第四十二話 非道なる王!その名はイリーガル!
——その後、十三番とソードをこってり絞ったアゲハは、リリスと一緒にベッドに入って寝転がっていた。ベッドが一つ余ってしまっているが、そこを指摘するものは誰もいない。(ちなみに、十三番とソードは窓から捨てられた)
「……狭い、ね……」
「その分リリスが近くていい。いい夢が見られそうだ」
「……もう。そういうこと言うの……ずるい」
「ははっ、もう我慢する理由もないからな。……その寝間着、似合ってるよ」
「……ん、ありがと……アゲハは……えっと……」
「……すまん。家にこれしかなくてさ」
黒を基調としたキャミソール姿のリリスに対して、アゲハは無地の白シャツに短パンといった虫取り少年のような姿をしていた。普段アゲハがお洒落に精を出さない弊害がここに出てしまっていた。白シャツ短パン姿があまりにもアゲハに似合っておらず、リリスが言葉に詰まっている。
「……今度、一緒に服を買いに行こう。前に言ってた、お礼……それに使う」
「え、でもそれだとあたしがお礼されてないか?」
「一緒に、選ぶ……それだけで、私にとっては、お礼」
——アゲハがリリスに勉強を見てもらった「お礼」。アゲハが「なんでもする」と言ってリリスに告げたそれを、まさかアゲハのために使ってもらえるとは。予想外の事だったアゲハは驚きながらも、頬を綻ばせている。
「……リリスが一緒にいて、あたしは幸せ者だな」
「……!わ、私も……アゲハと一緒にいられて、幸せ……」
「はは、ありがとな。旅行が終わったらいつか、服を買いに行こうぜ。約束だ」
「ん……約束」
「……じゃ、おやすみ。リリス」
「おやすみ、アゲハ……」
二人はそう言って、ほとんど同時に瞳を閉じた。互いの温もりを近くに感じながら……そして微笑みながら、二人はゆっくりと眠りについた。
————
——それから二日間。アゲハ達は、マオの企画した旅行をとにかく楽しんだ。
「ミドリちゃーん!真っすぐ真っすぐー!」
「Go straight!とにかく真っすぐデース!」
「ミドリ!曲がるんじゃないぞー!」
「貴様ら、さっきからそれしか言っていないじゃないか!もっと細かい指示を寄越せ!」
「二時の方向に向かって歩いてください。今の状態から十五度回転し、七歩進んだ先にスイカがあります」
「細かすぎる!カーナビか!あと耳元で囁いてくるな堅物女!」
ミコトが提案した、先代ゴシキジャーによるスイカ割りは予想外に白熱し、最終的にはミドリが自力でスイカに辿り着いた事で歓声が湧き上がった。
「……え、魔王……泳げる、の……?」
「ん?青宮リリスは泳げないのか?」
「泳げる、けど……魔王が泳げるの、意外……」
「ふふん、これでも小さい頃はたくさん習い事をしていたのだ。昔取った杵柄という奴だな。それより……」
「アゲハちゃん、全然浮かないよ……足は動かしてるのに……」
「うーん……おかしいな。あたしはこれで泳げるようになったんだが……」
「身体が丸まってるんとちゃう?もっと姿勢を真っすぐにせんと」
「……わたしからすれば、桃橋サクラが泳げないほうが意外だな。あんなにでかい浮き袋を持ってるくせに……」
海の浅瀬でアゲハとレモンから泳ぎ方の指導を受けるサクラを、マオが恨みがましい目で見つめるという出来事もあった。そして、風呂と部屋のメンバーを決めるくじ引きでは——
「……!アゲハ、赤いくじ……!」
「お、今日は一緒だな」
「ん……!アゲハの身体、堪能する……!」
「……ミコトさんやサクラ姉もいるんだから、あんまり変なことはするなよ?」
無事にアゲハと風呂も部屋も一緒になったリリスが、歓喜のあまりに風呂でずっとアゲハに抱き着くという、はたから見ればかなり異様な行動を取ったりした。アゲハは一応小言を言っていたが、満更でもない様子で過ごしていた。——そして、あっという間に時は過ぎて……気づけば、解散の時間になっていた。
「——えー、それではこれにて、わたし、翠川マオ企画の夏休み交流旅行はお開きとなります。お集まりいただいた皆様には感謝の意を述べると共に、最後にわたしから皆様方への激励の言葉でこの場を締めさせて頂きたく——」
「マオちゃん。堅苦しいのは抜きにしよう。せっかくの旅行なんだ。最後まではっちゃけようじゃないか」
