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第五話 決闘!VSランドイエロー!


リリスとの追いかけっこを終え、サグルを頼ってなんとか窮地を脱したアゲハは、自室で一息ついていた。


「はぁ……」

「浮かない顔だね、お姉ちゃん」

「まぁな……いや待て、なんでお前がここにいる」


ベッドに寝転がっていたアゲハは、すぐそばから聞こえてきたサグルの声で身体を起こす。サグルは床に寝転がってスナック菓子をつまみながら、だらだらと過ごしていた。


「お姉ちゃんに伝えておきたい事があってさ」

「リリスの話か?今は疲れてるから明日にしてくれ」

「違うよ。お姉ちゃんに伝えたい事と言えば……決まってるでしょ?」

「……ゴシキジャーの話か」

「さっすがお姉ちゃん。勘が鋭い♪まぁ普段は使われない無駄能力だけど」

「あたしの取り柄を無駄能力とか言うなよ」


――あたしを馬鹿にしに来たのだろうか、こいつは。

アゲハは脳裏でそんな事を考えながら、仕方なくサグルの話を聞く事にした。


「お姉ちゃんはもう、メンバーの内二人と知り合ったよね?」

「サクラ姉とリリスの事か?まぁ、一応……っていうか、サクラ姉がゴシキジャーだったんなら教えろよ」

「そういうのは自分で探してこそでしょ?ロマンがわかってないね、お姉ちゃんは」


……お前がロマンを語るのか。かつてアゲハが魔法少女やヒーローものに熱中してた時、「それの何が面白いの?」と言ったお前が?と、アゲハは思った。話が進まないので黙っておくが。


「おい、あと二人の名前も教えろよ。アカシアなんたらとなんとかイエローだったか?そいつらは誰だ」

「アカシアグリーンとランドイエローかぁ……あの二人は、ちょっと癖があるからね。……多分、お姉ちゃんならすぐに分かるよ」

「あぁ?なんだそりゃ。つべこべ言わず教えろよ!」

「おお怖い怖い。いいのかなぁ、ボクを脅しちゃって。せっかくリリスお姉ちゃんから助けてあげたのになぁ……」

「うっぐ……!」


それを言われると弱い。確かに暴走したリリスを巧みな話術で説得したのはサグルだ。ここで詰めては、次に同じような状況になったときに対処できない。


「……チッ、分かったよ。自分で探してやる」

「ぜひそうしてねー。……ところで、お姉ちゃんは本当に花の女子高生なの?今のセリフ、どう考えても不良生徒そのものじゃん」

「うっせぇ!もう寝る!」

「まだ夕方だけどー?」

「朝早く起きたから眠いんだよ!心配しなくても夕飯には起きる!」

「はいはーい、おやすみなさーい」


サグルがそう言うと同時に、アゲハは頭から布団を被った。本当に眠かったのか、すぐに布団の中からアゲハの寝息が聞こえてくる。サグルはそれを聞きながら、スナック菓子の袋を持って立ち上がる。そして音を立てないように歩き、部屋を後にした。


「……頑張ってね、お姉ちゃん。お姉ちゃんが()()()()()()()に進んでくれることを……願ってるよ」


ボソリと呟かれたサグルの言葉に、返事をする者は誰もいなかった。


――――

翌日。いつも通り一人で登校したアゲハは、珍しく眠らずに授業を受けていた。その姿に一限、二限の教師達は自分の目を疑い、クラスメイトはリリスを除いて畏怖の目を向けていた。……常に寝不足で殆どの授業を寝て過ごしているアゲハが眠らないのには、理由がある。

 

――ねぇ、この前のアレ……見た?

――見た見た、委員長の青宮に弁当食べさせて貰ってたよね。

――きっと赤羽はこのクラスを影から支配しようとしてるんだよ。この前もサクラせんせーをパシらせてたし、間違いないって。


朝に欠伸をしながら教室に入ってきたアゲハの耳に、クラスメイトの女子達のそんな噂話が入ってきた。どうやら、昨日のリリスとの食事を見られていたようだ。それだけでなく、サクラの手伝いをしていたことまで噂されている。……元々よく変な噂を流されていたが、クラスの人気者のリリスが関係しているせいか、いつもよりその噂話が広まっていた。おかげであちこちで自分の噂話を聞くことになり、気になって眠ることも出来ない。そのせいで寝不足で重い瞳が更に鋭さを増し、意図せず辺りを威圧してしまっていた。


