第三十三話 「元」従者の悩み
——これまでの、≪聖鎧戦隊ゴシキジャー≫は……
やっほー、皆。木戸レモンや。元気にしとるか?前回、煌水晶種とかいうバケモンを相手にしたうちは、また病院送りになったわ。一度抜け出したせいで、お医者さんからえらい怒られてしもうた。でもまぁ、仕事は仕事やからな。別に抜け出したことは後悔してへん。お嬢様が死んでうちが責任を問われるより百倍マシや。……まぁ、もうそんな心配をする必要はないんやけどな。だって、うちはもう、クビになってしもうたんやから——
————
——事実は小説よりも奇なり、という言葉がある。赤羽アゲハが今陥っている状況は、まさしくその言葉を体現しているかのように思えた。
「おっはよ〜、アゲちゃん。今日もオツムが悪そうな顔してるね〜」
今しがた起きたばかりのアゲハに火の玉ストレートの悪口をぶちかましてきたのは、何処か神秘的な雰囲気を纏った小柄で美麗な少女。名を「ソード」というらしい。ソードは床に寝転がってアゲハの漫画本を読みながら、ニヤニヤと笑みを浮かべてアゲハを見ていた。
「……喧嘩を売ってるんだったら買うぞ」
「え〜、こんな幼気な女の子に手ぇ出しちゃうのぉ?彼女がいるのにいいのかなぁ?不貞だ不貞〜」
「朝っぱらからなんてこと言いやがる!誤解を招く言い方はやめろ!」
「でもでもぉ?ソードがもし黒髪ちゃんだったらぁ?」
「リリスでも朝っぱらからそんなことしねぇよ!」
「本当にぃ?そう言い切れるぅ?」
「…………」
ソードの言葉を受けて、アゲハは自分の恋人——リリスの事を思い浮かべる。何処に出しても恥ずかしい変態である彼女が、もし今ここにいたとして————リリスとそういう展開にならないという可能性は、限りなく低いだろうなとアゲハは思ってしまった。ソードはアゲハのそんな内情を察したのか、ニヤニヤしながらからかってくる。
「やっぱり手ぇ出しちゃうんだぁ〜」
「あ、あたしを獣みたいに言うんじゃねぇ!それより、なんで勝手にあたしの部屋に入ってきてるんだよ!とっととマッドの部屋に戻れよ!」
アゲハは顔を真っ赤にしながら、ソードに向かってそう叫んだ。——先日、アゲハの腕輪から解放された煌水晶種——ソード。彼女は今、アゲハの家に住むことになっていた。何故、そんなことになったかと言うと……
————
時は数日前に遡る。ソードの爆弾発言によって顔を林檎みたく真っ赤にしたアゲハとリリスが、サクラとマッドに必死に弁解をしていた時の話だ。
「ち、違うんだ二人共!あいつの言ってることはだな……!」
「ん……!私とアゲハは全然……!そん、な、関係、じゃ……うぅ……!」
必死に否定しようとするが、リリスを傷つけたくはないアゲハは言葉を詰まらせる。対してリリスも顔を赤くして恥じらいながら否定しようとするが……それはそれで乙女的に辛いので、結局否定することができていない。そんな初々しい二人を、マッドとサクラは何処か微笑ましい瞳で……それでいて気まずそうに視線を逸らす。
「だ、大丈夫だよお姉ちゃん。高校生なんだし、そういう事もあるよね。ボク、そういう人間の漫画見たことあるから分かるよ」
「あ、安心して、二人共……!私、口は固いから……!ちゃんと、お墓まで持っていくから……!」
「やめろ!二人揃ってそんな反応しないでくれ!」
「は、恥ずかしすぎて、死んじゃう……」
しかしフォローは逆効果だったのか、アゲハは両手で顔を覆って天を仰ぎ、リリスはその場で蹲ってしまう。変態に恥という概念が芽生えた瞬間である。アゲハは顔を赤くしながら、この状況を引き起こした張本人——ソードをキッと睨み、恥を誤魔化すように叫ぶ。
