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10:魔王軍の潜入作戦

 アルカナヴァンガードが待機する駐屯地基地は、ルミナリア王都の郊外に存在する。

 通常であれば王都の中心地まで徒歩で半日の距離である。

 だが、こういう事態に即応するために、設立当初から馬や馬車を使った移動手段は充実が図られていた。


 特に先陣を切った第一陣前半五百名は、知らせを聞いてから半刻もしないうちに王都中心部へと到達していた。


「市街地状況は?」


 カリナの問いかけにミリアの部下の斥候兵が報告した。


「市街地中心部の一般市民はすでに避難が完了しているそうです。ルミナリア王国軍の一般兵士が敵が立てこもっている中央大聖堂を完全に包囲していますが、非常に強力な魔導攻撃手段を有した魔族兵が複数いるため、反撃の決め手を欠いている状況だそうです」


 そして、カリナたちはさらに中央大聖堂を包囲している守備部隊の中心人物を探した。

 大聖堂の周囲には、正規の軍人だけでなく、一部貴族が保有する私設軍隊や大規模市街地の自治組織による自警団も応援に駆けつけていた。

 だがそれらはカリナの目から見れば、戦闘への適性を欠いた単なる烏合の集にしか見えない。


「全然、統率が取れてないわ」

「正規軍以外も居るからな。命令系統が統一されてないのだ」


 エルリックが交渉すべき相手を見極める。


「カリナ、現地の警備責任者を見つけたぞ」

「その方と話をさせてください」

「わかった」


 馬を適切に走らせて指揮系統の中心となる本営を見つける。そこに、王都警備の主力部隊が集まっているからだ。

 中央大聖堂から少し離れた位置に存在する商業ギルド連合の母屋、そのビルに王都近衛部隊の大隊指揮官が待機していた。


――ルミナリア正規軍、王都近衛部隊指揮官、ライザック・マイトフォルド准将――


――その人である。


 対策本部の設けられた石造りの建物。その前で馬から降りる――、厳密には先に馬から降りたエルリックに下ろしてもらうと戦闘を切って対応本部の建物の中へと駆け込んだ。


「ライザック准将閣下はおられますか?」


 対策本部に駆け込んできたのが小柄な女児だったため一瞬誰もが戸惑った雰囲気になった。特に非正規の軍人たちである貴族の私設軍隊の面々や、自治議会の義勇軍の戦士たちは、わずか10歳の子供の登場にあからさまな訝しげな視線を受けていた。


「アルカナヴァンガード団長のカリナ・ウイングスです!」


 だが、アルカナヴァンガードという名前を口にした瞬間、全ての対応が変わった。

 王都守備の正規軍の軍人たちが、私設兵や義勇軍たちを遠ざけるようにしてカリナに対して進み出てきたからである。

 建物の中、玄関から入ったすぐの大規模エントランスが対応本部の作戦会議場に割り当てられていた。複数のテーブルを並べてその上に中央大聖堂周辺の白地図が広げられている。


「聖剣の巫女様、近衛部隊大隊長がお待ちです」

「どうぞこちらへ」


 白地図に視線を向けていた金髪の1人の軍人がいたが、顔を上げてカリナに気づくと足早に駆け寄ってくる。


「聖剣の巫女どの!」

「ライザック様、現状をお教えください」

「こちらに来たまえ」


 カリナたちはライザックとともに広げられた白地図を眺めた。ただ、背丈の問題で踏み台が用意されたのはご愛嬌である。


「大聖堂の建物は主に中央礼拝堂とその奥にある大鐘楼の塔からなる。礼拝堂周辺には庭園があり、さらにその周囲を堅牢な塀で囲まれてる」


 カリナはその白地図に、敵に見立てた木製の駒が複数並べられているのに気づいた。


「敵の主な立てこもり場所は――、庭園の石塀の向こう側周辺と、礼拝堂内部――それと大鐘楼塔」

「その通りだ、今のところ中央大聖堂の敷地の外には出てくる様子がない」

「一般市民への危害は?」

「大聖堂内部に参拝していた市民が攻撃された以外は、今のところ一般市民の被害は出ていない」

「では敵は、大聖堂の外には出てこないでずっと立てこもったままなのですね?」

「そうだあまりにも不気味なくらいにな」


 だが、現在の状況を見るに情報不足なのは否めない。

 そこでミリアの配下の斥候兵たちがすでに動いていた。


「カリナ団長! 役所庁舎の時計塔から中央大聖堂敷地を見下ろせます! すでに斥候兵を複数登らせました!」


 カリナは彼らに視線を向けつつ、その声を聞く。

 さらにソフィアも斥候兵に問いかける。


「精神感応の護符は渡してあるわね?」

「はい、非常連絡手段用に」


 ソフィアはさらに側近の魔道士に指示を出す。


「念話通信の準備を」

「はい」


 そして準備を始めてすぐに時計塔へ登った斥候兵からの報告が入った。

 お互いの思念の一部を共有する念話通信、昔から存在する上級魔法の一つだが、アルカナヴァンガードではこれを再現する護符の開発に成功していた。

 そのため離れた時点での連携作戦行動に即座に対応できるのである。


「報告! 時計塔の監視人員からです」

「話しなさい」

「はっ、上方からの視認情報では、大聖堂の庭園敷地に200人規模の歩兵が分散配置されており、こちらからの強行突入に備えているようです」

「建物内部の様子は?」

「大聖堂礼拝堂の中は窓がないため伺いしることができませんが、大鐘楼塔の窓からは複数の魔族兵がしきりに昇り降りしているのが視認されるとのことです」

「ご苦労と伝えなさい」

「はっ」


 得られた情報をもとにカリナは即座に思念を巡らせた。

 カリナはここで到底10歳とは思えない鋭い知見を発揮することとなる。


「200人規模の立てこもりでは、魔族対応の装備を持った兵士が2倍以上の規模で襲いかかれば瞬く間に制圧されてしまう――、突入させないというより突入されても制圧までの時間を遅らせるための時間稼ぎではないかしら?」


 周囲が声を発しようとするがエルリックがそれを押しとどめた。

 今までの作戦行動でも、カリナが状況分析に対して鋭い視点を発揮するのはたびたび起きていたからである。


次話は10分後に公開予定です。

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