第三話 萌えろ、ラブピンク!
「ゴシキジャー……技術担当?」
「そうだよお姉ちゃん。お姉ちゃんが着てたスーツも、武器も。そもそもゴシキジャーという組織自体、ボクが作ったものだよ」
「ええっ!?」
サグルの告白した内容に、アゲハは驚きを隠せない。弟が……正義の味方を創った?いや、そもそも……武器を作っただと?戦いとは無縁のこの弟が?
「驚くのも無理はないよ。ボクが≪ゴシキジャー≫を結成したのは、二年も前だからね」
「二年……そんなに前からか。なんで」
「なんでそんな事をしたのか。それは一重に、正義のためと答えておくよ」
言おうとしていたことを読まれ、アゲハは言葉に詰まった。サグルは気味の悪い笑みを浮かべながら、話を続けていく。
「ボクがゴシキジャーを結成する前……よりもっと前。この世界に、突然変異種と呼ばれる怪物達が現れるようになった。表向きには出されてなかったけどね」
「…………」
「二年前のあの時……ボクは、外を歩いている時に、突然変異種に出会った」
「……襲われたって言ってた奴か」
「ご明察。あ、ちなみにリリスさんに助けられたってのは嘘ね。ボクを助けてくれたのは、赤羽オト。ボク達の叔母さんだね」
「姉御っ……オトさんが!?」
赤羽オト。アゲハの母の妹であり、アゲハ達が小さい頃の時に、出張でいない両親に代わってよく面倒を見てくれた女性だ。アゲハに一通りの武術や護身術などを教えてくれた人でもある。ちなみにオトは古今東西の格闘技を習っており、アゲハが勝負を挑んで一度も勝てたことがない人物でもある。
「そ。オトさんはいち早く突然変異種の出現に気づいていてね。隠れてずっと突然変異種を倒していたみたいなんだ。その折にボクを見つけたみたい」
「なるほど……で、それとお前に何の関係が?」
「関係大有りだよ。何しろ、ゴシキジャーを創るきっかけになったのは、オトさんなんだから」
――サグル、確か君は発明が趣味だったな。
――私は今、突然変異種から人類を救う組織を結成している。一人でも多くの人材が必要なんだ。君さえよければ、ウチに来ないか?
「という感じで誘われて、恩義を感じたボクは二つ返事で了承。オトさんは国に許可を取って、≪突然変異種対策本部≫という組織を創っていてね。ボクに任されたのは、突然変異種と戦う武器を造ることとそれを扱える人材の確保。つまり開発担当兼スカウトマンだ」
「……そんな話、聞いた事ねぇんだけど」
「そりゃそうでしょ。その時はお姉ちゃんいなかったし」
サグルの言葉に、アゲハは一瞬悲痛な表情を浮かべる。それを見たリリスは、恐る恐るアゲハに声をかける。
「アゲハ……?」
「……なんでもねぇ。それで、続きは?」
「ボクはゴシキジャーのスーツと武器を開発し、それを扱える人材を五人確保した。それが先代のゴシキジャーだよ。まぁ、半年前に怪我とかで皆辞めたけど」
「半年前……」
「だから今は、ゴシキジャーのスーツと武器を扱える人たちを探していたのさ。それがお姉ちゃんやリリスお姉ちゃんだったってわけ」
「うん。私は三カ月前にゴシキジャーになった」
「そういう事。ちなみに、根が優しいお姉ちゃんを誘うためにリリスお姉ちゃんに勧誘をしてもらったんだ。……隠し事はこれで全部だから、もう説明は終わりでいいかな?」
「……ああ、十分だ」
つまり、サグルはゴシキジャーの人間だったということだ。だからゴシキジャーにもあの謎の武器にも詳しかった。そしてスカウト目的で、突然変異種に出会ったアゲハを誘った……ゴシキジャーの一員として。あたしは利用されていたんだ。もうこんな事、続ける義理もない。アゲハは神妙な面持ちのまま、辞める決意を……
「それなら、あたしは――」
「よし。じゃあ選択の時だよ、お姉ちゃん」
