第二十九話 警告:目覚める紫の戦士
――翌日。学校に来たアゲハ達は、いつもの如く昼休みに空き教室に呼び出されていた。呼び出した人物とは、言わずもがなマオである。
「ハーッハッハッハ!よくぞ来てくれたな、赤羽アゲハよ!」
「青宮さんも、よう来てくれたな。毎度毎度うちのお嬢様に付き合う必要はあらへんのに」
「アゲハがいる所に私あり。気にすることはない」
高笑いをあげるマオに、呆れた様子のレモンにサムズアップするリリス。そんな三人を見ながら、アゲハは何処か困惑した様子の女性――サクラの方を見る。サクラは状況についていけていないのか、首を傾げて三人を見ていた。
「えっと……アゲハちゃん達は、いつもここで集まってるの……?」
「まぁ、そうだな。と言っても、たまに魔王がここに呼ぶくらいだけどな」
サクラの言葉にそう返すアゲハ。……いつも昼休みは職員室に滞在しているサクラは、空き教室の中を不思議そうに見渡している。彼女の手には、昼食である弁当の入った包みが握られていた。
「おお!桃橋サクラも来てくれたか!」
「お嬢様、先生をフルネームで呼び捨てにしたらあかんて」
「あ、いえ……お気になさらず……」
萎縮した様子でレモンのフォローをするサクラ。――そう、今日のマオの招集には、何故かサクラも対象に含まれていた。昼休み以前の休み時間に、マオの命を受けたレモンが、アゲハにサクラを呼んでくるように頼んでいたのだ。そしてアゲハはサクラに声を掛けて……今に至るわけである。経緯を思い返していたアゲハは、首を傾げながらマオに尋ねた。
「なぁ魔王。なんでサクラ姉を呼ぶ必要があったんだ?」
「フッ、今回はゴシキジャーである我らの、顔合わせをしようと思ってな」
「顔合わせって……あたし達、もう互いの顔は知ってるだろ」
アゲハがそう言うと、マオはチッチッチと指を振る。とても芝居がかった素振りだったが、いつものことなのでスルーする。マオは得意げな様子で話を続ける。
「実はな!父上から≪魔法少女シオン≫のイベントのチケットを貰ったんだ!」
「――魔法少女シオン!?」
マオの言葉にいの一番に食いついたのは、アゲハだった。その場の四人の視線が、アゲハに注目する。視線を感じたのか、アゲハは頬を赤らめて身を引かせた。
「……なぁ、赤羽アゲハ」
「……な、何だよ」
「……≪魔物ある所に――≫」
「――≪天才魔法少女の儂あり≫!」
マオが口にした台詞に、満面の笑みを浮かべてノリノリで台詞を返すアゲハ。一瞬の沈黙の後、アゲハは顔を赤くして叫び声をあげた。
「――違うんだ!」
「……いや、それは苦しいやろ」
「そういえば、アゲハちゃん……昔から≪魔法少女シオン≫、好きだったよね……」
「はしゃぐアゲハ、良い。とても可愛い」
弁明をするアゲハにツッコミを入れるレモンに、微笑ましいものを見る目を向けるサクラ。一人興奮した様子のリリス。そんな三人の反応に、アゲハはますます顔を赤くした。
「ま、≪魔法少女シオン≫のこの台詞は有名だからな!テレビとかでもよく特集とかやってるし、それで覚えてたんだよ!」
「……三十六話、剣豪」
「――≪儂は剣を捨てた。いつまでも過去に取り残されておるのはお主じゃ≫」
「「「「…………」」」」
「……ハッ!?」
またもやマオの言葉にノリノリで台詞を返したアゲハは、すぐに我に返って、余程恥ずかしかったのか両手で顔を覆った。再び沈黙が訪れた後、訝しげにアゲハを見ていたレモンはマオに尋ねた。
「……今のも、有名な台詞なん?」
「いや、今のはアニメの第三十六話にちょっとだけ出たシーンであるな。魔法少女シオンがかつて共に剣道を習っていた幼馴染を諭すシーンで、一部のファンの間では「剣豪」という名称で呼ばれているらしいぞ」
