第二十三話 愛と友情、オンステージ!
「……侵略、でございますか?」
地球より遥かに遠い星の彼方。突然変異種の王が住まうその星の王城で、九番――赤羽サグルの姿をした突然変異種は、首を傾げる。
「――左様。王は私に告げた。近々、地球に兵を送ると。王の長き望みであった侵略が、なされようとしているのだ」
「……何故、そのような内容を私如きに?」
九番は無表情ながらも、瞳に戸惑いの色が表れている。目の前の上司――バベルは、一介の兵士の一人にすぎない九番に、何故王からの言葉を告げたのだろう。九番がバベルと同じ立場にある「宵闇」のレーナであれば納得できるのだが。最もな九番の疑問に、意外にもバベルは丁寧にそれに答えた。
「貴様は今や私の忠実なる配下。私の側近だ。いずれは私と同じく、王の側近となる者。王からの伝言を告げぬ道理はない」
「……左様でございますか。過分なご配慮、感謝いたします」
恭しく礼を述べながら、九番はバベルの言葉を反芻し、その場で思考を繰り広げる。
(……どうも、バベル様は私を大げさに扱うきらいがある。バベル様には他にも優秀な部下がいらっしゃるはずなのに……わざわざ、王の言葉を私に告げるとは)
自分は至って普通の兵士だ、と九番は思う。かつての身勝手な自分のせいで、この身体は他者に化ける能力を失った。だからバベルのサポートに徹し、必要であれば敵をこの手で潰す。人間の身体というのは意外にも元の身体より動かしやすく、殺しに向いている。そうすることで、他の同僚とも釣り合うはずだ――そう思っていたのだが、目の前の上司はそんな九番の思惑を否定する。
「過分ではあるまい。最近の貴様の働きには目を見張るものがある。この前の異星への侵略も、貴様は兵士を先導し、見事勝利を収めてみせた。貴様はもう、私の側近たる存在だ」
はて、と九番は思う。
自分は何故、ここまで成果を上げることが出来ているのだろう。例え少し異例だとしても、自分は末端の兵士に過ぎないのだ。寧ろ自分の能力が使えない分、無能であるとも言える。
(……この、身体の力なのか?)
かつて九番が喰らった、赤羽サグルの肉体。九番はそれを用いて自分の肉体を創り変え、今の姿になっている。そしてどういうわけか、この姿から元に戻すことが出来なくなった。
(……ありえない話ではない。私は一度死んだはずだ。しかし何故か再び生を受けてここにいる……もしや、赤羽サグルの肉体は霊薬の類なのか?)
自分でそう考えて、心の内で失笑した。普通の人間の肉体にそのような効果はない。人間を喰らう同僚を見ていれば分かる。だというのに、浮かんだ馬鹿馬鹿しい疑問は、九番の頭の中から消えなかった。
「……九番?」
「あ……申し訳ありません。少し、考え事を」
上司に声を掛けられ、慌てて九番は思考の渦から逃れる。九番は恭しく頭を下げ、バベルは「構わん」と短く告げた。
「それ程までに、王の言葉を重く受け止めているということだろう。何せ、地球の侵略は今までとは違い、一筋縄ではいかぬだろうからな。貴様が不安に思うのも致し方ない」
「……寛大な言葉、感謝致します」
「うむ。……さて、私はそろそろ王の元へ向かう。指示があるまで、貴様は待機しておけ」
「承知しました」
そう言って、バベルは鎧が擦れる音を鳴らしながら、その場を後にした。九番は跪いたまま、再び思考を巡らせる。
(赤羽サグル……奴の正体は、一体……)
その疑惑は、九番の胸中にじんわりと広がっていった。
――――
――桃橋サクラ&桃井ツクモの仮想空間。閉鎖的な空間の中、背中に冷たい床の感触を感じながら、サクラは息も絶え絶えといった様子で倒れていた。
「はぁ……はぁ……」
「その……サクラ、大丈夫?生きてる?」
「い、生きてる、よ……」
素に戻ったツクモがサクラに声をかけると、サクラは途切れ途切れの声で安否を告げ、弱々しくサムズアップした。
