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シネラリアの女神  作者: 如月あい
二章 深緑色は決意する
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脱力

 黒髪の美少年は、思考を巡らせながら、一人でぼんやりと歩いてた。

 あまりにも思考に没頭しすぎたせいで、向こうから歩いてくる二人組の姿に全く気付いていなかった。

「レン、さん?」

 どこかたどたどしい話し方で話す少女に名を呼ばれて、初めて、二人の人間とぶつかりそうなぐらい接近していることに気づき、少年は慌てて一歩後ろに下がる。

「ターシャさんとキースか。 授業は終わったんだ?」

「そうそう。今回はちょっと早く終わったから、寮に戻ろうと思って歩いてたんだ」

 レンの問いかけにキースがいつもの快活さで答える。

「さっきの、授業は、幸せ、でした」

「幸せ……授業で?」

 驚いて問えば、ターシャはどこか恍惚とした状態で口を開く。

「はい! 授業の中でルミエハとオブスキィト家の話が出てきたんですよ! 今回の時代は、まだルミエハとオブスキィトが本当に公爵家だったころのお話だったんです! まだ対立していない頃のルミエハ家とオブスキィト家は、とても仲が良かったと言われていますが、そのころは血が近すぎて、両家の血が混ざることは叶いませんでした。その後、ようやく血も薄まってきて、もうよいのではないかと思われてきた時代に、対立が始まってしまって―――」

「―――ルミエハとオブスキィトの話は好きなの?」

 永遠に続きそうな彼女の演説を止める。

 いつものたどたどしい喋りの彼女はどこにいったのだ、とレンはあっけにとられてキースを見るが、どうやら彼は了承済みだったらしい。

 特に驚いたような顔はしていなかった。

「はい! とても、好きです! ああ、でも……そう考えると他にもありますね」

「他にって?」

 レンはとても軽い気持ちで質問した。

 

まさかこのことを後悔する羽目になるとは知らずに。



「私、レンさんのこと、好き、ですよ」



 ターシャが、全く持って何の恥じらいもなく、笑顔でそう言いきった。

 話しているときに興奮していたせいか、顔は赤いものの、その赤さは、告白の恥ずかしさからではない。

 しかしこの瞬間を、他の人が見ていたら、絶対に告白シーンに見えるだろう。

 レンはターシャの告白に驚く以上に、周りの人に聞かれて、噂になることを恐れた。

 そうして見回して、そして、驚きで目を見開く。

 とても無表情で突っ立っている一人の少女。

 黒く長い艶やかな髪に、深い緑色の瞳の美少女は、間違いなくレンを見ていた。


「シェ……」

「な、なんか、ごめん」


 シェリアは慌てたようにそういうと、すばらしいダッシュで、一瞬にして去っていく。

 それを反射的に追いかけようとして、誰かに腕を掴まれる。

 

 金髪碧眼の少年が、いつもは快活に笑っている少年が、少し怖い顔をして、こちらをにらんでいた。

「キース!」

「人の話は最後まで聞いた方がいいと思うけどな?」

 レンは思いっきり舌打ちしかけて、やめた。

 さすがにそれはターシャに失礼すぎる。

 しかし、二人の予想を裏切って、ターシャは、なんでもないように、とても笑顔で言葉をつづけた。


「でも、私、シェリアが、一番、好き、です」


 キースとレンは、固まった。

 なんだか聞いてはいけないことを聞いてしまったのではないかと、思ったからだ。

 キースはほっとしたような恐ろしいような顔をして、レンの腕をほどく。

 この様子では、少なくとも、レンに恋心を抱いているわけではなさそうだ。


「えっと……それは、俺も、シェリアも、友達として好きって、こと……?」


 そうであってほしいと願いながらも、とりあえず尋ねる。

 友達という言葉を異常に協調したのだが、ターシャはふと首をかしげる。


「友達……?」


 奇妙な間が、その場を包む。

 友達じゃなければなんなんだ、と叫びたい気分だったが、早とちりはまずい。


「レンさんと、私って、友達、なんですか?」

「この際、そういうことにしとこう! ただの知り合いっていうのも微妙だし」

「そう、ですね。あ……そっか……もしかして、まぎらわし、かったですか?」


 ターシャの言葉にはいちいちドキドキさせられる。

 決して恋のドキドキではない。

 むしろ、命にかかわるような、緊迫感のあるドキドキだ。


「顔が、赤く、なるのは、人と話す、とわりと、いつもなん、です」


 どうやらターシャは顔が赤かったからそうとられたのだと結論づけたらしいが、そういう問題では決してない。


「レンに恋してるってわけじゃ、ないのかな?」

 ここまできて、キースがようやく立ち直って、ストレートに尋ねる。

 それを聞いて、ターシャは、まずごめんなさい、と謝った。


「違い、ます。私……美形の方が、好きなんですっ!」

「へ?」

「はい?」


 さきほどのオブスキィトとルミエハの二大公爵家の話の時のように、一気に口調が変わって、猛スピードで話し続ける。


「私、顔立ちが整った人が好きなんです! でも、別に顔だけってわけじゃないですよ! それなりに中身がよくなければ嫌です! だから、正直に言って、ルミエハのご令嬢のルイスさんはとても美人なんですけれど、ちょっと嫌なんです! でも、レンさんって、性格も嫌な方じゃないし、顔立ちはとてもきれいで、好きなんです! でも、一番は、やっぱり教養もあって、同じ女性なのに、彼女は男子生徒に負けないほど強くって、しかも、彼女の顔立ちの整い方は、もう、あれは本当に女神という名がふさわしいと思うんです! だからやっぱり、トータルで考えると、私、シェリアさんが一番だって思うんです! ルミエハとオブスキィト家の方々は、美形が多いですから、だから、両家の歴史には、とてもとても興味があるんですよ! 美形の方は、鑑賞しているだけで、幸せになれるんでっす!」


 ターシャの力強い演説が終わった後、茫然としていた二人は、我に返って、互いに視線をかわす。

 とりあえず、二人が危惧した、シェリアに対して怪しい感情はなさそうなので、ほっとしたことにはした。

 レンのことも、はっきりと否定してくれたので、とりあえず良い。


「キース」

「何?」

「シェリア、追いかけてもいいよな?」

「ごめん……。すぐに追いかけて、訂正した方がいいと思う」


 あまりにも幸せそうに演説したターシャに、怒る気はなかった。

 しかしながら、ターシャがこの状態なら、シェリアの方がだいぶ優先されるべき事項だ。


「じゃあ、キース、ターシャさん、また授業で!」


 レンはとりあえずシェリアが走り去ったほうへと走っていく。

 

 

取り残されたキースは、ターシャの美形にたいする情熱を、そのあと永延と聞かされることになったのだった。


「シネラリアの女神」には、GL要素は0ですので、ご安心ください。


前回、なんだか深刻な雰囲気になったのに、ふたを開けてみればこんなのが

現状です。


今回はいろいろとネタ。


かなりお決まりパターンな展開。

レンの奮闘が見ものですね。

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