「いや、どんなシーンやねん」
「ちなみに、第三十七話では、魔法少女シオンが剣を使うシーンが入れられる予定だったのだが、「それは魔法少女というより剣士なのでは?」と却下されたらしい」
「剣豪設定に取り込まれそうになってるやないの」
「……だからあのアニメ、あんなに杖で殴るシーンが多いんですね……」
「……ステゴロ、魔法少女」
マオに明かされた≪魔法少女シオン≫の裏話に、三者三様の反応を見せるレモン達。しかし同じくマオの話を聞いていたアゲハは、特に驚いたような素振りは見せず、腕を組みながら三人に呆れたようにため息を吐いた。
「全く、分かってねぇな。普段が荒々しい分、冷静に魔法を使う時が一番カッコいいんじゃねぇか。特に三十六話の幼馴染を助けるシーンは、無意識に涙が出てくるほどの名シーンで――」
「分かった分かった。赤羽さんが≪魔法少女シオン≫の大ファンってことはよー分かったわ」
「んなっ!?べ、別に、ファンとかじゃ……!」
「いや、それは無理があると思うぞ、赤羽アゲハよ……」
マオの指摘に再び顔を赤くして、その場に蹲ってしまうアゲハ。マオはこれ以上指摘するのは可哀想だと思ったのか、コホン、と咳払いをして本題に戻ることにした。
「さて、話はここからなのだが……ここに≪魔法少女シオン≫のイベントのチケットが五枚ある。イベントの日時は今週の日曜日の昼からだ。そこで、予定の空いているものを集めて、親交を深められたらと我は考えているのだが……皆、どうだろうか」
「ま、別にかまへんけど……」
「わ、私も大丈夫です。丁度その日は休みなので……」
「……アゲハが行くなら、私も行く」
最後にリリスがそう言ったのを聞いて、全員の視線が未だ蹲っているアゲハに移る。アゲハは視線を受けていることに気がついたのか、赤くした頬を手で押さえながら、怪訝な顔で辺りを見渡す。
「な、何だよ」
「……赤羽アゲハよ。参加するか否かを示して欲しいのだが」
「あ、あたしが?べ、別にあたしは≪魔法少女シオン≫のイベントなんて、参加しなくても――」
「ちなみにこのイベントには、シオン役の声優であるAyaneが出演するステージがあるらしくてな」
「行くっ!行きたいっ!絶対に行きたいっ!」
マオの甘言に華麗な手のひら返しを決めるアゲハ。憧れの存在を前にした小さな子供の如く目を輝かせるアゲハに、マオ達は微笑ましいものを見る目を向けるのだった――
――――
――日曜日の昼頃。イベント会場に到着した一同は、会場の中にあるブースや出店、屋台などを回っていた。
「ん?誰やこの黒髪の子?えらい禍々しい衣装着とるけど……」
「それは、魔法少女ミドラであるな。魔法少女シオンと共に戦う仲間だ」
「……か、可愛いです……!私、グッズ買っちゃおうかな……?」
ブースの一角で知らないキャラのアクリルスタンドを手に取っているレモンに、律儀に説明をするマオ。そのキャラが気に入ったのか、目を輝かせるサクラ。交流会の滑り出しは順調だった。
「……見て、アゲハ。このステッキ、可愛い」
「んー……ランダム缶バッチ、全八種類か……魔法少女シオンが当たる確率は八分の一……あたしの予算を考えると、買えるのは二、三個くらいか……?」
リリスの言葉を無視して何やらブツブツと呟いているアゲハは、据わった目で銀色の小包装を見つめていた。愛しの人に無視されたリリスは、頬を膨らませながらアゲハに力一杯抱き着く。
「アゲハ、無視しないで」
「いだだだだだっ!?何すんだよリリス!今、どれを引くか必死に考えてる所で――」
