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狼の時代  作者: 閃紅
永禄十一年
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32/42

三人の旅路11

門を潜った三人は街道を進んで行く。

街道は下り坂となっており、遥か先には太陽の光を浴びてキラキラと白く輝く、巨大な湖のような「巨椋池おぐらいけ」の水面がぼんやりと見えている。

両端には山々が連なっていた。

「あれが京ですね」

玲が前方を指差す。

「なんとも壮大な眺めじゃな」

新次郎が圧倒されたように言う。

「山と水ばかりじゃな」

景狼は嬉しそうに言う。

足元を見れば、草木の生い茂る緑の斜面を縫うように、赤茶けた土の街道が遥か下まで続いている。

所々、馬の蹄や多くの旅人の足で削られ、深い溝ができていた。

「では、参りましょう」

玲が二人の顔を見ると、駆け下り始めた。

直ぐに景狼も続く。

「何も駆けることあるまい」

新次郎が足を踏み出すと、小石や粘土質の土に足を取られて滑りそうになる。

「確かに。これは駆け下りた方が安全じゃな」

新次郎は苦笑すると、二人を追うように坂を駆け下りた。


「若君!」

玲が前方を行く景狼を呼んだ。

「なんじゃ」

景狼がその場で止まると、振り返った。

玲は近づくと左を指出した。

多聞山城がそこにあった。

北側の壁が、切り立った崖の上に聳え立っている。

とても壁を登って攻めることも下から攻めることも出来ないと思わせた。

「若君、凄いですね。松永様という人は」

景狼は頷いた。

「儂、会ってみたくなったじゃ」


額に汗を流して必死に商人たちが上ってくる。

上からは遅いながらも新次郎が駆け下りてくる。

景狼は重力に身を任せて再び駆け下り始めた。

「若君、待ってください」

玲も続いて行く。

新次郎は止まると転びそうで、止まるに止まれず駆け下り続ける。

「なんなんだ、黒峰は」

新次郎が呟いた。

奇しくも新八が呟いたことと同じだった。


奈良坂を下り切った景狼と玲の前にはゆるやかな平地に小さな集落があった。

遅れて到着した新次郎は竹筒の水を飲むと倒れ込んだ。

呼吸が荒い。

景狼も道端に座ると水を飲みながら集落を見渡した。

所々焼け焦げた建物があり、人のいる気配は感じられなかった。

「おそらく戦で住めなくなったのじゃろう」

新次郎が上半身を起こして言う。

「戦はあらゆるところで起こる。柳生でもそうじゃ」

「先の筒井との戦でも住めなくなった者が多かった、と聞いている」

「住めなくなった人はどこに?」

玲が新次郎の顔を見る。

「また近くに家を建てるか、別の土地に行くかじゃと思うが、家を建てるには金子がいる」

「そんな金子がそうそうある訳でもあるまい…」

新次郎が何かを堪えるように空を見上げた。

「新次郎様、家が建てられないとどうなるのでしょうか」

「さあ。拙者にもわからん。寺の軒下に住むのか、わからん」

「……はたまた、身を売るか

最後は小さくなった。

「新次郎様、よく聞こえません」

「いや、わからんと言ったのじゃ」

「さ、参ろうか」

新次郎が何事もなかったように歩き出した。

景狼がじっと新次郎を見ていた。


集落の出口はまたもや急な上り坂だった。

「またか…」

新次郎が呟く。

「新次郎、上で待っておるぞ」

景狼は後ろに下がると、一気に助走をつけて走り出そうとしたところで玲が口を挟んだ。

「若君が先に上って上から縄で引っ張り上げたらどうですか」

「そうじゃな」

景狼が頷く。

「そのようなおなごのような真似は嫌じゃ」

「新次郎様、わたしも必要ないですよ」

玲が笑う。

「新次郎はおなごみたいな顔してるじゃろうが」

「お主こそ、おなごのようじゃないか」

「はいはい。わかりました。わたしが一番おのこっぽいということですね」

「いや、玲は美しき姫じゃろう」

「玲は玲じゃ」

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