「おい、てめぇ!なんであたしとリリスの…………っ、それを知ってやがる!?」
「え〜?だって、ソードはあんたの腕輪にずっといたんだも〜ん。しかもあんたがベッドの上に置いたから、それはもうはっきりと見え——」
「——あぁぁぁぁぁぁぁ!やめろやめろやめろっ!」
ニヤニヤと笑みを浮かべながらその時の光景を事細かく話すソードを、アゲハは悲鳴をあげながら遮った。想定以上に進んでいた二人の関係を聞いて、マッドは顔を赤くしながら何処か興奮気味にアゲハに尋ねる。
「ど、どこまで進んだの、お姉ちゃん!?ボクが家にいない間に、リリスお姉ちゃんと一体何が!?」
「やめろ!聞くんじゃねぇっ!」
「あ、アゲハちゃんとリリスちゃんが……はぅぅ……」
サクラは幼馴染二人の情事を想像したのか、頬を押さえながら顔を真っ赤にしていた。混沌とした状況の中、ソードはケラケラと楽しそうに笑っていた——
————
——ようやくアゲハ達が落ち着きを取り戻した頃。アゲハはソードの前で仁王立ちし、怪訝な表情を浮かべてこう言った。
「……で、お前は何を企んでるんだ?」
「……お姉ちゃん、今さらシリアスっぽく振る舞うのは無理があるんじゃない?」
「ぷーくすくすー。まだ顔赤いじゃーん。あんたはソードの好みじゃないけど、結構可愛いとこあるね〜」
「うるさい黙れ」
人がせっかく真面目に話をしようとしているのに、何故この二人は水を差してくるのだろうか。特に前者。アゲハは苛立ったようにこめかみを押さえながら、もう一度同じことを尋ねる。
「ソード、って言ったか?お前は一体何を企んでる?まさか、あたしをからかうためだけに腕輪から出てきたわけじゃないだろ?」
「もし、そうだと言ったら〜?」
「殺す」
「待ってお姉ちゃん。抑えて抑えて。この子がいなくなったら≪聖鎧装着≫できなくなるよ」
目に殺意の籠もった光を宿すアゲハに、マッドは思わず待ったを掛けた。煌水晶種には死という概念はないが、アゲハなら本気で殺せてしまいそうだという程の強烈な殺意を彼女から感じてしまったからである。アゲハはチッ、と舌打ちをして、構えていた拳を無気力に下げた。
「わぁ、言う事聞けてえらいね〜、脳筋ちゃん♪」
「脳筋ちゃんじゃねぇよ。あたしは赤羽アゲハっていう名前があるんだぞ」
「じゃ、アゲちゃんね〜」
「……!?アゲハを、あだ名呼び……!?ずるい……!アゲハ、私もあだ名で呼ぶ……!」
「リリスお姉ちゃん、ちょっとステイ。これ以上は話が進まないからね」
鼻息荒く割り込んできたリリスを、マッドがため息をつきながら制止する。意外にもリリスは素直に矛を収め、不満そうにしながらも黙り込んだ。ソードは未だニヤニヤとしたまま、いたずらっぽい口調で話を戻した。
「——で、アゲちゃん達はソードの企みが聞きたいんだっけ〜?どうしよっかな〜」
「……マッド、もうこいつ放っといて解散しないか?」
「ボクもそうしたいところだけど、事情があってこの子を放っておくわけにはいかないんだよ」
「わ、私はそろそろ帰らないと……明日も仕事だから……」
「あ、ごめんねサクラ姉。あとはボクとお姉ちゃんで何とかするから、帰っても大丈夫だよ」
おろおろとし始めたサクラにマッドがそう言うと、サクラは申し訳なさそうな表情をしながらその場を去っていった。一方、リリスはその場に立ち尽くしているままだ。
「……リリスお姉ちゃんも、帰ってもいいんだよ?」
「アゲハがいるところが私の家。気遣いは無用」
リリスの言葉を受け、マッドはふとアゲハのほうを見た。アゲハはリリスの言葉に満更でもなさそうに頬を染め、もじもじとしていた。
