第三十四話 愛が爆発!アゲハ争奪戦!?
「ちょ、離せよ二人共!まだ昼飯食ってる途中——」
「私が食べさせる……アゲハ、口開けて……?」
「ア、アゲハちゃん……私が食べさせてあげるね……」
困惑しているような表情を浮かべているアゲハを挟むのは、何処かうっとりとした表情を浮かべているリリスとサクラ。リリスはアゲハの左腕に、サクラはもう片方の腕に抱きついて、アゲハに自分の弁当を分け与えようとしている。そんなラブコメみたいな状況を、レモンは唖然とした表情で見ていた。
「え……赤羽さん、何してんの……?」
「……!?レモンか!?助けてくれ!二人がいきなり、あたしを拘束して……!」
「拘束して……ない。胸……押しつけてる」
「照れてるアゲハちゃん、可愛い……」
「……なんか、近づきたくないんやけど……うち、帰ってもええか?」
「待ってくれ!ホントに待ってくれ!頼むから助けてくれ!このままだとなんか嫌な事が起きる気が——」
嫌そうに顔をしかめて後ずさるレモンを、必死の形相で引き止めるアゲハ。そして未だ抱きついたままのリリスとサクラ——混沌極まりないその状況で、一人、声をあげる人物がいた。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ——!!」
「「「「……!?」」」」
四人は一斉に声の中心にいる人物——マオの方を向いた。見ると、彼女はぷるぷると身体を震わせながら、顔を俯かせていた。明らかに様子のおかしいマオに、レモンは恐る恐る声を掛けた。
「お、お嬢様……?」
「…………のに」
マオはレモンが聞き取れないほどの声量で、何かを呟いた。怪訝に思ったレモンは、何を言ったのか聞こうとして……
「——わたしが先に、赤羽さんのことが好きだったのに——!何してんの、この泥棒猫共——!!」
続いた|BSS《僕が先に好きだったのに》台詞に、レモンは目を丸くして固まるのだった。
————
「赤羽さん、一緒に帰ろ♪」
「お、おう……」
「むむ……魔王、アゲハにくっつかないで」
放課後。ある意味地獄の昼休みから解放されたアゲハは、左腕をマオ、右腕をリリスに抱きつかれながら帰路についていた。サクラは仕事があるので、名残惜しそうにしながらアゲハを見送っていた。おかげでアゲハはクラスメイトから怪訝な視線を向けられてしまったので、胃が痛くなってしまった。
「……お嬢様、はしたないから止めたほうがいいんとちゃうの?」
「赤羽さん!今度、わたしのアパートに遊びに来ない?この前みたいに射的とかけん玉とか、めんことかで遊ぼうよ!」
「いや、遠慮しとく……」
「ガーン!?どうして!?あっ、もしかして赤羽さん、テレビゲーム派だった!?ごめんね、わたし古いゲームやおもちゃしか持ってないの!」
レモンの注意を無視して、勝手に勘違いを加速させるマオ。レモンの額に青筋が浮かんだのを、アゲハは気の毒そうな表情で見ていた。というか、誘う口実が小学生男子っぽいな、とアゲハは思った。
「……ふふん。浅はかな考え。アゲハはそんなものよりこっちの方が好み」
「あ、ずるい!赤羽さんをノウサツする気だ!」
得意げな笑みを浮かべて豊かな胸をアゲハの腕に押しつけるリリスに、マオは抗議の視線を向けた。途端に、マオは顔を赤くしながら、さらにアゲハの腕に小さな身体を押しつける。
「……あ、赤羽さん。どう……かな?」
「いや、どうかなじゃねぇよ。マジでどうしちゃったんだよ、魔王……」
「アゲハ、鼻の下……伸ばさないで?」
「伸ばしてねぇよ!あたしを何だと思ってんだお前は!」
