第四十五話 忘れ去られた記憶
——「三層」に辿り着いたアゲハ達が見た景色は、とても異様なものだった。辺り一面に床が広がっていて、それより上は赤い空に覆われている。とても城の中とは思えない景色である。
「……ここに、イリーガルの奴がいるのか?」
「……それらしき人影は見えないね」
「オト様、どこ〜?ソードに姿を見せてくださ〜い……」
アゲハ達が辺りを見渡しても、イリーガルの姿も、九番の姿も見当たらない。三人が怪訝な表情を浮かべながら「三層」を進んでいくと——突然、景色が歪んだ。今までの赤い空は鳴りを潜め、「一層」や「二層」に似た「部屋」が、三人の周りに構築されていく。禍々しい装飾が施された厳かな雰囲気の床と壁。そして、部屋の最奥部に二つの石像が現れ、その真ん中に玉座が現れた。一言で表すのなら「王の間」。その部屋の中心には、二つの影があり……玉座の辺りに黒い球体——イリーガルが現れる。呆然としていたアゲハ達の前に、イリーガルは愉快そうな口調でこう言った。
「サプラ〜イズ!驚いたかな、フレアレッド?」
「……っ!イリーガル……!」
「いやぁ、待ちくたびれちゃったよ。君と九番の戦いが見れると思うと、ワクワクしてきちゃって……待ってる間に、こーんな舞台も作っちゃった」
イリーガルは笑い声をあげながら、クルクルとその場で回転する。やがて、イリーガルは回転を止めて玉座にその身を置くと、部屋の中心にいる人影が動き始める。黒いローブを纏った黒髪の少年——九番。そして、その隣に立つ黒い異形の怪物……九番はいつもの通り、無感情な瞳をアゲハ達に向け、口を開く。
「……私は、個体番号九番。「三層」の番人であり、メタフォ部隊隊長。待っていたぞ、フレアレッド。そして四十四番」
「九番……やっとてめぇと、決着を着けられるな」
「フレアレッド……以前までの私とは思わぬ事だ。私は貴様らと並ぶ力を手に入れた……完膚なきまでに、捻り潰す。そこの裏切り者も含めてな……!」
「……っ!サグル……!」
九番に憎しみを込めた瞳を向けられ、マッドは悲しそうに顔を歪める。彼女の小さな呟きは九番には届かず、緊迫とした雰囲気が漂う中——悲痛な表情を浮かべたソードが、イリーガルに向かって叫ぶ。
「ねぇ!オト様は!?オト様は、どこにいるの!?」
「ん?君は……煌水晶種のお嬢ちゃんか。赤羽オトなら——ここにいるよ」
イリーガルがそう呟くと、「三層」に穴が開き……そこから、黒い魔法少女のような装束を身に纏った、赤髪の女性——赤羽オトが現れた。どこか虚ろな瞳をした彼女は、右手に≪赤い剣≫に似た黒い剣を持ち、九番の隣に立つ。それを見て言葉を失ったアゲハ達を見ながら、イリーガルが言葉を紡ぐ。
「——せっかくだから、景品である彼女にも戦ってもらおうと思ってね。助けを求めるだけのお姫様なんて面白くないでしょ?だからそこの十三番と同じように、俺の操り人形にしてあげたんだ」
「「……!?」」
次いであっさりと告げられた真実に、アゲハとマッドが黒い異形の怪物——十三番の方を見る。その姿はアゲハ達の知っている十三番の姿とは大きく異なっていたが……マッドが、息を呑みながら呟く。
「……この気配……確かに、十三番のものだ……」
突然変異種特有の気配を感じとったマッドがそう呟くと、アゲハは怒りに表情を歪め、イリーガルに向かって叫びをあげる。
「てめぇ!あたしらに、味方と戦わせるつもりかよ!卑怯だぞっ!」
「あはは、何甘っちょろい事を言ってるのさ。正義の味方なら、味方は切り捨てるものでしょ?人間はいつも、大義のため、とか、仕方のない犠牲だった……とか言ってるじゃない。なら、君ができない道理はないよね?正義の味方——フレアレッドなら」
「は……?」
とても正気の沙汰とは思えないイリーガルの言葉に、アゲハは間の抜けた呟きを漏らす。——目の前に、存在してはならない邪悪がいる。アゲハに理解できたのは、それだけだった。唖然とするアゲハの肩に、ソードの手が置かれ——彼女の表情は怒りに燃えていた——ソードはアゲハと同じ方向を見ながら、こう言った。
「……アゲちゃん。あいつらぶっ飛ばして、十三ちゃんとオト様を助けてあげようよ。ソードも力を貸してあげるからさ」
「ソード……ああ、そうだな。——行こうぜ、マッド」
「……そうだね。ここまで来たんだ。ボクも覚悟を決めるよ……!」
マッドはアゲハの言葉にそう返し、自身の紫色の腕輪を回す。紫の鎧を纏った戦士——テラバイオレットとなったマッドは、アゲハと並んで武器を構える。そんな二人を見ながら、九番も自身の腕輪に手を掛ける。
「……≪聖鎧装着≫」
——ズバババーン……!キマイラ……!
