第二十六話 黄金の炎
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――その頃、地球より遥かに遠い星……突然変異種の王が住まうその星の王城では――
「あらら。二十六番は失敗したみたいねぇ」
「……申し訳ございません。私の部下が油断したばっかりに……」
「いいのよ、九番。ゴシキジャーの戦力を削ぐ事は一筋縄ではいかない……それが分かっただけでも収穫よ」
目の前で跪く九番――赤羽サグルの姿をした者を見ながら、彼女は慈悲深く笑みを浮かべてみせる。九番は顔をあげ、感情の読み取れない平坦な声で告げる。
「……レーナ様。そのゴシキジャーというのは、一体何なのでしょうか」
「あら、二十六番の話を聞いていなかったの?私達突然変異種の侵略を妨害する、五色の戦士達よ。数年前から地球に送っている突然変異種が、奴らにやられているの」
彼女――「宵闇」のレーナは笑みを浮かべながらそう告げた。レーナの言葉を聞いて、九番は眉をピクリと動かす。
「……まさか、そのような存在が地球にいたとは。己の無知をお許しください」
「良いわよ別に。あの脳筋のバベルじゃあ、敵の情報を調べるなんて事はしないものね」
レーナは同僚であるバベルを貶しながら、納得したように頷く。九番は「もう立って良いわよ」とレーナの許しを得て、ようやくその場から立ち上がった。
「では、私はこれで。次こそは、レーナ様の期待に応えられるような部下を送ります」
そう言って去ろうとする九番を、レーナの鈴を鳴らすような声が制止した。
「待ちなさい、九番」
「はっ」
九番は動きを止めて、レーナの方を向いて敬礼する。彼女はそれを見て満足そうに微笑むと、九番に向かって何かを投げ渡した。
「これ、改造終わったわよ」
「おっと……これは?」
「四十四番――いや、マッドだったかしら。この前バベルがそいつから奪った腕輪よ」
九番の手のひらの上にあるのは、白い腕輪――マッドホワイトに≪聖鎧装着≫出来るものだ。九番の主――バベル様が地球侵略の足がかりになるものと仰っていたもの――
「大変だったわよ。見たこともない造りの腕輪を、部下にも使えるように改造しろって無茶を言われたせいで。バベルの奴、今度会ったらとっちめてやるわ」
「改造……つまり、これは……」
「そ。あなた専用の武装よ。「これを使い、地球侵略に励むのだ」ですって」
九番はレーナの言葉を聞きながら、白い腕輪を右腕に身に着ける。すると、一瞬だけ腕輪が黒い光を放ち、腕輪の中心に「✕」という文字が刻まれた。それを見届けた九番はその場に跪いてみせる。
「ありがたき幸せ。この九番、必ずやバベル様の期待に応えてみせましょう」
「ええ、頑張って。あと、このアタシにも感謝するのよ」
レーナは跪く九番を見ながら、ニヤリとほくそ笑むのだった――
――――
「――本当にすまなかった!」
黄埼ミカンとの騒動の後。アゲハ達は正気に戻ったマオに頭を下げられていた。アゲハとリリスは顔を見合わせながら戸惑っていたが、レモンは何処か不機嫌そうにそっぽを向いていた。
「まさか、黄埼ミカンが突然変異種だったとは……しかも、この我が操られていたなど……一生の不覚!翠川グループの娘として、謝罪をさせてくれ!本当にすまなかった!」
「い、いや。魔王のせいじゃないだろ?悪いのは突然変異種じゃねぇか」
「うん。アゲハの言う通り」
なおも頭を下げたままのマオに、アゲハとリリスは慰めの言葉を掛ける。しかしマオは気が収まらないのか、今度は不機嫌そうなレモンの方を向いて頭を下げた。
「レモン、ごめんなさい!あなたが大変な時に、側にいてあげられなくて……!」
「お嬢様がいても足手まといやったし、別にええよ」
「で、でも……!わたし、危うくあなたをクビにするところで……?……え、今足手まといって言わなかった?」
「別に。突然変異種にあっさり攫われて、こっちの立場を不利にしよったお嬢様なんて、いてもいなくても一緒やろ」
「レモン、どうしちゃったの!?いつもより言葉強くない!?」
悲鳴をあげるマオに、レモンはわざとらしく間延びした口調でこう言った。
「あ~あ、うち、めっちゃ傷ついたなぁ〜。慰謝料とかいろいろ貰わんと、元気出えへんわぁ〜」
「わ、分かった!お父さんに言ってみるから!だからそのジト目を止めて!?心が痛いよ!」
「あとはお嬢様が、自分で下着を片付けられるようになって、自分で寝癖を整えて、料理もできるようになったら元気出るんやけどなぁ〜……」
