第三十六話 魔王の葛藤
マッドと十三番が九番について話していている途中。アゲハはマッドの部屋を抜け出して、自分の部屋に戻っていた。十三番にラブコメのネタを提供したくないというのもあるが、一番の理由は九番に関する話を聞きたくなかったからだ。——九番が自分の弟かもしれない——そう十三番から聞いた時から、アゲハは九番の事を思い出すことを避けていた。
(……家族の事を、考えたくない)
——アゲハは昔から、家族の事を話すのが苦手だった。両親はサグルばかりを可愛がって、アゲハのことなど見向きもしてくれない。弟より出来の悪かったアゲハは、常に親から小言を言われていた。唯一親の関心を引いたのは、小学生のアゲハが下級生に暴力を振るった時だった。弟とは距離を取るようにと告げられ、オトの家に送られた時の記憶は今でも忘れられない。そして、あの事件が起きて——アゲハは一度、壊れてしまったのだ。
(……サグル……)
かつて、自分を慕って、素直に後をついてきてくれた弟。お人好しなんて言葉が生温く感じるほどの善人。他者を惹きつける不思議な魅力を持っていた、大切なアゲハの弟。そんな彼は、両親と共に九番に殺された。九番に喰われて、その姿を奪われたのだ。
(……九番は偽物だ。サグルの姿をしているだけなんだ……あいつはもう、この世にいない)
——九番が、サグルかもしれない——
そんな希望を、アゲハは心の内で否定する。十三番が告げた事は嘘八百なのだと、自分に言い聞かせる。また騙されて、また傷つきたくない。サグルの事を思い出したくない。アゲハの胸中は、そんな思いでいっぱいだった。
「…………」
窓の外から覗く星空に浮かぶ月が、流れる雲によって隠されていった。
————
「ふぁ……」
見慣れたアパートの天井の下で、わたし——翠川マオは欠伸をしながら身体を起こす。スマホから鳴っているアラームを止めて、さっさと布団を畳む。
「……あ」
ふと、視線を動かすと、昨日来ていた部屋着やら下着やらが無造作に転がっていた。また洗濯を忘れた。昨日の迂闊な自分を恨みながら、洗濯する暇もないのでため息を吐くだけに留めておく。わたしは衣類から視線を逸らすと、すぐさま台所に向かって朝食の準備をする。今日の朝食は目玉焼きとベーコンを乗せたトースト。焼き上がったトーストにフライパンで焼いた目玉焼きとベーコンを乗せれば完成。食欲のそそる香りを感じながら、わたしは食卓にトーストと牛乳を並べて、食事を始める。一応小さい頃から牛乳を飲んでいるのだが、全く背が伸びる兆しがない今日この頃。わたしは世の不条理を嘆きながら、美味しいトーストを堪能した——
————
——というのが、朝六時での出来事。食事を終えたわたしはちゃっちゃっと学校にいく用意を済ませ、玄関を出る。そしてきっちりと鍵を閉めて、懐にしまい……さて学校に行くぞと振り返ると、わたしはうげっ、と顔をしかめた。わたしの視線の先には、茶髪ツインテールの少女——レモンが立っていた。レモンはにやりと笑みを浮かべながら、わたしの元に近寄ってくる。
「おはよ、お嬢様」
「……レモン。お嬢様は止めてって言ったでしょ?今のわたしはあなたの主じゃないよ」
「でも、今さら名前で呼ぶのはなぁ。うちとしては、この呼び方の方がしっくり来るんやけど」
「この前は名前で呼んでくれたじゃん」
「過去は過去、今は今や。細かいこと気にしてたら将来ハゲるで」
「なっ……!もういい、先に行くっ!」
レモンの発言にイラッときたわたしは、そっぽを向いて早歩きで歩き出す。しかし、レモンは鼻歌を歌いながらわたしの横に並んで呑気に歩いている。足が長い彼女の歩幅はわたしよりも大きい。
「ついてこないでっ!」
「うち、通学路こっちやから」
「じゃあ追い抜かすか家に帰れば!?」
「無茶言うわぁ。うちに遅刻せぇっちゅうんか?」
「わたしについてくる理由がないっ」
