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シネラリアの女神  作者: 如月あい
二章 深緑色は決意する
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約束。

 シネラリア養成学校において、二年生の模擬隊実践が行われたその日。

 突如として、広まった噂がある。

 それは王太子と婚約者の二人の仲をとりもつのに、オブスキィトの後継者が多大なる貢献をしたというものだ。

 アベルとヴェラが付き合っていたのではなく、実は王子とヴェラとの絆を深めるために必要な“演技”として全ては処理され、学園を揺るがした一つの噂は、オブスキィト家の株を上げて収束した。

 そういうところは、ヴェラらしいな、とアベルは呆れながらも思っていた。

「告白する子、絶えないのね」

「もう少し噂を放置しとくんだったな」

 アベルは久々の四人での朝食の最中に、何度も女子生徒に声をかけられて、マリエのからかいに、げんなりした調子で答えた。

 しかしながら、こんな他愛のない会話も、久しぶりで、アベルの気分を高揚させてはいたのだが。

「でもまあ、関係ないんじゃない? レンもシェリアもいまだに告白されてるみたいだし」

 マリエが朝食のパンをちぎりながら、こともなげに言ったが、それに対するレンとシェリアの反応は見ものだった。

 シェリアは気まずそうに視線を反らし、口をぱくぱくとさせている。

 レンはといえば、口に運んでいたグラスを、それなりの勢いでテーブルに置き、シェリアをにらんだ。

「告白? 告白はされてないって言ってなかった?」

「わ、忘れてたのよ。告白なんて、ささいなこと」

 シネラリアの女子学生が聞けば、怒り出しそうな、嫌味にも聞こえる台詞を口走るシェリアは、どうやら必死らしい。

「俺は全部言ったよね? それで断った話も。シェリアだって、話してくれるんじゃなかったの?」

「だって……この前だって、私に嫌がらせしてた子、レンが何かしたんでしょう? 三日も学校に来てないじゃない!」

「ただの風邪だ」

「そんなわけないじゃない! あなたは過保護すぎ! もうちょっと放っておいたっていいでしょう?」

 二人のじゃれあいに、呆れて、ちらりとマリエの方を見る。

 自分の発言が、二人の口論を生んだわりには、どうやら彼女は罪悪感を感じていないらしい。

 むしろ楽しげに二人を見つめ、アベルと目があうと、にっこりとほほ笑む。

 その笑顔に、どうしても視線が吸い寄せられて、一瞬、隣の席でレンがシェリアと口論しているという事実さえ忘れた。

 自分の心臓の音がうるさい。

「そういえば、アベルにずっと前に借りてたもの、返したいから、寮まで一緒に来てくれる? 朝早いから、まだ一時間目までには時間があるでしょう?」

 赤銅色の瞳がこちらを向いて、それだけに意識を集中していて、彼女の意図をつかむのに、数秒の間を要した。

「あ……ああ! ずいぶん前で忘れてた。いくぞ」 

「え、ちょっと待ちなさいよ。私も一緒に――」

「――シェリアはダメ。たまには俺につきあってくれてもいいんじゃないの?」

「どうぞごゆっくり」

 マリエはにっこりとレンに微笑みかけて、するりとシェリアを躱して食堂の出口の方へと歩いていく。

 この行動が、レンとシェリアを二人にするためだとは分かっていたが、それでもやはり、一緒にいられるのは嬉しい。

 そう素直に思えているのは、ある意味、ヴェラのおかげなのかもしれない。

 二人はさしたる会話もなく、ぶらぶらと寮の方へ向かって歩いていく。

「マリエ」

 アベルのななめ前を歩いていた彼女を呼び止め、アベルはマリエの隣に並んだ。

「なに?」

 ゆるやかなウェーブのかかった赤銅色の髪が、風に舞う。

 赤銅色の瞳を見据えて、そうして、言った。

「これから……よろしく」

 一瞬動きを止めた赤銅色の少女は、驚いた表情を見せたあと、ふっと笑ってこちらを見た。

「どうしたの? いまさらでしょう」

「なんとなくだよ! なんとなく」

 気まずくなって、ごまかすように大きな声で言って、アベルは先に歩き出す。

「……まあいいわ」

 後ろから声が、追いかけてきた。

「よろしくね」

 思わず振り返ったその先には、笑顔でこちらをみている、赤銅色の少女がいた。










「あの二人……うまくいくかな」

「さあ……私たち次第かしら」

「あの二人次第、じゃなくて?」

 二人が去った食堂で、先ほどの口論の様子を微塵も見せずに、二人は優雅に食後の紅茶を楽しんでいた。

「下手に手出しはできないけど、手伝わないと、永遠に言わなそうじゃない?」

「シェリアとしては、やっぱりアベルに告白させたい?」

「それはそうでしょう。マリエに言わせるなんて、そんな男、私が却下よ」

 目の前に座っている黒髪の美少女は、その整った顔立ちを少しゆがめて、言い放った。

 そんな風に親友を想う彼女も、レンにとっては愛おしくて、思わずレンは顔がほころんでしまう。

「何を笑ってるの?」

「いや……シェリアが、なんか、いい表情(かお)してるなって思ってさ」

 頬杖をついてそういえば、シェリアがふいっと視線を反らして、紅茶に手を伸ばす。

 その紅茶を一口のみ、窓の外を見つめながら、シェリアはぽつりと漏らした。

「決めたのよ」

「え?」

 その言葉の唐突さに驚き、シェリアの表情の変化を見逃すまいと、頬杖をついてた手を元にもどし、姿勢を正してシェリアの方に向き直った。

「私は守るの。たとえ、守れなかったとしても、私は、最期まで、戦い抜くの」

 深い緑色の瞳に宿るのは、とても強い意志。

 きっとレンは、彼女のこういうところに惹かれたのだ。

「……じゃあ、俺は、守るよ」

 食堂のテーブルで、言うべき台詞ではないかもしれないけれど、今を逃してはいけない気がするからこそ、レンは言う。


「ティナより長く生きて、俺は一生、ティナを守るから」


 シェリアのミドルネームをあえて呼ぶ。

 ミドルネームは、ヴェントス領において、何よりも強い、誓いとなる。

「……約束よ。ティナと……リオルドの」

 家族以外の人に、初めて呼ばれた自分のミドルネームが、今、この瞬間から、生きだしたのだと、レンは思った。


二章完結!!

ようやく、ようやく完結しました♪


あとは三章と終章のみ。

三章はともかく、終章は、さして話数はないハズなので、

二章が終われば、かなりどうにかなるかなと。



なんか二章の終わりが完結でもいいかもとか思ったり……(笑)


なんか完結っぽい書き方になってしまいました。


でも、ここで打ち切ったら、たぶん、八百人強の読者の皆様に、ブーイングをうけそうな気がしますね。


大丈夫です。ちゃんと、アベルとマリエには、しっかりとケリをつけてもらいますから!


次は夏期休暇編。


さあ、四人の夏が、今、始まる!


(無駄に映画予告風)







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