「無視、しないで?」
「――はい、すんません」
リリスの有無を言わせない圧に、アゲハは素直に頭を下げた。リリスは謝罪を聞いて満足したのか、腕に抱き着く力を緩める。
「……アゲハ、そんなに≪魔法少女シオン≫が好きなんだね」
「べ、別にそんなんじゃ……いや、もう苦しいか。そうだよ。あたしは≪魔法少女シオン≫の大ファンなんだ。小さい頃からのな」
「知ってる。昔、日曜の朝に毎週早起きして、とても楽しそうに見てた。今も夜中にたまに見たりしてる」
「なんで知ってんだよ!?」
「アゲハの事なら何でも知ってる。おはようからおやすみまでの全てを」
驚きのあまり声を荒げるアゲハに、理由になってない理由を真顔で述べるリリス。何故隠していた自分の趣味が明らかになっているのかとアゲハは不思議に思ったが、どうやって知ったのかを聞くと思わぬ藪蛇になりそうだったのでやめておいた。触らぬ神に祟りなしとも言うからね。うん。
「……変じゃないか?あたしがこんな可愛いものが好きだなんて」
「……?趣味は人それぞれ。私は変とは思わない」
「リ、リリス……!」
「だから、私を趣味にしても良い。どう、アゲハ?今なら私をじっくりと堪能することが出来る」
「…………」
オタクに理解のある彼女に感激した様子のアゲハだったが、続くリリスの言葉で微妙な表情となった。決してリリスの事が嫌いというわけではないが、公衆の面前でそんな事をする気は起きなかったのだ。代わりに、アゲハはそっぽを向きながら、リリスを満足させるための言葉を放つ。
「……リリスは大切な恋人だからな。わざわざ趣味にしなくても、あたしはリリスの事を目一杯可愛がるぞ」
「……っ!……ふふ、ふふふふ……今のは、良い。(自主規制)がキュンとした」
「どこをキュンとさせてんだ、どこを」
目をハートにして下ネタをぶちかましてくるリリスに、アゲハは思わずツッコミを入れた。こんな往来の場所で顔を赤らめてもじもじとしだすリリスは、いつも通り何処に出しても恥ずかしい変態である。
「……ん?青宮リリスよ。どうしたのだ、そんなに顔を赤くして……もしや、熱中症か!?」
「……違う。アゲハのかっこよさに、酔いしれていた」
「そ、そうか……体調が悪かったら我に伝えるのだぞ?すぐに救護スタッフを呼んでくるからな」
心配して声を掛けてきたマオを自身の変態っぷりでドン引きさせるリリスに、アゲハは呆れたようにため息を吐くのだった。
――――
一通りブースを回り終えた一同は、会場の真ん中にあるステージに来ていた。勿論、アゲハが行きたいと願ってやまなかった、魔法少女シオン役の声優、Ayaneが出てくるイベントを観るためである。
「空いている席は……あそこだな。皆、急いで席に座ろう。そろそろイベントが始まってしまうからな」
マオの言葉に従い、アゲハ達は横一列に並んだ席に座る。向かって端から、マオ、レモン、サクラ、アゲハ、リリスの順番だ。
「ん……このワッフルみたいな奴、結構美味しいわ。見た目も綺麗やし、味もあっさりしとるから食べやすいなぁ」
「そうですね……何個でも食べられそうです……」
「くっ、無理だ……!こんな可愛いアイス、勿体なくて食べられない……!」
「アゲハ、早く食べないと溶ける」
薄い紫や水色をしたミニワッフルに舌鼓を打つレモンとサクラに、魔法少女シオンをかたどったマシュマロが乗ったアイスの前に悶えているアゲハに、早く食べた方がいいと促すリリス。楽しんでいる様子の四人を見て、マオは満足げに笑みを浮かべる。
「うむ。皆、楽しんでくれているようで何よりだ」
「……あれ?翠川さんは、何か食べないんですか……?」