「わぁぁぁぁぁぁ!?ちょっとレモン、なんで人前でそんなこと言うの!?二人共、違うからね!?わたしは基本一人で何でもできるけど、世話係のレモンの仕事を奪っちゃまずいからやらないだけなんだからね!?」
マオが顔を真っ赤にしながらアゲハとリリスにそう言うと、二人はマオに微笑ましいものを見るような視線を向けてこう言った。
「ああうん、分かってる分かってる」
「大丈夫。高校生で自立できる人はほんの一部。恥ずかしいことじゃない」
「全然わかってなーい!」
四人以外誰もいない空き教室に、しばらくマオの甲高い声が響くのだった。
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その日の帰り道。アゲハはレモン達と別れて、リリスと一緒に家へと向かっていた。リリスはアゲハの左腕にコアラのように抱き着きながら、鼻歌を歌っている。昼休みの時に言っていた「今日はずっとこのまま」という言葉の通りに、リリスは先程からずっとこの調子だ。
「ふんふふんふふーん……♪」
「……なぁリリス。そこまでしなくても、もう置いてったりしないって」
「別に、もうそんな心配してない。でも、アゲハに抱き着きたいからこうしてる」
「それは……まぁ、嬉しいけどさ。お前、顔真っ赤だぞ。大丈夫か?」
「気にしなくていい。暑いだけ。アゲハの温もりを私の身体で包んでるから」
「言い方ァ!ていうかもう抱き着くのは止めとけ!熱中症になったらどうすんだよ!」
「アゲハが水を口移ししてくれたら、すぐに治る」
「治るわけないだろ!ほら、手くらいなら繋いでやるから一回離れろ!」
アゲハの必死の説得により、リリスは渋々抱き着くのを止める。アゲハは若干しょんぼりとしていたリリスの手を、指を絡めながら握った。……所謂、恋人繋ぎという奴だ。途端、リリスの表情がへにゃりと崩れ、デレデレとした笑みを浮かべ始めた。
「ふふ……ふふふふ……幸せ……」
「単純な奴だな、全く。あたしの手の何がそんなに良いんだか」
「すべすべで、ほっそりしてる所が……」
「ごめん、やっぱ教えなくていい」
このままリリスにアゲハの手について何時間も語られそうな雰囲気だったので、アゲハはストップを掛けた。リリスは不満そうに頬を膨らませたが、アゲハが少しだけ強く手を握ってやったら笑顔になって矛を収めた。将来悪い奴に引っかからないか切に心配である。そんな風に、二人で仲良く歩いていると……二人の頭上から、声が聞こえた。
「――見つけたぞ、ゴシキジャーのレッド」
声が響くと同時に、二人の前に黒いローブを纏った人物が現れる。アゲハとリリスはローブの人物の方を向いて、警戒したように身構える。
「……おや、一人ではなかったか。貴様は確か――ゴシキジャーのブルーだったな」
「……!?なんで、知ってるの……!?」
ローブの某の言葉にリリスが狼狽えた様子でそう呟く。ローブの某はふん、と鼻を鳴らすと、二人に向かってこう告げた。
「フレアレッド、並びにマリンブルー。我が王による地球侵略の足がかりに、貴様らを抹殺する」
「……っ!てめぇ、突然変異種か!?」
「答える義理はない。生憎、敵に情報を渡すほど間抜けではないのでな」
ローブの某はそう言って、長いローブの右袖をめくる。すると、その腕には見覚えのある白い腕輪が嵌められていた。それを見たアゲハが、呆然として呟く。
「それは、マッドの……!」
「――≪聖鎧装着≫」
――ズバババーン……!
――マッドネス・ホワイトアウト……!マッドホワイト……2……!
地を這うような低い声が響き、ローブの某の身体を白い鎧が包んでいく。やがて、ローブの某が変身を終えると、その白い鎧の中心に黒い「✕」が刻まれ、兜の中心に赤い紋様が現れる。――かつてアゲハ達が戦った、マッドホワイトの姿がそこにあった。
「マッドホワイト……!」
「なんで……ここに……」
アゲハとリリスが呆然と呟く中、ローブの某――マッドホワイトは手の中に大きな銃剣を生成する。その銃口を二人に向けながら、マッドホワイトは低い声でこう呟いた。
「――これより、任務を開始する」
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「「≪聖鎧装着≫!!」」
――ズバババーン!
――レッド・フレイム!フレアレッド!
――コバルト・オーシャン!マリンブルー!