「……お姉ちゃん、なんか喜んでない?」
「べ、別に……」
「はぁ~あ……なんだかボクが帰りたくなってきたよ……」
アゲハとリリスの初々しいやり取りを見て砂糖を吐きそうなマッドだった。しかし彼女はコホンと咳払いをして、ソードに向き直る。
「ソードさん、早く目的を話すんだ。もし話さないのなら、またボクが封印を——」
「マッドちゃん、ちょっとイライラしてな〜い?あ、もしかしてぇ、アゲちゃんと黒髪ちゃんのやり取りを見て嫉妬したとか——」
「——煌水晶種、レッド・ソード」
「……っ!?」
「君が五体満足でいたくないのなら、その戯言を止めはしないけど……?」
「ひっ……!ひゃ、ひゃい!しゅみませんでしたぁ!」
突然声のトーンを落として殺気を放つマッドに、ソードは怯えた様子で地面に五体投地——やけに綺麗な土下座をした。二人の豹変ぶりに、アゲハとリリスは目を丸くする。
「……マッドって、怒らせると怖いんだな」
「……ん、同意」
——なるべく怒らせないようにしよう。アゲハとリリスは視線だけでそう意思疎通するのだった——
————
……以上、回想終了。……え?ソードがアゲハの家に住む理由が明らかになっていないって?それは、今から本人から説明してくれるだろう——
「むふふ〜。アゲちゃんの反応ってやっぱ面白いねぇ〜。マッドちゃんがソードの監視のためにアゲちゃんの家にソードを連れてきたときはどうなるかと思ったけど〜……新しいオモチャもあるし、結構悪くないかも〜」
「おい、オモチャってあたしのことか?」
聞き捨てならない言葉にアゲハが額に青筋を立てながらソードを睨む。——一週間前、ソードを脅して大人しくさせたマッドは、ソードに向かってこう言ったのだ。
——あなたをボクの監視下に置かせてもらう。あなたの封印が解けたのにはボクにも責任があるからね。
そう言って、マッドは六日前にソードを連れて、何故かアゲハの家に来た。マッド、突然の引っ越しである。当然、アゲハはそれを拒否しようとしたが……
——お願い、お姉ちゃん。謹慎中のボクには自分の部屋なんてものはこの家以外にないし、この子を野ざらしで監視するのには限界があってさ……
と、言われてしまい、渋々受け入れたのだ。ソードの自由奔放っぷりを見て十分にその厄介さを理解していたアゲハも、ソードを野放しにはしておけなかったのである。そういうわけで、ソードとマッドがアゲハの家に来たわけなのだが……
「ん……アゲハ、もう朝……?」
「あ、黒髪ちゃん。おはよ~」
「……!ソード……!なんでここに……!」
アゲハの隣で身体を起こした、黒髪の少女——リリスは、警戒した様子で掛け布団をかぶり、ソードを睨みつける。……六日前、マッドとソードがアゲハの家に住むことを聞いた彼女は、聞き捨てならないといった様子でこう言った。
——私もアゲハの家に泊まる。ソードがアゲハに何をするか分からない。警戒するべき。
そうして、リリスは母親であるカンナの許可を取って、アゲハの家に泊まることになったのである。最もらしいことを言っていたが、要は恋人が他の女と一つ屋根の下という状況を認められなかったのである。自分に当てられた部屋ではなくアゲハの部屋に入り浸っているのはご愛嬌だ。もう驚かなくなっている自分にアゲハはだいぶ毒されているな、と思った。
「……なぁ、リリス。いつの間にあたしのベッドに潜り込んでたんだ?」
「昨日の夜。でも安心してほしい。誓って手は出してない」
「いや、そういう問題じゃないだろ……」
「……嫌だった?」
「っ……!」
リリスの上目遣いの破壊力に、思わず「嫌じゃない」と言いかけてアゲハは口元を押さえた。日に日にバカップルへと足を突っ込んでいっているアゲハであった。
