表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狼の時代  作者: 閃紅
永禄十一年
PR
25/42

三人の旅路4

浅瀬を渡った後道に沿って行くと、周囲が開け、集落が見えてきた。

「漸く奈良じゃ」

新次郎が疲れたように言う。

やがて三人の前に逆茂木の列が敷き詰められているのが見えてきた。

「若君、阿保とは全然違いますね」

玲が逆茂木の列を見た後、景狼の顔を見た。

景狼の目が細められる。

一部逆茂木が敷き詰められていない箇所があり、そこから奥へ入って行く。

目の前に小屋らしきものと大きな扉が見える。

その左右に丸太の柵が列んでいた。

「拙者が名乗り、手形を見せるゆえ、お二方はその後で」

新次郎が二人にそう告げると、被っていた笠を外した。

小屋の中から頭に白い頭巾を巻いた男と、足軽らしき男が出てくる。

「ここは高畑(たかばたけ)じゃが、何用じゃ」

白い頭巾の男が三人を見回すと言った。

「ここは奈良の町ではないのか」

新次郎が男たちを見る。

一人は僧兵、もう一人は地侍の足軽のようだ。

「奈良と間違えるとは他所者じゃな」

「おい、呼んでこい」

僧兵が持っていた薙刀を固く握りしめる。

足軽が小屋へ駆け出す。

「他所者ではござらん。拙者、柳生新次郎と申す」

新次郎が頭を下げ、懐の手形を取り出そうとする。

「柳生じゃと!仏敵松永の狗が!」

僧兵が叫んで構える。

「どうやらここは敵のようじゃ」

新次郎が刀に手をかけて後退る。

小屋から一人の僧兵と五人の足軽が出てきた。

「玲、後ろのをやるぞ」

景狼がそう言うや否や小屋目掛けて駆け出した。

玲も後に続く。

残ったのは新次郎と僧兵だけだった。

景狼は足軽が刀を振り上げると、その腕を掴み上げた。

景狼の上背により足軽の身体が中に浮かぶ。

その足軽を他の足軽に向けて放り投げた。

二人が転倒する。

玲は僧兵の薙刀を躱すと膝を蹴り、グラリと揺れた僧兵の背後に回り込み、後頭部に力いっぱい膝を入れた。

景狼がその後も三人の足軽を力でねじ伏せると全員気絶していることを確認する。


背後で起こる仲間たちの叫び声に新次郎と対峙していた僧兵は振り向くに振り向けず、額から汗が噴き出していた。

「こちらから参るぞ」

新次郎がゆっくりと僧兵に向かって歩いて行く。

僧兵が薙刀を突き刺すように向けてきた。

新次郎は半歩横に身体をずらすとそのまま右拳を僧兵の鳩尾に突き出した。

僧兵は口から血を滲ませ、そのまま崩れ落ちた。

新次郎は鞘に添えていた手を静かに離した。

「抜くほども無かったか」

新次郎がそう呟くと景狼と玲が近付いてきた。

「新次郎様、お強いですね」

玲がニコリとする。

「玲殿の方こそあのような身のこなし」

新次郎が照れながら言う。

「若君と一緒に狼とやってますから」

「狼…」

「あんなんじゃ狼に食われるわ」

景狼が鼻を鳴らす。


「新次郎様、ここは奈良じゃないようです。地図にもここは載っていないです」

「母上もここは知らないのでしょう」

玲がボロボロの地図を見ている。

地図には柳生と奈良しか書いていなかった。

「叔父上から昔教わりました。わからなくなったら川を下だれ、と」

「川ですか?」

「町には水が必要不可欠じゃ。大きな町であれば使う量は計り知れぬ。じゃから川が必要じゃと」

「なるほど。さすが松吟庵様ですね」

「では先ほどの川を下りましょう」

「いや、そこにも川があるようじゃ」

景狼が丸太の列の向こうを指差す。

「戻るより近そうじゃな。参るぞ」

新次郎を先頭に駆け出し、やがて見てきた川の真横の土手に下りた。


警戒しながら左右を見回しながら土手を歩いて行く。

右側には春日山の麓に築かれた高畑の邸宅たちの高い石垣と白壁の土塀が、まるで見上げるような壁となって連なっていた。

左側には遠く雑木林が静まり返っている。

歩いているうちに右前方に五重塔が見えきた。

いつの間にか川のせせらぎだけでなく、人のざわめきなどの生活音が響き始めていた。

「音が変わりましたね」

玲が周りを見渡して言う。

「どうやら今度こそ奈良に着いたようじゃ」

新次郎が頷く。

景狼が真横の川を渡って南側の土手を軽々と駆け上がると、頭上を覆っていた竹藪のアーチが開けた。

日ノ本最大の町が景狼の世界を全て塗り替える。

景狼は動けなくなった。

奈良の町に入りました。

当初もう少し簡単に奈良に行けると思ったのですが、意外にスムーズに行けないことがわかって、時間がかかってしまいました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