第101話 祖父の名前
第101話です。
地球へ戻ってきた悠真。
今回はこれまで隠していた異世界のことを母へ打ち明けます。
そして、神々の国で聞いた「ゼラモード」という名前が、思わぬ形で身近な人物へと繋がっていきます。
それでは第101話をお楽しみください。
天井裏から降りてきた悠真は、自分の部屋で小さく息を吐いた。
異世界へ渡る前なら、見慣れたはずの部屋だった。
だが今は少し違う。
机も、本棚も、窓の外の景色も変わっていない。
それなのに、どこか懐かしく感じる。
異世界で過ごした時間が、それだけ長くなっていたのだろう。
リズたちは隣の部屋で待機していた。
母が帰ってくるまでの間、どうするかを話し合っている。
ララは少し緊張しているようだった。
地球へ来るのは二度目だが、人の家に泊まるとなれば話は別らしい。
レオンは相変わらず落ち着いている。
リズも表面上は平静だった。
だが二人とも、これから何が起きるのか気になっているのは間違いなかった。
悠真は時計を見る。
もうすぐ母が帰ってくる時間だった。
「さて……」
口に出した瞬間だった。
玄関の扉が開く音が聞こえた。
「ただいまー」
聞き慣れた声だった。
母だ。
悠真は立ち上がる。
玄関へ向かう。
「おかえり」
「あら、悠真」
母は少し驚いたように笑った。
「迎えてくれるなんて珍しいわね」
「そうだね」
「どうしたの?」
その一言で見抜かれた。
悠真は苦笑する。
「何かあった顔してる?」
「してる」
即答だった。
「小さい頃から分かりやすいもの」
「そうかな」
「それで、何かあったの?」
母は靴を脱ぎながら尋ねる。
心配そうな顔だった。
悠真は少しだけ迷った。
だが、ここまで来た以上は話すしかない。
「実は話があるんだけど」
「そう」
「かなり信じてもらいにくい話なんだけど」
母は首を傾げる。
「借金とかじゃないでしょうね?」
「違うよ」
「なら大丈夫よ」
妙な安心感があった。
悠真は深呼吸する。
「母さん、ごめん」
「なに?」
「俺、天井裏に入ったんだ」
「えっ、入ったの?」
「そしたら異世界だったんだ」
数秒。
沈黙が流れた。
「……はい?」
当然の反応だった。
悠真も逆の立場ならそうなる。
「異世界」
「異世界?」
「うん」
「漫画とかに出てくる?」
「そうまさにそういうやつ」
母は額を押さえた。
「熱でもあるの?」
「ないよ」
「本当に?」
「本当」
悠真は真面目な顔で答える。
母はしばらく悠真を見つめていた。
「じゃあ説明して」
そこから悠真は順番に話した。
天井裏の穴。
異世界。
冒険者。
石版。
神々の国。
そして仲間たちのこと。
もちろん全部を話したわけではない。
それでも十分すぎるほどの内容だった。
母は途中から完全に無言になっていた。
そして話が終わる。
「……それを信じろって?」
「難しいとは思う」
「難しいわね」
母は苦笑した。
その時だった。
部屋の扉が開く。
リズたちが出てきた。
ララは緊張した様子で頭を下げる。
「はじめまして」
リズも続く。
「お邪魔します」
レオンも軽く会釈した。
母は固まった。
三人を見る。
悠真を見る。
もう一度三人を見る。
「……本物?」
「本物」
「異世界人?」
「異世界人」
母は数秒考えた。
それから。
「あらそう」
と、言った。
今度は悠真たちが固まる番だった。
「え?」
「え?」
「それだけ?」
「だって目の前にいるじゃない」
母は当たり前のように言った。
「信じるしかないでしょ」
確かにそうだった。
耳の形も違う。
服装も違う。
普通の説明では無理がある。
「今日は泊まっていくの?」
母はララたちを見る。
「え?」
ララが目を丸くした。
「泊めてもらえると助かります」
リズが答える。
「なら部屋考えないとね」
母はすでにそちらを心配していた。
悠真は頭を抱える。
「順応早すぎないか?」
「そうかしら?」
「そうだよ」
「昔から変なことに巻き込まれる子だったし」