——マッドネス・ミュータント・ホワイト……!キマイラマッドホワイト……!
白い鎧の上に異形の五色の鎧を纏った戦士——キマイラマッドホワイトに≪聖鎧装着≫したマッドが、銃剣を構えてアゲハ達と対等する。それに合わせ、十三番は咆哮をあげ、オトも黒い剣を構える。
「行くぞ!九番、イリーガル——!」
アゲハの言葉を皮切りに、「三層」の戦いが始まった——
————
≪アァァァァァァァ!!≫
咆哮をあげた十三番が触手の巻き付いた腕の中から爪を振るい、アゲハがそれを剣で受け止める。しかし、その隙をついてオトが剣を振るい、アゲハの剣を弾く。
「くっ……!」
アゲハは素早くその場から飛び退き、自身の周りに火球を出現させ、十三番とオトに向かって放つ。
「——≪翼炎剣・サーチスケイル≫!」
凄まじいスピードの火球が、二人の下へと向かっていく。十三番は少し狼狽えた様子で足を止め、オトが十三番を庇うような場所に立ち、剣に黒い炎を纏わせる。
「…………!」
オトは無言で火球に向かって炎の斬撃を放ち、火球を打ち消してみせる。オトはそのままの勢いでアゲハの方へと向かい、剣を振るう。アゲハも負けじと剣撃を躱し、金色の装飾が施された≪赤い剣≫を振るう。鍔迫り合いになり、アゲハは目つきを鋭くしながらオトに向かって叫ぶ。
「目を覚ませよ、オトさん!あんたはそんなに簡単に操られる人じゃないだろ!?」
「…………」
「なんとか言えよ!オトさん!」
「…………」
オトはアゲハの言葉には答えず、アゲハの剣を力で押し切った。無防備になったアゲハの身体目掛けて、オトの剣が振り下ろされる。
≪——やぁ~っ!≫
「…………!?」
オトの剣が届く直前、アゲハとオトの間に一振りの剣が割り込む。≪赤い剣≫の姿をしたそれは、オトの一撃を受け止め、そのまま受け流した。
≪ソードもいること、忘れないでよね〜!≫
「助かったぜ、ソード!」
≪お礼はあとあと〜!今はこっちに集中して〜!≫
ソードにそう告げられると、アゲハは表情を引き締め、二人の方を見る。二人は既に体勢を立て直してこちらに向かってきており、アゲハとソードに襲いかかろうとしていた。アゲハは剣を構えると、目にも止まらぬスピードで走り出し、オトの剣目掛けて神速の一撃を放つ。
「——≪爆炎剣・ボルカニックドライブ≫!!」
炎を纏った強力な一撃に、オトの持っていた剣が一瞬で砕け散る。——すると、オトの姿が、ハイビスカス柄のアロハシャツ——アゲハが旅行の別れ際に見た服装である——に戻り、オトはそのまま地面に倒れた。
「——オト様!」
元の姿に戻ったソードがオトに駆け寄り、手を握って脈を測る。しっかりと血管が脈打ち、弱々しく息をしている事を確認すると、ソードは涙を浮かべて安堵の息を吐いた。——そんな二人を横目に見た後、アゲハは次いで十三番の方に視線を向ける。
≪アァァァァァァァ……!≫
「お前も、元に戻してやる……!」
アゲハは剣に再び炎を纏わせ、十三番の下に向かっていく。アゲハの周りに複数の火球を出現させながら叫ぶ。
「——≪翼炎剣・サーチスケイル≫!」
≪——アァァ!?≫
「——≪爆炎剣・ボルカニックドライブ≫!」
≪アァァァ——!?≫
複数の火球と、炎を纏った神速の一撃。その二つを無防備にくらった十三番の身体に炎が灯り、黒い触手が炎に包まれて消失する。すると、十三番の身体が白く染まり、アゲハ達の見知った人間の姿に戻る。虚ろな瞳をした十三番の身体がぐらりと揺れ……アゲハによって支えられる。アゲハが心配そうにその顔を覗き込むと、十三番の瞳に光が灯った。