「……?何がだ?」
「お姉ちゃんがこのままゴシキジャーを続けるか……辞めてゴシキジャーの事を忘れるか♪」
「なっ……!?」
と思っていたら、先回りをされた。サグルは実に気持ちのいい笑顔で、アゲハに悪魔の選択を突きつけた。
「それって……今の話を全部忘れるってことか?」
「そうだよ。お姉ちゃんが突然変異種に初めて会う時まで、ね。ああ安心して、記憶の消去に使う薬は安全だから」
「お前、何言って……!」
「ゴシキジャーは秘密の組織。まだ突然変異種が目撃されている日本でしか活動が出来ない。で、今の時代下手なことをやったら、マスコミやメディアで大騒ぎ……いくら頭の悪いお姉ちゃんでも、これくらいわかるよね?」
「ふざけんなよ、そっちが勝手に誘っておいて……!」
「それに、いいのかなぁ……?リリスお姉ちゃんとの記憶も、疎遠になっていたときに戻るけど?」
「……っ!?そ、そんなの嫌っ……!」
声を上げたのはリリスだ。彼女は珍しく悲しそうに眉尻を下げ、アゲハに縋り付いた。アゲハは怒りの矛先を失い、困ったようにリリスを見つめる。
「リリス……」
「どうするのかな、お姉ちゃん?リリスお姉ちゃんはこう言っているみたいだけど?」
「……何がなんでもあたしをゴシキジャーに入れたいんだな、サグル」
「もちろん。やっと見つけた適合者だからね。逃がす気はないよ」
「……アゲハ……」
アゲハはリリスの目を見た後、サグルの目を見つめる。……その奥にあるものを見て、アゲハは観念したかのようにため息を吐いた。そしてぶっきらぼうに、サグルに言い放つ。
「……わかった。やってやるよ」
「……!アゲハ……!」
「よかった。じゃあ、これからもよろしくね。お姉ちゃん♪」
サグルが手を伸ばしてきたが、アゲハはそれを振り払った。代わりに、サグルに向かって指をさす。
「変な事やらせたらぶっ飛ばすからな!そこを分かっとけよ!」
「はいはい、わかったわかった。…………それでいいんだよ、お姉ちゃん」
最後の呟きは、誰にも聞かれることなく消えた。
「ふわぁ……眠ぃ……」
翌日。いつも通り学校に来たアゲハは、いつも通り朝の授業を寝て過ごした。教師陣からは白い目で見られたが、指摘される事はなかった。
「次の授業終わったら昼飯か……何食おっかな」
アゲハの昼飯は基本購買である。両親が家にいないので弁当を作ってもらえず、自身の壊滅的な料理センスでは料理を作ることは不可能だ。サグルは自分で弁当を作って学校で食べているが、アゲハに作る事は殆どない。あったとしても、アゲハの嫌いなものがてんこ盛りなので、アゲハは小遣いに頼ることになったのである。
「……す、すみませぇぇん……遅れましたぁ……」
授業開始のチャイムが鳴って数分。弱々しい声と共に一人の女性が教室に入ってきた。彼女の名前は桃橋サクラ。アゲハのクラスの担任教師で、担当は国語。弱々しい態度と振る舞いが特徴的な彼女だが、彼女のクラスでの人気は高い。
「おい……見ろよ、あれ」
「うわ、すげぇ……」
一部の男子生徒がサクラの方を見てひそひそと話している。アゲハが彼女の方に目を向けると、授業に遅れないように急いだ結果汗をかいたのか、シャツが透けて下着が見えていた。今の季節は春からそろそろ夏になる頃。上着を羽織っていない彼女はそれを隠すことも出来ず、そもそもそれに気づかない。
「せんせー、男子がうるさいでーす」
「え、ええ?……う、うるさくしないでくださいね?」
「はい先生!すいませんでした!」
女子生徒の指摘でサクラが首を傾げながら注意し、ひそひそ話をしていた男子が立って頭を下げる。その顔は横から見ると完全にニヤニヤとしていたが、近くの女子生徒の冷たい視線を受けて気まずそうな顔になる。
