第100話 再び地球へ
第100話です。
ついに100話まで来ました。
ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございます。
今回はローディアスへのお願いと、久しぶりの地球帰還回になります。
そして悠真がこれまで避けてきた「母への告白」にも踏み出そうとします。
それでは第100話をお楽しみください。
翌日。
悠真たちはローディアスの家を訪れていた。
扉を開けてくれたのはリリーだった。
「あら、悠真さん」
「こんにちは」
「来てくださったんですね。どうぞ」
リリーは柔らかく微笑み、悠真たちを家の中へ招き入れた。
奥からは明るい笑い声が聞こえていた。
「待て、サイリ。そっちは危ない」
「こっちだよー!」
「お父さん、遅い!」
声のする方を見ると、ローディアスがアイリとサイリの相手をしていた。
床に座り、二人に囲まれている。
騎士団長としての険しい顔はどこにもない。
ただの父親の顔だった。
悠真は少しだけ足を止める。
アイリの顔色は良かった。
細かった腕にも、少しずつ力が戻っているように見える。
笑っている。
息を切らしながらも、自分の足で動いている。
「……元気そうだな」
思わず呟いた。
ローディアスが悠真に気づき、立ち上がる。
「悠真殿」
「悪いな。家族の時間だったか?」
「いや、構わない」
ローディアスは首を振った。
「むしろ、見てもらえてよかった」
その視線がアイリへ向く。
「アイリがこうして笑っていられるのは、悠真殿のおかげだ」
「俺だけじゃないよ」
「それでもだ」
ローディアスの声は静かだった。
だが、深い感謝が込められていた。
アイリも悠真のそばへ来る。
「悠真さん」
「もう大丈夫そうだな」
「うん。まだちょっと疲れやすいけど、前よりずっと楽」
「そっか」
悠真は安心した。
それだけで、ここへ来た意味があった気がした。
しばらくして、全員は席についた。
リリーがお茶を出してくれる。
アイリとサイリも近くに座り、興味深そうに悠真たちを見ていた。
悠真は湯気の立つカップを見つめた後、ローディアスへ視線を向ける。
「今日は頼みがあって来たんだ」
「何だろうか」
「モーガントの件だ」
その名を聞いた瞬間、ローディアスの表情が変わった。
娘を救うきっかけとなった神。
ローディアスにとって、決して軽い名ではない。
「モーガント様が?」
「ああ。王と話がしたいらしい」
「王と……」
ローディアスは少し考え込んだ。
悠真は続ける。
「食料の件もある。ただ、それだけじゃなくて、昔は王家と神々の間に繋がりがあったみたいなんだ」
「そうなのか」
「詳しいことは俺もまだ分かってないんだけど」
悠真は正直に言った。
「でもモーガントは、王家ともう一度話す機会を欲しがっている」
ローディアスは黙って聞いていた。
神々の国。
王家。
途切れた関係。
そのすべてをすぐに理解することは難しいはずだった。
それでもローディアスは、逃げるような目をしなかった。
「私に王へ取り次いでほしい、ということだな」
「お願いできるかな」
ローディアスはアイリを見た。
元気に笑う娘。
その姿を見て、ゆっくりと息を吐く。
「悠真殿の頼みなら断れんな」
「本当に助かる」
「それに、モーガント様には恩があるしな」
ローディアスの声が少し低くなる。
「アイリを救う道を与えてくださった。その恩を忘れるつもりはない」
リリーも静かに頷いた。
「明日、王に掛け合ってみよう」
「ありがとう」
「ただ、すぐに場が整うとは限らない」
「分かってる」
「だが必ず話は通す」
ローディアスの言葉は力強かった。
悠真は胸の奥が少し軽くなるのを感じた。
「それと、もう一つ」
「何だ?」
「三種の神器だけど、もう少し借りることになりそうだ」
ローディアスはすぐに頷いた。
「神々の国へ行くためか」
「そうだね」
「それも王へ伝えておく」
「ありがとう」
「構わん。今の状況では必要なものだろう」
話は思ったよりも早くまとまった。
少しだけ空気が緩む。
サイリが悠真を見上げた。
「悠真さん、またどこか行くの?」
「そうなんだ」
「遠いところ?」
「かなり遠いね」
悠真は少し笑う。
「地球ってところに行くんだ」
ローディアスの表情が少し変わる。
「地球へ?」
「ああ。ゼラモードを探す手がかりがあるかもしれない」
「そうか……」
「だから、しばらくこっちには戻れないかもしれない」
ローディアスは静かに頷いた。
「分かった」
「王への話は頼む」
「任せておけ」
リリーが心配そうに言う。
「お気をつけて」
「ありがとう」
アイリも小さく手を振った。
「また来てね」
「ああ。戻ったら顔を出すよ」
そう言うと、アイリは嬉しそうに笑った。
悠真たちはローディアスの家を後にした。
家の外へ出ると、レオンがカードを取り出す。
「廃墟へ向かうぞ」
「頼む」
レオンが転移カードを発動する。
光が足元に広がり、景色が揺れた。
次の瞬間、悠真たちは廃墟の前に立っていた。
何度も訪れた場所だ。