「……アゲちゃんさぁ。朝っぱらから砂糖吐きそうな光景を見せないでほしいんだけどぉ」
「……っ!」
ソードの呆れた様子での指摘に、アゲハは顔を真っ赤にするのだった——
————
「……ということがあってさ」
「……た、大変だったんだね、アゲハちゃん……」
学校での昼休み。アゲハとリリスはいつものように、空き教室で昼食を取っていた。すっかりと常連になったサクラは、朝のアゲハの話を聞いて、気の毒そうに呟く。
「……リリスちゃん、それで生き生きしてるんだ……」
「ん、一日中アゲハと一緒にいることが出来る。まさに天国」
「……一応、一週間に一回は家に帰るんだぞ?」
「……聞こえない」
アゲハは目を細めて指摘するが、リリスは耳を塞いでそっぽを向いた。アゲハは昼食の菓子パン片手に、頭を抱えてため息を吐いた。
「はぁ……全く、リリスは……」
「あはは……リリスちゃんも、悪気はないんだと思うよ……アゲハちゃんと一緒にいられるのが、本当に嬉しいんだと思うな……」
「……サクラ姉、いいこと言った。グッジョブ」
「グッジョブじゃねぇ。ちゃんと親御さんには顔を見せろ。カンナさんが心配するぞ?」
アゲハは若干険しい表情を浮かべて注意する。——少し前まで母であるカンナとわだかまりがあったリリスだが、最近になってそれは改善されてきた。仕事で家を開ける事が多かったカンナが、リリスとの時間を増やすべく一週間に何度かは家に帰るようになったことが大きい。だというのにリリスがアゲハの家にずっと泊まるというのは、あまりにもカンナが可哀想だとアゲハは思ったのである。しかし悲しいかな、アゲハと一緒にいることを最優先するリリスにはその思いは届かず、リリスは首を傾げながらこう言った。
「……ママも、アゲハの家に呼ぶ?」
「なんでだよ。おかしいだろ」
母同伴のお泊りを果たしてお泊りというのかは甚だ疑問である。この変態は今日も絶好調のようだ。これ以上の会話は不毛だとアゲハは会話を断ち切り、なんとなく空き教室を見渡しながら、呟く。
「……今日も、魔王達は来てねぇな」
今この教室にいるのは、アゲハ達三人のみ。この空き教室をたまり場にしていたはずのマオとレモンの姿はない。いつもはマオの高笑いが響いてうるさいくらいなのだが、今日に関してはそうでもなかった。
「うーん……翠川さんは、もう受験生だからね……夏休みも近いし、勉強してるのかも……」
サクラの言葉に「なるほどな」とアゲハは頷いた。普段の言動や見た目からは忘れがちだが、マオはアゲハより一つ年上の高校三年生なのである。世間一般的には、進路を考える時期だ。
(……受験生、か)
自分には縁の遠い話だ、とアゲハは思う。高校に入ってからずっと、そういう話題を誰かと話したことはなかったのだ。入る高校を決める時だって、自分の学力がギリギリ通用する所を探していただけで、将来どうするかなどということを考えていたわけではない。だが、アゲハも来年は高校三年生。否応なしに考える時期は来る。その時のことを想像するだけで、胃が重たくなるのをアゲハは感じた。
「大変だな……」
「……アゲハちゃん達は、進路を考えてたりしないの?」
「あたしはさっぱりだな。今の時点だと、大学に入れるかも怪しいし」
「……特に、考えたことはない」
サクラの疑問に、肩をすくめながら答えるアゲハと、無表情で淡々と答えるリリス。そんな二人を見て、サクラは苦笑を浮かべる。
「あはは……私も似たようなものだったから分かるよ……」
「サクラ姉が?」
