赤銅色は困る
三章幕開けです!
六の月も最後の週。
夏季休暇を目前にした生徒たちは、浮かれていた。
そんななか、赤銅色の少女は、一人頭を抱えていた。
さまざまな騒動で頭からすっかりと抜けていたが、マリエとヴェラの監禁事件の直後、両親に言われた言葉を、今になって思い出して、困り果てているのだ。
――どんな顔して言えって言うのよ! 今さらすぎるじゃない。
一人で悶々と悩むものの、答えはでない。
もう、両親の言葉を無視してしまおうかな、とも思ったが、それはそれで後から両親に根掘り葉掘り事情を聞かれて、嘘がばれてしまう気がする。
いったい、どうしたものか。
「どうしたんだ?」
「なっ何も!」
突然声をかけられて、変な声が出てしまったが、この場所が教室であるという事実をすっかり忘れていた。
一人で黙り込めばそれなりに目につく。
しかも、一番マリエの頭を悩ませている、少年に心配されてしまった。
「大丈夫? 話は聞くけど、今はとにかく教科書、カバンに入れないと。私たちはこれで終わりだけど、ここで補講するみたいだから、早く出なきゃ」
シェリアに急かされて、マリエは慌ててカバンに荷物を放りこみ、教室から出た。
「それで、どうしたの?」
どうやら黒髪の彼女は、逃がしてくれる気はなさそうだった。
その深い緑色の瞳が、強い力を持ってこちらを見ている。
「……ずいぶんと前、私が誘拐された時。両親が、言ってたのよ」
しぶしぶながら、話し始めたその言葉に、シェリアとレンは首をかしげ、アベルは、目を細めて、その先を促した。
「今回のことで、三人にはお世話になったみたいだから……夏季休暇には、ぜひ、うちに招待しなさいって……」
後半部分は、ほとんど消えるように言ったマリエだったが、三人の耳にはしっかりと届いていたらしい。
三人はそれぞれ顔を見合わせた後、同時に言った。
「行く」
短いが、即座に返事を聞くことになり、マリエは驚きながらも再確認をする。
「ちょっと待って! 予定があるでしょう? 夏季休暇よ? しかも家に泊まりよ? いっとくけど、モンブラン家の客間なんて、たかがしれてるの! シェリアの家とだって、比べられないくらいなのに、ましてやオブスキィトやヴェントス家とだなんて……!」
両親はいとも簡単に言ってくれたが、マリエとしてはそれが一番の問題だった。
学生三人を泊める部屋ぐらいはあるものの、貴族として格の違う家、しかもかなり高位の家出身の人たちを泊めるには、あんな部屋では心もとない。
母親は、貴族として育っていないから、そういう意識はないのかもしれないが、マリエはつつましいながらにも、一応貴族として育っているのだ。
それなりのプライドがある。
「んーでもまあ、軍に入れば、野宿もありえるわけだし、家の大小なんて別に気にしないって」
「そうよ。私は気にしないわ」
「でかいだけの家も不便だからな……」
そんなマリエの心情を知ってか知らずか、三人は気にしないから、と言って、日取りまで話し合っている。
いつが都合が良いのか聞かれ、以前、両親に言われた日程を言えば、それでいいと承諾されてしまった。
「あ、そうだ。ついでにマリエもうちに来る?」
「え?」
「お父様が、マリエに会いたいそうよ。娘の友人がどんな人物か知りたいんだそうなのよ」
「あ、俺も行きたい!」
シェリアの提案にレンものっかり、その後、色々と話していたら、何故か、四人の家に順に泊まるという、夏期休暇の日程が出来上がってしまっていた。
ちらりとアベルの方を見る。
オブスキィト家には、正直、足を踏み入れたくはなかった。
きっとマリエは負けてしまうだろう。
あの家は、他とは違う。
オブスキィト家とルミエハ家は、永遠の公爵家。これから先、絶対に、モンブラン家とは交わることのない、そんな格式高い、遠い家なのだ。
「夏、楽しみだな」
それでも、そうやって、無邪気に笑って言われたら、マリエは頷くしかない。
誰にも気づかれないようにそっと、ため息をつく。
夏はもう、目の前だった。
久々の更新のわりに、
短くてごめんなさい!