「生憎、今は腹が減っておらぬのでな。それより貴様ら、そろそろメインイベントが始まる時間だ。盛り上がる準備をしておくのだぞ?」
何故か得意げにそう告げたマオに、レモンを除く三人は首を傾げる。次いで、レモンにも三人の視線が向くが、レモンはステージに目を向けながら、ただミニワッフルをつまんでいるだけだった。そんな事をしているうちに――突然、ステージが綺羅びやかにライトアップされた。同時に、ステージの端にスポットライトが当てられ、マイクを持った桃髪の女性の姿が現れた。
「お集まりの皆さん、こんにちは〜!司会進行担当の、桃井ツクモで〜す!」
「えっ、ツクモちゃん……!?」
桃髪の女性――桃井ツクモの姿を見たサクラは驚きのあまり声をあげる。見ると、ツクモは黒いTシャツにジーンズといったスタッフのような服を着ていた。驚くサクラを他所に、ツクモは司会進行を進めていく。
「さてここからは、≪魔法少女シオン☆マジカルフェスティバル≫のメインイベント――≪魔法少女シオン☆スペシャルLIVE≫が始まります!お集まりの皆さん、準備はいいですか〜!?」
ツクモがそう呼びかけると同時に、客席から大歓声が巻き起こる。ツクモはそれを見て満足そうに頷くと、大仰な素振りでステージ中央を手で示した。
「それでは皆さん、中央の巨大スクリーンに注目してください!今から私が三つ数えるので、それに合わせて一緒に大きな声で≪魔法少女シオン≫を呼びましょう!行きますよ~!――三、二、一!」
――魔法少女、シオン――!!
アゲハ達を含めた会場の全員が――サクラは未だ困惑していたが――一斉に≪魔法少女シオン≫の名を叫ぶ。すると、巨大スクリーンに光が灯り、そこに魔法少女シオンの姿が映し出された。紫のフリルをあしらった衣装を身に纏ったアニメ調の紫髪の小柄な少女が、画面の中でポーズを決める。
≪魔物ある所に、天才魔法少女の儂あり!魔法少女シオン、ここに参上じゃ!≫
魔法少女シオンがお決まりの台詞を告げると、客席のあちらこちらから歓声が鳴り響く。明るく華やかな音楽が流れ始め、会場が熱狂の渦に包まれる。
≪うむ、盛り上がっておるのぅ!わざわざ箒をかっ飛ばして来た甲斐があったというものじゃ!その調子で、今日はとことん楽しんでゆくのじゃぞー!あと、会場は暑いから、水分補給も忘れるでないぞー!≫
魔法少女シオンのその言葉で、再び会場に歓声が鳴り響く。リリス達も、その熱狂っぷりを肌で感じていた。
「ん、凄い……!」
「凄い盛り上がりです……!魔法少女シオンって、こんなに人気なんですね……!?」
「……なぁ二人共。赤羽さん、めっちゃ泣いてるんやけど。これどうしたらええの?」
「ひっ、ぐすっ……本物の、魔法少女シオンだ……」
観客の様子に圧倒されているリリスとサクラ。レモンはそんな二人に――おそらく推しに出会えて感極まったのだろう――珍しく大号泣しているアゲハの対処法を尋ねる。マオはというと、いつもより堂々とした風格で椅子に座り、ステージの方をじっと見ていた。
「それでは、最初のコーナーと行きましょう〜!あっ、ちなみに一つ注意をしておきますが――ここからは魔法少女シオンが許可した時以外、カメラやスマホの撮影を禁止しております!ルールを守れない方はスタッフが厳重に注意致しますので、お願いしますね〜!」
ツクモの呼びかけと共に、カメラやスマホを掲げていた観客達はそれらを下げる。ツクモはそれを見て満足そうに頷くと、人当たりの良い笑みを浮かべて司会進行を続ける。
「うんうん、皆さんの行いに魔法少女シオンもニッコリ!――じゃあそろそろ、魔法少女シオンに司会進行を代わります!ここまでの司会は、私、桃井ツクモが担当させていただきました!皆さん、ありがとうございました〜!」
