第七話 決闘!VSアカシアグリーン!
翌日の放課後。レモンとの勝負を終えたアゲハは、再びマオに公園に呼び出されていた。もちろんリリスもついてきた。
「フッフッフ……よくぞ来た、赤羽アゲハよ」
「……ああ、来てやったぞ」
「先日は我が従者、レモンが世話になったな。青宮リリス、よい戦いを見せてくれた貴様にも礼を言っておこう」
「……ん」
マオは相変わらず厨二病全開で、大仰な口調と素振りでそう言った。アゲハは真剣な表情でマオを見て、リリスはアゲハに引っ付きながら頷いた。
「……しかし、あれは前哨戦に過ぎぬ。今こそ、我が従者、レモンの仇を討つ時である!」
「お嬢様。うち、生きとるよ〜?」
「かかってこい、魔王に挑みし勇者どもよ!我が力で、貴様らに絶望と永遠の眠りを与えてやろう!」
レモンのツッコミを無視し、マオは決めポーズをして魔王のような台詞を述べた。満足げに笑みを浮かべていたので、もしかしたら用意していたのかもしれない。
「……なぁレモン。こいつはいつもこうなのか?」
「お嬢様はいつもこんな感じや。適当に合わせてくれたら満足するで」
「……魔王、結構面倒くさい」
アゲハ達がひそひそと話していると、それを見たマオは首を傾げた。
「何をひそひそと話している?」
「「「なんでもない(で)」」」
「そ、そうか……?」
ぴったり声を揃えて返事をした三人に、マオは怪訝な顔をしていたが……彼女はそれ以上指摘はしなかった。とりあえず、気にする必要はないと判断したらしい。
「……コホン。気を取り直して……赤羽アゲハよ!いざ勝負と行こう!」
「ああ、分かった」
アゲハはマオの言葉に頷き、二人は互いに戦意を宿した視線をかわした。鋭い視線は火花を散らし、二人の間に剣呑な雰囲気が流れる。
「アゲハ、頑張って……!」
「青宮さん、赤羽さんに引っ付いてたら二人の邪魔になるで。勝負はこっちで見とこか」
そんな中、アゲハに引っ付いて応援していたリリスは、レモンによって引き剥がされた。
――――
――最終勝負(二戦目)・射的
アゲハは射的に使う銃の使い方を確認しながら、ふと、懐かしむような口調で言った。
「射的か……昔、祭りの屋台の店主を半泣きにさせたのを思い出すな」
「……え?半泣き?」
「千円でどれくらい取れるか試したくてさ。ひたすら打って落としてたら店主に「もう勘弁してくれ」って言われたんだ」
「……う、うむ。流石、我の好敵手であるな!ハッハッハ!」
そう言って、乾いた笑い声をあげるマオ。急な変貌を見て、近くで見ていたリリスはレモンに耳打ちした。
「……なんか、魔王の様子が変」
「……多分ビビってるんとちゃうん?お嬢様はボッチやから祭りなんて行ったこともないし、射的だって「かっこよさそう」って理由で選んどったし。赤羽さんが予想以上にガチ勢やったから怖くなったんやろ」
「へぇ……」
「そこ!私語は慎め!……あ、あと、我はボッチではないからな!今も昔も多くの臣下がいるのだ!」
「昔のお嬢様は引きこもりのゲーム・玩具オタクやったから、うちら使用人達くらいしか話相手がおらんくて……」
「……レモン、魔王に聞こえて――」
「ち、ちがうもん!わた――我には多くの臣下がいるから!ボッチじゃないもん!」
レモンとリリスの話に涙目となり、マオは必死に自分がボッチであることを否定する。レモンは素の口調で喋るマオを見て満足したのか、意地の悪い笑みを浮かべながら話を止めた。そんな三人の様子を見て、一人、話に混ざっていなかったアゲハは涙目のマオを見て首を傾げた。
「ん……?魔王、なんで泣いてるんだ?」
「な、泣いてなどおらぬ!それより、準備は出来たのか赤羽アゲハよ!もう五分も経っておるのだぞ!」
「あ、ごめん。……よし、準備完了だ」
アゲハは銃に玉を装填し終え、準備完了の意を示すように、銃を肩にかけた。マオはそれを見て涙を拭い、自分の銃を掲げて高らかに声を上げた。
