11:遠隔視の技と作戦決定
カリナが一定の結論を出すまでエルリックたちはこれを見守ることを旨としていた。
「ならばなぜ時間稼ぎに執着する? ――まてよ? 大鐘楼の塔を上り下りしていると言ったわね? ――大鐘楼塔の頂上部分に魔族の姿は見える?」
「少々お待ちください」
念話通信担当に銘じて時計塔から探らせる。
「報告あり、大鐘楼の鐘を取り外そうとしているそうです」
これにはライザック准将も驚きを隠せなかった。
「大鐘楼の鐘を? 一体何のために?」
だがそこでカリナは聖剣の巫女――と呼ばれるのにふさわしい技を発揮した。
「エリュシオ! 力を貸して」
『状況は理解しております、遠隔視能力ですね?』
「うん、礼拝堂内部の状況と大鐘楼塔の内部を調べたいの」
『承知しました。では片膝を立てて床に座ってください。その上で剣先を床に突き立てて、剣の握りを額に当ててください』
カリナは言われるがままの姿勢を取った。
「準備できたわ」
『では私が遠隔視をしますので、得られた映像を脳内共有します』
カリナが突然、聖剣による魔法技能を見せたので誰もが騒然となっていた。
だがソフィアやエルリックも静寂を守るように周囲を制止した。
そして数分、カリナはじっとしていたが目を見開き聖剣から顔を離すと急いで立ち上がり再び白地図に視線を向けた。
ライザック准将が問いかける。
「巫女殿、何かお分かりになられたか」
カリナはやや蒼白の表情で静かに口にした。
「敵が大聖堂内部を極めて巨大な魔道装置にしようとしています」
「なんだと?」
「どういうことだ?」
次々に声がかけられるなか、カリナは説明を始めた。
「まず本命の一つは礼拝堂内部、この内部空間を使って極めて巨大な魔法陣を作ろうとしています。まずこれが一つ、そしてこの魔法陣と連動する外部発信のための魔法陣を大鐘楼塔の内部に構築しようとしています」
「魔法陣を2つ以上、なぜそんなことを?」
するとそこにカリナが信頼するエリュシオが助言をする。
『今までに私が様々な戦闘状況の中で見た戦闘状況の中で、類似した事例を複数記憶しております。一番可能性が高いのは極めて大出力かつ大規模な魔法を発動させることで、広域戦場や都市区画一つを、まるごと魔法の影響下に落とし入れようとするものです』
ライザック准将は、彼もまた優れた人物だった。カリナとエリュシオのそれぞれの言葉から敵が何をしようとしているのか理解したからだ。
「都市全域を一気に制圧下に置こうとする大規模魔法の発動か!」
ソフィアも言葉を添えた。
「大鐘楼の建物を使おうとしているのは魔法発動の中心点を大鐘楼のいただきという高い場所に置くことで影響範囲をより広げようとしてるのでしょうね」
エルリックも思うところがあったようだ。
「確かに――、鐘の音を遠くまで響かせようとするなら少しでも高いところがいいからな」
カリナは、その疑問をさらに掘り下げた。
「でもなぜ――、いえ、このルミナリアの王都で大規模に発動させて一番効果が大きいものは――!!」
そこでカリナの表情は愕然としたものになった。
「大規模殺戮魔法! 一般市民や王都の貴族たちも含めてまとめて始末しようとしてるんだわ!」
その言葉に誰もが騒然となった。だが否定はできない。
自警団の1人の中年男性の剣士が言った。
「魔族連中ならやりかねない!」
とある貴族の私設軍の指揮官が言った。
「むしろ奴らならそのような外道な方法を喜んで行うでしょう」
だがその時さらに畳み掛けるように、時計塔から連絡が入ってくる。
「申し上げます! 王都西方から500人規模の集団が押し寄せてくるとのことです! 状況から見て魔王軍の潜入部隊の別動隊と思われます」
魔族は一般兵でも、人間の兵士数人分の戦闘力を発揮する。実質、人間の兵隊で2000人規模に匹敵する。カリナはその驚異と意図を察した。
「こちらに大聖堂への介入をさせないつもりね! そっちがその気なら!」
