第34話:銘菓“鬼の食い散らかし”
「はい、じゃあ、課長申し訳ないのですが・・・、明日。ええ、ええ、了解りました。それでは、はい」
結城が携帯を切ると、喜屋武が尋ねる。
「結城クン、課長は何て?」
「はい、戎の件、了解した。問題無いと。それから・・・」
「それから?」
「もし、所轄に行くんなら、宜しく言っておいてくれって」
喜屋武は、ふーんといった面持ちで、
「流石、昼行灯に見えて、腐っても本部の課長だね。そうなんだ、現場の前に牧丘署に立ち寄るつもりでね。午前中に亜紀子クンに天満橋まで行って、手土産を買ってきてもらったんだよ。あそこの署長は甘党でね。しかも、和菓子好きだから」
「そうなんですか」
「そう、だから、手土産は満腹堂の“鬼の食い散らかし”さ。覚えておきたまえ、物事をスムーズに運ぶ為に、相手を知り政治的な動きをする事も時には大事だと。後、相手のメンツを立ててやる事もね」
《政治的な動きですか。和菓子がねぇ、ボクにはまだ理解出来ないや》
そんな考えを巡らせている間に、レクサスは牧丘警察署に到着し、
「さ、結城クン、着いたぞ。先ずは署長に挨拶だ」
喜屋武さんは器用にバックでレクサスを駐車すると、手土産を持ち牧丘署の入口を目指す。
結城も慌てて喜屋武さんを追い掛けたのだった。
「ええ、それでは特別捜査の件、宜しくお願いします、山本署長」
喜屋武さんは牧丘署山本署長に頭を下げ、署長室を出る。
結城も同様に続く。
署長室を出ると牧丘署刑事課の武部課長が居て・・・、
《この武部課長は既に挨拶を済ませていたので顔は知っていたんだけど、と、昨夜の警ら課の布施巡査、そして、布施巡査よりも更に恐面な警察が・・・、誰だ、この男?身なりから判断するに課長か、このヒトも》
布施巡査が紹介する。
「結城刑事、昨夜はありがとうございます。こちらは私の上司の橋本課長でして・・・」
恐面の警察官は破顔すると、
「橋本です。結城刑事、昨夜はウチの布施がお世話になりました。今朝、布施から話は全部聞きました。いやぁ、安全な市民の平和は我々の願い。さすがは本部の方ですな」
武部課長が笑いながら割って入り、
「噂以上だね、結城君。この前言わなかったけど、キミが前にいた富田森南署警ら課の永友さん。あの方、私の大学の先輩でね」
ボクは思わず、
「え、永友のおやっさんがですか?あ、永友課長でした・・・、すいません」
永友のおやっさん、結城に警察官とはかくあるべきかと教えてくれた恩人でもある。
「永友さん、喜んでたよ。キミの昨夜の活躍を話すと」
結城は首を横に数度振り、
「いや、あれはこちらの布施巡査がやった事。ボクはお手伝いをしたに過ぎません」
喜屋武が合いの手を入れる。
「そうですよ。我々の本来の使命は、こちらにお邪魔する事になった簀巻き殺人の解決ですから。なぁ、結城クン?」
「ええ、そうです。喜屋武さん」
武部課長と橋本課長は、うんうん頷き、
「何か必要な事があれば、何でも言って下さい。牧丘署刑事課あげて協力しますから」
「もちろん、警ら課もです」
二人の課長はボク達にそう告げたのだ。




