09. 生きたがりの騎士
レンダオへの恋心にどうやって折り合いをつけようかと考えていたシエラだったが、そんな気持ちを意識する暇もなく、怒涛の日々が過ぎた。
レンダオが持ち直してから、アナスタシア王女はより鉄壁になり、それに急に物事が進んだ。
アナスタシア王女の計画の要である、隣国の王子が即位したのだ。
腐敗した王政を正すべく、隣国と手を結んで互いに監視体制を敷く。その同盟を結べば、アナスタシアの民のための王政改革は認められる。そのために協力者である隣国の王子・エドワードが即位するまでアナスタシア王女は生きていなければならなかったのだ。
彼が即位してほどなく同盟は結ばれ、腐敗した王政は一新してアナスタシア王女の願いは遂げられた。
エドワード王子と対面してすぐ、彼にはアナスタシア王女ではないことを見抜かれた。しかし彼はすぐに状況を理解したようだった。
「……そう。アナスタシアはいなくなってしまったんだね……。それでもここまで遂げてくれてありがとう。彼女の願いは私が引き継ごう。必ず、彼女に代わって民を守ると誓おう」
さすがアナスタシア王女が信頼した人物である。全てを見通したような彼らに畏怖し、同時に最大の敬意を抱いた。この人になら託せるとそう思わせる人物だった。
「……私、本当にやり遂げた…………」
シエラのアナスタシア王女の身代わり任務はついに完遂した。そしてやはり抜かりなく、アナスタシア王女は自身の願いが果たされた後のシエラの選択肢を準備してくれていた。
アナスタシア王女の特権を持ったまま生きるか、シエラに戻って生きるか。
シエラは迷いなく、戻ることを選んだ。
アナスタシア王女は同盟を結んだ後に自主的に王族から除名され、実母の故郷の辺境で暮らしていると表向きは処理されることになった。
となると、レンダオとも必然的に離れることになる。王女の護衛騎士も解任となり、騎士団へ戻るとのことだった。国一番の騎士だ。これから活躍の場は山ほどあるだろう。
……そのはずが、レンダオはシエラに着いてきていた。
「言っただろう? 最後まで守ると。俺はあの時そういうつもりで言っていたが」
「だからってただの平民に護衛なんていりませんよ? もう危険もないですし。それに雇うお金もないです」
やっと離れてレンダオを忘れられると思っていたのになぜか着いてきた。律儀に約束を守って、彼らしいといえば彼らしい。
「……べつに護衛じゃなくてもいい」
「じゃあ何です。恋人にでもしときますか?」
「あぁ。それはいいな。俺がお前のそばにいても違和感がない」
冗談のはずが、レンダオからの予想外の反応にシエラは動揺する。
「……あなたはアナスタシア王女を愛しているんじゃないんですか……? フリでもこんな小娘の恋人は嫌でしょう」
「アナスタシア王女は俺が最も敬愛する主だ。それはこの先もずっと変わらない。けれど、お前に泣いて怒られて目が覚めた。俺はシエラがいたから、大切なアナスタシア様の願いを遂げることができた」
「だから次はお前の手助けになりたい。俺は役に立つぞ」
彼が未来の話をしている。それだけでシエラはこの上なく嬉しかった。
「……あなたが生きていてくれれば何も望まないと言ったでしょう。私にはそれで充分です」
シエラはレンダオに向き合って彼を見上げる。
「ほら、戻って。待っている人がたくさんいるんでしょう?」
「…………」
レンダオは黙ったまま動こうとしない。
「俺は……国で一番強い自負があるから護衛になれる。それに知識もあって器用だから執事にもなれる」
「……? そうですね?」
突如始まったレンダオの自慢話にシエラは首をかしげる。
「……それにもうアナスタシア様よりお前の癖のほうが多く言える。お前の些細な変化にも絶対気づけるから恋人にもなれる。俺はお前が望む何にでもなる」
「…………だから俺を側においてくれ。……俺はシエラと生きていきたい」
初めてみる、レンダオの余裕がない表情。少し恥ずかしそうにシエラから目をそらして、けれど逃すまいとシエラの両肩をしっかりと捕まえている。
「………………」
まったくの想定外の発言に、シエラはしばらくフリーズしていた。
「…………は……い……あなたが……私と生きたいと言うなら私が拒否することは……ないです」
数秒の沈黙の後、シエラはなんとか言葉を絞り出した。
驚きと、嬉しさで感情がいっぱいで、目からは大粒の涙がこぼれ落ちる。
「…………これからはもう二度と会えないと……思っていたのに……」
彼から私に用はないだろうし、きっと好きでいてしまうからできるだけ遠くへ行って忘れてしまおうとシエラは思っていた。
レンダオはシエラの涙に激しく動揺して思わず抱きしめる。
「すまない。そんなに嫌だったのか。俺は戻るから泣き止んでくれ。俺はお前の涙に弱いんだ」
こんな状況でも絶望的に鈍い勘違いをしているレンダオに腹が立ったシエラ。直前の感動が台無しである。思わず持っていた荷物でレンダオを叩く。
「おい、なんだ。俺はどうすれば」
「嬉しいんですよ! あなたが一緒に生きたいと言ってくれて! 私はあなたが好きだから!!」
どうせこの鈍い騎士には伝わらない。ならば全部言ってやろうと思った。
「私はあなたが好きです。だから嬉しいに決まってる。一緒に来るなら私はずっとずっとあなたを好きですけどうっとおしくないのなら勝手に着いてきてください! 全てはあなたの自己責任です!」
告白とはかけ離れた剣幕でまくし立てられ、流石のレンダオも驚き固まっている。けれど鈍感な彼にもやっと届いたようだ。
「ならば何も問題ないな。これからも側にいよう」
レンダオは柔らかな笑みを浮かべ、シエラの手を握って歩き出す。
――かくして、死にたがりの騎士は身代わり少女に救われたのだった。
お読みいただきありがとうございました。
こちらで完結となります。
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本作の前日譚となる短編『うとまれ王女は「なんで小娘の世話なんか」と超不満そうな不遜MAX騎士に忠誠を誓わせます』
も更新しておりますのでよろしければ是非ご覧くださいませ。
またどこかでお会いできると幸いです。