「それでは、ルールの説明をするぞ!まず、公園の真ん中に水の入ったペットボトルが置いてある!それに向けて玉を撃ち、当たれば一点だ!持っている玉五発の中でペットボトルに当てた数の多い方が勝ちとなる!ちなみに……距離は自由だ!」
「はぁ?距離は自由って……簡単すぎないか?それに、当てた玉はどうやって数えるんだよ」
「ふっ、その点は心配無用――メイド達!」
マオが叫ぶと、どこからか二人のメイド服姿の女性が現れた。メイド達はペットボトルの見える位置に移動すると、そこで足を止めた。
「当てた数は彼女らが測定する。そして、距離の問題に関しては……レモン、青宮リリス。貴様らに協力してもらおう」
「……私?」
「え〜?うち、昨日貰った報酬のお金数えるのに忙しいんやけど〜」
「そんなのは後でやれ!……コホン。青宮リリスとレモンには≪聖鎧装着≫をして我らの妨害をしてもらう。レモンは赤羽アゲハを。青宮リリスは我を妨害するのだ。無論、我と赤羽アゲハが≪聖鎧装着≫する事は可能だ」
レモンにつっこみながら、マオはゲームについて簡単に説明した。その中に出てきた≪聖鎧装着≫という言葉に、アゲハは真剣な表情になる。
「……なるほど。あたしらがゴシキジャーって事を利用したゲームか。つまり魔王、お前は……」
「うむ。我こそ、ゴシキジャー二期最古参の戦士、アカシアグリーンである。貴様の事はサグルから耳にしているぞ。フレアレッドよ」
「…………!」
「さぁ、楽しもうではないか!魔王と勇者の戦いを!――≪聖鎧装着≫!」
マオは笑みを浮かべながら叫び、腕輪のパーツを回した。
――ズバババーン!
――ミスティック・ビリジオン!アカシアグリーン!
高い声が響くと同時に、マオの姿が変化していく。金一色だった髪に緑のメッシュが加わり、右の瞳が緑色に染まる。身体には竜のように荒々しい形状をした緑色の鎧が装備される。更に、口元に緑色のマスクが現れ、彼女の頭に角の生えた冠が生成された。緑の魔王――アカシアグリーンである。その姿を見たアゲハは驚愕に顔を染めた。
「お前は……!あの時あたしの前に現れた……!」
「フッフッフ……我の力にひれ伏すのだ!赤羽アゲハよ!」
マオの宣言と共に、射的勝負が開幕した――!
――――
人気のない公園の中で、二人の少女が駆け回る。方や≪聖鎧装着≫をしたアゲハ。方や緑の竜鎧に身を包んだマオ。彼女らは互いに銃を構え、的であるペットボトルを狙う。
「……ふっ!」
アゲハは立ち止まり、銃の引き金を引いた。その狙いは正確で、玉は真っ直ぐと的の方へ向かう。
「させへんで、赤羽さん!」
しかし、アゲハの視界の端から光の矢が放たれ、玉は撃ち落とされた。アゲハが視線を向けると、そこには同じく≪聖鎧装着≫をした黄色い髪の少女――ランドイエローことレモンが立っていた。
「おい!その弓はずるいだろ!」
「悪いけど、お嬢様からまた報酬貰ってしもうたからなぁ。手加減は出来へんのや」
「せめて自分で狙えよ!宙に浮かせた弓に撃たせてんじゃねぇ!」
レモンの近くには、けん玉勝負でアゲハを苦しめた弓――≪黄色い弓≫が宙に浮いていた。黄色い弓は今度はアゲハに照準を合わせ、光の矢を放つ。
「妨害にはこっちのほうが都合がいいからなぁ。それに、うちが弓持ったら赤羽さんの眉間に穴開いてまうで」
「……前から思ってたけど、お前は一体何者なんだ?」
「うちはお嬢様の護衛兼使用人や。要するにボディーガードっちゅうこっちゃな」
レモンはそう言って更に光の矢を放つ。アゲハは矢を避けながら、再び銃を構えて的を狙う。だが、玉を撃つ前にレモンが行く手を阻む。
「撃つ前に狙った方が、効率ええからなぁ……!」
「チッ……!てめぇ、本当に卑怯なことしかしねぇな!――≪赤い剣≫!」
アゲハは赤い剣を手に持ち、それを黄色い弓に向かって投げた。赤い剣は光の矢をものともせず、真っ直ぐ黄色い弓へ向かい、そのまま弓にぶつかった。弓が地面を転がり、矢の攻撃が止まる。
