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04. レンダオという男

 アナスタシア王女として公務をこなすうちに、シエラの成り変わりの精度はどんどんと上がっていった。

 公務の速度も上がり、効率もあがり、ついには休養前のアナスタシアの業務量まで戻っていた。

 

「私、才能あるのかしら。もしかしてこのまま本物のアナスタシア王女を超えるのかしら」

 今日のスケジュールも見事にこなしたシエラがぼやく。すると間髪入れずにレンダオが反論してくる。

「書類仕事は全て俺がやっている。もちろんアナスタシア様は自分でやっていた。それにお前は新しい政策の提案はできない。アナスタシア様の足元にも及んでいない。フリとしては高い精度にあるだけだ。調子に乗るな」


(……オーバーキルではないだろうか)

 シエラはすんとした表情でレンダオを見つめる。こちらを一切見る様子もなく淡々と発言する彼に余計に腹が立ってきた。

 レンダオはアナスタシア王女が絡むと少し人が変わる。いつもの冷静沈着からちょっとムキになる。

 

 けれど、シエラはレンダオのそんなところを実は気に入っていた。

 レンダオという男には隙が無い。いつも一緒にいるはずのシエラだが、彼がミスをするところを見たことがない。いつも先回りして対処し、些細な違和感に気付くために常に気を張り詰めている。

 そんな完璧超人な彼の人間らしい素の部分が見えることは、なんだか嬉しいのだ。一応フリは良いとも褒めている。

 なんだかもっと彼のことを知りたくなり、少し切り込んでみる。孤児院でいつもみんなと喋っていたシエラは本来話すことが好きなのだ。年相応に恋愛にも興味はある。だから、この見た目だけは麗しの色男のレンダオと完璧王女様との関係を聞いてみたかった。


「はいはい、フリの才能があるだけですね。それにしてもレンダオはアナスタシア王女を本当によく見ていたのね。実は恋人同士だったりしたの?」

「違う。護衛としての仕事をしていたまでだ」

「普通好きな人でもないとあんなに癖や仕草を覚えないわよ」

「ずっと一緒にいたからな。嫌でも覚えている」

「じゃあ私の癖をひとつあげて。まだ3か月だけどずっと一緒にはいるでしょう?」

「…………」

「言えないじゃない。ほら。普通じゃないのよ」

 からかったつもりが、少しだけ自分もダメージを食らうシエラ。

 レンダオはあまりに細かいところまでアナスタシアを見ている。そしてアナスタシアの些細な変化に気づく。ほんの小さなささくれだって、シエラの時は気づかなくてもアナスタシア王女になっているときは絶対に気付く。護衛騎士として有能だからで片付けられる範囲を超えている。

 

「アナスタシア様は無理をしすぎるから、よく見ておかないといけなかったんだ」

 あくまでレンダオは業務のため、と言いたげである。しかし、アナスタシア王女として過ごしているとうすうす気づく。

 レンダオがアナスタシア王女へ特別な感情を抱いていることを。

 すごく、恋しそうな顔で私(アナスタシア王女)を見ている時がある。けれどちゃんと私(シエラ)と目が合うといつもの無表情に戻り、視線が外れたあとに少し寂しそうな顔をする。

(……あなたは無意識かもしれないけれど、視線は雄弁なんですよ)

 

 レンダオがかつてアナスタシア王女をよく見ていたように、シエラもレンダオを見ていた。

 シエラにとってはこの王宮で唯一頼れる人だから。それが依存なのか、恋なのかはまだわからない。

 ただ、レンダオがアナスタシア王女に抱いたように、シエラもレンダオに特別な感情を抱いているのは確かだった。


「そういうことにしておくから、今度は私の癖のひとつでも言えるようになっていてね」

 こちらを見ていなかったレンダオの視線に入り込み、無理やり目を合わせて話す。レンダオは少し驚いたような顔をしている。

「……善処する」

 ぶっきらぼうに告げてはすぐに目の前の書類に目を落とし、業務に戻るレンダオ。

 彼はアナスタシア王女にご執心だから私の癖に気付くことなんてきっとないんだろう、とシエラは諦める。悲しいとかそういう感情はなく、ただの身代わりなんだからそれで当然。そういうものだ。

 シエラはいつも通りの彼を見届けてベッドルームに向かう。……はずが、突然腕を掴まれた。

 

「……シエラ、お前は何かに耐える時、ぎゅっと自分の薬指を強く握っている」

 レンダオの思いがけない行動に、シエラは驚きで固まっていた。レンダオから引き留められることもなければ、こんなにしっかりと目を合わせたこともない。

「…………これがお前の癖だ……」

 無言のシエラに気まずくなったレンダオが補足しつつ、勢いで掴んだ腕をそっと離す。


 そんなレンダオの一連の動きに、なんだか笑いがこみあげてきた。

「ふふっ」

「お望み通り言ったのに、何がおかしい」

 少しイラついているレンダオを見つめてシエラは思う。


(あーもう、どうして今気付いてくれちゃうのかなぁ。ただの身代わりでよかったのになぁ)

 嬉しい気持ちが止まらなくて、シエラは頭を抱える。この不器用でまっすぐな男に愛しさを感じ始めている。

 どうしたものかと考えながらレンダオを見つめ続ける。一向にレンダオの言葉を無視して微笑むので彼にキレられるシエラだった。


読んでいただきありがとうございました。次回更新は明日の19時過ぎです。

9/19~23のシルバーウィーク期間は毎日更新します。

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