「……フレア、レッド……?なんで……」
「……良かった。元に戻ったんだな」
「元に……ああ、そうだったわね……私は、あの時…………」
「……十三番?」
途端に十三番の身体の力が抜け、彼女は瞳を瞑って言葉を止めた。慌ててアゲハが支えて様子を見ると、十三番の小さな寝息が聞こえた。それを見て安堵の息を吐いたアゲハは十三番を抱え、ソードの元に運んでオトの隣に横たわらせる。十三番の姿を確認したソードも、アゲハと同じように安堵の表情を浮かべて呟く。
「十三ちゃん……よかった」
「……ソード、二人を頼んだぞ」
「言われるまでもないよ〜。……だから、マッドちゃんの所に行ってあげて」
「ああ、もちろんだ」
アゲハは十三番とオトをソードに任せ、玉座の近く——マッドと九番が交戦している方へと走っていく。……このくだらないゲームを、終わらせるために——
————
——マッドと交戦していた九番は、オトと十三番を無力化したアゲハの姿を見て、兜の奥で驚愕の表情を浮かべていた。
(ありえない……!何故、フレアレッドがイリーガル様の術を解いた……!?それはイリーガル様でなければ、解けるはずがないのに……!?)
「——隙だらけだよ、サグル!」
九番が思考を繰り広げていると、二つの銃を構えたマッドが九番の懐に潜り込み、銃の引き金を引く。我に返った九番は銃剣を構え直し、マッドの攻撃を間一髪で防いだ。
「——私を……その名で、呼ぶなっ!」
九番が叫ぶと同時に、彼の四肢の鎧から伸びる触手が、マッドに襲いかかる。マッドはそれを飛び上がって回避し、銃弾を放つ。九番の鎧に、火花が走った。
「ぐっ……!貴様、ちょこまかと……!」
「≪魔双・マッドネスバースト≫!」
マッドが放った紫の光弾を、九番は銃剣を振り回してそれを消し飛ばす。マッドは銃を消失させ、代わりに出現させた剣を構えて九番へと斬りかかっていく。
「——はぁぁぁ!」
「ぬるいっ!」
九番はマッドの一撃を避け、自身の銃剣を振り回す。——しばらく、マッドと九番の剣撃の応酬が続き……時には鍔迫り合い、時には互いの鎧に刃が通る。
「うっ……まだまだ……!」
「……っ、裏切り者如きが……!」
マッドは次いで、空いていた方の手に槍を生成し、剣に炎を、槍に氷を纏わせ、向かってくる九番に合わせてそれを振るう。
「——≪魔双・フレイムダスト≫!」
「ぐあっ……!」
炎を纏った斬撃と、氷を纏った槍が突き刺さり、九番は身体を押さえて膝をつく。九番は顔をあげて、マッドを兜の奥で睨みつけながら、恨みの籠もった声でこう言った。
「何故だ……!何故私が、貴様如きに押されている!?私はメタフォ部隊隊長であり、バベル様の右腕……!貴様如きに、負けるはずがないのにっ!何故っ!」
「……ボクはかつて、君の願いを叶えると決めた。大切な友達である君に、笑顔でいてもらうために……でも、ボクはその願いを果たせなかった。——だから、ボクは!今度こそサグルの願いを叶えるために——君に勝って、君を救ってみせる!この想いは、誰にも負けないっ!」
マッドの言葉を受けた九番は、兜の奥でマッドを睨めつけながら頭を押さえ……腹の奥底に溜まった怒りを吐き出すように叫ぶ。
「ふざけるな!貴様は私の敵だっ!私を救うだと……?妄言を吐くのも大概にしろっっ!!この裏切り者がっっ!!」
