大きくなったか」
悠真はまだ状況を飲み込めない。
「あなたが……」
男性は軽く頷いた。
「神代光じゃ」
悠真は思わず立ち上がる。
「じゃあやっぱり……あなたがおじいちゃん?」
「そうなるの」
信じられない。
この間見た写真そのままだったあれから十七年経つのに全く変わっていない。
悠真は迷うことなく尋ねた。
「おじいちゃん……ゼラモードなんですか?」
光は少しだけ驚いたように目を丸くしたあと、小さく笑った。
「そうか。やはり行ったんじゃな」
「え?」
「屋根裏から続く、あの世界へ」
光はレオンたちへ視線を向ける。
「連れの方々を見た時に、そうではないかと思ったんじゃ」
悠真はゆっくり頷いた。
「異世界へ行ったんだ」
それから神々の国のこと。
モーガント。
カンジンとベンジン。
奈良の大仏の石版。
ゼラモードという名前。
これまでの出来事を順番に説明した。
光は最後まで一度も口を挟まなかった。
「なるほどのう」
静かに頷く。
「神々の国まで辿り着いたか」
その目にはどこか嬉しそうな色が浮かんでいた。
「さすが、わしの孫じゃ」
悠真は少し照れくさそうに頭を掻く。
「カンジンとベンジンにも会ったんだ」
「そうか」
光は懐かしそうに笑う。
「しばらく会っておらんの」
「石版を渡す代わりに、おじいちゃんを連れて来てくれって言われた」
「はっはっは」
光は楽しそうに笑った。
「あの二人らしい」
「行ってもらえますか?」
「もちろんじゃ」
即答だった。
「近いうちに土産でも持って会いに行くとするか」
「石版のことは?」
「いろいろ仕込んではある」
光は意味ありげに笑う。
「じゃが、その謎はお主たちが解けばよい」
「教えてくれないの?」
「全部話してしまっては面白くないじゃろう」
悠真は苦笑した。
この人はどこかモーガントとも似ている。
「神々へ渡した後のことまでは、わしも知らんしの」
「そうなんだ」
「だから石版探しは続けるといい」
少し間を置いて、悠真は周囲を見回した。
「そういえば、この工場って何を作ってるんですか?」
光は嬉しそうに立ち上がる。
「あらゆる食品加工じゃ」
「食品?」
「聞いておるか分からんが、わしには想像したものを具現化する力がある」
悠真たちは静かに耳を傾ける。
「じゃがの」
光は窓の外の工場群を見つめた。
「想像できぬものは作れん」
「想像できないもの……」
「神々の国には畑がない。工場もない。料理もない。食べ物は人間界から届くものじゃった」
光はゆっくり続ける。
「だから神だった頃のわしには、食料を大量に作るという発想そのものがなかった」
悠真はモーガントの言葉を思い出す。
神々の国は食料不足だと。
「だから人間になったんじゃ」
光は穏やかに笑った。
「人間として暮らし、人間を知り、この世界の仕組みを学ぶためにな」
「王家のお姫様と結婚したかったからではなかったのですか?」
「それも理由の一つじゃよ」
光は優しく頷く。
「じゃが、本当の目的は人間の知恵を学ぶことじゃった」
再び窓の外を見る。
「農業も学んだ。工場も学んだ。流通も保存技術も学んだ」
「そしてようやく辿り着いた答えが、この工場じゃ」
広大なゼラモード食品の工場群。
それは六十年という歳月が生み出した、一人の元神の答えだった。
第103話を読んでいただきありがとうございました。
ついにゼラモードこと神代光が登場しました。
これまで名前だけが語られてきた人物ですが、ここから物語の核心へと大きく踏み込んでいきます。
次回はゼラモードの過去や能力、そして神々の国を救うために築き上げた工場について、さらに明かされていく予定です。
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