第1話:死と出会い、そして性転
放課後の帰り道。
佐藤悠真と鈴木愛子は、いつものように並んで歩いていた。
幼馴染で、家も隣同士。高校二年生の悠真はゲームとマンガをこよなく愛する、ごく普通の男子だ。愛子は明るく世話好きなクラスメイトで、悠真の数少ない理解者だった。
「はぁ……今日の数学、完全に終わったわ」
悠真が肩を落とすと、愛子がくすくす笑った。
「悠真くん、テスト前はいつも『一緒に勉強しよう』って言うのに、結局ゲームしちゃうんだもんね。今日はうちで復習しよ?」
信号が青に変わる。
二人が一歩踏み出した、その瞬間――
クラクションの音すら届かないほどの速さで、トラックが二人を撥ねた。
痛みは、驚くほど短かった。
次に目を開けたとき、そこは見知らぬ森だった。
木漏れ日が、静かに揺れている。
「え……ここ、どこ……?」
声が、違う。澄んでいて、柔らかい。自分のものではないみたいだった。
悠真は恐る恐る、自分の体を見下ろした。銀色の長い髪が肩から滑り落ち、見覚えのない衣服に包まれた体は、明らかに女の子のものだった。
「うわあああっ!? なんだこれ、俺の体じゃ……ない……!」
隣から、低く落ち着いた声が響いた。
「……悠真? わたし……愛子、だよね……?」
振り返ると、見知らぬ青年が立っていた。黒髪で、背が高く、整った顔立ち。声には、男らしい響きがある。
二人は互いの姿を見つめたまま、しばらく動けなかった。
頭の中に、誰かの声が響く。柔らかく、どこか楽しげな声だった。
『こんにちは、悠真くん、愛子ちゃん。女神ミリアよ。あなたたちを、望み通りの異世界へ招待してあげました。でも、ちょっとした"代償"として――体を交換させてもらったの。ユーマとアイ、双星の英雄として、魔王を倒してね。応援してるわ♪』
ユーマ(元・悠真)は地面に座り込み、震える手で胸元を押さえた。
「夢だ……これは絶対、夢だ……」
アイ(元・愛子)は自分の手を握ったり開いたりして、何度も確かめている。
その時、茂みががさりと揺れた。
緑色の小さな魔物が二体、棍棒を振り上げて飛び出してくる。ゴブリンだ。
「っ――!」
ユーマは反射的に、足元に転がっていた剣を握った。重いはずの剣が、驚くほど軽く感じる。
踏み込んだ瞬間、体が思った以上に素早く動いた。
一閃。1体目が、声もなく地に沈む。
アイの指先が光を帯び、白い矢が放たれた。もう一体が、音もなく消えていく。
息を切らしたまま、二人は顔を見合わせ、ぽかんとしたあと——同時に爆笑した。
「うわっ、マジで俺、すげぇ動ける! この体、めっちゃ軽い!」
「私も! 魔法が出るの! なんかワクワクする……!」
二人は森の中で焚き火を起こし、並んで座った。夜風が心地よく、焚き火がパチパチと心地よい音を立てる。
「この体、悪いことばっかりじゃないかも……むしろ、めちゃくちゃ強そうじゃない?」
ユーマが目を輝かせて言うと、アイも笑顔で頷いた。
「うん! ユーマの剣捌き、かっこよかったよ。私の魔法も結構イケるみたいだし……これから一緒に冒険できるなんて、夢みたい!」
「双星の英雄、か。なんか燃えてきたな」
「私も! 魔王倒して、最高のハッピーエンド目指そうよ!」
二人は声を合わせて笑った。
夜空には、見たこともない二つの星が並んで、眩しいほどに輝いていた。その光は希望に満ち、二人を優しく照らしているように見えた。
すると——
焚き火の炎が揺れた瞬間、ユーマの胸の奥に温かい感覚が広がった。
アイの顔を見たとき、頭の中に愛子の明るい声が、まるで心の中で直接響くように聞こえた。
『……悠真と一緒に、ずっと冒険できるなんて、すごく楽しみ……!』
アイも同じように、ふっと微笑んだ。
「今、なんか……ユーマの気持ちが、少し伝わってきた気がする」
ユーマは目を丸くしたあと、嬉しそうに笑った。
「俺も! なんか不思議な力……リンクしてるみたいだな。これ、絶対便利だぜ!」
焚き火の周りで、二人は肩を寄せ合いながら未来を語り合った。
新しい世界、未知の力、最高の相棒との冒険——すべてが輝かしく、胸が高鳴る予感でいっぱいだった。
夜空の二つの星は、さらに明るく輝き、二人の新しい物語を祝福するように瞬いていた。
新しい冒険は、最高に爽快で、最高に楽しいものになりそうだった。
そして二人は次の街を目指して歩き出す。