(はぁ……今回のやつは長くなりそうだな……)


まぁ、今までもこういう事は少なからずあった。アゲハは自分の噂など露程も気にしていないので、わざわざ否定したりはしていないのだが……今回の噂はかなり広まっており、クラス、引いては学校の皆から視線を感じていた。こんな状況で眠れるわけがない。


「……おっ、休み時間か」


そんなこんなで、気づけば三限まで終わっていた。次の授業を乗り切ればもう昼飯である。昼休みになれば(リリスの誘いを振り切って)個室トイレで飯を食えばいい。少なくとも今より視線は感じないはずだ。……そんな事を考えていると、ふと、教室のドアの辺りから騒ぎ声が聞こえてきた。思わずアゲハは視線を向ける。


「――ハーッハッハッハ!ここか、赤羽アゲハとやらがいる教室は!」

「――お嬢様、はしたないですよ。もっと礼儀を大切にせんと〜」

「ふん、我は≪魔王≫であるぞ?礼儀を尽くすのではなく、尽くされる側だ!そうであろう、レモンよ!」


教室に入ってきたのは、金髪ストレートの小さな少女と、茶髪ツインテールのスレンダーな少女。小さい方はテンション高く高笑いを決め、ツインテールは関西弁の混じった敬語で少女を注意する。突如現れた二人を、アゲハは胡乱げな瞳で見つめる。


「……な、なんだ?」

「さて、件の者はどこに……あっ!あの赤髪か、レモン!?」

「おそらく間違いないかと〜。でもお嬢様、あまり目立つような事したら……」

「ハーッハッハッハ!貴様が、赤羽アゲハであるな!」


茶髪ツインテールの少女を無視し、金髪の少女はいつの間にかアゲハの目の前まで来ていた。彼女は中々の童顔で整った顔立ちをしており、綺麗な青い瞳を輝かせながらアゲハの事を見ている。アゲハは警戒したように、頬杖を突きながら少女に問う。


「……あたしに何か用か?」

「ふっ……話は聞いておるぞ、赤羽アゲハよ!貴様は魔王である我を差し置いて、この学校を支配しようと企んでいるそうではないか?」

「いや、そんな事考えてな――」

「であれば魔王として、我が引き下がるわけにはいかぬ!貴様を倒し、我の力と偉大さを証明してやろう!」


その魔王とやらの話を聞いて、アゲハは思った。


――こいつ、話の通じねぇ奴だ……!


身近にいる人物――リリスやサグルと同類だ。いや、それ以上に酷い。最近厄介事によく巻き込まれるアゲハは、その方面の勘が異常に鋭くなっていた。


「こうしてはおれん!今こそ、我と決闘を……!」

「お嬢様、休み時間が終わってまうで〜」

「ムッ、そうか!ならば昼休みだ!――赤羽アゲハよ!」

「お、おう」

「太陽の照らす場所で、貴様を待つ!この()()()()が、貴様に引導を渡してくれよう!しっかり贄も持ってくるのだぞ!」

「……はぁ?」

「お昼持って、空き教室に来いって意味やで」


なんか茶髪ツインテールが解説してくれた。こっちはまともみたいだ。魔王――翠川マオは、アゲハに背を向けて教室を去る。


「待っているぞ、赤羽アゲハ……!」

「あっ、予定があったら別にこんでええよ〜。お嬢様、その辺優しいから〜」


茶髪ツインテールが補足してくれた。やがて、翠川マオは完全に教室を去り、教室は静寂に包まれた。

 

(……し、視線が……!)


その後、昼休みになるまでアゲハへの視線が強くなったことは、言うまでもない。



――――

「……リリス、なんでついてきたんだ?」

「アゲハ、あの金髪の女の子にアプローチされてた。黙って見てるわけにはいかない」


昼休み。アゲハは購買のパンを買って空き教室へと向かっていた。別に翠川マオの言った事に従う必要はないのだが……アゲハの勘が、行くべきだと告げたのだ。あの金髪少女には、何かある。……まぁ、リリスがついてきたのは想定外だが。