ツクモがそう言うと同時にスポットライトが消え、代わりに中央の巨大スクリーンがライトアップされる。スクリーンの中で、魔法少女シオンは笑みを浮かべた。
≪と、いうわけでここからは、儂が司会進行を担当するぞ。最初のコーナーは――儂の魔法を見せてやるとしよう!≫
魔法少女シオンがそう言うと同時に、彼女の手の中に一振りの杖が現れる。魔法少女シオンがそれを指揮棒のように振ると――ステージの上空に、花火が上がった。丁度夕暮れ時だからか青い花火が空を彩り、会場をざわめかせる。
≪次は――こうじゃ!≫
魔法少女シオンが杖を振るうと、今度はステージにある照明が紫色の光を放ち、チカチカと明滅を繰り返す。すると、会場のあちこちから真上に火花が上がり、それらは波のように付いたり消えたりを繰り返した。
≪まだまだゆくぞー!≫
魔法少女シオンがそう叫ぶと、ステージの下の方から煙が勢いよく噴き出し、その中から数人の人影が現れる。何処か変わった着ぐるみを身に着けた彼らは、煙が収まると同時に、息の合った動きで踊り出す。
「すげぇ!ありゃ魔法少女シオンの使い魔だ!」
「ダンスキレッキレー!原作再現キタコレー!」
「火花の色が変わったわ……!綺麗……!」
会場にいる魔法少女シオンのファン達は、彼女の「魔法」に魅了されたかのように、歓喜の声をあげる。リリス達も、目を輝かせながらステージを見ていた。
「とても、綺麗……」
「凄いです……!私、こんなの初めて見ました……!」
「ほら、赤羽さん。いつまでも泣いてんと、ちゃんとステージ見ときや」
「……っ!そうだな……せっかくのイベントなんだ。魔法少女シオンのファンとして、一秒たりとも目を離すわけにはいかねぇよな……!」
レモンの言葉で正気に戻ったアゲハ。アゲハはリリスとサクラと共に、ステージの方に注目した。
≪よし!では次のコーナーと行こうぞ!今日は儂の友人である、Ayaneを呼んでおる!会場の皆と彼女とで、一緒にとーくしょーなるものを行うぞー!≫
魔法少女シオンの呼びかけに、またもや会場が大歓声に包まれる。アゲハ、リリス、サクラの三人は笑みを浮かべて、一緒になって歓声をあげた。——そんな中、ふと、マオはほんの少しだけ眉をひそめていた。何処か他者を寄せ付けない雰囲気を纏ったマオは、隣に座るレモンに耳打ちする。
「——レモン。仕事だ」
「……承知」
レモンはそれまでの気だるげな雰囲気を離散させ、短く返事をする。レモンは背を屈めながら席を立つと、隣に座るサクラに向かってこう言った。
「ちょっとうち、お手洗い行かせてもらうわ〜。桃橋先生、赤羽さん達にうちの場所聞かれたらそう言っといてな〜」
「え?は、はい……わかりました……」
レモンは返事を聞くと同時にサクラ達に背を向けて、その場を離れる。彼女は言葉通り、お手洗いのある方へと向かっていき——サクラ達から見て完全に死角となった所で、反対側の方へ——ステージの後ろの方へと向かっていった。
————
——ステージの裏側にある、スタッフ以外は誰も近寄らない場所。その地面の中央に、禍々しい紫の剣が深々と突き刺さっていた。そこに駆けつけた茶髪ツインテールの少女——レモンは、剣を取り囲んでいるスタッフ達の一人に声を掛ける。
「お嬢様の命で派遣された、木戸レモンや。通報のあった場所はここか?」
「ああ、木戸さん……!よくぞ来てくださいました!」
「突然、あの剣がここに振ってきたんです。スタッフ——ここにいる警備員全員で確認をしたのですが、あの剣は微動だにせず……」
