第6話:魔王軍の影
学園祭が終わり、英雄学園はいつもの日常へ戻っていた。
ユーマは剣術の授業。
アイは魔法理論。
ミアは弓術。
それぞれ忙しく過ごしていた。
その日の放課後。
ユーマは図書館で資料を読んでいた。
魔王について書かれた古い本だ。
ページをめくっていた時だった。
胸の奥がざわつく。
嫌な感覚だった。
理由は分からない。
それでも落ち着かない。
「なんだろ……」
次の瞬間。
頭の中に一瞬だけ映像が流れた。
誰かが倒れる。
土の地面。
光。
そして——
アイ。
「っ!」
ユーマは椅子を蹴るように立ち上がった。
本を閉じるのも忘れて図書館を飛び出す。
胸騒ぎが止まらない。
男子寮の近くだ。
なぜかそう確信できた。
走る。
ただひたすら走る。
そして男子寮裏の庭へ辿り着いた。
そこにはアイがいた。
そしてもう一人。
黒い外套を羽織った男。
「アイ!」
ユーマが叫ぶ。
アイは振り返った。
腕から血が流れている。
「ユーマ!?」
男は小さく舌打ちした。
「余計なのが来たな」
その瞬間、男が動く。
速い。
ユーマは咄嗟に剣を抜いた。
金属音が響く。
まともに受ければ押し切られる。
そう思えるほど重い一撃だった。
「こいつ……!」
男は何も答えない。
ただ執拗に急所を狙ってくる。
訓練された動きだった。
「ユーマ!」
アイが魔法を放つ。
男は素早く距離を取った。
しかし逃げない。
むしろ笑った気がした。
「なるほど。双星か」
不気味な声だった。
そこへ別方向から矢が飛ぶ。
男が身をひねる。
矢は肩をかすめた。
「間に合いました!」
ミアだった。
息を切らしながら駆け寄ってくる。
「二人とも大丈夫ですか!?」
「なんとか!」
三人が揃う。
男はそれを見て少しだけ後退した。
今度はアイが魔法陣を展開する。
ユーマが前へ出る。
ミアが弓を構える。
男は数秒だけ様子を見ていたが、やがて肩をすくめた。
「今日はここまでにしておこう」
直後。
黒い煙が噴き出した。
「逃げるな!」
ユーマが追おうとする。
しかし煙が晴れた時には、もう誰もいなかった。
静寂だけが残る。
しばらくして。
緊張が解けたアイがその場に座り込んだ。
「大丈夫?」
ユーマが隣へしゃがむ。
「浅い傷だよ」
そう言うが、腕からはまだ血が滲んでいた。
ユーマは手を伸ばす。
淡い光が傷を包んだ。
少しずつ傷口が閉じていく。
「助かったよ」
アイが苦笑する。
「今度は俺が助けられたな」
「そんなことない」
ユーマは首を振った。
「なんか嫌な予感がしただけ」
「リンク能力?」
ミアが聞く。
「たぶん」
実際のところ、ユーマにもよく分からない。
ただアイが危ない。
そう感じたのだ。
「便利ですね……」
ミアは少し羨ましそうに呟いた。
その後、三人は学園へ報告を行った。
学園側も男の存在を重く見たらしい。
警備が強化されることになった。
夕食を食べながらも、三人の話題はその男についてだった。
「あいつ、何者なんだろうな」
アイが言う。
「強かったです」
ミアも真面目な顔で頷く。
ユーマは窓の外を見た。
学園の明かりはいつもと変わらない。
だが確かに何かが近付いている。
そんな気がした。
平和な学園生活は、少しずつ変わり始めていた。