崩れた壁。
風にさらされた石。
静まり返った空気。
その奥に、地球へ繋がる穴がある。
悠真は見上げた。
穴は地上からでは届かない高さにある。
空の果てというほどではない。
だが、普通に跳んで届く場所でもなかった。
「ここで飛行スキル使えるな」
悠真はカードを取り出す。
レベルアップカードで得たスキル。
飛行。
まだ何度も使っているわけではない。
だが、こういう時には便利だった。
「ララ、リズ。俺が運ぶ」
「お願いします」
「頼むわ」
悠真は飛行を発動した。
身体がふわりと軽くなる。
同時に風が集まり、ララとリズを包み込んだ。
透明な膜のような風のバリア。
二人の身体がゆっくりと浮かぶ。
「わ……」
ララが小さく声を上げた。
「これ、便利ですね」
「俺もそう思う」
悠真は苦笑する。
リズは落ち着いていたが、少しだけ感心したように周囲を見ていた。
「前よりずいぶん器用になったな」
「少しは成長してるってことだな」
その横でレオンが飛行カードを発動する。
「先に行くぞ」
「わかった」
レオンは軽く地面を蹴り、一直線に穴へ向かった。
悠真もララとリズを風で守りながら上昇する。
廃墟が少しずつ下へ遠ざかっていく。
風が頬を撫でた。
穴の縁が近づく。
何度も使ってきた、異世界と地球を繋ぐ道。
「行くぞ」
悠真の声に、ララとリズが頷く。
光が広がる。
視界が歪む。
身体が吸い込まれるような感覚が走った。
次の瞬間。
悠真たちは地球側にいた。
天井裏。
木の匂い。
少し湿った空気。
異世界とは違う、懐かしい空気だった。
「帰ってきたな」
悠真は小さく呟く。
レオンは先に降りていた。
ララとリズも足元を確認しながら降り立つ。
悠真が下へ降りようとした時だった。
「悠真、戻ってきたんだ!」
下から声が響いた。
ユウイチだった。
顔を出すなり、かなり不満そうな表情をしている。
「ユウイチ」
「ユウイチじゃない!」
いきなり怒られた。
「何かあったのか?」
「何かあったのか、じゃない!」
ユウイチは深いため息をついた。
「ユウジだよ。あいつから一日三回くらい買い出し頼まれるんだぞ」
「あー……」
悠真はすぐに理解した。
時間差だ。
異世界では何日も過ぎていても、地球ではそれほど経っていない。
だが、向こうから見れば必要な物資はどんどん増える。
ユウジからすれば、地球側に頼るしかない。
そしてその負担がユウイチに来ている。
「そうか。二十四分の一だもんな」
「分かってるなら何とかしてくれ」
「悪い」
悠真は素直に謝った。
「向こうで工場を作ってるんだ。食料とか生活用品も、できるだけ現地で用意できるように進めてる」
「本当だな?」
「ああ。もう少しだけ我慢してくれ」
ユウイチは疲れた顔で頭を抱えた。
「もう少しって言葉が怖いんだよ」
「それは否定できない」
レオンが横で小さく笑う。
リズも苦笑していた。
ララは少し申し訳なさそうにユウイチを見る。
「ご迷惑をおかけしています」
「いや、ララさんが悪いわけじゃないんだけどな」
ユウイチは少しだけ表情を緩めた。
それでも疲れは隠せない。
「とにかく、ユウジの店にも顔を出してやってくれ」
「そうだな。後で行くよ」
「絶対だぞ」
「分かったって」
悠真は頷いた。
やることがまた増えた。
ゼラモード探し。
ユウジへの顔出し。
ユウイチへの負担軽減。
そして、母への説明。
悠真はふと黙り込んだ。
今まで、母には異世界のことをずっと隠していた。
言えるわけがないと思っていた。
穴を通って異世界へ行っている。
レオンやリズ、ララは異世界の人間だ。
神々の国へ行った。
石版を探している。
普通に話せば、信じてもらえるはずがない。
だが今回は違う。
レオンもいる。
リズもいる。
ララもいる。
長く地球に滞在するなら、隠し続ける方が難しい。
それにもう一つ。
ゼラモード。
神々が探している謎の人物。
地球に手掛かりがあるのなら、母が何か知っている可能性もゼロではない。
本当に淡い期待だった。
それでも聞かないよりはいい。
「……母さんに話してみるか」
悠真は小さく呟いた。
ユウイチが首を傾げる。
「何を?」
「全部だね」
その言葉に、レオンとリズが悠真を見る。
ララも息を呑んだ。
悠真はゆっくりと息を吐く。
今まで避けてきた話。
だが、もう避けてはいられない。
家の中から、懐かしい生活の気配がする。
地球へ戻ってきた。
そしてここから、また別の扉を開くことになる。
ゼラモードへの手掛かり。
それが思わぬほど近くにあることを、悠真はまだ知らなかった。
第100話を読んでいただきありがとうございました。
神々の国、石版、ゼラモードと謎が増えていく中、舞台は再び地球へ戻りました。
異世界では長い時間が流れていても、地球ではほんのわずかしか経っていないという時間差も改めて描かれています。
次回からは悠真の母も本格的に登場予定です。
果たして異世界の話をどう受け止めるのか。
そしてゼラモードへ繋がる手掛かりは見つかるのか。
引き続き応援よろしくお願いいたします。