キャラ崩壊を起こしているマオと、見当違いな事を言っているリリスにアゲハは悲鳴をあげる。ここ数日キャラの濃いキャラばかりと関わっているような気がする。
「レモン……魔王をなんとかしてくれ……!」
「……死んだらええんとちゃう?そうしたら二人は離れるやろ」
「この世からも離れちゃうだろ!ていうかレモン、なんであたしを睨んでくるんだよ!?」
何故か絶対零度の視線を向けてくるレモンに、アゲハは泣きそうになった。自分は被害者のはずなのに、何故こんな酷い仕打ちを受けているのだろう。そんな事を思っていると、レモンはそっぽを向きながらボソリと呟く。
「……なんか、お嬢様が赤羽さんに抱きついてるの見ると、イラッとするわ……なんやろか、この感情……」
「え、なんだって?」
「喋りかけんといてくれるか?脳筋お化け」
「なんであたしの悪口言った!?」
ゴミを見るような目を向けられて、アゲハはとうとう涙目になった。対してレモンはムッとした表情でそっぽを向くだけである。
「頼むから、誰か助けてくれ……」
夕暮れ時の街中に、アゲハの切ない呟きが響くのだった
————
「……いいわ、凄くいい!これこそが私の作りたかった作品よ!」
夕暮れ時の街中、アゲハ達を物陰から眺める怪しげな女子高生がいた。女子高生は白い触手と化した左腕を動かしながら、興奮した様子で怪しげな笑みを浮かべている。
「ああ、隊長の呼びかけに応じてみたら、こんな素晴らしい光景が見れるなんて……!隊長には感謝しなくちゃいけないわね!」
女子高生——いや、個体番号十三番と呼ばれている突然変異種は、この場にはいない隊長——九番に感謝を述べる。彼女はアゲハ達に怪しげな笑みを向けながら、ボソボソと呟く。
「もっと、もっと作品を作らなくちゃ……!私、燃えてきたわ!今なら私、最高の作品を作れる気がするっ……!クヒヒヒヒ……!」
十三番は不気味な笑い声をあげると、その場から姿を消した。——全ては、最高の作品を作るために……
————
……翌日になっても、アゲハの周りの状況は特に変わらなかった。
「アゲハ……キス、しよ……?」
「おい待て落ち着け。人が見てるだろ」
「青宮さん、なに抜け駆けしようとしてるの!?赤羽さんは、わたしと……き、き……うぅ……」
「浮気は駄目だよ、アゲハちゃん……?」
「ヒィッ!?し、してないしてない!」
……訂正しよう、アゲハを取り巻く状況は悪化していた。今日も今日とて空き教室に来てしまったアゲハは、三人のヒロイン——もとい、リリス達に迫られていた。
「今日もモテモテやな、赤羽さん」
「呑気に言ってる場合か!この状況をどうにかしてくれよ、レモン!お前だけが頼りなんだ!」
「はぁ……まぁ、かまへんけど……うちが割り込む余地はないと思うで?」
「レモン……私とアゲハの邪魔をする気……?」
「この魔王の邪魔をする気か……?痴れ者め、這いつくばるがいい」
「……ごめんな、赤羽さん。うち、なんもできへんわ……」
「レモン!?」
リリスとマオに睨まれて突然膝を抱えて項垂れてしまったレモンを見て、アゲハは悲鳴をあげた。心なしか何処か落ち込んだような表情をしているのは気のせいだろうか。
(……そんなにこの二人が怖かったのか?)
自分でそう考えて、なんか違う気がする、とアゲハは思った。もしそうだとしたら落ち込む理由が分からない。とりあえずアゲハはレモンを放っておき、今の状況を解決する手がかりを探る。
(……昨日の事を思い出せ。なんでリリス達はこんなにグイグイ来るようになったんだ……?)