作戦は決まった。
「アルカナヴァンガード、後続部隊は?」
「第一陣後半、すでに到着している」とエルリック。
「第二陣にも出動するように要請してください」
するとそこで意外な言葉が聞こえた。
「それについてだが、駐屯基地に訪れていた七王国の諸将が第2陣の兵士たちを率いて、敵の増員襲来に備えていたそうだ」
「ではそちらの方はお任せしますとお伝えください」
「心得た」
そしてカリナは改めて周囲を見回しながら言った。
「ならば我々は中央大聖堂の制圧に全力を注ぎます。私の権限において皆さんに役割を分担していただきたいと思います」
それまでは10歳の少女といういかにもな外見から軽んじるものがいたのも事実だったが、これまでの情報分析や聖剣の技の発揮から誰もが圧倒されていた。カリナを軽んじるようなものは今やいなかった。
「王都守備部隊の方々は、貴族施設軍や自警部隊の方たちを率いて、大聖堂周辺に広がってください。魔王軍のしたたかさや周到さから考えて、さらなる潜伏者を王都の街中に仕込んでいるはずです。まずはそれらに対する監視の目を広げてください」
「心得た」
――と、ライザック准将が大きく頷く。そしてさらに、
「准将殿の手勢で市街地用の小型砲で大聖堂庭園敷地に、局所弾道で釣瓶射ちに迫撃してください」
「大聖堂に攻撃を加えるのか?」
これに対するカリナの判断は明確だった。
「敵の邪悪さから考えて一刻の猶予もありません。大聖堂はいくらでも再建できます。ですが人間の命は再建できません」
命は帰ってこない――、これがカリナのわずか10歳の少女の明確な価値観である。その気迫に誰もが圧倒されていたのである。
「分かった! すぐに対応しよう」
「お願いします迫撃をすでに始めてください。露払いが終わり次第、我々アルカナヴァンガードが大聖堂内部に突入します!」
こうしてそれぞれに役割は分担された。ならばこれを行動するのみである。
「作戦に異義があるものはありませんか?」
カリナの言葉に反論するものはいない。毅然とした表情で誰もがカリナを見つめていた。
カリナは毅然とした視線を周囲に振りまきながら高らかに宣言した。
「それではこれより大聖堂制圧と魔王軍による大規模魔法の阻止作戦を開始いたします!」
「おおお!」
カリナの力強い声が響く。
「行動開始!」
今まさに王都の人々の命を守る作戦が開始されたのである。
§
だがどんな世界にも根性が捻じ曲がった人間というものがいるものだ。
貴族の私兵集団の1人の剣士が、立ち去ったカリナを忌々しげに言葉で吐き捨てた。
「なんだ? あのガキ、子供のくせに偉そうに」
その言葉を准将の配下の1人の士官が耳ざとく聞いていた。
「貴様それを本気で言ってるのか?」
鋭く返されるその睨むような視線、私兵集団の剣士は一瞬たじろいだ。
「あ? いや……」
曖昧な返事の帰りは待たず、士官の男が鋭く言い放つ。
「彼女は、6歳の頃からとある軍事国家から厳しい教練を受けている。9歳で戦場に出て戦いの現場の常識も極めてよく心得ている。戦歴で言えば最低4年は経験を積んでいる。さらに軍事の状況に詳しいものなら〝ネルガルの悲劇〟は知っているはずだな?」
「ネルガル……まさか!」
そこまで口にしたその男は、そこでようやくカリナの正体に気づいたようだ。
「本当に10歳のガキだったっていうのか? ――今時の勇者は」
あっけに取られた表情のその男に、ルミナリア国軍の士官の彼は言い放った。
「貴様なんかより、はるかに腕の立つ剣士だ。伊達に腰に聖剣を下げているわけではないからな」
剣士風の男はメンツを潰されたのか無言のまま姿を消した。
士官の彼は何事もなかったかのように、カリナとアルカナヴァンガードの支援のため、歩き去って行ったのである。
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