マオが外面全開で述べた締めの言葉をオトが途中で止め、マオに向かってそんな事を告げる。マオはハッとした表情で言葉を止めると、咳払いをしていつもの調子に戻り、皆に向かってこう述べた。
「皆、旅行は楽しめたか!?楽しめたという者は、わたしのように拳を突き上げろ!もっと楽しめたという者は、声をあげるのだ!ではもう一度行くぞ——皆、旅行は楽しめたかー!?」
——マオの口上に、その場にいる全員が声をあげ、拳を高く突き上げた。他九人の反応を見て、マオの瞳が若干潤み、彼女はそれを隠すように満面の笑みを浮かべた。
「ありがとう、皆!それでは解散とする!各自、事故やトラブルに気を付けて帰ってくれ!またこうして集まれることを、楽しみにしているぞー!」
マオがそう述べると、もう一度彼女の回りで歓声が起こるのだった——
————
——マオの手配した車で送ってもらったアゲハ達は、それぞれの家へと向かって帰路についていた。アゲハ、リリス、サクラ、そしてオトは家が近いため、四人一緒に歩いていた。
「……凄い旅行だったな」
「……とても、楽しかった。良い、思い出」
「夢のようなひとときでした……けど、ちょっと身体が痛いような……」
「遅れて来た筋肉痛だろう。サクラはかなり動いていたからな……あとでマッサージをしてやろう」
「え、遠慮しておきます……」
しんみりと旅行を振り返るアゲハ達と、サクラにマッサージを申し出て断られるオト。前者との落差はあったものの、四人は久しぶりに訪れた平穏を実感していた。
「……ところでアゲハ。その小脇に抱えている可愛い子たちは誰だ?」
「ああ、これか?……まぁ、忘れ物みたいなやつかな」
アゲハはずっと抱えていた二人の少女——十三番とソードを地面に置いて、身体を揺する。
「おーい、起きろー。着いたぞー」
「……ハッ!?私は一体、何を……!?」
「え……?ソード、生きてる……?」
「……!?美少女が二人……!?アゲハ、いつの間にこんな可愛い子たちを拾ったんだ!?」
オトが驚愕の目で見つめてくるので、アゲハはため息を吐いた。——一日目の夜にアゲハにこってり絞られて窓から捨てられていた二人だったが、マオの別荘に二人を残しておくのもよくないと思ったアゲハが、帰る直前に拾ってきたのである。アゲハは二人を指し示しながら、オトにこう言った。
「……こいつら、オトさんにあげるよ。余計なことばっかりする変なやつらだけど、仲良くしてやってくれ」
「い、いいのか!?い、いやしかし二人共どう見ても子供——ん?ちょっと待て、そっちの黒髪の子はなんだか怪しい雰囲気が……」
「ひっ……!?なんなのこの人間、よくわからないけどとっても嫌な感じがするわ……!」
「オトさん……?その名前、何処かで……それに、めちゃくちゃソード好みの人……」
オトに訝しげな視線を向けられ怯えている様子の十三番に、オトに何やら熱っぽい視線を向けるソード。そんな三人から目を逸らしたアゲハは、リリスとサクラと並んで歩き出す。
「アゲハ……アレ、放っておいて……いいの?」
「大丈夫だろ。オトさんは紳士だからな。法律に引っかかる事はしないと思うぞ」
「そ、そういう問題なのかな……?」
アゲハはサクラの疑問には答えず、二人と一緒にその場を後にするのだった——
————
アゲハに置いていかれたオトは、十三番とソードと共に愚痴りながら歩いていた。
「そこでアゲハはなんて言ったと思う?「オトさんはスイカ割りの棒を持つな。スイカじゃなくて海が割れるだろ」だぞ!?酷いと思わないか!?」
「え〜、わかりますぅ〜。ソードもぉ、アゲちゃんに超惚気話聞かされた挙句、絞められてポイされたんですよぉ〜」
「全く、あの弟子は師匠であるこの私を蔑ろにするきらいがあるな。今度イタズラし——コホン、その身を持って分からせる必要がある」
「賛成ですぅ〜。いっちょアゲちゃんに、煌水晶種の力、見せちゃおっかな〜」
オトの愚痴に同調しながら、媚びるような口調でアゲハへの復讐を誓うソード。妙に馬が合っている二人を他所に、十三番は冷や汗を流しながら、辺りを見渡して逃げる機会を伺っていた。
(これは由々しき事態よ。突然変異種として生きてきた数十年の中でも、一番のピンチだわ……!よりにもよって先代フレアレッドに出会うなんて……!私の正体が露見したら、殺されちゃう……!)