昨日は確か、空き教室で普通に昼食を取っていたはずだ。そしてサクラと進路の話をして、なんとなく穏やかな雰囲気が流れて……そこから——
「……!光!光だ!」
アゲハは昨日の状況を、事細かく思い出す。昼食を取っている間、教室の外から謎の光が発せられ……気づいたら、リリス達はこうなっていた。つまり、リリス達がおかしくなったのは、謎の光のせいだ!そう思い立ったアゲハは辺りを見渡す。
「……ん?」
すると、何かおかしなものが目に入った。——それは、どこか見覚えのある白い触手だった。触手は何かカメラのようなものを手にしており、アゲハ達の方にそれを向けている。反射的に、アゲハはそれに向かって駆け出した。
「お前かぁぁぁぁぁぁ!!」
「いだいっ!?」
リリス達を無理やり振りほどいたアゲハは、触手に向かって飛び蹴りをかました。甲高い悲鳴が上がり、涙目で腹を押さえる女子生徒が姿を現した。それと同時に、リリス達三人の瞳から光が失われ、微動だにしなくなる。
「な、なんてことするのよ、フレアレッド……!乙女に飛び蹴りは駄目って親に教わらなかったの!?」
「あたし、親いないから」
「あ、そ、そうなの……それは悪いことを聞いたわね……ってそうじゃないわ!クヒヒヒヒ、ここで会ったが百年目ね、フレアレッド……!」
一瞬気まずそうにしながらも、女子生徒は不敵な笑みを浮かべながらアゲハ達を見る。アゲハは怪しげな女子生徒を見て、警戒した様子でこう言った。
「てめぇ……突然変異種だな?」
「フッ、バレちゃあしょうがないわね!そうよ、私は個体番号十三番!この世に愛と芸術を届ける者っ!」
「……なんだって?」
「あら、聞こえなかったの?私はこの世に愛と芸術を届ける者——個体番号十三番よ!」
「愛と芸術……?」
「そうよ!私は王に授かった素晴らしい能力、≪配役≫を使って、一つの作品を作っているの!特に、生きとし生けるもの同士が恋愛している所……つまり、ラブコメをね!」
「……は?」
ポカンとするアゲハを他所に、十三番は自分に酔った様子で長い髪をかき上げ、興奮した様に目を輝かせながら早口でこう述べる。
「ラブコメは素晴らしい文化よ!物語を盛り上げる多種多様なヒロインに漫才のようなやり取り、さらにはラッキースケベといったハプニング、まさしく夢の詰まった空想、それこそがラブコメ!私がそれを知ったのはこの世に生み出されて人間界に落とされた時に拾った漫画に感銘を受けたのがきっかけで、タイトルは≪クラスのSSS級美少女が窓際の俺に詰め寄ってくる件≫——」
「ストップストップ!お前、目がヤバいぞ!?」
完全に据わった目で詰め寄ってくる十三番に、アゲハは待ったを掛ける。すると、十三番はハッとした様子で喋りを止め、アゲハから距離を取る。
「あら、ごめんなさい。いきなりこんな事を言ってもラブコメの良さは理解できないわよね。私としたことが、失念していたわ」
「……言ってることはよくわからないが、リリス達をおかしくしたのはてめぇの仕業か?」
「おかしくなんかしていないわ。私は≪配役≫によって愛に目覚めさせただけ。ああでも、そこの茶髪ツインテールの子は≪配役≫していないわね。だってなんだか腹黒そうなんだもの」
「は?」
十三番の言葉にどすの利いた声を出すレモン。これまで膝を抱えて蹲っていた彼女が、一瞬にして十三番と距離を詰めた。レモンは感情を失った顔で、十三番の胸倉を鷲掴みにして言葉を続ける。
「寝ぼけたことぬかすんはこの口か?」
「うんうん、随分と元気な娘ね!私の作風には合わないけど、別のジャンルだったら役に立てると思うわ!例えば不良ものとか——」
「赤羽さん、こいつ殴ってもええか?」
「まぁ、いいんじゃね?」
「ぼ、暴力は良くないわゴシキジャー!か弱い私に手を出したら、視聴者から大ブーイングよ!だからその拳を下ろして!謝るから!」
胸倉を掴まれても動じなかった十三番だが、レモンが無表情で拳を構えると、顔を青くしてレモンに慈悲を求めた。レモンは舌打ちをしながら、十三番を解放——すると見せかけて、十三番の頬に右フックを食らわせた。
「はぐっ!?ぶったわね!生みの親にもぶたれたことないのに!」
「……赤羽さん、こいつを倒せば、お嬢様は元に戻るんやな?」
「どうやらそうみたいだな。リリス達の動きも止まったし、今のうちに倒しちまおう」
レモンに加えてアゲハが拳を構えると、十三番は顔色を青を通り越して白くする。もちろん物理的な話ではなく、比喩の話である。人に化ける突然変異種である彼女の素顔はおそらく白いのだろうが——閑話休題。
