最終話 事実は小説よりも奇なり
——こうして、赤羽アゲハの尽力によって、突然変異種の王イリーガルは討伐された。
——イリーガルの城は消滅し、赤く染まっていた空は元に戻り、街にも人が戻った。
——突然変異種は完全に消えたわけではないが、最早地球を侵略するような戦略は残っていなかった。
——アゲハ達ゴシキジャーの戦いは、彼女らの勝利として幕を閉じたのである。
——たった一人の少女を、代償として……
————
「——青宮先輩……また徹夜したんですか?」
「……徹夜は、してない。気づいたら、太陽の光を浴びていた……それだけ」
「はぁ……つまり、徹夜ってことですよね?あんまり無理したら、マッド先輩に叱られますよ?」
私——青宮リリスの目の前にいるスーツ姿の茶髪の女性が、呆れた様子で肩をすくめてそんな事を言う。私の後輩に当たる彼女は、何かと私に小言を言ってくるお節介な人だ。私よりも年下で背も小さいのに、随分しっかりとしていて、組織からの評価も高い。
「心配ない。自分の限界は弁えている。何か起こる前に自分で対処できる」
「なら、いいんですけど……先輩が倒れたら、またあたしまで叱られるんですからね?本当に気を付けてくださいよ?」
「……善処する」
私の返しにため息を吐きながら、後輩は去っていった。何度もされた反応だからわかる。あれは私を信用していないという反応だ。嘘はついていないのに。
「……もう少し、続けよう」
私は目の前のパソコンに向き直り、カタカタとキーボードを打って仕事を続ける。……ふと、デスクトップに貼ってある、小さな写真が目に写った。赤髪の少女の顔が写ったその写真は、私の心に小さな棘を刺す。
「……アゲハ」
少女の名を口にして、私は眉尻を下げる。——五年前、イリーガルとの決戦の後に姿を消した……私の恋人。
「……どこに、いるんだろう」
——当時、十七歳。赤羽アゲハは突然変異種の王イリーガルとの戦いで、姿を消した。一人でイリーガルを討伐し、突然変異種の脅威から地球を守った……英雄。だが、あの日以来、私達はアゲハの姿を見ていない。
「この場所じゃ……ない。この場所でも……ない。アゲハは……どこにいるの?」
パソコン上に表示された「地図」に、次々と赤い印をつけていく。既に半分が赤く染まったそれを見ながら、私は焦りを募らせていく。
「アゲハ……アゲハ……」
うわ言のように呟きながら、私はパソコンを操作していく。私の視界の端にある時計の針が進んでいき、いつの間にか十二時近くを刺そうとしていた。それでも……何も、進まない。
「なんで……帰ってくるって、言ったのに……」
——例えどれだけ離れたって、あたしは絶対、お前の所に帰ってくる。
五年前、アゲハが告げた言葉。私はその言葉を信じて、今の今まで≪突然変異種対策本部≫の職員として、アゲハの事をずっと探していた。しかし、結果は芳しいものではなく、アゲハはまだ帰ってこない。
「サクラ姉も、オトさんも……皆、心配してるんだよ……?アゲハに会いたいって……この前は、魔王がここに来たんだよ……?赤羽アゲハはまだ見つからないのか、って……」
そこまで言って、私は瞳から涙を溢した。手の甲に涙が落ちて、冷たい感触が手を伝っていく。こんなに会いたいと願っているのに、アゲハはここにはいない。その事実が無性に寂しく、とても辛い。
「帰ってきてよ……!アゲハがいないと、私は……!私はっ……!」
机を叩いたせいで、手が少し赤くなる。私はそんなのお構いなしに、拳を握り、何度も机を叩く。……私の右腕に着けられている青い腕輪が、小刻みに揺れる。
「あぁぁぁぁぁ……!う、あぁぁっ……」
「——ちょっと、青宮先輩!?一体何やって……っ!」
机をひたすらに叩いていると、先程の後輩の声が聞こえ……彼女は私の下へと駆け寄ってくる。
「もうやめてください!無理はしないってさっき言ったじゃないですか!」
「離してっ……!アゲハ、アゲハっ……!」
「ああもう……!誰か!誰か来てくださーい!青宮さんが、また——!」
後輩は私を羽交い締めにして、周りに向かって助けを求める。すると、すぐに他の職員がやってきて、私を取り押さえる。私はひたすらに涙を流しながら、アゲハの名前を叫び続けていた……
