02. 登城の代償
王宮で暮らしはじめてから1週間。
孤児院での素朴な生活から一転、衣食住はこれでもかという贅沢を尽くした暮らしになった。
レースをふんだんに使った華やかなドレスにすみずみまで最高級品で手入れされた身体、毎食高級食材だらけのフルコース。
まさに夢のような暮らしのはずが、シエラは心から帰りたいと願っていた。
「お辞儀の仕方がなってない。アナスタシア様はもっと美しい。お辞儀の速度に緩急をつけて優雅にしろ」
レンダオの指導が細かく、厳しすぎるのだ。
シエラは孤児院でもかなり厳しく教育されていたため、知識やマナーを身につけるのは比較的早かった。朝から晩までみっちり勉強漬けのスケジュールも今までとそんなに変わらない。
大変なのは“アナスタシア王女の振る舞い”を叩き込まれることだ。
通常の作法に加え、話し方や所作の小さなくせ、そして考え方まで「アナスタシア王女ならこうする」というのを教え込まれた。作法なら法則や由来があっていかばかりかは覚えやすいものの、人間の癖にはそんなものはない。法則性がないものを常に怒られながら覚えていくのでストレスも溜まっていくのだ。
「ドレスを掴む手が雑だ。つまめばいいというものじゃない。指をばらけさせて綺麗につまめ。小指の角度はこうだ」
「アナスタシア様がティーカップを持つ位置はいつもここだ。飲むときの肘の角度はこう。飲んだあと、いつも2秒伏し目で味わう時間がある。一度にたくさん飲むな!」
「アナスタシア様が不機嫌な時の顔はいつもより口角が2mmだけ下がり目線が下がりがちになる、怒りに達するとむしろ笑顔だ。でも目が笑っていない。口元はいつでも弧を描くように美しく笑え。口を開けて笑うな! 笑顔が美しくない!」
「アナスタシア様はいつでも落ち着いて物事に対処する。アタフタするな。アナスタシア様のイメージが崩れる。育ちの悪さが出ているぞ田舎娘!」
「やってられるかーーーー!!」
細かい。あまりにも細かすぎる。レンダオは気持ち悪いほどアナスタシア王女をよく見ていて癖を覚えすぎている。
そして言い方もむかつく。田舎娘とディスが入る。
「私はアナスタシア王女じゃない! 完璧にできない!! あといちいちうるさい!!!」
レンダオは無口な男かと思っていたが、指導が細かいので想像以上に喋る。無表情なのは変わらないのだが必然的にやりとりが増えるので思っていたよりも彼とは打ち解けていた。
「事実を述べたまでだ。できていれば文句は言わない」
「ッ~~~~!!!!」
「まだ今日のノルマが終わっていない。続きを始めるぞ」
小言も腹立たしいが、この男が完璧なのも忌々しさに拍車をかけていた。
自分の仕事もあるはずなのに、それをこなしたうえでシエラの指導にあたり、何を聞いても答え、シエラの日々の様子を細かくチェックし分析、課題点をまとめた教材を作ってきたりする。体調不良や小さな変化にもすぐ気づく。無駄がなく手厚すぎて非の打ち所がない。
脅されている時点で文句を言ってもいいと思ってはいるが、細かすぎる指導に反論しても正論で返され、彼自身にも責めるところがなさすぎて、自分自身駄々をこねているようにしか感じられないのが嫌なのだ。
どこかに隙があってよ! と心で舌打ちをしながらレンダオを睨みつけるシエラ。
「余計なことを考えるヒマがあるなら、少しでもアナスタシア様の優雅さを身に着けたらどうだ?」
こちらを見もせずに状況を把握するレンダオに精一杯の嫌な顔をお見舞いしてシエラは勉強に戻るのだった。
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