「残念やけどうちにはあるんや」
駄目だ、口論でレモンに勝てる気がしない。間髪入れずに言葉を投げかけてくる。おかげで反論する気力も失せたので、わたしは早歩きを止める。レモンは満足そうに笑みを浮かべた。なんかイラッとした。
「……つーん」
「お嬢様、どうしたん?ワサビでも食べたんか?」
「違う!無視してるの!」
「あら、悲しいわぁ。うちと話すんがそんなに嫌か?」
「……つーん」
「……そうか」
わたしが頑なな態度を取っていると、レモンは興味を失ったかのようにわたしから視線を逸らした。レモンは先程まで浮かべていた人当たりのいい笑みを消すと、足早にわたしの下を去っていった。心がチクリと痛み、わたしは顔を苦痛に歪める。
「……これでいいんだ。これはレモンを守るためなんだ」
自分に言い聞かせるようにそう呟き、わたしは重い足取りのまま学校へと向かった。
————
≪……貴様は本日付けで、世話係兼ボディーガードをクビにする。今後は普通の女子高生として生きるがいい——≫
わたしがそう言ってレモンをクビにして、一週間が経った。クビにした理由はもちろん、これ以上彼女を危険な目に合わせないためだ。——幼い頃からずっとわたしの世話と護衛をしてくれた、年下の使用人。わたしの大切な友達……まぁ、そう思ってるのは多分わたしだけだけど。そんなレモンが大怪我を負ったのは、つい先日の事。短期間に渡る二度の大怪我……世話係兼ボディーガード、そしてゴシキジャーであるレモンにとっては、日常茶飯事。彼女はわたしを守る度に危険な目にあって、傷を負って、入院して……何度肝を冷やしたかわからない。レモンが入院している間は、ずっと胸が痛かった。自分が情けなく思えた。守られてばかりの自分が、嫌になった。——だから、レモンをクビにした。これ以上レモンが無理をする姿を、見たくなかったんだ。
「……はぁ」
思わずため息を吐く。今は教室の中だというのに、いつものように魔王を演じる気にはなれなかった。まぁ、教室の中にいる時は、勉強してばっかりなんだけどね。
——翠川さんって、いつも静かだよね。
——よく休み時間に勉強とかできるよねー。あたし無理。
——てか、デフォで金髪碧眼ってヤバくね。羨ましー。
耳を澄ませると、クラスメイト達のひそひそ話が聞こえてくる。……生まれつきであるこの金髪と蒼い瞳は、正直言ってかなり目立つ。何度か生徒指導に呼ばれたこともあるし、小さい頃はこれが原因で避けられたこともある。あまりいい思い出はないのだが、わたしは案外この髪と目を気に入っていた。理由はなんかカッコいいから。ちなみに、レモンは出会った時にわたしの事を外国人と勘違いしていたのだとか。閑話休題。
(……レモン、どうしてるかな)
ノートにペンを走らせながら、レモンの事を思い浮かべてしまう。一方的にレモンを突き放しておきながら、考えるのは彼女の事ばかりだ。我ながら自分勝手だと自嘲する。だが、わたしにとってレモンの存在はそれほど大きかったのだ。彼女の世話がなくなってから、わたしは自分がいかに家事ができないのかを実感している。この一週間を乗り切るのも大変だった。ボディーガードの必要性も、ゼロじゃなかったし……
(……でも、もう戻れない。戻っちゃいけない)
レモンはわたしが守る——なんて驕った事は考えていない。だけど、わたしはもう十八歳だ。自分の身くらい自分で守れなくてどうする。レモンのためにも、自分のためにも、この関係性を元通りにするわけにはいかない。元通りにしてはいけない。——たとえ、レモンが元通りになることを望んでいても——
————
「はぁぁぁ……」
……昼休み。今日も今日とて空き教室に集まったアゲハ達は、そこで信じがたい光景を目にした。
「……レモン、お前何してんだ?」
「はぁぁぁぁぁぁぁ」
「……あからさまな、ため息」