九番が構えた銃剣から、巨大な光弾が放たれる。マッドは一瞬身じろぎしたが、光弾を見据えて迎撃の構えを取る。——しかし、マッドが武器を構えるよりも前に、その間に割り込む影があった。
「——≪爆炎剣・ボルカニックドライブ≫っ!」
凛とした声が響くと同時に、巨大な火球によって光弾が真っ二つに引き裂かれる。光弾はマッドにぶつかる事なく床に着弾し、消滅した。火球はマッドの近くに着弾すると、そこから赤髪の少女——赤羽アゲハが現れる。マッドは目を見開いて、呆然としながら呟く。
「お姉ちゃん……!」
「待たせたな、マッド。こっからはあたしも加勢するぞ」
「オ、オトさんと十三番さんはどうしたの?」
「ぶっ飛ばして正気に戻してきた。それより今は——」
アゲハの返事に言葉を失うマッド。そんな彼女を他所に、アゲハは目の前の九番に剣を向ける。アゲハは視線を鋭くしながら、九番に語りかける。
「おい、九番。お前をぶっ飛ばす前に、聞きたいことがある」
「……なんだ?」
「お前は——サグルなのか?」
アゲハの問いに、九番は額に青筋を浮かばせ、兜の奥でアゲハを睨みつける。次いで、地を這うような低い声が、彼の口から発せられた。
「……貴様もか……貴様も、私の事を赤羽サグルと……何度も言ったはずだ。私は赤羽サグルなどではない……!私はメタフォ部隊隊長にしてバベル様の右腕——「九番」だ……!」
「……そうか」
九番の言葉に、アゲハは少し視線を落とし、短く呟く。——それは、決別だった。アゲハの迷いを断ち切る……最後の確認。それを終えたアゲハは、後ろで立ち尽くしていたマッドに呼びかける。
「……やるぞ。手を貸せ、マッド」
「……!……分かったよ、お姉ちゃん」
マッドの返事を聞いて、アゲハは剣に炎を纏わせ、技の構えを取る。マッドは自身の両腕に紫の銃を出現させ、それを九番に向ける。——彼の戦いを、終わらせるために——
「——≪爆剣・フレイムスラッシュ≫!」
「——≪魔双・マッドネスバースト≫!」
——アゲハが放った炎の斬撃と、マッドの放った紫色の光弾が混ざり合い、それは紫色の炎と化す。二人の想いが込められた、最大の一撃——その一撃が、無防備な九番に突き刺さる。
「ぐっ……!?ぐ、うあぁぁぁぁっ……!な、何故だ……!何故私は、最後まで……こいつらに……!——ぐわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
炎の斬撃は九番を貫き、九番は断末魔をあげながらその場で爆発する。——そして爆発が収まると、≪聖鎧装着≫が解かれた九番の姿が現れ……彼は、うつ伏せに倒れる。
「——サグルっ!」
すぐさまマッドが駆け寄り、九番を抱き起こす。九番の顔や身体は傷だらけだったが、かろうじて息をしているのが見て取れる。彼の右腕に着けられていた腕輪はヒビが入っており、巻きついていた触手は消えうせていた。
「生きてる……よかった……サグルっ……!」
マッドは気を失っている九番を抱きしめながら、涙を流し、嗚咽を漏らす。アゲハはそれを見ながら笑みを浮かべ——次いで、とある方向を見て顔をしかめた彼女はマッドの下へ駆け出した。
「——マッド!」
アゲハは九番を抱きしめていたマッドごと身体で覆い、横に向かって転がる。すると、マッドがいた場所を赤い光線が通り抜けた。それを見たマッドが目を見開いて驚く。
「えっ……!?今のは……!」
