第31話:トンカツ・・・、いや、現場が待っている
喜屋武と結城が話してると、資料を持った亜紀子が声を掛けてきて、
「あら、結城クン、喜屋武さんにご馳走してもらってお昼?いいわねー」
「何だったら、亜紀子クンも一緒に来るかい?トンカツを食べに行こうと思ってるんだ。恵美須町に美味いトンカツが在って、“く櫓巣”って店なんだけどね。目の前で肉捌いて揚げてくれるんだけど、たまらんくらい肉汁がタップリで美味いんだ。鉄ちゃんに教えてもらった店なんだ」
「鉄ちゃんて、喜屋武さん・・・。あの地下に居るの“白虎の鉄”こと、虎谷刑事の事ですか?」
喜屋武さんはニヤリと笑い、
「そうだよ」
虎谷刑事、府警本部の地下にある警察庁特別資料室付けの刑事だ。
2メートルを超える巨漢で、本部内で喜屋武さんと並ぶ美食家、いや大食漢というべきか。
結城の直接の知り合いでは無いが何かと噂の多い人で、実家がヤクザの元締だとか、嫁さんが有名バイオリニストだとか色々である。
トンカツの話を聞いた亜紀子は目をキラキラさせ、
「まぁ、鉄さんに?それは美味しいでしょうね。」
《え?亜紀子、鉄さん知ってるの?》
焦る結城を全く気にせず亜紀子は続ける。
「でも残念。今からパパの部屋で、お弁当食べるの。二人分作ってきたんだから」
《今、パパの部屋って言った?それって本部長室?どんだけ凄いんだ、亜紀子・・・、お前・・・》
結城は呆れた。
亜紀子は資料を片すと、お弁当を持って出て行こうとする。
振り返ると、
「楽しんでらっしゃいね、結城クン。喜屋武さんも」
そう言って、亜紀子は良い香りを残して出て行った。
亜紀子を見送ったボク達も準備を急いでする。
レクサスのキーを持った喜屋武さんが、
「さて、結城クン。俺達も出掛けよう。トンカツ・・・、いや、現場が待っている」
結城は思わず、
「キャシー達は?」
「くすっ。キャシーね、随分と仲良しじゃないか。気になるかい?彼女は、今日は一日ずっとお偉方と会議さ。有名人は辛いねぇ」
喜屋武さんは、そう言って扉を開けると出て行った。
結城も慌てて追いかける。
「待って下さいよ、喜屋武さ~ん」
喜屋武は、“く櫓巣”のロースカツ定食をパクつきながら、
「なるほどね、そりゃ大変だったね。ハリウッドのアクションスター並のスタントを・・・、結城クンが・・・」
「ええ、暗闇だから余り下が見えなくて良かったですけど、昼間だったら足が竦んでますね。しっかし、美味いっすね、このトンカツ」
確かに、喜屋武さんに連れてもらったトンカツ屋さんは美味かった。
衣がサックサクで、噛むと甘い肉汁がジュワっと口の中で広がり・・・。
幸せを感じる・・・。
《しかし、よくもまぁ、喜屋武さんは色々と美味い店知ってるよな。あっ、この店は喜屋武さんじゃなく、鉄さんのオススメだったんだっけ》
結城はハシを止め、
「そういや、喜屋武さん、ちょっと気になる事が・・・」
喜屋武さんはカツをゴクンと飲み込み、
「なんだい?結城クン」
「いや、ウチで預かってる弁天なんですが・・・」