「アプローチって、お前なぁ……あれのどこがアプローチだって言うんだ?」

「人気のない場所に、二人きり……フラグ、立ちやすい」

「いや、何の話だよ……ないから。あいつは決闘とか言ってただろ?」

「決闘……そう言って、アゲハにあんなことやそんなことをするつもり」

「お前は何を言ってるんだ」


……というか、リリスの脳内はどうなっているのだろう。まるで自分が皆からそう言う目で見られているみたいだ。だがそんな事はあり得ない。アゲハは噂のせいでクラスメイトに恐れられているからだ。あの自称魔王の金髪少女に絡まれるのも、おそらくそんな噂を聞きつけたからだろう。


「……よし、ここだな」


そんな事を考えながら歩いていると、アゲハは目的の空き教室に辿り着いた。教室のドアを開けると、そこには既に金髪の少女と茶髪ツインテールがいた。


「ふっふっふ……よくぞ来た、赤羽アゲハよ」

「うっわ……ほんまに来た……コホン。……よく来たなぁ、赤羽さんに……青宮さんまで」


不敵な笑みを浮かべる金髪少女――翠川マオ。そして一瞬だけ嫌そうに顔をしかめ、すぐに朗らかな笑みを浮かべる茶髪ツインテール。アゲハは未だ警戒したような表情で二人を見る。


「来てやったぞ、魔王」

「魔王……?今、我の事を魔王と呼んだか?」

「え、そうだけど……もしかして違ったか?」

「ふ、ふふ……そう、我こそが魔王……唯一にして、絶対なる魔王……!」

「えっと……こいつ、どうしたんだ?」

「安心して〜。魔王って呼ばれて、喜んでるだけやから〜」


茶髪ツインテールが説明してくれるが、よくわからない。おそらくこの金髪少女はあれだ。所謂厨二病というやつなのだろう。魔王って呼ばれてニヤニヤしてるし。前も思ったが、何故アゲハの周りにはこんなやつしかいないのだ。


「あの、そこの……誰だっけ」

「うち?うちは木戸レモン。お嬢様の従者兼この学校の二年生や。気軽にレモンって呼んでもええで〜」

「じゃあ、レモン。なんでそこの魔王様は、あたしを呼んだんだ?」


アゲハは言動が意味不明な魔王――マオではなく、話が通じそうなレモンに話を振ってみる。レモンはツインテールを揺らしながら、アゲハの問いに答える。


「そこの魔王――翠川マオ様はな?赤羽さんの噂を聞いて、赤羽さんに興味を持ったみたいなんや」

「……噂っていうのは?」

「教師をパシリにしただの、そこの青宮さんを手籠めにしただの、学校の不良生徒を片っ端からぶっ飛ばしただの……まだまだあるで」

「いや、どんだけ噂されてんだよ」

「手籠め……?私、アゲハに手籠めにされたの……?それって……もう公認の恋人ってこと……?ふふ、ふふふ……」


なんだか危ない笑みを浮かべているリリスは無視し、アゲハはレモンの語った噂に頭を抱えた。自分の知らない内に、随分と噂が増えていたらしい。……アゲハが自分の噂を否定しないのには、もう一つ理由がある。それは、噂の半分程度は事実であるということだ。不良生徒をぶっ飛ばしたりはしてないが、リリスを手籠めにした噂や、サクラをパシリにした噂は……脚色されているが、事実が元になっている。いちいち判断するのも面倒くさいので、アゲハは噂を否定したりしないのだ。


「つまり、その噂を鵜呑みにした魔王様が、あたしに喧嘩をふっかけてきたってことか?」

「端的に言うと、そうなるなぁ。このポンコツ……もとい、お嬢様はこう見えて純粋やから。こういう性格やし、仲間に会えたと思ったんちゃう〜?」

  

レモンは朗らかな笑みを浮かべながらそう言った。……先程から、ちらほらと辛辣な言葉が聞こえてくるが、アゲハは触れないでおいた。それより、もう一つ聞きたいことがある。


