07. 守れなかった主
レンダオ視点の過去のお話です。
「アナスタシア様!」
アナスタシアが毒に倒れたとの報せを聞いて、レンダオは急いで彼女の部屋へ駆けつける。
毒殺未遂は一度や二度じゃなければ、アナスタシアは特に毒の耐性が強いと聞いていた。いつも超人的な王女がこんなことで死ぬはずがないから、今回もきっと大丈夫だと自分に言い聞かせて彼女の部屋へと入った。
「レンダオ、来てくれたの」
レンダオの声がする方へアナスタシアは手を伸ばす。
しかし、その手はレンダオがいる場所からほんのわずかに逸れていた。
「……っ」
そんなささいな違和感、けれど多くの戦場を闘ってきたレンダオはそれだけで今の彼女の状態を悟ってしまう。
もう、助からないのだと。
レンダオがアナスタシアのもとへ着いた時、アナスタシアは既に毒に侵されて目が見えていなかった。
レンダオのいない間に毒を盛られ、解毒も間に合わずに刻一刻と身体が止まり始めている。為す術はない。
悔しくて、悲しくて、どんな顔をしていいかわからない。
表情はもう、見てはもらえないのだが。
「こうなることも……あるかもしれないと思って……」
立ち尽くしていたレンダオだか、わずかにアナスタシアの唇が動いたのを見て急いで駆け寄る。
アナスタシアの言葉を一言も聞き逃さないように、アナスタシアの顔にできるだけ近づいて見つめた。彼女を安心させるため、伸ばされた手はレンダオの両手で握りしめられている。
「辺境に……私と瓜二つの少女を隠しています」
「……!」
「名はシエラ。彼女に私の代わりになってもらって……」
「……あなたは最初から」
自分が死ぬことを予想してたんですか、そう言いかけてレンダオは口をつぐんだ。
それはあまりに愚問だから。
アナスタシアにはその可能性が見えていたに決まっている。希望的観測は一切せず、時に自分の命すら交渉材料に使う合理性の塊のような彼女。その性質は知っていた。民のためならば恐ろしいほど非情になれる、それがレンダオが忠誠を誓ったアナスタシア王女だ。
「レンダオ。ここまで時間が稼げたのは……あなたのおかげ。ありがとう……」
優しく微笑むアナスタシア。久々に見た、アナスタシアの素に近い柔らかな表情。しかし、やつれた目元と震える唇が残りの時間を物語る。
「これからは彼女を守ってね。彼女は……何も知らないだろうから、優しく」
「あなたたちには……大変な思いをさせて申し訳ないけど……あと少し……頼みました」
「…………っ……」
レンダオは血がにじむほど強く自分の手を握りしめる。頷きたくない、受け入れたくない。……それでも。
「………………わかりました。あなたの願いは……必ず俺が」
最後まで他人の心配をする、どこまでも優しくて、誇り高い主人。その主を安心させること以上にレンダオに優先すべきものはない。
レンダオの言葉を聞き届け、アナスタシアは穏やかな顔で、まるで眠りにつくかのように目を閉じた。
レンダオの頬にとめどなく涙が流れ落ちる。
まばたきもせず、ただただその場に立ち尽くしてアナスタシアをみつめていた。
読んでいただきありがとうございました。
リアクションやブックマーク、評価など励みになります。
レンダオとアナスタシアの前日譚となる短編
『うとまれ王女は「なんで小娘の世話なんか」と超不満そうな不遜MAX騎士に忠誠を誓わせます』
も更新しております。
気になった方はぜひこちらも是非読んでいただけると嬉しいです。
単体としても楽しんでいただける作品となっております。