「落ち着くのよゴシキジャー!私は害を与える存在ではないわ!寧ろ、この世に福音を与えるべく存在している——」
「あたしは迷惑を被っているわけだが」
「うちはメンタル的に傷つけられたんやけど」
「——まぁ、そういう意見もあるわよね!視聴者の意見を聞くのも良い作品を作るのに必要よ!」
必死に、「僕悪いスライムじゃないよ」的な主張を繰り返す十三番。アゲハとレモンの刺し殺すような視線が十三番に突き刺さるが、彼女は視線をそらしながら胸を張るだけだ。
「そういうわけで!私は次なる作品を作るために旅に出るわ!引き留めないで、私はきっと帰ってくるから!個体番号十三番の次回作にご期待くださ——」
「「待て」」
「うぎゃあ!?力強ぉ!?」
アゲハとレモンに左右の肩をがっしりと掴まれた十三番は、その痛みに悲鳴をあげる。彼女が青ざめた顔で振り返ると、鬼の形相をした二人の姿があった。
「ひぃっ!?」
「あたしをこんな目に合わせて、覚悟は出来てるよな……?」
「どう料理したろか、この女……」
「あわわわわ……!かくなるうえは……≪配役≫っ!」
地を這うような低い声での恫喝を受け、恐怖が限界に達した十三番は……これまで虚ろな瞳をして立ちぼうけになっていたリリス達に、その触手を向けて光を放つ。すると、彼女達の目に再び光が灯り……その瞳が、アゲハの方に向けられた。
「アゲハ……♡」
「アゲハちゃん……♡」
「赤羽アゲハ……♡」
「……!まさか、また……!」
アゲハがそう言うやいなや、目を♡にした三人がアゲハの元にゆっくりと迫ってくる。その絵面は浜辺で追いかけっこするカップルのようなキャッキャウフフとした様子ではなく、自我を失って襲いかかってくるゾンビに近かった。
「今よ!≪撮影開始≫——!」
拘束を逃れた十三番が触手を蠢かせて、その触手の先から先程の光を放つ。しかし、その光の強さは尋常ではなく、アゲハ達の視界だけでなく空き教室全体を覆った。
「掛かったわね、ゴシキジャー!さぁ、私の作品となりなさい——!クヒヒヒヒッ!」
最後に、十三番の怪しげな笑みを聞いて——アゲハ達は、意識を失った。
————
——よーい、アクション〜!
……どこか聞き馴染みのある高い声を聞きながら、アゲハは目を覚ました。辺りを見渡してみると、机や椅子が規則正しく並べられていて、正面には黒板が見える。それらを見て、アゲハは自分が学校の教室にいるのだと判断した。
「あいつはどこ行った……?それに、リリス達は……?」
アゲハは辺りを見渡しながら、そう呟く。つい先程まで自分の近くにいたはずのリリス達や十三番の姿が見当たらない。……と、そこでアゲハは、自分の服装がいつもとは違うことに気がついた。
「……なんだ、これ?」
上にワイシャツ、下にスカート。まるでOLみたいな格好に、手に持っている出席簿——そして、アゲハの目に掛けられた伊達眼鏡。今の自分の姿を一言で言うとしたら「教師」だろうか。
「変だな……?あたしは制服を着てたはずなんだが……」
間違っても教師という年齢でも立場でもないアゲハは、困惑したような表情を浮かべた。教師の服装もアゲハの身体のサイズには合っておらず、胸や尻が強調されるようになっていて、少し息苦しく感じる。
「……駄目だ、ちょっとボタンを外そう」
どうせ誰も見ていないのだ、と思い、アゲハは第二ボタンまでを外し、その深い胸の谷間を露わにする。……すると、教室の扉の方から、聞き覚えのある声が聞こえた。
「——あ、赤羽先生……!?ど、どうしてそんな格好で……!?」
「……!?その声、リリスか!?」
アゲハは思わず声のした方を向く。そこには、いつもの制服姿である黒髪の少女——リリスの姿があった。リリスは何故かノートや教科書を抱え、顔を赤くしながらアゲハを見ている。ようやく見知った顔に出会えた嬉しさのせいか、アゲハは出席簿を投げ捨ててリリスの元に駆け寄り——ギュッ、と抱きしめた。
「よかった、無事だったんだな!」
「……!?!??赤羽、せんせぇ……!?」
「……?なんだよ、赤羽先生って。いつもはアゲハって呼んでただろ?」
「せ、先生を下の名前で呼び捨て……!?……はぅぅ」
「ちょ、リリス!?」
突然アゲハの腕の中で顔を真っ赤にして気絶したリリス。慌てて抱きとめると、リリスの後ろに二人の人影が立っているのが見えた。
「魔王に、サクラ姉!二人共無事だった、か……?」
