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狼の時代  作者: 閃紅
2/14

玲と呼ばれし少女

「お前さん?あれを」

「うむ」

珠洲の言葉で景秀が後ろの棚から桐箱を取り出し、珠洲に手渡す。

桐箱を見て白狼の耳がぴくぴく動く。

「開けてみなさい」

珠洲の声は聞き慣れた優しいものだった。

景狼が桐箱を開けると、一本の小太刀だった。

黒い鍔には金色の3頭の狼の意匠。

3頭の狼は黒峰家の紋である。

同じく黒い鞘には銀色の狼の意匠。

景狼が白狼の方を向く。

白狼が何度も頷いた。

景狼は嬉しそうに小太刀を取り出し、そっと鞘を撫でた。

狼は、本物の毛で作られていた。

「白狼!」

景狼が白狼に抱きつく。

白狼も景狼に大きな頭を擦り付けた。

「よいですか。白狼丸」

「たとえ、その場に一緒にいなくとも白狼はお前のそばにいるのです」

「白狼を落胆させるようなこと、ゆめゆめしてはなりませんよ」

「儂、立派にお役目果たしまする。母上」

景狼が深々と頭を下げた。

「景狼、それは白狼がお前を認めた証じゃ」

景秀が静かに言う。

珠洲がその言葉で微笑む。

「はい!」

景狼が景秀に頭を下げる。


「玲、入りなさい」

珠洲が声を掛ける。

「はーい」

廊下から少女が走り込んで来た。

景狼の後ろに座ると頭を下げた。

結った後ろ髪が畳に触れる。

顔を上げるとにっこり笑った。

「玲、只今参上しました」

珠洲に負けずと劣らない顔の少女である。

山で育ったせいか、衣服はどこか無頓着だった。

だがその姿にいやらしさはなく、野に咲く花のような健康的な美しさがあった。

玲が白狼の大きな尻尾を触ろうとするが、触れる間際に動かれてしまう。

白狼が玲を一度見ると首を振る。

「玲、少しくらい静かにできないのですか」

「はい、母上」

「玲、あなたは白狼丸と一緒に京に行くのですよ」

「わたしが若君と行けるのですか」

玲の目が輝く。

「儂、玲はいりませぬ。白狼もいます」

景狼が小太刀を持って遮る。

玲が悲しそうな表情になる。

珠洲は静かに首を振った。

「それは助けてくれませんよ」

「白狼丸、お前一人で京に行けないでしょ」

「人から逃げるし」

「人と話も出来ないし」

「お前一人じゃ、外では何も出来ませんよ」

畳み掛けるような珠洲の言葉で景狼の顔が歪んでいく。

「玲には京のことを教えています」

「玲はお前を助けてくれます」

「その中でお前は世界を学ばなければなりません」

「黒峰は特別です。ここが普通では無いのです」

「お前は世界を知らなければなりません」

「ただ勘違いしてはなりません」

「玲がお前を守るのではなく、お前が玲を守るのです」

「わかりましたね」

景狼が無言で俯いている。

「わかりましたね」

「はい」

景狼が俯いたまま返事をする。


「玲、頼むぞ」

「これはお前にじゃ」

景秀は玲に懐刀を手渡す。

黒い鞘に3頭の狼の意匠が彫ってある。

玲は受け取ると、嬉しそうに胸に抱いた。

「ありがとうございまする、父上」

「玲、それはわたしと同じものよ」

珠洲が懐から取り出す。

同じように3頭の狼の意匠があった。

「景狼も持っておる、これは黒峰の証じゃ」

「だから何かあれば頼れ」

「狼は家族を見捨てん。よいな」

景秀が微笑んだ。

「はい。父上」

「黒峰の娘として立派に果たしまする」

「そうじゃ、その意気じゃ」


「今甲賀が危ない」

「京へは奈良から向うがいい」

「それからこれは路銀じゃ、足りなければ京で黒峰の者に伝えよ」

「これは玲に預けておく」

玲は重い巾着を受け取ると背囊にしまった。

遂にヒロイン?玲登場です。

狼の中で育った男と少女が大都会?京に向かいます。

ここで暫く景秀珠洲とはお別れです。

かなりいい夫婦なのでまた出したいですね。

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