(……まぁ、そうなるよな。相変わらず、サクラ姉は人気者だな……)
一部始終を後ろから見ていたアゲハは頬杖を突きながら、ぼんやりとそんな事を考える。庇護欲を煽る弱々しい性格に、全体的に色々と大きな抜群のスタイル。当然男子からの人気は高く、反対に、無防備なサクラを守ろうとしている女子生徒からの人気も高い。
「えっと……この前の授業は確か……あっ、六十四ページからですね……それではまず、ここの問題を……」
「サクラせんせー、そこ前やりましたー」
「ええっ?……それでは、次のページから……」
聞き取れるか聞き取れないかの微妙な声量で、彼女は授業を進めていく。板書を書き、文章の要点や問題の解説などを分かりやすくまとめ、説明する。声量は微妙だったが、とても分かりやすい授業だ。この授業の分かりやすさも人気の一つだったりする。……まぁ、それでも赤点を取る生徒が減っているわけではないのだが。
「ええと、ここの答えを……あ、アゲハちゃ……コホン、赤羽さん……!」
「……「空に広がる無数の星」です」
「せ、正解です……!皆さん、拍手を……!」
サクラがそう言うと、アゲハの周りで拍手が起こる。
「すげーぞ、国語以外全部赤点の赤羽!」
「去年の夏休み補習地獄を乗り切った猛者!」
「今言ったやつ表に出ろ。ぶっ飛ばす」
「け、喧嘩は駄目ですよぉ……!」
アゲハは心無い言葉を投げかけてくるクラスメイトと一世一代の決闘をしようと試みるが、サクラに弱々しくたしなめられた。……仕方がないので、大人しく席につく。
「ほっ……では、次のページは……」
安堵の息を吐いたサクラは、授業を丁度いいペースで進めていく。そんな彼女を、アゲハは珍しく板書をしながら、その背中を眺めていた。
「……ううう……ごめんね、アゲハちゃん……」
昼休み。いつも通り購買のパンを買って昼飯にしようとしていたアゲハは、重そうなプリントの山を抱えてサクラの隣を歩いていた。サクラの手には、先程アゲハが買ったパンが入った袋が握られている。
「別に良いって。サクラ姉じゃこんなの運べないだろ?」
「で、でも……私なんかがアゲハちゃんに手伝ってもらうなんて……申し訳なくて……」
「気にすんなよ。それより、これどこに運ぶんだ?」
「あっ……えっと、そこの空き教室まで……」
「了解。あたしに任せとけ」
サクラは片手で軽々とプリントを抱え、もう片方の手でドンと胸を叩いた。サクラは申し訳なさそうにしながらも、袋を持って縮こまりながら歩く。
「ちなみにこれ、何のプリントなんだ?」
「えっと……この前の所の復習プリント……分かりにくそうにしてた子が、沢山いたから……」
「なるほど。流石サクラ姉だな。……でも、ちょっと量が多くないか?」
「担当してるクラス分作ったから……おかげで寝不足で……」
「それでさっき遅刻してたのか」
「あ、え、えっと……そうです……」
「……?なんで目を逸らすんだ?」
「……な、なんでもないよ……」
いきなり挙動不審になったサクラに首を傾げながら、アゲハは改めてサクラの顔を見る。目が半分隠れるくらいに髪が伸びていて、いまいち表情が読めない。
(……サクラ姉は昔からの付き合いだけど、最近たまに挙動不審になる理由が分からないんだよなぁ……)
「……アゲハちゃん、どうかしたの?」
「あ、いや。なんでもない」
「な、何か悩み事……?もしよければ、相談に乗ろうか……?」
「大丈夫だって。もし何かあったら真っ先にサクラ姉に相談してるよ」
「そ、そっか……」
「……っと、もう着いたみたいだな。ここでいいか、サクラ姉?」
「う、うん。大丈夫……」
「よし、じゃあ中の机に置いとくから。パン、預かってくれてありがとな」
「こ、こちらこそ……運んでくれて、ありがとうございます……!」
