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序章 第15話 「アウルドラニア建国記」

黒猫竜騎士物語の世界観設定資料集になります。

アウルドラニア建国記


────────────────────

第一章 二柱の神

────────────────────


この地に古くから伝わる祈りには、太陽神と月の神の二柱があった。


太陽神は、生まれ来る命を祝福する男神である。

朝の光、火、芽吹き、成長、働く手、実りへ向かう力を司る。


子が生まれた時、人々は朝日に向かって祈った。

種を蒔く時、新しい家を建てる時、長い冬が明けた時にも、太陽神の名は呼ばれた。


月の神は、死した魂を巡りへ帰す女神である。

夜、眠り、弔い、記憶、冬、静かな再生を司る。


人が死んだ時、人々は月の下でその名を呼んだ。

魂が迷わず、次の命の巡りへ戻れるようにと祈った。


太陽神は命をこの世へ迎える。

月の神は終えた命を巡りへ帰す。


二柱は、生と死、始まりと終わりを司り、世の理の循環を支える神々であった。


この二柱への祈りは、後にアウルドラニア王国の三柱信仰へと受け継がれる。

しかしこの時代、龍神はまだ太陽神と月の神に並ぶ第三の柱として定められてはいなかった。


龍への祈りは各地にあった。

だがそれは、まだ王国全土を結ぶひとつの神格ではなかった。


────────────────────

第二章 乱世の時代

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二千余年の昔、現在のアウルドラニア王国がある地には、小さな国々と部族の領地が乱れ立っていた。


