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第八話 決闘!VSアカシアグリーン!②


「ハーハッハッハッ!これでこちらは二勝二り敗だな!」


公園の中で、≪聖鎧装着≫を解いたマオが高笑いを上げていた。アゲハ達も≪聖鎧装着≫を解き、リリスは未だアゲハに身体を支えられていた。アゲハは目の前のマオに鋭い視線を向ける。


「……なぁ、魔王」

「ん?なんだ、赤羽アゲハよ?最終戦の内容を決めるのか?ならば貴様に、内容を選ぶ権利を――」

「違う。お前に聞きたいことがあるんだ。……赤羽サグル――あたしの弟の事を知ってるか?」


アゲハがそう聞くと、マオは不思議そうに首を傾げる。マオは少し考えるような素振りを見せ……こう言った。


「もちろん知っているとも。我がアカシアグリーンとなったのは奴のおかげだからな」

「あたし達と同じように、誘われたのか?」

「その通り。赤羽サグルは我にこう言った――「突然変異種を倒すため、あなたの力を貸してほしい」……とな。もちろん我は二つ返事で了承した」

「うちは怪しいと思っとったけどな。このお嬢様が、「彼は怪しい奴ではない!正義の味方だ!」とかほざいて話を聞かんかった。だからお嬢様がアカシアグリーンとして戦ってたのを見て、うちもサグル君にランドイエローの力を貰ったんや。何かあっても近くで守れるようにな」


マオの言葉にレモンが補足し、レモンは右腕に付けている腕輪をアゲハに見せる。マオも同じようにアゲハに腕輪を見せた。


「レモン……今、我に向かって「ほざいて」とか言わなかったか?」

「何のことやら。でも赤羽さん、なんでそんな事を聞くん?」


レモンはマオのツッコミを無視し、アゲハに向かってマオに質問した意図を尋ねる。アゲハは少し気まずそうに顔を逸らしながら答えた。


「……あたしの知ってるサグルは、正義のためっていう理由なんかで動くやつじゃねぇ。だから、あいつが何を企んでるのか……気になったんだ」

「……ほう。そういえば、赤羽サグルは貴様の弟だったな。もしや、あまり仲が良くないのか?」

「いや、そんな事は――――うっ」


アゲハがそう言った瞬間、彼女の頭に()()()()()()。それは一瞬のものだったが、アゲハの脳裏にとあるものが浮かんだ。


――お姉ちゃん、()……もうだいじょうぶだよ。


――()()はなんだ?なんで、サグルの声が聞こえる?なんでこんな……寂しそうな声色をしている?あたしは、こいつを――


「赤羽アゲハ!どうした!?」

「アゲハ、大丈夫……!?」

「――はっ!?はぁ、はぁ……」


リリスとマオの声に意識が戻り、アゲハは胸を抑えて呼吸を整える。それまでアゲハに引っ付いていたリリスは抱き着くのを止め、アゲハの身体を支える。そんなアゲハを見て、マオは申し訳なさそうに顔をしかめた。


「……すまない、余計な事を聞いてしまったか」

「……大丈夫だ。ちょっと疲れが出たみたいでな」

「なるほど。ならば今日は、ここで解散としよう。……レモン、帰るぞ」

「は~い。あ、お嬢様。今日の分の報酬、また振り込んどいてな〜」

「うぐっ……そうだった……ううっ、我のお小遣いが……」


レモンとマオはアゲハ達を置いて、公園を去っていった。アゲハはその間もずっと苦悶の表情を浮かべていた。 



――――

「おい、見ろよ!こいつ、本取り上げただけで泣いちゃったぜ!」

「やーい、泣き虫ー!」

「……ひっ……ぐすっ……」

「おい、やめろお前ら!」


何度来たかわからない、近所の公園。小学生の頃のサグルはいつも、そこでいじめられていた。その度にあたしが助けに入り、いじめっ子達を追い払った。立ち向かってくる奴は殴ってぶっ飛ばした。あたしはまだちっぽけなガキだったが、喧嘩だけは人一倍強かったのだ。