同時に≪聖鎧装着≫した二人は、武器を構えてマッドホワイトの方に駆けていく。
「――くらえっ!」
先手必勝とばかりに、アゲハがマッドホワイトに斬りかかる。……しかし、マッドホワイトは大きな銃剣を軽々と構えて、その攻撃を防ぐ。
「何っ……!?」
「その程度か。お前の力は」
マッドホワイトは身体を捻ると、アゲハの剣を自らの銃剣で弾く。そうして生じた一瞬の隙に、マッドホワイトはアゲハに銃口を向けて、銃剣の引き金を引いた。
「ぐあっ……!」
「アゲハっ!……よくも、アゲハを……!」
吹き飛ばされて転がるアゲハと入れ替わるように、激情に駆られたリリスの槍がマッドホワイトに襲いかかる。マッドホワイトは銃剣を剣のように構えると、まるで剣舞を踊るかのようにリリスの槍をいなしていった。
「……!?そんな……!」
「――≪白剣・ブーストドライブ≫」
マッドホワイトの銃剣が火を噴き、炎を纏う。――次の瞬間、凄まじいスピードの斬撃が、リリスに襲いかかった。
「きゃっ……!」
アゲハの元にリリスが吹き飛ばされる。二人はダメージを負った身体を押さえながら、マッドホワイトを睨む。マッドホワイトはそんな二人を見ながら、平坦な声で、何処か呆れたようにこう告げた。
「……どうした?よもや、この程度で敗れたというわけではあるまい?貴様らは二十六番――黄埼ミカンを降したのだろう?」
「なんで、それを……」
「黄埼ミカン……!まさか、お前がレモンを嵌めた黒幕なのか……!?」
「そうだとしたら?」
「てめぇを……ぶっ潰す!」
アゲハはすぐに立ち上がり、再び剣で斬りかかっていく。しかしマッドホワイトは息一つ切らさずにアゲハの攻撃をいなしていく。
「クソっ……!なんで、当たらねぇんだ……!」
「貴様の攻撃が単純だからだ。攻撃がどの方向から来るかが分かれば、防ぐことなど容易い」
マッドホワイトはアゲハの攻撃を回避して、硬い銃剣をアゲハの身体に打ちつける。アゲハは体勢を崩し、銃剣の銃口が彼女の身体に向く。
「――終わりだ」
マッドホワイトが引き金を引くと、アゲハは悲鳴をあげる暇もなく吹き飛ぶ。その衝撃で≪聖鎧装着≫が解かれ、アゲハは地面に伏せた。
「アゲハっ……!」
リリスはアゲハに駆け寄り、その身体を抱き起こす。アゲハは薄く瞳を開けながら、噎せたように咳き込む。
「すまん、リリス……」
「アゲハ、死んじゃ駄目……!」
「……大丈夫だ。あたしは、まだやれる」
アゲハはリリスの肩を借りながら、必死に立ち上がる。アゲハの瞳に宿る闘志は消えておらず、アゲハは自身の腕輪――ではなく、スカートのポケットに手を突っ込む。アゲハはその中にある目当てのものを取り出し、目の前に掲げた。――それは、金色の装飾が施された、小さな黒い腕輪。その腕輪を見て、リリスは呆然と呟く。
「それは……」
「……出し惜しみはしてられねぇ。こいつを使う」
アゲハは震える手で黒い腕輪を自身の腕輪にかざす。すると、黒い腕輪が消失し、アゲハの赤い腕輪に金色の装飾が施された。アゲハはリリスの手をそっと剥がすと、ふらつきながらも自分の足で立った。マッドホワイトはそんなアゲハを見て、銃剣を構えながら何処か呆れたように呟く。
「まだ立つか。フレアレッド」
「ああ。まだ勝負は終わってねぇ」
「無謀と勇気は別物だ。貴様が私に勝てるとは思えん」
「やってみなくちゃ――わかんねぇだろ!」
アゲハは腕輪の部品に手を掛け、残る力を振り絞って腕輪の部品を回した。……すると、腕輪から金色の光が放たれる。
「――≪聖鎧装着≫!」
――ズバババーン!オーバーフロー!
アゲハの叫び声と共に、アゲハの身体がフレアレッドの装束に包まれる。そして、腕輪から一際強い金色の光が現れ、アゲハの装束に鎧を形作っていく。
――装束のひらひらしたフリルに合わせ、金で縁取られた赤いリボンが現れる。
――アゲハの上半身を装束の上から包むのは、赤い紋様が描かれた金色の鎧。
――アゲハの艷やかな赤い髪を一つに結ぶ、金色の髪飾り。
それらが構成された後。再び、腕輪から聞こえる高い声がその場に響き渡った。
――ゴージャス・レッド・フレイム!ゴールドフレアレッド!