————
時刻は深夜頃。突然呼び出しを受けたボク——マッドは、リリスお姉ちゃんの後輩から事情を説明してもらっていた。
「……そうか。リリスお姉ちゃんが、また……」
「はい……申し訳ありません、マッド先輩。あたしが目を離した隙に、また……」
「……いや、君のせいじゃないよ。リリスお姉ちゃんはそれだけお姉ちゃんを愛していたんだ。おかしくなるのも……無理はないさ」
彼女が話したのは、リリスお姉ちゃんに関する話だ。赤羽アゲハの捜索を続けていたリリスお姉ちゃんが、また正気を失った……ボクは頭をかきながら、リリスお姉ちゃんを取り押さえている部下に命令を下す。
「……九番、十三番。その子を医務室に運んでおいてくれるかい?」
「——承知した。……おい十三番、反対側を押さえておけ。危害を加えるんじゃないぞ」
「わかってるわよ。私を獣か何かだと思ってるの?私はこの世に愛と芸術を与えるものであって——」
九番と十三番は未だ暴れるリリスお姉ちゃんを取り押さえながら、その場を去っていった。ボクは頭を押さえてため息を吐くと、リリスお姉ちゃんのデスクの周りに散らばっているものを集めていく。すると、リリスお姉ちゃんの後輩である女性が、遠慮がちに声をかけてきた。
「あの……青宮先輩は、またいつもみたいに……」
「……そうだね。カウンセリングを受けて薬を投与され、また戻ってくる。君の先輩としてね」
「……青宮先輩を、解放することはできないんですか?その……アゲハさんって人から……」
「……ボクの力を使えば、できなくはないけど……あまり強く抑え込もうとすると、反動もその分大きくなる。そうなったら、リリスお姉ちゃんは……」
その先を口にするのは憚られ、ボクは口を噤んで書類をまとめていく。後輩ちゃんは同じようにしゃがみ込むと、リリスお姉ちゃんの書類を拾っていく。その最中に、後輩ちゃんはどこか沈んだ様子で口を開いた。
「……マッド先輩は、青宮先輩と長い付き合いなんですよね?」
「そうだけど……それがどうかしたの?」
「……あたし、もっと青宮先輩の力になりたいんです。そのために、青宮先輩の事を、もっと知りたいなって……」
「……その意志は素晴らしいけど、人の過去を勝手に聞き出すのは、褒められたことじゃないね」
「す、すみません。でも、そうでもしないと、青宮先輩は……」
そう言って項垂れてしまう後輩ちゃん。……少し前からリリスお姉ちゃんを支えてくれている彼女は、世話焼きな性格なのか、誰かの助けになることを望んでいる。そんな彼女だからうちの組織にも入ることが出来たのだろうし、誰かを助けたいという想いはとても素晴らしいとボクは思う。……ボクは、赤羽アゲハに命を救われた。だからこうして、今も組織の一員として働くことができている。赤羽アゲハのように、誰かの命を、救うために——目の前の後輩ちゃんも、ボクと同じだ。なら、ボクがやるべきことは……
「……わかった。なら、話してあげるよ。その代わり、ボクが話したってことはリリスお姉ちゃんには内緒にしてね?」
「……っ!はい、もちろんです!」
「よし。じゃあ、片付けしながら話そっか。まずは、五年前の事から——」
——事実は小説よりも奇なり、という言葉がある。現実に起こる出来事は、小説の中で起こることより奇妙である……という意味だ。これは、ボク達が体験した奇妙な物語……そして、愛と戦いの物語である。
——あたしにヒーローはつとまるか!? 聖鎧戦隊ゴシキジャー編——完
ヒーローの存在意義が失われた世界。
元トリガーレッドである火神カガリと、トリガーブルーこと青峰スズカが率いるトリガージャーは闘技場で闘い続けていた。
……己のために戦うカガリと、元のトリガージャーを取り戻すために戦うスズカ達。ヒーローに求められているのは正義か、それとも戦いか……?
そして、行方知れずとなったアゲハの行方は如何に……?
キャスト
火神カガリ/撃鉄のスカーレット/トリガーレッド
青峰スズカ/トリガーブルー
ラルバ・スターライト/トリガーイエロー
メグミ・カガミ/トリガーグリーン
黒天ルーシ/トリガーブラック
赤羽アゲハ/トリガーホウオウ