仲間と再会し、最初は喜びの表情を浮かべていたアゲハだったが、二人の冷たい表情を見て首を傾げる。リリスと同じく制服姿のサクラとマオはアゲハに冷たい視線を向けながら、こう述べた。
「赤羽先生……リリスちゃんと、何をしてたんですか……?」
「え、何って、別に何も——」
「嘘をつくな。今も青宮リリスを抱き締めて、二人して顔を真っ赤にしているではないか……!しかも、そ、そのような乱れた服装で……ふ、ふしだらだぞ!」
「は、はぁ!?別に何もしてねぇだろ!ただリリスを抱きしめただけじゃねぇか!これくらい普通だろ!」
アゲハが慌てた様子でマオの言葉を否定すると、サクラとマオは驚いた様子で目を見開く。
「……!?ということは、私も赤羽先生に抱き締めてもらえる……!?」
「何だと!?……ふ、ふん、我は別にそんなものに興味はないがな!しかし我はこの学校の風紀委員長!委員長として、教師の毒牙から生徒を守る義務がある!さぁ、やるなら我にやれ!ギュッとな!」
「何言ってるんだ二人共!?やらねぇよ!やらねぇからっ!」
ハグ待ちの体勢になった二人に叫びをあげながら、アゲハは気絶したリリスを椅子に座らせる。……すると、どこからか甲高い声が鳴り響いた。
「——カーット!!何してるのよフレアレッド!そこは二人まとめてハグしてキスでしょ!?日和ってんじゃないわよこの鈍感主人公が!」
突然罵倒が聞こえたかと思うと、アゲハの前にカメラを持った、身体の一部が触手になっている女子生徒——十三番が現れる。それと同時に、彼女の後ろに、マイクを持った茶髪ツインテールの少女——レモンも姿を現した。
「あっ!?てめぇ、今まで何処に……!」
「ランドイエロー、音は拾えてるかしら?映像はまだだけど、リテイクを繰り返す必要があったらそれを切り貼りするかもしれないから」
「……万事、滞りなく」
「オッケー!じゃあリテイクよ!よーい——」
「——うらぁっ!」
「いだいっ!?」
アゲハによって腹部に蹴りをかまされた十三番はカメラを持っていない触手で腹を押さえ、地に転がる。カメラだけは守る、といったその姿は、まるでプロのカメラマンのようである。
「何をするのよ!危うくカメラを落とす所だったじゃない!これ、結構高いのよ!?」
「高いのよ、じゃねぇだろ!この妙な状況はお前の仕業か!」
「その通りよ!あなた、とても勘がいいのね!探偵にでもなったらど——あだだだだだ!やめてぇ!わ、私の頭が潰れちゃうぅ!」
堂々と開き直った十三番にアイアンクローを食らわせるアゲハ。すると、リリス達の動きが止まったので、アゲハはアイアンクローを止めた。頭を潰される恐怖から解放された十三番は、ぜーはーと息を吐きながら四つん這いになっていた。
「し、死ぬかと思ったわ……流石フレアレッド、侮れないわね……」
「……これがカメラか。結構重いな」
「あっ!何勝手に触ってるのよこの人でなし!それは私のこれまでの努力の結晶であり相棒なの!お願い返して!」
アゲハが地面に落ちていたカメラを拾っただけで、まるでこちらが悪者であるような言いぐさである。本当に突然変異種なのか、こいつは……?とアゲハは思った。アゲハは割と大きいカメラを片手で抱えながら、冷たい瞳を向けてこう言った。
「リリス達を元に戻して、もうあたし達のことは撮らないって約束してくれたら返してやる」
「それは無理ね!だってあなた達のような逸材は他にいないもの!もう一度探すなんて面倒だし、愛と芸術を与えるものとしての性を止めることは不可能だわ!」
「こいつを地面に叩きつけてやってもいいんだぞ」
「いやぁぁ!ごめんなさい、それだけは勘弁して!」
「じゃあ、あたし達の事は諦めろ」
カメラを人質に取ったアゲハがそう言うと、十三番は悔しそうに表情を歪め……アゲハに向かって頭を下げた。
「うぐぐぐぐ……せ、せめてあと二、三シーンだけ撮らせて!そうしたらすっぱり諦めるわ!」
「二、三シーンか……それだけやったら、満足してくれるんだな?」
「もちろん!愛と芸術を与えるものとして、二言はないわ!もし破ったら罰として、私の身体をひん剥いてもいいわよ!」
「やらない」
「あら、そうなの?変ね……大抵のラブコメだったら、こう言っとけば人間は食いつくのに……もしかして、これがいわゆる不能——」
「カメラがどうなってもいいのか?」
「さぁ、撮影を始めましょうか!≪配役≫はあなたが好きに決めて構わないわよ!私にかかれば映像と音の継ぎ接ぎも完璧に仕上がるもの!」
余計な事を喋るなと圧を掛けられた十三番は、どこか焦った様子でそう告げるのだった——