「やっぱり無茶しすぎなんだよ。休憩しよ?」
「……そんな暇、ないよ。私は、もっと、頑張らないと……」
「十分に頑張ってるって。実際、最初より大分上手くなったし……寧ろ、あたしの方が自信無くしそうで……はは……」
ツクモの自虐を交えながらの称賛に、サクラは複雑そうな表情を浮かべた。自分がツクモの言うレベルまで到達しているのか、半信半疑だった。目の前の友人は、やはり雲より高い位置にいる気がした。
「……ツクモちゃんは、すごいね」
「え、急にどしたの」
「いつも元気で、明るくて……ダンスも凄く上手で……とっても優しい人。私の自慢の友達だよ」
「え、えー?そこまで言われると、ちょっと照れちゃうなー」
頬を赤らめながら、たはは、と頭をかくツクモ。昔と変わらない友人の姿に、サクラは少し頬を緩めた。しかし、サクラに突き刺さっている冷たい棘は、彼女の心に影を落とす。胸がチクリと痛む感覚を味わいながら、サクラはボソリと呟いた。
「……私も、そんな風になれたらよかったのに」
自分は臆病で弱虫だ。人付き合いも得意な方じゃないし、今のツクモのように突出した才能があるわけでもない。他人に流されやすく、誰かのためにしか生きられない自分が、サクラは好きではなかった。――サクラが前髪の下で眉尻を下げて天井を眺めていると、ふと、ツクモがおずおずとしながら声を掛けてきた。
「……ねぇ、サクラ」
「……?」
「間違ってたらごめんだけど……もしかして、ちょっと落ち込んでる?」
「え……?」
「いや、なんか元気がない感じがしたっていうか、その、昏いオーラが溢れ出てるというか……」
ツクモが指をもじもじとさせながらそう言うのを見て、サクラは長い前髪の奥で目を見開いた。あまり感情を表に出さない自分が、心情を見抜かれた事に驚いたのだ。
「よく、わかったね……」
「ん、まぁ……シンパシーってやつ?あたしもアイドル辞めてからは落ち込む事が多かったからさ……なんとなくわかんだよね、そういうの」
「……そうなんだ」
「も、もしよかったら、あたしに話してみない?勿論、嫌なら無理には聞かないし。特訓ももうちょっと後回しにして……いや、それも良くないか……?」
頭を抱えて、ああでもないこうでもないと悩み出すツクモ。どこまでも優しい友人の姿を見たサクラは、少しだけ、心が温かくなった気がした。
(……ツクモちゃんなら、話してもいいかもしれない)
少しだけ自分に生じた綻びから、サクラはそんな事を思った。信頼できるこの友人なら、少しだけ醜い心の中を見せてもいいのかもしれない。だって彼女は、真っ直ぐに自分と向き合ってくれているのだから。
「……ツクモちゃん。ちょっとだけ、私の話を聞いてくれる?」
「……!うん、勿論聞くよ!」
パッと花を咲かせたような笑みを浮かべた友人を見て、サクラは顔を綻ばせるのだった——
————
「私、ゴシキジャーにいていいのかな……」
「え……」
スポットライトが照らす仮想ステージの上で、あたし——桃井ツクモの親友である桃橋サクラは弱々しい声でそう言った。馬鹿なあたしは発言の意図がわからず、彼女の悩みについて踏み込む。
「……どういう事?いていいのかな、って……サクラは今、ゴシキジャーのラブピンクじゃんか」
「……えっと、そういうことじゃなくて……私は、ゴシキジャーに相応しいのかな?」
俯きながらそう言うサクラ。前髪の隙間から垣間見えるその表情は、初めて会った時のような……何処か辛そうな弱々しい表情。それを見たあたしは、反射的に口を開いていた。
「相応しいよ!相応しいに決まってるじゃん!」
