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シネラリアの女神  作者: 如月あい
二章 深緑色は決意する
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模擬隊実践編④

「どこから回る?」

 赤銅色の髪の少女は、絶対に赤みがかった茶色の少年の方を見ないように注意しながら、その場にいた三人に問いかける。

 混乱している今、アベルと目が合ったら、自分が何を言ってしまうか分からない。

 模擬隊実践の最中に、無用な喧嘩はどうしても避けたい。

「とりあえず近いとこから回ればいいんじゃない?」

「じゃあ、図書館かしらね。どうせなら中央口の方に行きましょ」

 シェリアの言葉に、アベルとレンが同意して、四人は図書館へと向かう。

 今回の模擬隊実践に疑問があるはずなのに、シェリアもレンも沈黙を守っていて、四人は図書館への道のりの間、一言も話さなかった。

 図書館に着くと、数名教師が立っている場所があり、生徒が群がっているので、そこが例のヒントをもらえるポイントだろう。

 シェリアの言葉どおり、四人は図書館の、複数ある入り口のうち、中央口のところに来ていた。

 中央口は、館内にある、中央受付と呼ばれる場所に一番近い。そのため彼女はそこを選んだのだろうが、この様子であると、もしかしたら図書館の中に入る必要はないのかもしれない。

 四人が近づいて行けば、教師がこちらの方を見て、そして、何やら紙を取り出した。

「すみません。ヴェラ・エミーリヤ・メディウム嬢に関して、何かご存知ですか?」

 シェリアが四人を代表して問えば、その教師が、取り出した紙を読み上げた。

「情報一、図書館で、最も本の移動が多い場所に、手がかりあり」

「……もっとも本の移動が多い場所?」

 シネラリアの図書館は、四階建てで、ワンフロアもかなり大きいため、それを探すのは、かなり時間がかかる。

 もちろん、読める人が少ない古代文字の本棚などは除外されるだろうが、人気のありそうな書籍を置いている本棚など、いくらでもある。

「参考文献よりは……やっぱり小説の方が需要が高いのかしら?」

「いや、でも、レポートのたびに参考文献は必要だろ?」

 つぶやきをアベルに拾われて、アベルの目は見ずに、そちらの方を漠然とみて、うなずいておく。

 しかしどうやらシェリアとレンは違う考えらしく、マリエの言葉に肯定する様子はなかった。

「最も……か」

 シェリアとレンは、二人で同じ言葉をつぶやいて、ふと視線を通わせる。

 そうしてから、二人とも全く同じようにふっと笑みを作り、マリエとアベルの方を見た。

 マリエと同じく、どうやらアベルも二人の行動は理解できないらしく、すこし目を細めて二人の方を眺めていた。

「たぶん分かったと思うわ。レンは?」

 シェリアが黒髪をさっと後ろに払いのけて、レンに問う。その笑みを見れば、シェリアがたぶんどころか、かなりの自信を持って答えを導き出したことがうかがえる。

 それに対するレンも、それに笑顔で答えた。

「俺も。おそらく図書館の、中央受付でことは足りる」

「意見は一致したようね」

「……中央受付?」

 中央受付に何かあっただろうか。

 あの場所にあるのは、司書が数名待機している書籍案内所と、本の貸し出しカウンターぐらいだ。

 本の貸し出しカウンタ―には、常においてある本はないはずだが……。

「ああ、なるほど。貸し出しカウンターは全部の本が“通過”するから、最も移動が多い場所、か」

 先に答えにたどり着いたアベルの言葉で、ようやくマリエは理解に達した。

 移動距離に関しては特に触れられておらず、むしろ回数を示唆するようなことばがあるため、借りられた本が必ず通る場所が、必然的に、一番移動が多い場所、となる。

 入り口は複数あるが、貸出カウンターは、この図書館では一つしかない。

 そうとわかれば、迷う必要はない。

 中央受付に向かい、貸出カウンターのところにいた人に、先ほどと同じ問いかけを繰り返した。

「ヴェラ・エミーリヤ・メディウム嬢について、何かご存知ですか?」

「いいえ。存じ上げておりません」

 今度はアベルが四人を代表して尋ねるが、その質問にはしっかりと否定の意を示す。

 しかし何故か、カウンターにいた人は、手元の書類を何やら探していた。