「理由になってないって」
だが、そのおかげで助かった。
想像していたよりずっと穏やかだった。
しばらくして全員が落ち着いた頃。
悠真は本題を切り出した。
「母さん」
「なに?」
「ゼラモードって人知らない?」
その名前を聞いた瞬間だった。
母の表情が少し変わる。
「ゼラモード?」
「知ってるのか?」
「うーん……」
母は記憶を探るように視線を上へ向けた。
「確かね、なんか聞いたことあるわね」
「うん」
「確かお義母さんが言ってた気がする」
悠真の心臓が大きく跳ねる。
「ばあちゃんが?」
「ええ」
「誰のことを?」
「お義父さん」
その場の空気が変わった。
リズもレオンも表情を引き締める。
ララも息を呑んだ。
「じいちゃん?」
「普段は光さんって呼んでたわ」
母は続ける。
「でもね」
「うん」
「たまに二人だけで話してる時があったの」
「それで?」
「ゼラモードさんって呼んでた気がするのよね」
悠真は言葉を失った。
モーガント。
カンジン。
ベンジン。
全員が口にした名前。
ゼラモード。
それが祖父と繋がる。
「私はずっと、昔からのあだ名か何かだと思ってたんだけど」
悠真が静かに言う。
「じいちゃんの写真ってないの?」
「写真?」
「残ってない?」
母は頷いた。
「あるわよ」
「本当か?」
「たぶん押し入れの中に」
母は立ち上がった。
しばらくして古いアルバムを抱えて戻ってくる。
「これね」
ページをめくる。
古い写真が並んでいた。
家族写真。
旅行写真。
運動会。
誕生日。
そして。
「あった」
母が指差した。
悠真が生まれた時の写真だった。
若い母。
父。
祖母。
そして。
赤ん坊の悠真を抱いている男。
全員が写真を覗き込む。
そして固まった。
「……似てるわね」
最初に呟いたのはララだった。
「そっくりです」
リズも言う。
レオンも無言で頷いた。
写真の男は。
今の悠真によく似ていた。
年齢は違う。
髪型も違う。
それでも分かる。
血の繋がりなど説明する必要もないほど似ていた。
母も驚いたように写真を見る。
「あら」
「どうかした?」
「久しぶりに見たけど」
「うん」
「本当に今の悠真に似てるわね」
悠真は写真から目を離せなかった。
モーガントの言葉が蘇る。
顔も似ている。
声も似ている。
偶然とは思えなかった。
「まさか……」
祖父が。
ゼラモードなのか。
まだ確信はない。
だが疑いは急激に強くなっていた。
「母さん」
「なに?」
「じいちゃんって今どこにいるかわかる?」
「さあどうかしら」
母は首を傾げる。
「お父さんと二人で何かやってるみたいだけど」
「親父と?」
「ええ」
「連絡は?」
「手紙がたまに来るわよ」
母はそう言うと、引き出しから封筒を取り出した。
「これが先月届いたものね」
悠真は受け取る。
消印を見る。
「静岡……」
そこに書かれていたのは静岡県の住所だった。
「静岡なのか」
「たぶん今はね」
母は答える。
「また移動してるかもしれないけど」
悠真は写真を見る。
祖父の顔。
そして手紙。
静岡。
今まで霧の中だったゼラモードという存在。
その輪郭が少しずつ見え始めていた。
もし祖父が本当にゼラモードなら。
石版のことも。
神々の国のことも。
すべて知っているはずだ。
悠真は写真を握りしめた。
次に向かう場所は決まった。
静岡。
そこに、長く追い続けてきた答えがあるかもしれない。
第101話を読んでいただきありがとうございました。
ついに悠真の母へ異世界のことを打ち明けることができました。
予想以上に落ち着いて受け入れてくれましたが、それも悠真らしい家族なのかもしれません。
そして、ゼラモードという名前が祖父と繋がる可能性が浮上しました。
さらに手掛かりは静岡。
長く追ってきた石版の謎も、少しずつ核心へ近づいています。
次回は静岡へ向かう準備と、ゼラモードの正体へ迫っていく予定です。
引き続き応援よろしくお願いいたします。