「……っ、またそれかいな!」
「それだけじゃねぇ!」
アゲハはレモンに向かって走り、拳に力を込める。一瞬にしてレモンとの距離を縮めたアゲハは、そのまま拳を振り上げた。――レモンの鳩尾に向かって。
「どりゃあ!」
「ぐふっ……!?」
レモンは宙を舞い、弧を描いて地面に落下した。鳩尾に強い衝撃を受けたのかレモンは顔を顰め、殴られた箇所を抑えて咳込む。
「かはっ……こほっ……何を……!」
「邪魔してくる奴を殴り飛ばしてはいけないってルールはないだろ?」
レモンがアゲハの声に振り向くと、アゲハはいつの間にか銃を的に当てながら、ニヤリと笑みを浮かべていた。レモンは眉をピクピクとさせながら、痛みを堪えるながら口を開く。
「卑怯なことは……嫌いやったんとちゃうん……?」
「ああ、嫌いだ。けどな、それ以上に――てめぇのやり方が気に食わないんだよ。ボディーガード。これで……あたしの勝ちだ」
アゲハはそう言い放つと、残り全ての玉――四発の玉を全て的に当てた。――それと同時に、戦いを見ていたメイドが笛を鳴らし、高らかに宣言する。
「勝負あり!赤羽アゲハ、四点!お嬢様――翠川マオ様、五点!よってこの勝負は、翠川マオ様の勝利です!」
「……は?」
メイドの宣言に、アゲハは驚愕に顔を染める。――勝負ありだと?魔王の勝ち?何を言っている?魔王はまだ、勝負が始まってから顔を見てすらいないのに――
「遅かったな、赤羽アゲハよ」
突然、上から声が聞こえた。アゲハが声のした方を見ると、そこには滑り台の上で仁王立ちしているマオの姿があった。その傍らには、地に伏せ倒れ込むリリスの姿もあった。
「リリス!お前、リリスに何を……!」
「ふん、貴様と同じだ、赤羽アゲハよ。我が青宮リリスを戦闘不能にさせた。ただ、それだけのことだ」
マオはそう言って、不敵な笑みを浮かべていた。その堂々とした立ち姿、笑み、威圧感は、まさしく魔王であった。
――――
時は数刻前――レモンがアゲハを妨害し始めた頃に遡る。公園の一角で、レモンと同じく≪聖鎧装着≫したリリスは、青い槍を振るってマオの妨害をしていた。
「はぁっ……!せいっ……!」
「ハッハッハ!遅い遅い!そんなものか、青宮リリスよ!」
マオはリリスの槍を軽々と躱し、銃を構えて的を狙う。リリスはそれを見逃さず、必死に走ってマオの前に立ちはだかる。
「……させないっ」
「ふっ、甘いぞ、青宮リリス……!」
しかし、マオは的を狙うのを止め、リリスが走ってきた方向に向かって走る。急な方向転換――ブラフに、リリスの反応が遅れた。マオは再び銃を構え、照準を合わせて引き金を引いた。
「まず、一発!」
マオの撃った玉が的に当たる。その奥では、アゲハとレモンが一戦を繰り広げている姿があった。マオはそれを見て、興味深そうに呟く。
「ほう、あちらも盛り上がっているようだな。では、こちらもそれに習わねば、無作法というもの……!」
マオは銃を左手に持ち、右手に緑の戦斧を構える。リリスがこちらに走ってくるのを見ながら、マオは戦斧を振るう。
「吹き飛べ!≪粉砕・ジェノサイドブレイク≫!」
マオが地面に戦斧を叩きつけると、その中心から衝撃波が発生する。リリスは衝撃波にあおられ、マオの言葉通り吹き飛ばされる。
「きゃっ……!」
「隙あり!」
マオは銃を構え、的に向かって玉を二発放つ。玉は二発とも命中し、マオの得点は三点。マオの独壇場だ。リリスは地面に着地して体勢を立て直し、妨害のために走り出す。青い槍が光を放ち、リリスは勢いよく槍を突き出した。
「……≪激流・スパイラルブラスト≫……!」
槍は水の竜巻を纏い、真っ直ぐとマオに襲いかかる。しかしマオは再び戦斧を構え、リリスの槍を受け止めた。
「えっ……」
「いい攻撃だ……だが我には届かぬ!――はぁぁぁぁぁ!」