スタッフの一人が地面に突き刺さる剣を指さしてそう言った。レモンも同じように剣を一瞥すると、感情の籠もらない平坦な声でこう告げた。
「分かった。あとはうちに任せとき。あんたらは通常業務に戻っていればよろしい」
「で、ですが木戸さん……!」
「これはお嬢様の命令や。得体の知れない奴はうちの担当。心配せんでも、あんたらが仕事放棄したっていう評価にはさせへん。このイベントを企画した時にそう決めたはずや」
「……っ」
「……わかりました。マオ様の命令に従います」
レモンの言葉に、スタッフ達は歯噛みしながらもその場を去っていった。レモンはその姿を横目で見ながら、紫の剣に視線を向かわせた。
「……さ、人払いはしたったで。ええ加減正体見せてもらおか」
≪——愚かなり、脆弱な人間よ。この俺様にたった一人で挑む気か?≫
レモンが剣を睨みつけると、剣は男とも女ともとれない声でそう告げた。紫の剣からオーラが発せられ、レモンはさらに警戒色を強める。
「……生憎、これも仕事やねん。会場に突然変異種が紛れ込んだら、うちが秘密裏に始末する……それがお嬢様に与えられた仕事や」
≪くく……くはははははっ!俺様に怯えぬか!中々どうして、豪胆な娘だ!≫
「そういうのええから。とっとと消えてくれるか?」
レモンは懐から金色の装飾が施された黒い腕輪……アゲハが持っていたはずの腕輪を自らの腕輪にかざす。すると、たちまちレモンの黄色い腕輪に、金色の装飾が施されていく。
(堪忍な、赤羽さん。すぐ返したるから大目に見てや)
レモンは無感情にアゲハから腕輪を盗んだ事を思い返しながら、腕輪の部品に手を添える。彼女は紫の剣を見据えながら腕輪の部品を回転させた。
「——≪聖鎧装着≫」
——ズバババーン!オーバーフロー!
高い声が響くと同時に、レモンの姿がランドイエローの和風の装束姿に変わる。そして、腕輪から放たれた金色の光が、彼女の姿をさらに変貌させた。
——黄色が主軸となっている和風の装束……その鎧部分が、金箔を貼り付けたような綺羅びやかな金色へと変わる。
——彼女の首元にあるスカーフの色も金色となり、まるでストールのような長さになる。
——黄色のツインテールを纏める飾りも、静かな光を放つ金色となる。
——ゴージャス・イエロースター!ゴールドランドイエロー!
——闇夜では隠しきれない、流星の如き金の星。ゴールドランドイエローがここに現れた。レモンは金色の装飾が施された≪黄色い弓≫を構え、臨戦態勢となる。その姿の覇気を感じだったのか、紫の剣は不敵に笑った。
≪ほう、凄まじい力だ……!それにその力……なるほど。俺様の相手に相応しい……!≫
紫の剣がそう告げると、途端に、その姿が組み替えられていく。剣としてのパーツは離れ離れとなり、不規則な動きを繰り返し——やがて、それは裏返った。そこに現れた人型を見て、レモンは驚いたように眉をピクリと動かした。
「ふぅ……この姿は久々だな……相変わらず窮屈な身体だ……だが、戦えるのであれば、甘んじて受け入れてみせよう」
「……あんた、やっぱり突然変異種やったんやな」
レモンは人型——いや、異形の少女の姿を見てそう呟く。……白い髪に頭を貫いたかのような形状の大きな角。そして、紫色の肌をした小柄な体躯。明らかに人間とは思えない黒い装束姿の少女が、そこにいた。少女は白目と黒目が入れ替わった瞳でレモンを見据え、拳を構える。
「来るがいい、脆弱な人間よ。この俺様を楽しませてみせろ……!」
「言われんでも……!」
レモンは弓を構え、異形の少女に立ち向かう。——人々に夢と希望を与えるステージの裏で、殺伐とした戦いが幕を開けるのだった。