「……なぁ、そのお嬢様ってのはなんだ?まさか、この魔王の事を言ってるのか?」

「ん?知らんの?お嬢様は、翠川グループの社長の一人娘やで?」

「翠川グループ……!?それって、テレビとかに出てる有名なおもちゃの会社だよな?」

「そうそう、あの特撮玩具とかで有名な会社や」

「≪魔法少女シオン≫とか、≪仮面の戦士オニキス≫とかが有名だよな!今年は≪家政婦装甲ベト≫の五十周年で……!」

「……随分と、詳しいんやね?」

「はっ……!?く、詳しくないぞ!?お、弟が見てたのを見ただけだし……!」


――いけない。つい興奮してしまった。アゲハはレモンの不思議なものを見るような視線から目を逸らし、慌てた様子で誤魔化す。――幼少期のアゲハは友達が少なく、よく家でサグルとテレビを見ていたのだが……その時に見た魔法少女ものや特撮にハマってしまい、今も密かに自室で見逃し配信を見たりネットで玩具を注文したりしていることは、ここだけの秘密である。アゲハは誤魔化すために話題を逸らそうと、話を戻した。


「……それより!そこの魔王の要件はなんなんだ!?」

「あ、そうやった。お嬢様、早く用事済まさんと、お昼休み終わってまうよ?」

「はっ……!そ、そうであったなレモンよ!よし、赤羽アゲハよ!この学校の真の支配者を決めるべく、我と決闘せよ!」

「決闘……殴り合いか?」


アゲハは片手でもう片方の手を包み、バキボキと骨を鳴らす。世紀末思考を出してきたアゲハを見て、マオは顔を青くしながら首を横に振った。


「ち、違う違う!そんな野蛮な方法ではない!」

「野蛮……?いやだって、決闘って言えば殴り合いだろ?」

「学校でそんな事するわけなかろうが!決闘と言えば……これだ!」


そう言って、マオは懐から何かを取り出した。それを空き教室の机に叩きつけ、アゲハ達に見せる。――それは、様々な種類の玩具であった。けん玉、めんこ、ヨーヨー……他にも、トランプや花札などのカードゲームもある。何が出てくるのかと警戒していたアゲハは「え?」と間の抜けた声を揃って口に出した。

 

「……もしかして、これであたしと勝負するのか?」

「その通り!昼休みの残り時間……二十五分!その制限時間内で、この中から三つ選んで三番勝負と行こうではないか!」

「な、なるほど。確かに殴り合いじゃねぇな」

「早速勝負……と行きたい所ではあるが。我はこれら全てを極めし者……我が出ては、すぐに勝負は終わってしまうだろう……!よって、まずは我が従者であるレモンと戦うのだ!」

「「……はぁ?」」


アゲハとレモンは、揃って間の抜けた声を出した。レモンは先程の朗らかな笑みを消し、戸惑ったような表情をしていた。どうやらレモンにも想定外のことだったらしい。……レモンは咳払いをして表情を戻し、マオに疑問を呈した。


「……お嬢様〜?そんなん、仕事の中に入ってへんけど〜?」

「くっくっく……レモンよ。我の望む働きをすれば、我の持つ()を与えてやろう。きっちりと望む量を与えてやる」

「……え、ほんまに?」

「ああ!だからさっさと行け、レモンよ!赤羽アゲハに我が力を示すのだ!」

「いや、流石に無茶だろ……?レモンも固まってるし、普通にお前が勝負すれば……」

「――赤羽さん」


アゲハがマオの無茶をたしなめようとすると、レモンが間に入ってきた。その表情を見て……アゲハは、息を呑んだ。彼女の表情は笑顔ながらも、()()()()をその身に宿していた。今のレモンには、まるで肉食獣が睨んでいるかのような凄みがあった。圧倒的な雰囲気に、アゲハは思わず怯む。


「うち、()()()()()()()()()()……かまへんか?」

「……っ」

「――その勝負、私が受ける」

「えっ……リリス……?」


怯むアゲハの前に、リリスが立ちはだかった。レモンは一切動揺せず、獰猛な笑みを浮かべている。


「そちらが二人で来るなら、私達も二人。そこの金髪の相手はアゲハ、あなたの相手は私」

「あらあら……優等生の青宮さんやないの。悪いけどうち、手加減せぇへんで?」

「上等。あなたに勝って、アゲハの強さを証明する」

 

バチバチと、火花を散らすように視線を交わす二人。とてもゲームで勝負をするとは思えない程、彼女達はヒートアップしていた。アゲハはリリスが割り込んできた事に驚きながら、助け舟を出してくれたリリスに感謝の意を示す。


「……ありがとな、リリス。あいつの相手、任せた」

「んっ……アゲハが私にお礼を……!漲ってきた……!」

「うん、台無しだよ」


やっぱりこの変態は、置いてきた方が良かったのかもしれない。

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