「ひっ……怪物女だ!」

「またボコボコにされるぞ!逃げろ!」

「誰が怪物女だ!お前ら全員覚悟しやがれ!」

「「ひぃぃぃぃ!」」


おかげで怪物女だの不良女だの散々なあだ名をつけられたが、サグルを守るためなら気にならなかった。サグルは今と違って泣き虫で、今より気弱だった。


「お姉ちゃん……なんで……」

「あーあ、泥だらけじゃねぇか。立てるか?」

「う、うん……ありがとう……」

「あいつらも懲りねぇな。同じクラスの奴なんだろ?先公にチクればどうだ?」

「む、無理だよ……僕が何かしようとすると、邪魔されるんだ。僕、力も弱いし、あいつらには勝てないよ」


あたし達の両親は、その頃から出張でいなかった。だから相談出来る人は学校の先生しかいなかったのだ。だが、サグルの抱えている問題は、思ったよりも根深いものだった。


「……じゃあ、あたしが守ってやる!そんで、サグルが笑顔で過ごせるようにしてやるよ!」

「お姉ちゃん……どうしてそこまで……」

「あたしはお前の姉ちゃんだからな!弟を守るのは当然だ!」


だから、あたしはサグルの味方でいることにした。いじめっ子達からサグルを守り、楽しい生活をしてもらう……そのために、あたしは戦い続けてきた。

 

「――サグルは別の学校に通わせます。アゲハに関しては、こちらから謝罪を……」


でも、現実は上手くいかなかった。いじめっ子達のうちの誰かが、あたしが暴力を振るってくると先公に言ったのだ。それが両親の耳に入り、サグルがいじめられていた事も発覚し、サグルは別の小学校に通うことに。あたしは停学処分を受けた。これを知ったサグルは親に反発した。


「なんでお姉ちゃんが、謝らなくちゃいけないの……?お姉ちゃんは、僕を守ってくれたのに……」

「アゲハは間違ったことをした。それだけだ」

「サグルはいじめを受けていたのでしょう?なら、いじめっ子のいない学校に行けば、問題ないはずよ」


両親はどっちも、あたしを庇ってくれなかった。サグルはその後もあたしを庇おうとしたそうだが、その言い分は聞き届けられなかった。


「ごめんなさい……お姉ちゃん……」

「……いいんだ。あたしが、馬鹿だったんだよ。もっと違う方法を取っていれば……」

「……違う……お姉ちゃんは、間違ってないよ……」


サグルはあたしを否定しないでいてくれた。けど、あたしは違った。あたしは自分の間違いを受け入れた。愛のない両親はあたしを否定した。……それだけで、あたしの心は挫けた。


「……サグル、ごめん。あたしが……お前の居場所を奪っちまった……」

「…………」

「最低な姉ちゃんだ……ごめん……本当にごめん……!」


あたしはその時、思わず泣いてしまった。今までサグルの前で泣いたことなんてなかったのに、その時だけは、涙が止まらなかった。後悔し、自分を責めるあたしに……サグルは一言だけ、こう言ったんだ。


「――お姉ちゃん。僕、もう大丈夫だよ」


あたしはサグルの目を見た。――そこにいたのは、あたしの知っているサグルではなかった。サグルの目は強い意志を宿しており、覚悟を決めたような表情をしていた。



――――

「うーん……ん?」


アゲハが目を覚ますと、見慣れた天井が目に入った。自分の家の……自室の天井だ。昔アゲハが誤ってつけてしまった傷跡も残っている。身体を起こすと、自分はベッドの上にいることに気づいた。


「あれ……?あたし、なんでここに……」

「目が覚めた?お姉ちゃん」


声のした方を向くと、コップの乗ったお盆を持ったサグルが立っていた。サグルはアゲハの部屋の机にそれを置いて、アゲハの方をじっと見ると……スッと身を引いた。


「お姉ちゃん……なんでリリスお姉ちゃんと一緒に寝てるの?」

「へ?」


アゲハはベッドの奥……向かって右に視線を向けた。――そこには、下着姿で身体を丸めて眠っているリリスがいた。

 

「――っ!?リリス!?なんでここに……」

「あー……そういう感じ?ごめんね気が利かなくて。ボク、お茶持ってきただけだから……」

「いや違う!違うから部屋を出ようとするな!何もしてないし、あたしは……あれ?」

「まぁ、昨日はアカシアグリーンと一悶着あったみたいだから、疲れてるのかもしれないけど。ボクもいるんだし、もうちょっと人目を気にして……」

「違うっつってんだろ!……ん?いや待て、今昨日って言ったか?」

 