人は境を争い、土地を奪い、川を奪い、森を奪った。

獣人は獣人であることを理由に遠ざけられ、角を持つ者、尾を持つ者、耳の形が違う者は、それだけで争いの種となった。


祈りの違いも争いになった。

太陽神への祈りを重んじる土地もあれば、月の神への弔いを何より大切にする土地もあった。

山の民には山の祈りがあり、川の民には川の祈りがあった。


人々は、自分たちの祈りを守るために戦った。

しかし、その戦いの中で、祈られるべき命そのものが失われていった。


死者は増えた。


埋葬されない遺体が野に残り、名を呼ばれない魂が夜に迷い、血を吸った土地には淀みが生まれた。

戦場の跡には、恨みと恐怖と魔力が積もり、生命の巡りへ帰れないものが滞った。


そこから魔物が生まれた。


魔物は獣ではない。

飢えた狼や、森に棲む熊とは違う。

魔物は、生命の循環が乱れた場所に生じる、世の理の歪みである。


魔物は人を襲い、村を壊し、さらに死を増やした。

死が増えれば淀みが増え、淀みが増えれば、また魔物が生まれた。


乱世は、戦によって深まり、魔物によってさらに深まっていった。


────────────────────

第三章 各地の龍伝承

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建国以前、龍への祈りはひとつではなかった。


山には、山を守る龍の伝承があった。

雪崩を止め、鉱脈を隠し、山に入る者へ試練を与える龍である。


川には、水を鎮める龍への祈りがあった。

氾濫を抑え、干ばつの時には水脈を開くと伝えられた。


森には、魔物を退けた黒き龍の話が残っていた。

その龍は深い森の奥に棲み、瘴気に満ちた獣を喰らい、森と里の境を守ったという。


荒野や砂地には、地を走る龍の信仰があった。

その民は、地龍を祖とし、砂の下を流れる水と、夜の冷気を読む術を伝えた。


海辺には、嵐を呼び、また鎮める龍の伝承があった。

船乗りは出航の前に潮の龍へ酒を注ぎ、帰港の時には月の神と共にその名を呼んだ。


それらは土地ごとに名を異にし、姿を異にし、役割を異にしていた。

必ずしも同じ神とはされていなかった。


ある土地では守り神。

ある土地では祖霊。

ある土地では災厄そのもの。

ある土地では契約を結ぶもの。


この時代、太陽神と月の神は、生と死の巡りを司る古い二柱として広く知られていた。

しかし龍への信仰は、まだ王国全土を貫くひとつの神格ではなかった。


後の世に龍神と呼ばれるものは、はじめから統一された姿で存在したわけではない。

それは、各地に散らばっていた龍の伝承、祖霊信仰、守護龍への祈りが、建国の時代に結び直されることで形を得た神格である。


その結び目となったのが、建国王と太古の龍の契約であった。


※欄外注

古い地方の祈りには、太陽神と月の神だけを柱とするものが今も残る。

龍神を第三の柱として並べる形は、アウルドラニア王国の建国以後に広まったものとされる。


龍神は、無から作られた神格ではない。

各地に古くから存在した龍の伝承、信仰を、建国王の契約と王国の建国神話に結びつけることで成立したものである。


そのため龍神信仰には、中央神殿が整えた公式教義としての側面と、土地ごとの古い龍伝承を束ねた側面がある。


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第四章 龍と竜

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古き記録では、神格を得た太古のものを龍と記し、今を生きるその末裔を竜と記す。