——かつてあたしは、ゴシキジャーのラブピンクだった。街で偶然知り合ったオトさんに誘われ、あたしにピッタリの仕事があるって言われたのがきっかけだ。突然変異種っていうやばい奴らと戦って、ちょっとだけ恥ずかしいスーツを身に纏って……こんなあたしでも出来る事があるって、感激したんだ。——でも、現実はそこまで甘くなかった。あたしはある日、ゴシキジャーを辞めた。理由は簡単だ。突然変異種に殺されかけたんだ。≪聖鎧装着≫が解かれて、助けが来るまであたしは逃げ回った。その時感じた恐怖は、今でも思い出すことが出来る。そのせいで、あたしはゴシキジャーを辞めてバイト生活に戻った。
(……けど、サクラは……)
あたしは目の前で縮こまっている親友の姿を見る。……高校生の時からの友達で、引っ込み思案で自虐の多かった親友。自分は馬鹿だ、とか、自分は駄目な人間だ、とか……そんなことばかり言っていたけれど、あたしはサクラをそんな風に思ったことはない。だって、サクラは強かった。人付き合いが苦手とは言いながらも、決して人との関わりを諦めたりはしなかった。何かと暴走しがちなあたしとも友達でいてくれた。
「サクラは強い人だよ。あたしなんかよりもずっと。だってサクラ、目指してた先生にもなれたじゃん。どんな時も絶対に逃げなかったじゃん!」
「……でも、私は……流されやすい性格だから……ゴシキジャーにも、成り行きでいるようなもので——」
まだ自虐を言おうとするサクラに、あたしは言葉を畳み掛けた。
「——きっかけなんてなんでもいい。今、サクラはまだゴシキジャーを続けてるじゃん。戦うのって怖いのに、サクラはこうして特訓まで受けて……あたしだったら絶対無理だよ!」
「ツクモちゃん……」
あたしがそう言うと、サクラが不安げにあたしの方を見てくる。若干震えている彼女の身体を、抱き締めて落ち着かせてあげたいと思った。けど、あたしはそれをぐっと堪えて……代わりに、ニッと笑みを浮かべた。
「自信持って、サクラ。サクラはサクラが思ってるよりも、何倍も凄い人なんだよ?」
「……!ツクモちゃんっ……!」
感極まったのか、サクラが震え声であたしの名前を呼んで、抱きついてくる。……やば、なんかあたしも泣きそうなんだけど……ていうか、サクラ……あたしよりもその……でかくない?いやこんな状況でなに考えてんのって話だけど。
「うう……ツクモちゃん、ありがとう……ぐすっ……ツクモちゃんも、凄いよ……私の自慢の、親友だよ……」
「……!サクラ……!」
……最後にそんなに嬉しいこと言うのは、卑怯じゃん。——こうして悩みを打ち明けてくれたサクラとあたしは、しばらく互いに泣きながら抱き合っていた。やっぱ友達って、最高じゃんね。
――――
「……一二三四、一二三四……」
「おお、良いよサクラ!ほとんど完璧だよ!」
――ツクモとの話を終えた後、サクラはひたすらにダンスの練習をしていた。隣に立つツクモが満面の笑みを浮かべているのを見て、サクラの表情が少し綻ぶ。
「よかった……まだ、足りない所はあるかな……?」
「えっと……強いて言うなら、表情?お客さんの前で踊るなら、もうちょっと笑顔の方がいいかな」
「うん、分かった」
サクラは瞳を隠している前髪をあげてピンで止め、綺麗な瞳を露わにした。その瞳にはもう、一つの迷いも宿っていなかった。
「サクラ、めっちゃいい顔してるよ!その調子!」
先程までスパルタだった友人が褒めてくれるのを聞きながら、サクラはダンスの練習を続ける。最初の頃よりも動きが洗練されていて、無駄も少ない。ツクモには及ばないが、初心者にしては十分な出来である。……練習時間――二十四時間。現実では四時間の出来事だが、それでもサクラの練習は決して無駄ではなかった。
「よーし!じゃあちょっと休憩して、すぐ本番にしよっか!」
ツクモの呼びかけを聞いて、サクラはふう、と息を吐いて動きを止める。彼女はどこか晴れやかな表情を浮かべながら、ぐっと拳を握りしめた。
(……大丈夫、私ならできる!)