「…………!槍が……!」
マオの戦斧で槍が吹き飛ばされ、リリスの身体が無防備となる。マオはその隙を逃さず、獰猛な笑みを浮かべて戦斧を横に凪いだ。戦斧はリリスの変身スーツ……鎧のようになっている部分に強い衝撃を与えた。リリスの細い身体が吹き飛び、リリスは地面を転がる。
「……!ゴホッ、ゴホッ……」
「よく戦った、マリンブルーよ。しかし我は最強の魔王。我に挑んだ事が……貴様の敗因である」
マオは笑みを浮かべながら銃を的に向け、引き金を二回引いた。残りの玉は全て的に命中し、マオの得点は満点の五点となった。これでマオが負けることはない。アゲハに残されたのは引き分けか敗北である。リリスはうめきながら小さく呟いた。
「アゲハ……ごめん……」
「さて、後は赤羽アゲハの玉が尽きるのを待つだけか……どこで待っていればかっこいいかな……」
すっかり勝った気でいるマオの呑気な声を聞きながら、リリスは意識を手放した。
――――
「リリスっ!しっかりしろ!」
「慌てる必要はない、赤羽アゲハよ。我は致命傷にならぬよう手加減した。時期に目を覚ますであろう」
リリスの身体を揺さぶるアゲハ。彼女に向かってマオは堂々とした様子でそう言うと、なんとか立ち上がれるまで回復したレモンが隣でボソリと呟く。
「……お嬢様、青宮さんが倒れたままで結構焦ってるんとちゃうん?なんか汗すごいし、身体震えとるし」
「な、何を言っているのだレモン。我は魔王であるぞ?敵に情けをかけるような慈悲は持っていない――」
「「わたし、やり過ぎちゃった!?でもでも、カッコつけてる手前手を抜いたりしたら馬鹿にされちゃうし……ゴシキジャー同士の戦いで死ぬことはないって、サグルくんも言ってたし……」ってとこやな。……安心しい、赤羽さん。うちが見た所、お嬢様はほんまに手加減したみたいやから、すぐ目を覚ますで」
「違う!我はそんな腑抜けた事は言っていない!」
「ゲホッ……ゲホッ……お嬢様、うちもやられとるんやから止めて……!」
マオはレモンの身体を揺さぶって否定する。まだ身体の痛みが残っているレモンは、身体を揺さぶられて噎せた。そんな二人を他所に、アゲハはリリスの顔を心配そうに見つめる。……やがて、リリスは朧気な様子でゆっくりと目を開けた。アゲハは安堵の表情を浮かべる。
「リリス!よかった、目を覚ましたんだな……!」
「アゲハ……私、一体……」
「お前は魔王にやられたんだ。さっきまで気絶してたんだぞ」
「……そうだった。アゲハ、ごめん。魔王を止められなかった」
「謝らなくていい。あたしが一発無駄にしてなければ引き分けに持ち込めたんだ。リリスのせいじゃねぇ」
アゲハはそう言って、リリスの頭を撫でる。突然のアゲハの行動にリリスは驚きで目を見開き、ボッと顔を赤くした。
「アゲハ……そんなことされたら、私……」
「ん?どうしたんだ、リリス?……あっ、すまん。この体勢キツいよな?今起こしてやるよ」
アゲハは撫でるのを止め、リリスの身体を起こして立たせる。リリスは素直にアゲハの補助を受け入れ、なんとか立ち上がった。
「アゲハ……肩、貸して」
「ああ、任せろ。……なんかお前、息が荒くないか?」
「はぁはぁ……大丈夫。疲れただけ……」
先程までの弱々しいリリスは何処へやら。今やゼロ距離までアゲハに密着し、目をハートにさせて彼女の胸や尻に変態親父のような視線を向けている。アゲハは本気でリリスを心配しているのか、その視線に気づくことはなかったが。
「うっわ……青宮さん、あんた……」
「ん?どうかしたのか、レモンよ?そんなに顔を青くして……まさか、赤羽アゲハにやられた所が痛むのか?」
「いや、別に……なんでもあらへんよ」
ただ一人。レモンだけはその視線に気づき、息を荒くしてアゲハの身体を触っているリリスを見てドン引きするのだった……
――最終勝負(二戦目)の結果、勝者・翠川マオ