「——あらら、外れちゃったか」
マッドの呟きに被せるように、低くおぞましい声が辺りに響く。アゲハとマッドが視線を向けると、そこには赤い瞳を開いた黒い球体——イリーガルの姿がある。
「イリーガル……!」
「そろそろ、俺も動く時だと思ってね。もう俺しか残っていないみたいだし……君達と遊んであげるほうが、面白いかなって」
アゲハがイリーガルを睨みつけると、イリーガルはその赤い瞳を閉じ、玉座に置いていた身体を浮かせる。すると、球体である彼の身体が禍々しい光を放ち、その身体が裂けていく。
「なんだ、あれ……」
「お姉ちゃん!サグルが……!」
イリーガルの異様な姿に気を取られていたアゲハは、マッドの叫びに反応し、九番の方に視線を向ける。視線の先では、気を失った様子の九番が宙に浮かんでいるのが写った。宙に浮かんだ九番はイリーガルの方へと向かい……そして、裂け目に吸い込まれた。
「サグルっ!」
「——この子は俺にとって必要な子だ。「支配」の力を持つ腕輪に選ばれた、人間の器……この子の力を使って俺は——君達に勝る力を、手に入れる」
マッドの叫びを遮り、九番を取り込んだイリーガルは一方的にそう告げると、黒い球体の身体を造り変えていく。唖然としているアゲハとマッドの前で、イリーガルは一瞬だけその姿を消す。——すると、イリーガルのいた場所に黒いモヤのようなものが現れ……そこから、白い金属製の巨大な腕が現れる。腕は空間を開いていき、奥から赤い瞳が覗く。
「「……っ!」」
アゲハ達が息を呑んでその光景を見つめる中、徐々にイリーガルの姿が明らかになっていく。
——巨大な胸骨のような胴体が姿を現し、それを中心に機械的な上半身が形成される。
——巨人の如き両足が歩みを進め、床を大きく揺らす。
——黒いモヤの中から覗く赤い瞳が空間から身を乗り出し、金属でできた頭蓋骨のような頭部が姿を現す。
——イリーガルのいた場所に現れたのは、まさに餓者髑髏のような無機質な怪物。その身体にはマッドホワイトのものと見られる鎧が身につけられており、右腕には九番の使っていた巨大な銃剣が装備されている。
≪——僕の名前は……イリーガル?赤羽サグル?いや、どっちでもないな……僕は——そうだ、イリーガルホワイト……こんな所かな≫
「イリーガル様……?まさか、サグルを混ぜ込んで……」
≪おや?裏切り者の四十四番じゃないか?なんで君が生きているんだい?裏切り者は始末しなきゃね。そうだろ?四十四番≫
「……っ!!」
呆然としているマッドの呟きに、イリーガルホワイトは片手の銃剣を彼女の方に向ける。イリーガルホワイトはその赤い瞳を輝かせて、銃剣の引き金を引く。
≪——さようなら。僕のために消えてよ≫
イリーガルホワイトの冷酷な呟きに応えるように、巨大な光弾がマッド目掛けて向かってくる。咄嗟のことでマッドは目を見開き、武器を構える隙すらもなかった。直ぐ側まで迫ってきた自分の死に、マッドが思わず瞳を閉じた——その時だった。
——残酷な音が、目の前から響いたのは。
「がはっ……」
マッドの耳に聞き覚えのある声が響き、次いで、誰かが倒れる音が響く。痛みも感じなかった自分の身体に、マッドが違和感を感じるのも無理はなかった。——やがて、瞳を開けたマッドが、そこで目にしたのは——
「……お姉、ちゃん……?」
——イリーガルホワイトの光弾に身体を貫かれた、赤髪の少女——赤羽アゲハだった。