赤い装束と金色の鎧に身を包んだ、不死鳥を連想させるような赤き戦士――ゴールドフレアレッドが、ここに爆誕するのだった。
――――
「なんだ、その姿は……!」
「アゲハ……!凄い!カッコいい……!」
先程とは違う≪聖鎧装着≫に、マッドホワイトは驚愕に染まった声を、リリスは黄色い歓声をあげた。アゲハは二人の声には応えず、堂々とした振る舞いで≪赤い剣≫を構える。――その≪赤い剣≫にも、金色の装飾が施されていた。
「――≪翼炎剣・ソニックフェザー≫」
アゲハが呟くと同時に、その姿が消失する。すると、マッドホワイトの前にアゲハが現れ、アゲハは目にも止まらぬスピードで斬りかかる。
「何っ……!?」
咄嗟にマッドホワイトは銃剣を構え、アゲハの攻撃を受け止める。しかし、アゲハの攻撃はそれで止まらず、再びアゲハの姿が消える。――次の瞬間、炎を纏った無数の剣撃が、マッドホワイトを襲った。
「ぐっ、があっ……!なんだ、今のは……!」
「――≪翼炎剣・サーチスケイル≫」
マッドホワイトの耳に一瞬だけアゲハの声が聞こえたかと思うと、今度は空中にいくつかの火炎球が現れ、マッドホワイトに向かって凄まじいスピードで飛んでいく。
「クソっ……!」
マッドホワイトは優れた動体視力を駆使して銃剣を振るい、火炎球を弾いて弾道を逸らす。それだけで、難は逃れたように思えたが……なんと、弾かれた火炎球は再びマッドホワイトを目指して飛んでいった。
「何だと……!?――ぐあああっ!」
マッドホワイトが驚愕に喘ぐのも束の間。全ての火炎球がマッドホワイトに突き刺さる。マッドホワイトは身体のあちこちから煙をあげて、その場に膝をついていた。
「馬鹿な……ありえない……!」
「――形勢逆転、だな」
マッドホワイトの顔に、アゲハの剣先が向けられる。それと同時に、マッドホワイトの≪聖鎧装着≫が解かれ、元のローブを羽織った姿に戻る。ローブのあちこちを焦げさせたマッドホワイトは、フードの奥からアゲハを睨みつけていた。
「何故だ……!ゴシキジャーがこのような力を使うなど、情報にはなかった……!」
「観念しろ。今のあたしには、てめぇは勝てない」
「……っ!」
「とどめだ。……≪翼炎剣――≫」
アゲハがマッドホワイトに向かって剣を振り被った――その時。一筋の風が、マッドホワイトのフードを揺らした。マッドホワイトの隠していた素顔が、その場に露わになった――
「……っ!?」
それを見た瞬間、アゲハの動きが止まった。リリスもその顔を見たのか、驚愕の表情を浮かべて固まっている。アゲハは呆然としながら、ボソリと呟いた。
「サグル……?」
――首まで伸びた黒い髪に、少女と見間違うかのような美貌。アゲハにとって、一生忘れることのない存在――赤羽サグルが、そこにいた。
「な、なんで……?サグルが、ここに……?」
「……なんだ、この顔を知っているのか?」
「サグル、なのか……?」
「残念だが、私は赤羽サグルではない。私は個体番号九番。「常闇」のバベル様の忠実なる右腕にして、メタフォ部隊隊長。赤羽サグルとは赤の他人だ」
「でも、その顔は……」
アゲハがよろよろとマッドホワイト――九番に足を進めると同時に、目の前に煙幕が張られる。放心状態になっていたアゲハの隙をついて、九番が煙玉を投げたのだ。
「――これ以上語ることはない。私達は所詮戦士の一人。次に相まみえるのは戦場だ」
「……っ!待てよ!逃げんじゃね――」
「次は始末する。首を洗って待っていろ、フレアレッド」
九番の捨て台詞と同時に、煙幕が収まっていく。そこには既に、九番の姿はなかった。アゲハはよろめきながらその場にへたり込み、≪聖鎧装着≫が解除される。リリスは様子のおかしいアゲハのもとに駆け寄り、何処か控えめに声を掛ける。
「アゲハ……?大丈夫……?」
「リリス……ああ、大丈夫だ。あいつを撃退出来たんだから、早く家に帰ってオトさんに――」
報告しよう。そう言いかけた所で、アゲハは言葉を止めた。目の前のリリスが、アゲハを強く抱きしめたからだ。
「……無理しなくていい。アゲハは、一人じゃない」
「…………リリス」
「今なら、泣いてもいい。私達以外に、人はいない」
アゲハに言い聞かせるようにリリスはそう呟いた。途端に、アゲハの瞳から一筋の雫が溢れる。――そこからは、もう限界だった。
「ひっ……ぐっ……」
内なる感情に呑まれたアゲハはリリスに縋り付くように抱き着き、嗚咽を漏らしながら静かに涙を流すのだった。