「うん。受験生になっても、自分が何をしたいかなんて分からなかった。けど、アゲハちゃん達と出会って、一緒に過ごしていくうちに……教師になるきっかけを得たの」
「あたし達と……?」
「昔、アゲハちゃん達にいろいろなことを教えていたでしょ……?その時に、人に教える楽しさを知って……教師を目指してみようかな、って思ったんだ……」
サクラの綻んだ笑みを見ながら、アゲハは目を見開いて驚いていた。幼馴染でもあり、人生の先輩でもあるサクラから進路に関する話を聞くのは初めてだったのだ。
「……だから、二人もきっといつか、進みたい道が見つかると思う……私も、見つけられたから」
「「サクラ姉……」」
サクラの優しい言葉で、空き教室の中に穏やかな空気が流れる。こういうところが人気になる所以だな、などとアゲハは思った。
「……そうだな。あたしも、もうちょっと考えてみるよ」
「……ん。私も、アゲハとの進路を考える」
アゲハはフッと笑みを浮かべ、リリスはアゲハに熱っぽい視線を向けながらそう呟く。いつもと変わらない幼馴染二人の姿を見て、サクラは優しく微笑むのだった——
————
「はぁ~……」
昼休み。うち——木戸レモンは、ため息を吐きながらいつもの空き教室へと向かっていた。もちろん、昼食を取るためや。本当は教室で食べても良かったんやけど、いっつもあそこで食べてたからな。癖みたいなもんや。というか、無理やりお嬢様に連れられて——
「うっ……」
お嬢様の事を脳内で思い浮かべてしまい、うちは顔をしかめる。そうや、うちはお嬢様にクビにされたんや……普通の女子高生に戻れ、とかわけわからん事いうて……お嬢様はうちをクビにした。
——翠川グループからの支援は継続する。金の心配はいらん。今住んでいるアパートも引き払う必要はない。だが……もう我に関わるな。
一週間前、お嬢様はそんな事を言って病室を出ていった。外はもう真っ暗やったけど、聞いた話によると、お嬢様は車で送迎してもらったらしい。一安心や、と以前までのうちなら思ったやろうけど、クビを言い渡されてから、心にぽっかり穴が開いたような抜け殻になったうちは、一週間病室でボーッと過ごしていた。で、怪我が落ち着いて、いつも通り学校に登校したんや。その時、たまたまお嬢様と顔を合わせたんやけど……
「——おはよう、レモン。今日は遅かったね」
お嬢様は先に登校してただけでなく、いつもの仰々しい口調も止めて冷たい口調でうちにそう言った。いや、めちゃくちゃ驚いたわ。聞けば、朝の支度も全部自分で終わらせたんやって。あのポンコツを体現したみたいなお嬢様がやで?まぁ仕事の時はまだマシやけど、目玉焼きの作り方も下着の洗い方も知らんかった人が朝の支度を自分で?何の冗談やって思うやんか。
(……なんか、ムカつくわー……いや、休みが欲しいとは思ったけど、こうも拒絶みたいな反応されんのはちょっとなぁ……)
なんか、自分はもう必要ない、っていう言葉を何回も言われたような気分や。イライラするし、モヤモヤする。一体なんやのあのポンコツお嬢様は。
(……いつか絶対問い詰めたる)
そうや。うちを必要ないとかほざいたお嬢様に、なんでうちをクビにしたのか聞くんや。今はまぁ……ちょっと会うことはできへんけど。……とりあえず、今は昼食や。
「……ん?」
そんな事を考えとると、ふと、視線の先に空き教室を見つめとる、見知らぬ女子生徒がおった。
「……ふふ、見つけたわ……!あそこに、ゴシキジャーの奴らがいるのね……!」
「……!?」
女子生徒の呟きに、うちは目を見開く。うちからその女子生徒の間にはかなりの距離があるけど、その声ははっきりと耳に聞こえた。耳は良い方やからな——って、そんな事言ってる場合やない!