——先代フレアレッド。十三番のような古参兵の突然変異種なら、誰でも知っている破壊の権化。突然変異種を見たら切っては捨て、一瞬で命を奪う怪物——様々な逸話で二年前から語り継がれている存在である。気分はまさしく獅子に狙われる兎。十三番が機会を伺って逃げようとしているのも、無理もない話である。
(……よし。さっさと逃げるのよ十三番。これでも逃げ足だけには自信はあるんだから……!)
そう心で念じて、十三番はすり足で逃げようとすると……突然、オトによって肩を掴まれた。十三番はビクーッと飛び上がりそうになり、目を瞬かせる。彼女は声を裏返らせながら、叫び声をあげた。
「な、何かしら!?私はなんにもしてないわよ!?だから命だけは——」
「——伏せろ」
「へ……?」
十三番が間の抜けた声を上げると同時に、オトは十三番の肩を掴んで一緒にしゃがむ。すると、バン、と破裂音がなり、二人の頭の上を何かが通り過ぎた。それを見て、十三番は顔を青ざめさせる。
「な、何……今のは……?」
「——ほう、今のを躱すか」
十三番が声を上げると同時に、聞き覚えのある声が聞こえ、彼女は顔を上げる。——すると、そこには銃剣を構えた黒髪の少年——九番が、そこに立っていた。
「た、隊長……!?」
「……ほう。君がマッドの報告にあった……なるほど、確かにサグルにそっくりだ」
目を見開いて驚く十三番を他所に、オトは九番を見て笑みを浮かべる。オトは十三番とソードを庇うように立ち、九番に向かって喋りかける。
「見ないうちに随分とでかくなったじゃないか。叔母さんの顔を忘れたのか?そんな物騒なものを向けられるいわれはないぞ」
「……貴様も勘違いしているのか。私は赤羽サグルではない。私はメタフォ部隊隊長、九番——そこをどけ。元フレアレッド。処刑の邪魔だ」
「……処刑……君はこの黒髪のレディを狙っているのか?だとしたら、退くわけにはいかんな」
「そいつは突然変異種だ。組織の裏切り者……バベル様の意志により、抹殺する」
「…………!」
裏切り者と呼ばれ、十三番はないはずの心臓が高く跳ねるのを感じた。彼女は要注意個体などと呼ばれているが、組織への忠誠がなかったわけではない。多少趣味に天秤を傾ける自覚はあったが、それでも組織のためにと頑張ってきた——それをあっさりと切り捨てられて、十三番は生まれて初めてショックを受けた。
「……突然変異種だと?」
「…………!」
次いで、十三番は自分の窮地に気がついた。目の前の元フレアレッドに、自分の正体が知られた……このままでは、九番の処刑がなくとも、殺されてしまう。十三番は、なんとか弁明の言葉を紡ごうとするが——
「……っ…………っ」
言葉が出てこなかった。もう言い訳できる余地などない。それほどまでに、十三番は切羽詰まっていた。生まれて初めての感情に戸惑い、恐怖に呑まれ……言葉が出せなかったのだ。彼女はギュッと目をつぶり、服の裾を掴んだ。このまま殺されてしまうのだろうか——そんな事を考えていると——
「——だからどうした。この子に害意がないことなど、見れば分かる。ならば、理不尽に処刑されるのを、黙って見てるわけにはいかない」
——凛とした声が、十三番の耳に響いた。顔をあげると、オトは変わらず十三番とソードの前に立ちはだかり、九番の方を向いている。十三番は、目を見開いてオトを見ていた。
「元フレアレッド……」
「はぁ~……かっこいいよぉ~……」
十三番は驚愕の声を、ソードはピンク色の声を投げかける。オトは二人に視線だけ向け、笑みを浮かべた。そして、九番の方に視線を向け、こう告げる。
「さて、私を相手取るか?言っておくが、私はかなり強いぞ?」