アゲハの問いにため息で返した、茶髪ツインテールの少女——レモンを、リリスも呆然としていた様子で見ていた。机の上で肘を抱えて横になっているレモンを。
「木戸さん、そんなところで寝転んでいたら、危ないですよ……?」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「いや、ため息で返事するなよ」
心配そうなサクラの言葉に対して、わざとらしいため息で返すレモンにアゲハはツッコむ。視線だけはサクラの方を向いていたので、おそらく会話する気だけはあるのだろう。会話する気だけは。
「ん……?魔王はいないのか?」
「……はっ」
「今度は、鼻で笑った……」
「あわわ……木戸さんが、喋れなくなっちゃいました……」
珍しくレモンが一人である事をアゲハが指摘すると、レモンは自嘲気味の表情を浮かべて鼻で笑う。明らかに様子のおかしい彼女に、アゲハ達は戸惑いの表情を浮かべていた。三人は顔を寄せ、レモンに背を向けながらひそひそと話す。
「……どうしたんだ、こいつ。なんか変なもんでも食ったのか?」
「顔色は、健康そのもの……けど、キレがない」
「さっき授業を受けていたときは、いつも通りだったけど……明らかにおかしいよね……」
そんな三人の話が聞こえたのか、レモンがムクリと身体を起こす。レモンは机の上であぐらを書いて——スカートの中身が見えることも躊躇せずに——つま先でトントンと貧乏ゆすりを始めた。
「ちょ、レモン!見えてる見えてる!」
「はぁぁぁぁぁぁ」
「……これは、重傷……ため息、人間……」
「き、木戸さんっ……!はしたないですよっ……!」
人としての尊厳を捨て始めたレモンを、アゲハとサクラが机から下ろす。力の入っていない身体はそのまま倒れてしまいそうだったので、左右をアゲハとサクラで支える。その時、不可抗力でアゲハとサクラの豊かな胸がレモンの腕に押し付けられ……何故か、レモンの顔が不機嫌そうに歪んだ。
「チッ」
「おい、こいつ今舌打ちしたぞ」
「情緒、不安定……」
「木戸さん、どうしちゃったんだろう……」
三人の心配するような視線を受けたレモンは、バッとアゲハとサクラの腕を振り払うと、教室の床に再びあぐらをかいて座り込んだ。再び、レモンのスカートの中身が三人の視界に入る。
「駄目だこいつ……早くなんとかしないと……」
「……レモン、意外と……派手……」
「おいこら、何見てんだ。せめて目は逸らしてやれよ。確かにあたしも派手だとは思うけど」
「…………」
「あ、木戸さんが正座に……」
流石に下着の柄を指摘されるのは恥ずかしかったのか、レモンは無言で足を閉じた。不機嫌そうな表情も真顔になり、頬が少し赤く染まっていた。
「……次見たら金取るで」
「わ、悪い……けど、目の前で足開かれたら見えるだろ」
「やっと、言葉、喋った……」
「せやな。人の下着を覗く変態共がおったからやけどな」
「す、すみません、木戸さん……」
「別に気にせんでええよ、桃橋先生。単なる八つ当たりやから」
「あっ、こいつ!サクラ姉の時だけあからさまに態度変えやがった!」
「……えこひいき。発言の撤回を要求する。私はアゲハ以外の下着では興奮しない」
アゲハとリリスはレモンに抗議を——リリスの発言はかなりずれたものだったが——するが、レモンは口笛を吹きながら視線を逸らす。少し見ない間に随分とふてぶてしくなったレモンの姿に、アゲハは胡乱げな表情を向ける。
「……なぁ、今日のお前、なんか変じゃないか?」
「……別に。ちょっと疲れただけや」
「疲れただけであんなに挙動不審になるのか……?」
「ん……今すぐ休んだほうが、いい……」
アゲハは先程までのレモンの奇行を思い出して、顔を引きつらせる。リリスはレモンに哀れむような視線を向けながら助言をした。
「休む……」