アゲハは時計を見る。時計の短針が八時近くを指しており、長針は十二時の所をを指していた――つまり、現在の時刻は八時である。


「おい、サグル!今日何曜日だ!?」

「金曜日だよー」

「平日じゃねぇか!リリス、起きろ!学校に遅刻するぞ!」

「むぅ……眠、い……」

「お姉ちゃんって普段不良のくせに、遅刻は気にするんだね」

「うるせぇ!あと不良言うな!」

「まぁ、今日は祝日だから学校休みだけど」

「は?」


アゲハは目を見開いてサグルを見た。サグルは意地の悪い笑みを浮かべてクスクス笑っていた。よし、こいついつかしばく。……アゲハは身体の力が抜け、ベッドの上でへたり込んだ。


「なんなんだよもう……お前は何がしたいんだ……」

「勘違いしたのはお姉ちゃんでしょ?ボクは昨日家に帰るなり倒れたお姉ちゃんを心配して、お茶を持ってきただけだよ」

「……え?あたし、倒れたのか?」

「そうだよー。リリスお姉ちゃんに支えられながら運ばれてきた時はびっくりしたね。顔真っ青で、ボクが話しかけても返事しなかったんだよ?」


アゲハは昨日の事を思い返してみるが、家に帰ってきた頃の記憶はない。……リリスに肩を貸してもらった事は覚えている。しかし、それ以降の記憶が全く無い。


「……全く記憶にないんだが」

「リリスお姉ちゃんに聞いてみればいいよ。お姉ちゃんをベッドに運んで寝かせたのはリリスお姉ちゃんだから」


アゲハはそれを聞いて、自分の身体を見下ろす。昨日来ていた制服姿ではなく、いつも着てるジャージのような寝間着姿である。床に視線を向けると、リリスが着ていたものと見られる制服が転がっている。おそらく必死に世話をしてくれたのだろう。何故脱いだのかは分からないが。


「……リリスが起きたら、礼を言わないとな」

「ボクにもお礼を言ってほしいな。リリスお姉ちゃん、必要ないのに下の世話までしようとしてたから、必死に止めたんだよ?」

「本当にありがとう」


やっぱり礼を言うのはまた今度でいいかもしれない。アゲハがサグルに頭を下げながらそんな事を考えていると、リリスがゆっくりと瞼を開いた。


「……あれ、アゲハ……?」

「おはよう、リリス。昨日はありがとうな」

「アゲハが、私の家に……?これは、夢……?」

「リリス?」

「……夢なら……何しても……いいよね……アゲハ……」

「り、リリス?なんか、目が怖いんだが……」

「……一緒に……()()?」

 

リリスの言葉を聞いて、本能的な恐怖を感じたアゲハは一目散に部屋を出た。



――――

「……つーん」

「……なぁ、逃げたあたしが悪かったからさ……機嫌直してくれないか?」

「……や」

「あー、拗ねちゃった。お姉ちゃん、いけないんだー」


リリスの暴走が収まり、サグルに呼ばれたアゲハが部屋に戻ってくると……不満そうにしているリリスがベッドの上で膝を抱えていた。


「いや、あの状況でどうしろって言うんだよ……」

「そんなの、一つに決まってるじゃん。()()()()()()

「その手の動きをやめろ。……だいたい、そういうのは友達同士でやるもんじゃないだろ」


やけに生々しい手の動きをするサグルにツッコミを入れていると、アゲハの言葉を聞いたリリスが頬を膨らませながら自分を指差す。


「私、アゲハの恋人」

「なった覚えがないが」

「アゲハは照れ屋。素直じゃない」

「話が通じねぇ……いや、まぁ今はそれはいい。リリス、お前に言いたいことがある」

「何?今私は機嫌が悪い。でも、アゲハが私と一緒に寝てくれるなら許してあげてもいい」

「しねぇよ!っていうかそれより、()()()()!いつまで人んちでそんな格好でいるつもりだ!」


アゲハはリリスを指差して叫ぶ。――今のリリスは先程アゲハが見た下着姿のままである。リリスのスタイルの良さがより強調され、白い肌が光に照らされ……非常に目に毒な光景である。


「……?何か問題?」

「問題大有りだよ!ここにはサグルもいるんだぞ!?サグルが変な気を起こしたらどうすんだ!」

「あっ、お姉ちゃん。ボク、リリスお姉ちゃんには恋愛感情とか()()()()()とか一切ないから。気にしないで?」

「気にするぞ!?」

「アゲハの家は私の家。最近は暑いし、服を脱ごうが着ようが私の勝手。なんならもっと脱いでもいい」

「いや、もっと恥じらいを持てよ!?あとここはお前の家じゃないぞ!?」

「将来的に、私の家」

「じゃあお前の家じゃねぇだろ!いいから早く服を着ろ!」



――――

――結果として、リリスは服を着てくれなかったので、アゲハはリリスと共に外出をすることにした。流石のリリスも外での下着姿には恥じらいがあるのか、しっかり制服を着てくれていた。……リリスが「アゲハが望むなら……外でこのままでも……いいよ?」と言い出したときは頭を抱えたが。まぁアゲハは望まなかったので問題はなかった。なかったといったらなかった。

