第9話:王都決戦前夜
魔王四天王の一角を討ち果たした一行は、その勢いのまま王都へと帰還した。
城下町はすでに英雄たちの凱旋を知っており、通りには花が飾られ、人々が押し寄せるように迎え入れていた。
「双星の英雄だ! 帰ってきたぞ!」
「ユーマ様もアイ様も、本当にすごい……!」
あちこちから飛ぶ歓声に、ユーマは銀髪を揺らしながら小さく手を振った。
「ありがとう……でも、まだ終わってないのに、こんなに盛大でいいのかな」
少し照れた声に、隣のアイが軽く笑う。
「いいんじゃないか? こういうのも含めて、勝ち取ってきたもんだろ」
ミア、セレナ、ガルドもそれぞれ人々の声に応えながら、王城へと進んでいった。
王城の大広間では、国王自らが玉座を立ち、彼らを迎えた。
「よく戻った、双星の英雄たちよ」
重々しい声が広間に響く。
「ヴェルガ山脈での勝利の報は届いている。王国を代表して、心より感謝する」
そう言うと、国王は一人ずつに褒章を授けていく。
そしてユーマとアイには、特別な双星のペンダントが手渡された。
「これは、貴殿らの絆の証だ。明日はいよいよ魔王城への最終決戦となる。必ず、生きて戻ってこい」
ユーマはペンダントを胸元で握りしめ、小さく頷いた。
「はい。必ず平和な世界にして戻ります」
その夜、王都は祝賀の宴に包まれていた。
王城の大広間には料理が並び、楽団の音が響き、貴族や冒険者たちが入り混じって賑わっている。
ユーマは白いドレスに身を包み、銀髪を軽くまとめていた。
今では、この姿にもすっかり慣れてしまっている。
「ユーマさん、今日も綺麗ですね!」
ミアが尻尾を揺らしながら駆け寄ってくる。
「ほんと、絵みたいですよ」
セレナも穏やかに微笑んだ。
少し離れた場所では、ガルドが大ジョッキを掲げて笑っている。
「今日は飲むぞー!」
アイは黒の礼服に身を包み、落ち着いた表情で周囲を見渡していた。
やがて音楽が変わり、ダンスの時間になる。
「ユーマ、一曲いいか」
アイが手を差し出した。
ユーマは少しだけ迷ってから、その手を取った。
広間の中央で、二人はゆっくりとステップを踏み始める。
視線が集まるのも気にせず、ただ音楽に身を預けるように。
「ここまで来たな」
アイが小さく言う。
「うん……ほんとに、いろいろあったね」
ユーマは少しだけアイの胸元に寄りかかるようにして呟いた。
「学園のときから、ずっと支えてくれてありがとう」
アイは短く息を吐き、静かに答えた。
「俺の方こそだ。ユーマがいなかったら、ここまで来れてない」
音楽が終わると、二人は自然とバルコニーへ出ていた。
夜風が心地よく頬を撫でる。
王都の灯りが遠くまで広がり、星空と混ざり合っていた。
少し離れた場所で、ミアたちがそっと二人を見守っている。
ユーマは空を見上げたまま、ぽつりと呟いた。
「明日、魔王を倒したら……みんなで、ゆっくりしたいね」
「アイと一緒に、普通の時間を過ごしたい」
アイは何も言わず、その手に自分の手を重ねた。
「そうだな。絶対に勝とう。そして、その先も一緒にいる」
ユーマは小さく笑った。
「うん」
言葉はいらなかった。
ただ、それだけで十分だった。
その夜、宴は遅くまで続いたが、二人は早めに自室へ戻った。
明日に備えるためでもあり、ただ静かな時間を過ごしたかったからでもある。
窓辺に並んで座り、外の夜景を眺める。
「怖いか?」
アイがぽつりと聞いた。
「少しだけ。でも、大丈夫。みんながいるから」
ユーマはそう言って、小さく息を吐いた。
王都の夜は静かで、どこまでも穏やかだった。
まるで、これから訪れる戦いを知らないかのように。
それでも二人は、ただ明日へと向かう準備をしていた。