龍とは、太古に人と言葉を交わし、契約を結び、土地や国を守ったとされる高位の存在である。

すべての龍が神そのものではない。

しかし長い年月の中で、多くの龍は神格化され、信仰と伝承の対象となった。


竜とは、この世界に生きる龍の末裔である。


翼を持つ竜。

地を走る竜。

水辺に棲む竜。

軍用に馴らされた騎竜。

人里を離れて暮らす野生竜。

砂地を駆ける地竜。

空を渡るワイバーン。


これらはすべて、広く竜と呼ばれる。


長い年月の中で竜の姿は分かれ、血は混じり、体は太古の龍に比べて小さくなった。

そのため、古い時代に定められた種族名や分類は、現在では必ずしも正しくない。


同じ翼竜と呼ばれていても、知性も性質も大きさも違う。

同じ地竜と呼ばれていても、砂地に適したものもいれば、森の湿った土を好むものもいる。


ゆえに、竜は龍ではない。

されど、龍の血と加護を遠く受け継ぐものとして、獣や魔物とは分けて扱われる。


竜は獣ではない。

竜は魔物でもない。


魔物は生命の巡りが乱れた場所に生じる。

竜は、太古の龍の末裔であり、その根において魔物とは異なる。


まれに、現在の竜の中に、太古の龍の特徴を濃く受け継ぐものが生まれる。


その鱗は、白、黒、赤、青、金など、濁りの少ない強い色を持つことが多い。

その目には、獣とは異なる知が宿る。

人の言葉をすべて解するとは限らない。

しかし、相手の意図を測り、選び、拒み、時に人と心を通わせる。


そうした竜は、古き龍に近いものとして特別に扱われることがある。


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第五章 建国王

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乱世を収めた者を、後の世は建国王と呼ぶ。


建国王は、ただ剣をもって国々を従えた者ではない。

彼は、失われた命の巡りを立て直そうとした者であった。


戦を止めるだけでは足りなかった。

死者を弔わなければ、魂は巡りへ帰らない。

土地を清めなければ、魔物はまた生まれる。

種族の違いを理由に命を分ければ、争いは形を変えて続く。


建国王は、太陽神と月の神の古い祈りを、すべての民に共通するものとして整えた。


太陽神の祝福は、耳の形を選ばない。

月の神の導きは、尾の有無で魂を拒まない。


生まれる命は等しく祝福され、死した魂は等しく巡りへ帰る。


この教えは、後のアウルドラニア王国における多種族共存の礎となった。


もちろん、すべての争いがその日から消えたわけではない。

憎しみは残り、差別も残り、土地ごとの対立も消えなかった。


それでも王国は、命の価値を種族で分けぬという理念を、建国の柱に置いた。


建国王は各地を巡り、戦を収め、魔物を討ち、弔われぬ死者の名を集めた。

その旅の中で、彼は各地に残る龍の伝承を知った。


山の龍。

川の龍。

森を守る黒き龍。

砂を走る地龍。

嵐を呼び、海を鎮める潮の龍。


それらは互いに異なる祈りであり、異なる土地の記憶であった。

だが、いずれも厄災を退け、土地を守り、人の力だけでは届かぬものに関わる存在として語られていた。


そして建国王は、太古の龍と契約を結んだ。


その龍は、人の言葉を解し、建国王と共に乱世の厄災を退けたという。

魔物の群れを払い、淀んだ土地を清め、戦に疲れた民の上を翼で覆ったとも伝えられる。


この契約は、後に王国の建国神話の中心となった。


建国王は、各地に散らばる龍の伝承を否定しなかった。

山の龍も、川の龍も、森の龍も、砂の地龍も、海の潮の龍も、それぞれの土地が守ってきた古い祈りとして認めた。


そのうえで、それらを太古の龍に連なるものとして結び直した。

そして、厄災を退け、命の巡りを守る第三の神格として、龍神の名を定めた。


こうして、太陽神と月の神に並ぶ第三の柱が生まれた。


太陽神は、命をこの世へ迎える。

月の神は、死した魂を巡りへ帰す。

龍神は、その巡りを乱す厄災を退ける。


これが、アウルドラニア王国の三柱信仰である。


ただし、三柱信仰が現在のような整った教義として広まるには、なお長い年月を要した。

建国王の時代に生まれたのは、二柱の古い祈りに、太古の龍との契約を重ねるという建国の理念であった。


それを王国全土の信仰として整理し、神殿制度の中に明文化したのは、後の中央神殿である。


────────────────────

第六章 王国の成立

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建国王のもとに集った者たちは、ひとつの種族だけではなかった。


