09:出陣
事は急を要していた
カリナは出陣準備を整えながら状況の情報を集めている。
「詳しい現場状況お願いします」
カリナの言葉にルミナリア国軍の情報士官たちや、アルカナヴァンガードの外部情報部官たちが続々と情報を伝えてきてくれていた。
「事件が起きているのはルミナリア王都、その中心市街区です」
「現場は中央大聖堂。朝の公開ミサのために正門が開門された隙を狙い、魔導士部隊が一般市民になりすまして潜入。催眠魔法や致死魔法を用いて他の参拝者や大聖堂の職員を強制排除し、さらなる増援を大聖堂内部に招き入れて完全占拠している状態だそうです」
カリナは馬留め場へと向かいながら、寄せられた情報へのさらなる判断を続ける。
「ルミナリア王国軍や軍警察の対応状況は?」
「現在、ルミナリア王都に常駐している王国軍に魔導テロリズムに対応可能な魔導士部隊が不足している状況です」
「軍警察が緊急対応を続けているそうですが、仮に軍警察が全滅してしまうと、ルミナリア王都の治安維持に障害が出る恐れがあります」
それらの状況にミリアが自らの考えを口にする。
「つまり軍警察は都市内部に内部潜入した魔族たちの魔法技術に対応できる戦力が不足しており、軍警察は都市の治安維持を最低限担保しなければならないため、全力で制圧することが難しいというわけね」
エルリックもそれに同意した。
「つまりは火中の栗を拾える人間が国軍側には今のところない。危険な状況だが会えたそれを我々にやれということだ」
するとそれにソフィアが吐き捨てた。
「だから普段から言ってるのよ! 王都常駐部隊も、軍警察本部も、魔族案件対応可能な魔導士部隊を常駐させろって! 組織中枢に魔導士を増やそうとすることに変に抵抗するおっさんとかいるのよね」
カリナは苦笑しソフィアの言葉をたしなめつつ、自分たちが取りうるべき行動について決断した。
「今ここで王都警備の不備について議論しても仕方ありません。問題は我々がこの状況を制圧できるかどうかです」
「カリナの言う通りだな」
エルリックもカリナの言葉を支持した。ソフィアも頷いた。
「そうね、今我々がどうできるかよね」
カリナは行動目標を明確にした。
「時間が惜しいです。可能な限り先行部隊を馬で移動させましょう。乗馬可能なメンバーを優先的に第1陣に集めてください。残る後続部隊は馬車などで分乗して、進軍速度を上げてください」
「カリナ、現在運用可能な馬は約500騎よ」
ミリアの言葉にカリナは即断する。
「ならば第1陣をさらに前衛部隊と後衛部隊に分けます。前衛部隊を乗馬可能兵で固めてください」
「わかったわ、ではそのように」
ミリアはカリナの即断を伝令役に伝えて担当現場へと伝達させる。その間にカリナたちは馬が止められた馬留め場へとたどり着いた。現在アルカナヴァンガードが保有する行軍用の軍馬は総数500頭程度。 このほか、兵員輸送用の馬車が数多く常備されている。今回のように、急を要する任務に駆り出されることもあり、素早い移動手段は準備に余念がないのだ。
乗馬する際に携行可能な武器も制限されるため、500名の内訳は、剣による戦闘を得意とする標準装鎧の一般兵が半数の250名程度、続いて弓兵が80名、フリントロック式小銃を保持した銃火兵が70名、残り魔導士部隊から100名程度となる。
これを率いるのが、先行部隊を率いるカリナとエルリック、そしてソフィアである。
すでに乗馬で先行するメンバーは集められており、騎乗も完了している。残るはカリナだけである。
1頭の馬に先にエルリックが乗馬する。カリナはそこに歩み寄っていく。
「カリナ、手を出せ!」
「はい!」
差し出したカリナの手をエルリックが掴むと一気に持ち上げる。そしてそのままエルリックの背後にカリナも乗馬した。
「しっかり捕まってろ!」
「はい!」
大人として大柄な体格のエルリックの後ろに、まだ10歳のカリナが乗ってエルリックにしがみつく姿は、どう見ても親子である。
10歳のカリナは、まだ単独では馬に乗れないので致し方ないのだが、いささか威厳に欠けるのはご愛嬌である。
「アルカナヴァンガード出陣! 我に続け!」
「おおおお!」
エルリックの掛け声とともに500名の第一陣前半部隊は出発する。これを後から追うように第一陣後半の残る500名をまた兵員輸送用の馬車であとを追うこととなるのだ。
カリナたちは魔族の立てこもる王都の大聖堂周辺へと向かったのである。
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