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第8話:中ボス戦と過去の記憶

国境の荒野を越え、一行は魔王軍の勢力が色濃く残るヴェルガ山脈へと足を踏み入れていた。

六人の連携はすでに安定しており、小型の魔物程度であれば危なげなく処理できるほどだった。岩肌の続く山道を進みながらも、隊列は乱れない。

「みんな、油断しないで。前方に強い魔力反応があるわ」

セレナの声が緊張を帯びる。古代魔法による索敵は、明確な危険を示していた。

ユーマは剣の柄に手を添え、銀髪を風に揺らしながら前方を見据えた。

「来るね……アイ、準備は?」

「もちろん。フォローは任せてくれ」

その言葉に短く頷いた直後、山道の奥にある崩れた神殿跡から、重い気配が立ち上がった。

現れたのは黒い鎧に身を包んだ巨躯の男。魔王四天王の一角、魔将ガルドゥスだった。

「双星の英雄か……随分と面白い玩具が来たものだ」

低く響く声と同時に、空気が張り詰める。

次の瞬間、戦いが始まった。

振り下ろされる巨大な戦斧。その一撃ごとに地面が砕け、衝撃が山肌を揺らす。ユーマは紙一重でそれを躱しながら踏み込み、鋭い剣撃を返した。

「はあっ!」

ミアの放つ矢が隙を縫い、セレナの補助魔法が全員の動きを加速させる。ガルドは真正面から力で受け止めるように斧を振るい、アイは光の魔法で後方から支援を重ねていった。

「《ライト・インパクト》!」

放たれた光が魔将の鎧を砕く。そこへユーマが一気に踏み込み、刃を突き立てた。

だが、ガルドゥスは崩れない。むしろ余裕すら感じさせる笑みを浮かべていた。

「その力……所詮は借り物にすぎん」

その瞬間だった。

視界が歪む。

世界が一瞬だけ反転したように揺れ、ユーマの体から力が抜ける。銀髪の少女の輪郭が揺らぎ、別の“自分”が重なる感覚。

男だった頃の身体。低い声。大きな手。

しかしそれは一瞬で崩れ、再び今の姿へと戻っていく。

隣のアイも同じだったのだろう。動きが止まり、息が乱れている。

「う……っ」

ユーマは剣を握る手に力が入らないまま、膝が揺らいだ。

——俺は、本当にこの姿でいいのか。

胸の奥に沈んでいたものが、幻のように浮かび上がる。

その隙を逃さず、ガルドゥスが大斧を振り上げた。

「ユーマ!」

「アイさん!」

ミアとセレナの声が飛ぶ。

その声に、意識が現実へと引き戻された。

ユーマは短く息を吸い込み、剣を握り直す。

「……今は、この姿だ」

震えは止まっていない。それでも視線は真っ直ぐだった。

「ユーマとして、ここにいる」

アイもまた、低く静かな声で応じる。

「そうだな。今の俺たちで十分だ。行くぞ、ユーマ」

その瞬間、二人の間に流れていた力が強く共鳴した。

空気が変わる。

ユーマの踏み込みは一段と鋭さを増し、剣筋は光の軌跡を描くように魔将の動きを封じていく。そこへアイの魔力が重なり、白い光が爆ぜた。

仲間たちの攻撃も同時に重なり、逃げ場は完全に消えた。

「これで……終わりだ!」

渾身の一撃が魔核を貫く。

ガルドゥスは断末魔の咆哮を上げ、黒い粒子へと崩れ落ちていった。

戦闘が終わると、緊張の糸が一気にほどけるように、静けさが戻った。

神殿跡の片隅で火を起こし、六人はその周りに腰を下ろす。

ユーマは焚き火を見つめたまま、ぽつりと呟いた。

「さっきの……怖かった。でも、今は思う。これでいいんだって」

隣に座るアイが、何も言わず肩に手を置く。

「俺もだ。過去がどうだったかなんて関係ない。今ここにいる俺たちがすべてだ」

ミアが明るく笑って二人の頭を軽く撫でた。

「二人ともすごかったよ! ほんと、かっこよかった!」

セレナが静かに頷き、ガルドが豪快に笑う。

「絆ってやつだな。いい戦いだったぜ」

焚き火の炎が揺れ、六人の影をゆらりと照らす。

その光の中で、確かなものだけが残っていた。



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