人間の兵がいた。

獣人の斥候がいた。

角を持つ山の民がいた。

川辺の民がいた。

森を知る者がいた。

竜と共に生きる者がいた。


彼らは互いに同じではなかった。

言葉も違い、祈りも違い、食べるものも、死者の送り方も違った。


それでも彼らは、乱世を終わらせるために同じ旗の下へ集まった。


その旗には、太陽と月、そして翼を広げた龍が描かれた。


太陽は、生まれ来る命への祝福を示した。

月は、死した魂を巡りへ帰す祈りを示した。

龍は、災いを退け、人の力だけでは守れぬものを守る誓いを示した。


この旗は、古くからあった二柱の祈りに、建国王と太古の龍の契約を重ねたものである。


建国王は、争いによって分かたれた小国をまとめ、魔物の湧く土地を鎮め、街道を通し、死者を弔う法を定めた。


やがて、人々はその国をアウルドラニアと呼んだ。


竜と共に建った国。

龍神の加護を第三の柱に掲げる国。

二柱の古い巡りを守りながら、厄災に立ち向かう国。


アウルドラニア王国は、こうして始まった。


※欄外注

建国王の名には、写本によって揺れがある。

王都神殿に残る正本では「アルディオン」とされるが、地方写本には別名や尊称のみを記すものもある。


また、三柱信仰が現在の形に整えられたのは、王国成立後の神殿制度によるところも大きい。

建国王の時代には、太陽神と月の神の古い二柱信仰に、太古の龍との契約が加わった段階であり、後の中央神殿がそれを整理し、龍神を第三の柱として明文化したとされる。


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第七章 竜騎士団のはじまり

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建国王と太古の龍の契約は、後の竜騎士団の起源とされる。


はじめ、竜に乗る者は騎士ではなかった。

山の民の案内人、森の守り手、川沿いの伝令、荒野の偵察者。

竜と共に暮らしていた者たちが、王国のために道を開き、魔物を見つけ、遠い集落へ知らせを運んだ。


やがて、それらの役目は王国の制度に組み込まれた。


竜の世話をする者。

竜の癖を読む者。

空を渡る者。

地を駆ける竜と共に国境を守る者。

魔物の発生をいち早く知らせる者。


彼らは王国の守り手となった。


後に、王国は彼らを竜騎士と呼ぶようになった。


竜騎士は、ただ竜に乗って戦う者ではない。

竜を知り、竜と共に動き、人の届かぬ場所へ向かう者である。


空の向こうにある村へ。

森の奥にある危険へ。

山を越えた先の戦場へ。

誰かが助けを求める場所へ。


竜騎士団は、王国が建国の誓いを忘れぬための翼である。


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第八章 大陸図と周辺諸国

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巻末には、古い大陸図が付されている。


大陸の名は、オルディア大陸。


中央西部に、アウルドラニア王国がある。

王都はアウルグラント。

古くから王城と中央神殿、竜騎士団の本拠が置かれる都市である。


北には、ヴェルカ山岳公国がある。

鉱山と鍛冶の国であり、鉄、銅、銀、良質な石材を産する。

竜具や甲冑の金具に使われる素材の多くが、この山岳地帯からもたらされる。


西には、セレスタ海邦連合がある。

いくつもの港湾都市が結んだ商業連合であり、紙、本、香辛料、薬、異国の布、船具などが集まる。

古い写本や異国の地図も、この海邦連合を通じて王都へ入ることが多い。


東には、ガルド草原諸侯領が広がる。

馬と遊牧の地であり、氏族ごとの諸侯が草原を治めている。

アウルドラニアとは、古くから衝突と交易を繰り返してきた。

現在は街道を通じた交易があるが、国境の緊張が消えたわけではない。


南東には、サハルディア砂王国がある。

砂漠と岩山の国であり、地を走る竜を用いる独自の竜文化を持つ。

龍神の名を用いずとも、地龍を祖とする古い伝承、信仰が残っている。


北東には、ノクスヴァルト大森林が広がる。

国家ではない。

深い森と湿地、古い戦場跡、魔力の濃い土地を含む危険地帯である。

魔物の発生が多く、王国軍と竜騎士団の哨戒が絶えない。


※欄外注

ノクスヴァルト周辺では、魔狼、瘴気を帯びた獣、群れを成す小型魔物の報告が多い。

開拓地や辺境の村は、王国軍の巡回と竜騎士団の哨戒によって守られる。


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第九章 アウルドラニアの台頭と周辺諸国

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アウルドラニアの成立は、周辺諸国に安定をもたらした。


戦乱によって途切れていた街道は結ばれ、商隊は以前より安全に山を越え、川を渡り、港へ向かうことができるようになった。


放置されていた古い戦場は清められ、死者を弔う法が整えられ、魔物の発生地には王国軍と竜騎士団の目が向けられた。


それにより、山の鉱石、海の紙と香辛料、草原の馬、砂漠の薬草や地竜の知識は、以前より広く流通するようになった。


しかし、すべての国がアウルドラニアの台頭を同じように受け入れたわけではない。


三柱信仰を掲げ、空を越えて動く竜騎士団を持つ古王国の誕生は、周辺諸国にとって守りであると同時に警戒すべき力でもあった。


