第2話:冒険者ギルド登録と初任務
リリアンの街は朝から賑わっていた。石畳の道には人が行き交い、市場では商人たちの呼び込みの声が響いている。
ユーマとアイは森を抜け、街の門をくぐった。
「まずは登録だよね……この姿でちゃんと受け付けてもらえるかな」
ユーマは銀色の長い髪を指で払いながら言った。胸の膨らみや細い腰はまだ慣れない。歩くたびに髪が揺れる感覚にも、少しだけ落ち着かなかった。
アイは周囲を見回しながら頷く。
「大丈夫だよ、ユーマ。女神さんの言ってた通り、ちゃんと力もあるみたいだし。昨日だってゴブリンを倒せたじゃないか。まずは登録して情報集めだ」
二人が向かったのは冒険者ギルドだった。
木と石で作られた大きな建物の中では、多くの冒険者たちが酒を飲み、依頼について話し合っている。
中に入ると、受付のエルフ女性が目を丸くした。
「まあ……なんて綺麗なお二人なの。銀髪の剣士さんと黒髪の魔法使いさんですね。登録ですか?」
ユーマは頬を赤くしながら頷く。
「はい。ユーマとアイです。よろしくお願いします」
受付嬢は手際よく登録用のカードを取り出し、簡単な適性検査を始めた。
「すごいわね。ユーマさんは剣の適性が高いし、アイさんは魔力がかなり多いわ。双星の英雄って予言、本当かもしれないわね」
周囲の冒険者たちも興味深そうにこちらを見ていた。
「あの子、剣士なのか」
「男の方もなかなかだな」
ひそひそと聞こえる声に、ユーマは居心地悪そうに肩をすくめる。
アイは苦笑した。
「まだ駆け出しだけど、よろしく」
登録を終えた二人は、さっそく依頼掲示板へ向かった。
選んだのは街の近くの森で行う薬草採取の依頼だ。報酬はそれなりで、初心者向けと書かれている。
森に入ると空気がひんやりとしていた。
ユーマは腰の剣に手を添え、アイは杖を握る。
「ユーマ、胸とか邪魔じゃない? 動きにくかったりしない?」
「最初はそう思ったけど、意外と平気なんだ。体も軽いし。アイはどう? 声とか体とか」
アイは大きな手を見つめたあと、小さく笑った。
「声が低いのはまだ変な感じだけど、力は出しやすいかな。前より落ち着く気もするし」
少しだけ言葉を止める。
「……ユーマがいてくれて助かってるよ」
二人は薬草を探しながら歩いた。
学校のこと。好きな食べ物のこと。将来やりたかったこと。
元の世界の話をしていると、不思議と少しだけ安心できた。
その時だった。
茂みが大きく揺れた。
数匹の魔狼が飛び出してくる。
「来るよ!」
ユーマは素早く剣を抜いた。
魔狼が飛びかかる。
身をひねってかわし、そのまま剣を振るう。
一匹の首が宙を舞った。
続けてアイが杖を向ける。
「《ライト・アロー》!」
放たれた光の矢が残りの魔狼を次々と貫いた。
戦闘はあっけなく終わる。
「やったね、ユーマ!」
アイが手を上げる。
ユーマも笑いながらそれに応えた。
「アイの魔法、本当にすごいな。俺もこの体で戦うの、少し楽しくなってきたかも」
薬草を集め終えた二人は街へ戻った。
依頼達成の報酬を受け取り、宿屋へ向かう。
宿の部屋には二つのベッドが並んでいた。
ユーマは先に風呂へ入り、湯船の中で小さく息を吐く。
柔らかい肌も、細い腕も、まだ自分のものとは思えない。
それでも以前ほど嫌ではなかった。
「……慣れてきたのかな」
夜になると、二人は同じ部屋で話をしていた。
窓から月明かりが差し込んでいる。
「元の世界に戻りたい?」
ユーマがぽつりと聞いた。
アイは少し考える。
「もちろん戻れたら嬉しいよ。でも今は、この世界も悪くないかな」
そう言って笑った。
「ユーマと一緒だしね」
ユーマもつられて笑う。
静かな部屋に、二人の笑い声だけが残った。
異世界での生活はまだ始まったばかりだった。