 

「……なぁ、リリス」

「何?」

「昨日はありがとな。あたし、倒れたんだろ?」

「……うん。心配した」

「あたし、その時の記憶が曖昧でさ……全く覚えがないんだ」

「……そう」

「疲れてたのかな……でも、魔王と決闘した時も、そこまでの疲れじゃなかったし……うーん……」

「……気にしなくていい。多分、寝不足」

「そうか?いや、確かにそうかもな……」

 

アゲハは顎に手を当てながら、上を見上げた。リリスはそれを横目で見ながら、自身の右腕を胸に抱いた。


(……アゲハ)


リリスは()()()()()()を思い出し、ぐっと下唇を噛む。アゲハの見せた、()()()()()()姿……それはリリスでさえ見たことない、珍しい姿だった。

 

(……()()()って……誰に?)


アゲハが()()()()()、短い謝罪の言葉。少なくとも自分に向けた言葉ではない、とリリスは感じた。普段からアゲハを困らせてしまっている自分が、そんな言葉を言われるはずがない。だからこそ、余計に気になってしまう。


「……ん?どうした、リリス?」


アゲハは、昨日の事を覚えていないと言う。だから彼女はいつも通り振る舞い、綺麗な笑顔を見せてくれる。それを見てしまうと、アゲハに直接昨日の事を言うのは、憚られてしまう。


「なんでもない。アゲハが綺麗だったから、見惚れてた」

「なっ……お前なぁ。あんまりあたしをからかうなよ」

「からかってない。本心」

「今のジャージ姿を綺麗と言われてもな……なんか複雑というか」

「どんな姿でも、アゲハはアゲハ」


だから、リリスは無理やり知ろうとはしない。アゲハがいつか、自分に話してくれる時が来ることを願って。リリスは笑顔でアゲハの腕に抱きつくのだった……と、ここで締めくくろうとしたのだが。


「……む?そこにいるのは赤羽アゲハか?」

「え?そうだけど……あんた誰?」

「なっ!?この我を忘れたと申すか!?翠川マオだ!昨日戦った魔王であるぞ!?」

「えっ、お前が!?嘘だろ!?なんだその、ゴテゴテしたドレス姿は!?」

「こ、これは我が父の開催したパーティーから帰る途中だったから……ひっ!?」


突然現れた、緑色の派手なドレス姿のマオ。今までのいい雰囲気をぶち壊した彼女に、リリスは殺気の籠もった視線を送った。それは、隣にいるアゲハすらも、警戒心を抱かせる程の殺意で……


「魔王……せっかく、アゲハと二人きりで、いい雰囲気だったのに……」

「あ、青宮リリスよ!?何故そんなに我を睨む!?我は偶然、ここを通りかかっただけで……!」

有罪(ギルティ)……処刑……ここで、討ち果たす……!」

「ま、待て!リリス、とりあえず落ち着け!お前、見たことないくらい怖い顔してるぞ!」

「……アゲハを狙うライバル……アゲハは私だけのもの……他の女なんか……いらない……!」

「……っ!魔王、逃げろ!ここはあたしが食い止める!」

「あ、赤羽アゲハ!?」

「早く走れ!歩きづらいドレス着てんだから転ぶなよ!とにかく距離を取るんだ!」

「……≪聖鎧、装着≫……!」


とうとう≪聖鎧装着≫までしだしたリリスを見て、アゲハは必死の形相でマオの前に立ちはだかり、力の限り叫ぶ。


「逃げろ、魔王ーー!」

「……死ぬなよ、赤羽アゲハ!」

「逃さない……!」


マオは全力で走って逃げ出し、≪聖鎧装着≫をしたリリスがそれを追いかけようとする。しかし、彼女の前に、同じく≪聖鎧装着≫したアゲハが立ちはだかった。


「魔王……逃さない……!」

「リリス……あたしが、全力で止めてやる!」


今ここに、世紀の大決戦――赤羽アゲハVS青宮リリスの戦いが、幕を上げるのだった。








 

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