サクラはオドオドとしながら頭を下げ、持っていたパンの袋を差し出した。プリントを運び終えたアゲハはそれを優しく受け取ると、その場を後にする。
「……見ろよ。赤羽のやつ、サクラ先生をパシリにしてるぜ……!」
「きっと弱みを握ってるんだわ……赤羽さんって、この学校一の不良でしょ……?」
「いやむしろ、赤羽×サクラ先生とか……?」
……途中から見ていた生徒たちに良からぬ噂をされていたことは、不幸にもアゲハの耳には届かなかった。
「……なぁ、なんでリリスがあたしの机に弁当広げてんだ?」
「アゲハ、やっと来た。一緒にご飯食べよ」
教室に戻ってきたアゲハは、時間もないからとさっさと昼飯のパンを食べてしまおうと自分の席に向かったのだが……そこにいたのは、小さな弁当箱を広げたリリスだった。
「今日の卵焼きは自信がある。ぜひアゲハに食べて欲しい」
「わざわざ椅子まで持ってきて……昼休み、あと十五分しかないんだぞ?食べ切れるのか、それ?」
「……?これはアゲハに作ってきた分。自分の分はさっき食べた」
……どうやらリリスは、自分の作った弁当を食べさせに来たようだ。いや気持ちは嬉しいのだが、それならパンを買う前に言ってほしかった。
「あたし、パン買ってきちゃったんだが……」
「……食べてくれないの?」
「いや、食べるよ。食べ物を粗末にするわけにはいかないからな。……だけど、どういう風の吹き回しだ?お前、こんな事してくる奴じゃなかっただろ」
「この前はアゲハと久しぶりに話せたから。お祝い」
「……そういや、高校に入ってからあんまり話してなかったな」
アゲハは席につき――ご丁寧に箸も用意してくれていた――弁当を食べ始める。甘辛い肉料理に米が進み、自信があると言っていた卵焼きは程よい甘さでとても美味しい。アゲハが苦手なピーマンやニンジンなどはなく、非常に食べやすい弁当だった。
「美味いな。ウチの弟の弁当より美味いよ。あたしの苦手なものもないし」
「……褒めてくれて、嬉しい。頑張った」
「ありがとな。自分の分も作ったのに、大変だったんじゃないか?」
「一人も二人も、手間は変わらない」
「あたしもそんな風に言ってみたいもんだな。この前なんて、肉を焼こうとしたら炭になってさ……」
「……ふふっ……昔と同じ」
ふと、アゲハは自分がリリスと普通に会話をしていることに気がついた。この前まで疎遠だったのに、気づけば昔のように世間話をしている。やはり幼馴染であるからなのだろうか。
「……なぁ、リリス」
「何?」
「……なんで、あたしを避けてたんだ?」
気づけば、頭の中に浮かんだ疑問が、口から漏れ出ていた。……小中と一緒の学校で、何をするにも一緒だった幼馴染。しかし高校でリリスがアゲハを避け始め、結果疎遠となった。アゲハはめげずにリリスに話しかけていたが、リリスはアゲハを避け続け、いつしかアゲハもリリスとは関わらなくなった。まるで喧嘩別れでもしたかのように。……リリスはアゲハの言葉を受け、少し動揺したように眉尻を下げていた。気まずい雰囲気が、その場に流れる。
(何してんだ、あたし。そんなの聞いても気まずくなるだけだろ……)
アゲハは失敗した、と胸中で思った。リリスがまた仲良くしてくれているのに、それを突き放すような真似をするなんて。……気まずさを誤魔化すように、アゲハは頭をかく。しばらくすると、それまで動揺していたリリスが口を開いた。
「……から」
「え?」
「アゲハが昔よりかっこよくなった……から」
「……はい?」
アゲハはリリスの顔を見る。……頬を僅かに赤くし、手をもじもじとさせ、アゲハから視線を逸らしていた。今、よく分からない理由が聞こえた気がするんだが。
「リリス?今、なんて……」