「……図に乗るな。貴様一人で何ができる」
「できるさ。人間の相手なら何度もしてきたからな」
「……なんだと?」
「君は人間だろう?君からは突然変異種特有の、怪しい気配がない……今まで突然変異種とずっと戦い続けてきたから分かる。——そうだろう、サグル」
「……っ!貴様まで、私を人間と……!」
九番は否定しようとして……口ごもる。……マッドとの戦いで、九番は自分の存在に揺らぎを感じていた。自分は本当に突然変異種なのか——一度生じた疑いは水の波紋のように広がり、九番を苦しめていた。
「わ、私は……人間では……」
「……よりにもよって、自分自身の仇を名乗るか、サグル。君は人間だ。メタフォ部隊隊長でも、九番でもない。ただの——人間だ」
「ぐっ……!」
「……私と一緒に帰ろう、サグル。まだ……やり直すことはできるはずだ」
「……だ、黙れっ!私は人間では……!人間、では……!」
九番は頭を抱え、オトを睨み返す。オトは何処か悲しそうな表情を浮かべながら、九番に向かって手を差し出している。それにより九番の頭がまたざわめき——その瞬間。虚空から、声が響いた。
≪——そうとも、君は人間じゃない。九番≫
「……っ、この声は……!」
≪——久しぶりだね、赤羽オト。俺の事、覚えててくれた?≫
——低く、朗らかな声が響くと同時に、オトの前に何者かが姿を現した。その姿を見て、オトも、九番も——言葉を失った。
「あははははは!ひっさしぶりの地球だなぁ!あ、そうでもないか。最後に来たのは二年前だもんねぇ!」
——そこにいたのは、冠とマントを被った黒い球体だった。一筋の光も通さない漆黒の球体が、禍々しい冠とマントで飾られている。手足も、顔も、何一つない……一体の突然変異種。
「イリーガル……!」
「我が王……!何故、このような場所へ……!」
オトに名前を、九番に身分を呼ばれた球体——イリーガル。彼は心底愉快そうに笑い、九番の疑問に答える。
「だって、久しぶりに赤羽オトを見たからさぁ。なんか顔合わせたくなっちゃったんだよねー。やっほー、赤羽オト。他の皆は元気にしてるー?」
「イリーガル……!どの面を下げて、私の所へ来た!」
「あはは、怒らないでよ赤羽オト。綺麗な顔が台無しだよ?」
「黙れ!貴様のした所業、忘れたとは言わせんぞ!」
オトは怒りでその端正な顔を歪めて殺気を放ち、イリーガルに怨嗟の視線を向ける。対してイリーガルは特に怯えた様子もなく、その場にプカプカと浮かんでいる。
「うーん、相変わらず凄い殺気だ。二年前と変わらないね、君は」
「……そんなくだらないことを言うために、私の前に現れたのか?」
「まさか、違うよ。俺は予言の通りに動いてるだけ……君たちゴシキジャーに、今度こそ勝つためにもね……だから——消えてよ、赤羽オト」
「……っ!」
イリーガルの言葉と同時に、彼の身体に赤い瞳が現れる。それはオトの姿を捉えると、彼女に向かって凄まじいスピードで赤い光線を放つ。オトが目を見開き、立ち尽くしていると——その光線は、真っ二つに切り裂かれた。光線は見当違いの方に飛び、その姿が掻き消える。そして、蠱惑的な雰囲気を纏った幼い声が、オトの耳に響く。
≪ちょっと!ソードの運命の人に手ぇ出さないでよね!≫
「……!?君は……ソード……!?」
光線を切り裂いた、≪赤い剣≫——ソードは、身体を武器にした状態でオトの前を浮いていた。イリーガルは瞳を消失させると、興味深いものを見たかのようにこう言った。
「……なるほど。煌水晶種か……相変わらず恐るべき力だね。予言を覆して見せるとは」
≪突然変異種如きが偉そうに喋らないでくれる〜?あんたの声って凄く耳障りなの≫