すると、リリスの言葉を聞いたレモンが、途端に顔色を青くして、ボソリと小声で何かを呟いた。聞き取られなかったその呟きにアゲハが首を傾げていると——正座をしていたレモンの頬に一つの雫がつたった。いわゆるアイドル泣きと呼ばれるその現象は、アゲハ達の瞳を大きく見開かせた。
「ど、どうしたんだレモン!?」
「……天変地異の、前触れ……?」
「あわわわ……だ、大丈夫ですか、木戸さん……!?」
「わ、わからへん……なんか、急に出てきて……」
戸惑う三人と同じく、レモンも自分の涙が流れる理由を理解できていないようだった。泣いている本人もそれを見ているギャラリーも困惑しているという謎展開である。レモンは何度もハンカチで目元を拭うが、涙が止まることはなかった。
「そ、そうだ!あたし、今日は購買の限定カレーパン買ったんだ!ほら、これでも食えよ!辛くて美味いぞ!」
「……私、飴玉持ってる……食べる?」
「わ、私は……す、すみません、先ほど買った未開封のお茶しかなくて……」
「べ、別にいらんて!必要ないから!」
挙句の果てに心配そうな表情で食べ物を渡してくる三人に、レモンの心臓が居心地の悪さでキリキリと痛む。レモンが必死に三人の施しを受け取り拒否していると——突然、空き教室の扉が開かれ……教室の中で、何者かの大きな声が響いた。
「——そこまでだ!姉さんに何してる、ふとどきもの!姉さんに手を出す奴は、僕がゆるさないぞ!」
「ゆるさないぞー!」
——突然入ってきた二人組に、一同は呆気に取られる。片方は、片目が前髪で覆われている、小柄な茶髪の少年。もう片方は、首まで伸びた髪を短いツインテールにした小柄な茶髪の少女。二人はそのまま教室の中に入り込むと……レモンとアゲハ達の間に、身体を割り込ませた。
「姉さんに手を出すな、わるものめ!」
「そうだそうだー!おねーちゃんをいじめるなー!」
「は、はぁ……?」
「……誰?」
「ど、どちら様でしょう……」
小さい子供二人に指を刺されたアゲハ達三人は戸惑ったように首を傾げる。アゲハがレモンに視線を向けてみると、ポカンとした表情で子供二人を見あげていた。余程驚いているのか、涙はすっかりと止まっているようだった。様子のおかしいレモンは(ずっと様子はおかしいのだが)、カクカクと身体を震わせながら呆然と呟く。
「……ライム、ユズ……?なんで、二人がここに……」
「姉さん、だいじょうぶ!?大声が聞こえたけど、こいつらに何をされたんだ!?」
「おねーちゃん、もうだいじょーぶだよ!ユズたちがたすけてあげるから!ね、ライム!」
「ああもちろんだとも、ユズ!二人で姉さんを守るんだ!」
「「「……姉さん?」」」
——それはもしかして、レモンのことなのだろうか——と三人が視線を向けると、当の本人は目を白黒とさせながら、驚愕の表情を浮かべるだけである。そんな混沌とした状況の中…………二度あることは三度あるという言葉を体現するかのように、もう一人の人影が教室に入ってきた。
「ちょっと!ライム君、ユズちゃん!勝手に入っちゃ——あっ」
「「「「あっ」」」」
教室に入ってきた、金髪碧眼の少女——マオ。意図せぬ久しぶりの再会に、一同は間の抜けた声をあげるのだった——
————
「……僕は木戸ライム。レモン姉さんの弟です。よろしくお願いします」
「ユズはユズー!おねーさんたち、レモンおねーちゃんのおともだちだったんだね!かんちがいしちゃったよー!」
放課後。アゲハの家の近所の公園で、茶髪の少女——ユズの声が響き渡る。押しのけられた茶髪の少年——ライムはニコニコと笑みを浮かべているユズの脳天に手刀をくらわせた。
「おいこら、失礼な口を聞くんじゃない」
「いたっ!ちょっとライム、なにするのー!」
「まずは謝罪が先だろう。皆さん、本当にすみませんでした。まさか姉さんの友達だとは思わず、尊大な態度を取ってしまい申し訳ありません。今後はこのようなことがないようにしますので——」