「あいつ……!まさか、突然変異種か——!?」
もしや、この前に戦った人に化ける突然変異種やろか。このままやったら、赤羽さん達が危ない——
(別に心配とかちゃうけど、赤羽さんには一応恩があるからな……!ここで借りを返して——)
そう思って、女子生徒に駆け寄るより先に……女子生徒は空き教室のすぐ近くまで迫り、左腕を白い触手へと変える。そのまま、触手は空き教室の入り口へと——
(チッ……!間に合わへん!でも、ここで≪聖鎧装着≫するわけには……)
腕輪に手を掛けながら、うちは歯噛みする。≪黄色い弓≫が使えたら楽勝なんやけど……流石に学校で≪聖鎧装着≫するのは気が引ける。何処に他の生徒の目があるか分からないからや。うちが急いで走っとる間——ふと、聞き覚えのある声が聞こえた。
「——貴様っ!何をしている!」
「……っ!?アカシアグリーン!?」
女子生徒が叫んだ通り、現れたのはお嬢様——翠川マオ。お嬢様は空き教室の前に立ちはだかり、突然変異種を睨んでいる……気がする。堪忍な、遠すぎてちょっと見えへんわ。
「ふふふふふ、まさか貴女の方からやってくるなんて……!いいわ、燃えてきた!インスピレーションがじゃんじゃん湧いてくるわよぉ——!」
「な、なんだこいつは……?いきなり叫び出して、頭がおかしくなったのか……?」
「貴女も私の作品にしてあげるわ!くらいなさい——≪配役≫!」
「なっ……!?なんだ、この光は……!?」
お嬢様が声をあげると同時に、女子生徒から放たれた怪しい光がお嬢様——そして、空き教室を包んだ。その異様な光景を見たうちは、急いでお嬢様のもとに向かう。あの女子生徒、ただ者やない……!はよお嬢様達を助けんと……!
「お嬢様!」
「……ハッ!?この声……まさか人間!?ま、まずいわ、この姿を見られるわけには……!て、撤退っ!」
「あ!待たんかいコラァ!」
うちが駆け寄ると、女子生徒は一瞬にして姿を消した。それと同時に光が収まり、床に倒れたお嬢様の姿が見える。うちはお嬢様の身体をゆっくり起こして、大きな声で呼びかける。
「お嬢様!しっかりしぃや!」
「————」
「どないしよ……とりあえず救急車か?」
「…………う」
「……!お嬢様!大事ないか!?」
うめき声をあげたお嬢様に声を掛けると、ゆっくりとお嬢様は瞼を開けて、朧気な瞳でうちを見た。しかし、返事をすることはなく、お嬢様は虚ろな瞳のまま身体を起こした。その様子が何処か不気味で、うちは思わず気圧されてしまう。
「——は——」
「……な、なんて?」
だから、お嬢様の小さな声での呟きが聞こえず、うちは聞き返した。……すると、今度はハッキリとした声で、お嬢様はこう言った。
「赤羽アゲハは、どこ?」
「……え?」
お嬢様はそう言って空き教室の中に入る。その中を覗き込んだお嬢様は、何故か動きを止めた。釣られて、うちもその教室の中身を覗き込むと……その光景を見て、絶句した。
「アゲハ……!好き、大好き……♡」
「ちょ、リリス!?いきなりどうしたんだよ!?」
「アゲハちゃん……可愛い……♡」
「サクラ姉まで……!?おい、二人してあたしの腕を掴むな!動けねぇだろ!」
……そこには、青宮さんと桃橋先生に左右から抱きつかれた赤羽さんの姿があった。