「それは残念だ。俺はもっと君とも喋りたいんだけどな」
≪気色悪〜い。ソードは気に入った奴としか話さないもんね〜≫
ソードは挑発するようにそう言うと、少女の姿に戻り、オトを庇うように立った。彼女は視線を鋭く、イリーガルを睨みつける。
「ソードがいる限り、絶対にこの人は傷つけさせないよ」
「勇敢なお嬢ちゃんだ。——だから残念だよ。その宣言を破らせちゃうんだから」
「……?何を言って……」
「十三番。——目覚めろ」
イリーガルがそう呟くと、今までオトの後ろに隠れていた少女——十三番の瞳が大きく見開かれる。彼女は胸を押さえ、その場で蹲り始めた。
「うっ……あ……うあぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「なっ……!?どうした、黒髪のレディ!?」
「い、たい……身体が、熱……い……」
「大丈夫だ、すぐに助けてやる。今すぐに、うちの医療スタッフを——」
オトは、その言葉の先を告げることができなかった。——オトの身体が、黒い触手によって貫かれていたのだ。身体を貫かれたオトは、十三番の方を見て、呆然としながら呟く。
「……何、を……」
「……っ!違うの、違うの……!私の身体が、勝手、に——う、あ……うあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
十三番がもう一度絶叫をあげると同時に、その姿が触手で覆われ、本来の姿——突然変異種としての姿が現れる。しかし、その姿は通常の「メタフォ」と異なり、黒く禍々しい姿をしていた。
≪アァァァァァァァ!!≫
「よーし、よくやった。良い子だね。ほら、赤羽オトをこっちに連れてきて」
「……っ!待ちなさい!その人を離して!」
ソードの叫びも虚しく、気を失ったオトから触手を引き抜いた十三番は、オトを担いでイリーガルのもとへ飛ぶ。そして、イリーガルの近くに彼女を置いた。十三番と横に並んだイリーガルは、平坦な声でソードにこう告げる。
「ごめんね。俺の予言を現実にするには、こうするしかなかったんだ」
「何を言って……!ソードの運命の人に、何するつもりっ!?」
「何もしないよ。赤羽オトには、最終ゲームの景品になってもらう。景品がないと、誰も参加してくれないでしょ?」
「ふざけんな……!その人を、返せっ!」
「——バベル」
ソードがイリーガルに殴りかかると同時に、突然現れた竜の鱗のような鎧を纏った黒い異形の怪物——バベルが剣でソードの拳を受け止める。バベルは剣でソードの拳を弾くと、彼女に剣を向ける。
「我が王に手を出すな。煌水晶種。さもなくば元フレアレッドは殺す」
「……っ!卑怯者!」
「九番。いつまで惚けている。十三番から元フレアレッドを受け取れ」
「……はい。承知しました」
ソードの叫びを無視したバベルは地に伏せていた九番に指示を飛ばし、立ち上がった九番はイリーガルの近くに移動し、十三番から気絶したオトを受け取る。顔を青くして睨みつけてくるソードを見ながら、イリーガルはこう告げた。
「——さぁ、最後のゲームを始めよう」
——イリーガルがそう告げると同時に、世界が徐々に塗り替えられていき、周囲の景色が歪んでいく。大地が揺れ、一部の建物が消え、光のなかった空は赤く染まっていく。そして、イリーガルの周りを中心として、黒い城が姿を現した。城はイリーガル達を包み込むように形を変え——やがて、要塞のような形に変化を遂げた。イリーガルの声が、城の中からソードの耳に響いてくる。
≪——赤羽オトを救いたいなら、この城の最上階までおいで。勿論、今のゴシキジャー達と一緒にね≫
——破滅の足音が、直ぐ側まで迫っていた。