「ライム、かたくるしいよ!ユズにもわかることばでしゃべって!」
「馬鹿を言うんじゃない。お前のレベルに合わせたら、僕の格が下がるだろう」
「あー!しつれいだー!ねーねーおねーちゃん、ライムがユズにぶれいをはたらいてくるー!」
……外見は小学生くらいに見えるユズに、レモンはされるがままに肩を揺さぶられていた。困ったように眉尻を下げているレモンをとそのきょうだいを、アゲハ達は呆気に取られた様子で見ていた。
「……なんか、変わった奴らだな」
「語彙が、半端じゃない……」
「まだ小さいのに、凄く賢い子なんだね……」
率直な感想を述べるアゲハと、二人の語彙力の高さに感心するリリスとサクラ。三人の呟きが聞こえたのか、ライムがサッと一礼し、その場に跪く。
「恐縮です。まだまだ若輩者故、これからも精進していく所存です。つきましては今回の件も、どうかお慈悲をいただければと……」
「い、いや。あたし達は気にしてないから」
「ほら、あかいおねーさんもこういってるじゃん!ライムがきにしすぎなんだよー!」
「ユズは気にしなさすぎだ。僕は姉さんの弟として、姉さんに恥をかかせないようにだな……」
「じいしきかじょうだー!そうおもうよね、くろいおねーさん!?」
「……私?」
先程までの結託した二人の姿はどこへやら。今やアゲハやリリスも巻き込んで二人でいがみ合っている。間に挟まっているレモンは羞恥の極致に達しているのか、両手で顔を覆って項垂れていた。指の間から除いている顔は真っ赤に染まっている。
「ライムのばーか!とーへんぼくー!こいびとができたらそくばくするたいぷー!」
「なっ!?ユズ、お前……!言っていいことと悪いことがあるだろ!」
「たんそく!ぜいじゃく!うちべんけい!ひきこもり!」
「な、なんだと!?もう一回言ってみろ!」
「やめんかい!こんなとこで喧嘩してどうするんや!」
とうとう耐えきれなくなったのか、二人の間でレモンが叫びをあげる。すると、いがみ合っていた二人が眉をひそめ、身体を縮こまらせる。レモンはムッとしながら、きょうだいを睨みつける。
「人が言われて嫌な事は言ったらあかん。いつもそう言っとるやろ?」
「う……ごめん、姉さん」
「ごめんなさーい……」
「ん、わかりゃええんや」
レモンはそう言って朗らかに微笑みながら、ライムとユズの頭を撫でる。ライムはどこか恥ずかしそうに、ユズは目を細めて気持ちよさそうに、それを受け入れる。レモンの模範的な「姉」としての姿を見たアゲハ達は、驚きで目を見開く。普段のレモンとは似ても似つかぬ姿だったが、アゲハ達はわざわざそれをつつくような真似はしなかった。人は誰しも別の顔を持ち合わせているものである。話が進まないのでツッコむのは止めようとかそういうわけではない。
「で、次に聞きたいんは……なんでお嬢様が空き教室に二人を連れて来たかってことや」
「うっ……」
レモンの指摘にうめき声をあげるマオ。先程まで小さく縮こまっていたマオは、気まずそうに視線を逸らした。ライムとユズが空き教室に入ってきたあとに、彼女は教室に入ってきた。何かしらの接点があると考えてもおかしくはない。
「わ、わたしはただ、勝手に学校に来たライム君とユズちゃんを迎えに言っただけで……」
「は?勝手に?」
マオが白状した言葉に、レモンがライムとユズの方を見る。それまで嬉しそうに顔を緩めていた二人は、バッと視線を逸らした。しかしレモンは二人の頭を鷲掴みにすると、首をレモンの方に無理やり向かせる。
「ライム。ユズ。どういうことや?」
「そ、それは……」
「えっと……うみよりふかいりゆうがあって!」
「説明してもらおか。一から十まで……なぁ?」
「「ひぃっ……!」」
(((……あ、戻ってきた……)))
鬼の形相で弟と妹相手に凄んでみせるレモンに、アゲハ達はどこか懐かしい気分になるのだった。