 そして、一冊本を取り出して、にっこりと笑顔で言う。

「予約されていたのはこちらの本ですね? こちらの本の貸し出し期限は一日、となっておりますので、明日中に返却してくださいね」

 これは端から見れば、四人の誰かが本を予約して借りたとしか思えないような状況。

 おそらく、全部ではないが、いくつかの班に、同じような指示が与えられているのだろう。考えずに答えを導き出すことがないように、こういう形式をとっているのだ。

 そのことに気づいたマリエは、何かいいたげに口を開こうとしたアベルを止めて、本を素直に受け取り、笑顔で礼を言う。

 そうしてその本を持ち、文句を言いたげなアベルと、おそらく同じように理解しているシェリアとレンと共に、図書館の外に出た。

「おい、なんで――」

「――他の班にばれないための演技だよ。マリエもそう思ったから、止めたんだろう?」

 図書館の外に出た途端、アベルが不満げに声を上げたので、レンがそれを遮ってマリエをかばうように言った。

 その言葉にマリエがうなずけば、アベルは首をかしげて説明を促す。

「同じ指示が複数の班にでているのだとしたら、あの問いに、まともに答えていたら、あそこが答えだと分からせてしまうでしょう?」

 ふと腕の重みが消えて、そちらに視線をやると、シェリアがマリエが持っていた本をすっととりあげて、本をぱらぱらとめくっていた。

「だから、ああいう反応を取るようにと?」

 再びアベルに視線を戻す。

 そのとき、たまたま目があった。赤みがかった茶色の瞳が、マリエを捉える。

「そう思うわ」

 できるだけさりげなく、シェリアの行動が気になるのだ、という風に、マリエはアベルから視線を反らした。

 本の重みがなくなって手持無沙汰になった手は、後ろで組む。

 シェリアの方を見れば、シェリアが熱心にページをめくっているのを覗き込むようにして、レンが隣から顔を出しており、二人が並ぶその自然さに、感心しながらも、マリエはそっと問いかける。

「何か分かった?」

「ちょっと待って」

 視線を本から離さずに、シェリアはひたすらにページをめくり続ける。

 レンもレンで、そんなシェリアから離れることはせず、シェリアもそれを煩わしがるような様子は見せない。

 当たり前のように隣にいる、それが付き合っているということなのだろうと、マリエは漠然と思って、少しうらやましくなった。

 

 ――って、うらやましい? 私が?

 

 自分で自分の考えにつっこみを入れて、ちらりと横目でアベルの方を見る。

 アベルもアベルで、シェリアとレンの二人の間に割って入る気はないらしく、どこか呆れたような、それでも見守るように、穏やかな表情で二人を見つめている。

 口調とは違い、まだ幼さが残るその顔で、穏やかな表情を浮かべていれば、女子生徒に人気がある理由が分かる気がするものだ。

 現にマリエも、ただ見ているだけなのに、鼓動が早くなっていく。

「わかったわ」

「え?」

 突然、声を上げたシェリアに、マリエは我に返り、そちらを見た。

「これ、見て」

 そういって本を開いてこちらの方に差し出したシェリアに、今度はしっかりと近づいて、それを見る。

 中身はただの本の様だったが、丸で囲まれている文字が、いくつかある。

「全部つなげて読んでみたら、どうにも、次は食堂に行けばいいみたいね」

 どうやらシェリアはこの本の全ページに目を通し終えたらしい。

 受け取ってぱらぱらとめくると、丸のついていないページもあったので、彼女がそう断言すると言うことは、おそらく全て読み終えたのだろう。

 内容を把握するわけではないとはいえ、その処理速度は流石というべきか。

「食堂って、第三食堂か?」

「いいえ、第二食堂よ。なんだか、どんどん西の門の方に向かって行くのね」

 何故かシェリアが意味ありげにそういって、アベルの方をじっと見つめる。

 アベルはその視線を受けて、どこか気まずそうに視線を反らした。

「とりあえず、そっちに向かおう」

 二人の間に生まれた奇妙な空間を壊すように、レンが口を挟む。

 他の三人に、異論はなかった。


次で、模擬隊実践終了……したいと思ってます。

もしかしたら、あともう一話余計にかかるかもしれませんが。

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