03. 替え玉デビュー
レンダオによる2か月の猛特訓を終えて、ついにアナスタシア王女としての公務が始まった。
「やっぱり無理があるんじゃない? ただの平民が王女様になんてなれないわよ」
直前で不安になったシエラはレンダオに不安をこぼす。
「大丈夫だ。みっちり特訓をした。お前は呑み込みが早い」
突然の称賛と後押しが不意に胸に沁みる。レンダオはオブラートを一切介さず悪い所をズバズバ指摘してくるが、良い所は意外としっかり褒めてくれる。
「……それに」
なんだか褒めモードに入ったらしいレンダオを見つめ、次は何を言われるのかと期待するシエラ。
「お前は、お前が思っている以上にアナスタシア様に似ている」
いつもより優しい声で告げられた言葉。
替え玉として、これ以上安心する一言はない。
……そのはずなのだが、シエラは素直に喜べなかった。
レンダオの表情が、あまりにも寂しそうだったから。そして、シエラの話をしているのにレンダオはシエラではない人物に想いを馳せているのが分かってしまったから。
(……どうして、褒められたのに沈んだ気持ちになるんだろう。)
なぜ胸が苦しくなるのか、シエラにはまだわからない。
そんなシエラに気付くわけもなくレンダオは淡々と公務中の作戦会議を始める。
「何かあればいつもより少し長く瞬きをしてくれ。それで俺は気付ける。」
いつも通りに戻ったレンダオに、シエラも公務に集中していった。
最初は疑われないか気が気でなかったシエラだが、所作や話し方を叩き込まれた甲斐あって、替え玉だと疑う者はいなかった。それに、常にレンダオが隣にいるためフォローも手厚い。
人に見える業務はシエラが行い、執務室での書類仕事など人目につかない業務はレンダオが代わりに対応して、見事にアナスタシア王女の復帰を演じていた。
公務が終わり、庭園を通りながら自室に向かうシエラとレンダオ。美しい所作と表情は崩さずに、シエラは思わずレンダオに話しかける。
「……アナスタシア王女は体調不良で3か月ほど療養していたのよね?」
「あぁ」
「今日は久々の公務なのよね?」
「あぁ」
「……なんでこんなに1日みっちりスケジュールが詰まっているの!? 病み上がりですよ!?」
朝から夜まで分刻みにスケジュールが詰まっていて休む暇がない。食事も全てが会食で仕事の一環だ。
「今日は少ないほうだ。本来のアナスタシア様ならこの倍はこなせるぞ。それに……」
と言いかけて、おもむろにレンダオが剣を抜く。
ガシャーン。
突然、目の前に赤い水しぶきが舞う。
シエラの頭上にワインが落とされ、シエラに当たらないようにレンダオが切り払ったのだ。
シエラには一滴たりともワインはかかっていない。
「え……?」
突然頭上からワインが降ってくる異常事態にシエラはあっけにとられている。しかし、レンダオは全く動揺した様子がなく、淡々と告げる。
「アナスタシア王女は王宮で敵が多い。刺客もだが、今みたいな死に繋がりかねない嫌がらせも。日々のことだから覚悟してくれ」
「はぁああああ。もう孤児院に帰りたい…………」
激務に嫌がらせに、あまりに過酷なアナスタシア王女の境遇に心から同情すると同時に、この先が思いやられて憂鬱になるシエラだった。
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