「アゲハが昔よりかっこよくなって、より私好みになったから……顔、見れなくなった」
「聞き間違いじゃないだと!?しかもなんか情報が増えた!」
アゲハは今度は頭を抱え、身体を後ろに反らした。アゲハは困惑しながらも、リリスに問う。
「えっと……リリス?前もそんな感じのこと言ってたけど、お前もしかして、あたしの事を……」
「うん。アゲハの事が大好き。ライクじゃなくてラブで」
「……はぇ?」
リリスは席から立ち上がり、未だ困惑するアゲハの元へ歩く。リリスは少し屈んで、アゲハの首元に抱き着いた。
「な、何してんだ、リリス?」
「……好き。アゲハの全部が。顔も、身体も、性格も、香りも……?」
ふと、リリスは喋るのを止めた。同時に目のハイライトが消え、後ろからアゲハを見つめる。アゲハからギリギリ表情が見えるか見えないかの位置にいるリリスはいつもより感情のない無表情をしていた。
「……他の女の匂いがする。ねぇ、アゲハ?」
「ひっ……!?な、なんだ……?」
地を這うような声色のリリスに、思わずアゲハは悲鳴を上げる。いつもなら冗談だろうとスルーするところだが、今は首を人質に取られている。――下手な回答をしたら、殺される。アゲハは本能的にそう思った。感情を無くしたリリスが、再び口を開く。
「私に内緒で、他の女に会ったの……?浮気……?」
「は、はぁ?浮気?そんなのしてねぇぞ?」
「……私には分かる。アゲハの香りの中に、別の女の匂いがする」
怖い。どうしてアゲハの周りにはこんな奴しかいないのか。今まで数々の喧嘩をこなしてきたアゲハだが、今日ほど命の危機を感じたことはなかった。彼女の言う「浮気」に反論するために、アゲハは今日の記憶を思い出す。
(……今日は学校に来てから、リリスとしか喋ってねぇ。そもそもあたしは避けられてるみたいだし、話しかけてくる物好きな奴なんて…………あっ)
頭の中に、一人の人物が思い浮かんだ。サクラだ。リリスが言っているのはおそらく、サクラのことだろう。確かに今日は、リリスの他にサクラと話している。しかし断じて、恋人関係などではない。いや、そもそも付き合ってもないリリスに浮気と言われるのもおかしいのだが……ここは正直に話そう。
「……確かに今日は、サクラ姉と話したな」
「サクラ姉……なるほど、あの泥棒猫……」
「おい、なんだ泥棒猫って。サクラ姉はそんなんじゃねぇよ。お前もよく知ってるだろ?」
実はサクラはアゲハとリリスの幼馴染でもある。アゲハとサクラは家が近く、叔母であるオトと一緒によく面倒を見てくれていたのだ。リリスとも仲が良かったはずなのだが……今の彼女を見ていると、とてもそうは思えない。だって親の仇でも見たかのような反応をしているし。
「わかった。アゲハを誑かす奴は……消すね」
「おおい何する気だ!サクラ姉に手を出すんじゃねぇ!」
「なんでサクラ姉を庇うの、アゲハ……?やっぱり消さなきゃ……」
このままではまずい。幼馴染が幼馴染をターミネートしてしまう。焦ったアゲハは、教室中に聞こえる程の声量で叫んだ。
「あ、あー!リリスの弁当がまだ残ってるなー!手も疲れたし、誰か食べさせてくれないかなー!」
「……!アゲハに、あーん……?」
アゲハの叫びに、リリスの瞳に光が灯る。リリスは光の如き速度で席に戻り、アゲハの手から箸をかっさらう。そして残っていた卵焼きを箸で掴むと、アゲハの口へと近づけた。
「はい、アゲハ。あーん……」
「……あー」
リリスはアゲハの口に、卵焼きを食べさせた。アゲハはゆっくりと咀嚼し、ゴクリと飲み込む。
「……美味しい?」
「……ああ、美味いよ」
アゲハがそう言うと、リリスは嬉しそうに笑みを浮かべた。アゲハはその豹変っぷりを見て、苦笑いを浮かべるのだった。