山には山の龍があり、海には海の祈りがあり、草原には風の祖霊があり、砂には地龍の信仰があった。


アウルドラニアは、それらを失わせようとはしなかった。

だが、各地の龍伝承を龍神の名のもとに結び直したことは、土地ごとの古い誇りを揺らすものでもあった。


王国にとって龍神は、建国王と太古の龍の契約に基づく守護の神格である。

しかし周辺諸国や地方の民にとって、龍とは必ずしも王都の教義に収まるものではなかった。


山の龍は山のもの。

海の龍は海のもの。

砂の地龍は砂に生きる民の祖である。


そのため、龍神信仰は王国を結びつける力であると同時に、王都が各地の古い祈りをまとめ上げようとする力としても受け止められた。


ヴェルカ山岳公国は、王国に鉄と石材を送り、竜具と甲冑の発展を支えた。

その一方で、山を守る龍の伝承を王都の龍神信仰に完全に重ねることには、今も慎重である。


セレスタ海邦連合は、街道と港の安定によって大きな利益を得た。

紙、本、薬、香辛料は王都へ流れ、王都からは銀貨と保護された交易路がもたらされた。

だが海邦の商人たちは、空を渡る竜騎士団の力が海の自由を縛ることを警戒している。


ガルド草原諸侯領は、王国と長く争い、また長く交易してきた。

草原の民は馬と風を重んじ、王国の三柱信仰にすべてを委ねることはない。

現在の和平は、互いの力を認め合うことで成り立っている。


サハルディア砂王国は、独自の地龍文化を持つ。

地を走る竜と共に砂を渡る彼らにとって、王都の龍神信仰は近くもあり、遠くもある。

アウルドラニアとの交易は盛んだが、地龍を祖とする伝承、信仰は砂王国の誇りとして守られている。


ノクスヴァルト大森林は、王国の台頭後もなお、完全には鎮められていない。

そこは古い乱世の傷が残る土地であり、魔物の発生が今も続く場所である。

王国軍と竜騎士団は、その森を見張り続けている。


※欄外注

アウルドラニアの台頭は、周辺諸国に街道の安定、交易の発展、魔物への共同防衛をもたらした。

一方で、龍神を掲げる古王国の中心化は、各地の伝承、信仰、政治的自立に緊張も生んだ。


────────────────────

第十章 王国の誓い

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アウルドラニア王国の建国誓詞には、次の一節がある。


命は太陽の下に生まれ、

魂は月の下に巡りへ帰る。


龍の翼は災いを退け、

王の剣は民を分け隔てなく守る。


人も獣人も、山の民も、川の民も、

この地に生まれ、この地に死し、この地の巡りへ帰る。


ゆえに王国は、命を種族で分けず、

死者を名もなきものとして捨てず、

災いに襲われる者を見捨てぬ。


この誓いは、時代の中で何度も破られかけた。

王が変わり、戦が起き、差別が残り、貧しい村が忘れられることもあった。


それでも、誓いは消えなかった。


王国は完全ではない。

人は過ち、土地は荒れ、魔物は今も生まれる。


だからこそ、三柱への祈りは続く。


太陽神に、命の祝福を。

月の神に、魂の巡りを。

龍神に、災いを退ける翼を。


アウルドラニア王国は、その祈りの上に建つ国である。


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版記

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『アウルドラニア建国記』は、王都中央神殿ならびに王立史院の監修により、およそ五十年ごとに改訂される。


初版は王国暦一〇〇年に編纂。

以後、王国の制度、三柱信仰の注釈、周辺諸国との関係、竜騎士団の沿革、大陸図の修正を加えながら版を重ねてきた。


本書は、王国暦二一〇〇年改訂、第四十一版である。


なお、王国暦はアウルドラニア建国の年を元年とする。

本書が流通している現在は王国暦二一〇五年であり、王国は建国より二千百余年を数える。


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補注 三柱信仰成立の流れ

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三柱信仰は、はじめから現在の形で存在したものではない。


第一に、この地には古くから太陽神と月の神の二柱信仰があった。

太陽神は命を迎え、月の神は死した魂を巡りへ帰す。

この二柱は、生と死の循環を支える古い祈りであった。


第二に、各地には龍にまつわる伝承や信仰があった。

山の龍、川の龍、森の龍、砂の地龍、海の潮の龍など、その姿と役割は土地ごとに異なっていた。

この時点では、それらはまだ王国全土に共通する龍神として統一されていなかった。


第三に、建国王が太古の龍と契約を結んだ。

この契約は、乱世を終わらせ、魔物を退け、失われた命の巡りを立て直す建国神話の中心となった。


第四に、建国王は各地の龍伝承を否定せず、それらを太古の龍に連なるものとして結び直した。

この時、龍は単なる地方伝承ではなく、王国を守る神格としての意味を持ち始めた。


第五に、王国成立後、中央神殿がこの信仰を整理し、太陽神、月の神、龍神を並べる三柱信仰として明文化した。


ゆえに、アウルドラニア王国の三柱信仰は、古い二柱信仰と、各地の龍伝承と、建国王の契約が重なって成立したものである。



※オルディア大陸図

挿絵(By みてみん)

※アウルドラニア王国紋章

挿絵(By みてみん)

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