心の内で自分を鼓舞して、サクラは客席の方に視線を向けた。
――――
光振り注ぐステージの上で、ツクモとサクラはフリルをふんだんにあしらった衣装を身に纏って、埋まった客席に呼びかけていた。
「みんなー!気分乗ってる〜!?」
「「「ガァァァァァァァ!!」」」
「元・≪Apostle of God≫……通称アポストのツクモちゃんで〜す!今日から私があなたの使徒♪」
「「「ガァァァァァァァ!!」」」
アイドルモードのツクモに対して、客席から雄叫び……ではなく、咆哮が聞こえてくる。――客席にいたのは、ペンライトやうちわを持った、虎型の突然変異種達だった。二足歩行でピンクの法被まで羽織った彼らは、目を血走らせながらレスポンスを返す。その異様な光景に、サクラは恐怖で身体を震わせた。
「あ、あの……ツクモちゃん……!?これは……!?」
「あー、お客さんを再現する方法がこれしかなくてさ……ま、危害は加えてこないから安心してね!」
そう言ってサムズアップすると、ツクモはすぐに客席に向き直った。サクラは未だ困惑していたが、ツクモが平然としているのを見て、とりあえずそれに習うことにした。
「今日はみんなのために、スペシャルなゲストを呼んでるよ〜!そのゲストっていうのは〜……じゃん!私の隣に立ってる、サクラちゃんで〜す!」
「よ、よろしくお願いします……!」
「「「ガァァァァァァァ!!」」」
ツクモの紹介に、再び咆哮をあげる突然変異種達。随分とおぞましいコール&レスポンスである。しかし、ツクモは全く動じていなかった。元プロの場馴れである。
「今日は私達のライブ、楽しんでいってね〜!」
「が、頑張りますっ……!」
「サクラちゃん、固いよ~。もっと肩の力抜いて〜」
「は、はひっ」
全く肩の力が抜けてそうにないサクラを見て、ツクモは微笑ましいものを見るように笑い、彼女の肩をバシバシと叩いた。距離を詰めたツクモは、そのままサクラの耳に囁く。
「大丈夫。サクラならきっとできるよ」
「……!」
その言葉にサクラの表情が緩み、固まっていた肩が解れる。サクラは自分を落ち着かせるように深呼吸をして、先程とはどこか違い――穏やかな笑みを浮かべた。彼女の露わになっている瞳が、強い光を宿している。それを見て、ツクモは安心したように距離を取った。次いで、客席に呼びかける。
「それじゃー行くよ〜!――≪Abyss Sword≫!」
ツクモの呼びかけと同時に、曲が流れ出す。それに合わせてツクモとサクラがステップを踏み、位置を変える。激しい曲調のイントロに合わせ、二人は目まぐるしく動きを変えていく。
――――♪
歌の入りはツクモから。はっきりとよく通る涼やかな声が、ライブハウスに響いていく。途中で天に向かって拳を突きだし、それに合わせて観客がペンライトを振る。
――――♪
サクラのパートに切り替わり、サクラは控えめながらも透き通るような声で歌を口ずさむ。しかしその間も動きは忘れずに、流れるようにステップを刻む。観客はその動きに合わせて、「ガアッ」と合いの手を入れていく。
――――♪
曲のサビ前。横に並んでいた二人が声を合わせ、同じステップを刻む。手の動き、足の動きもピッタリと合わせ、無駄のない動きで「かっこよさ」を演出する。
(……視線は、前に。動きは、滑らかに。自然な、笑顔……!)
サクラは胸の内でツクモの教えを繰り返し、理想の自分を作り上げていく。……偽るのではなく、真実に。今の自分を信じて、最高の自分を作る。
――――♪
曲はサビに入り、二人の動きは激しさを増す。一つ一つの動きのタイミングが繊細で、その上歌まで合わせなければならない。手足の疲れや喉の痛み……それらをおくびにも出さずに、寧ろ二人は楽しんでいる様子でライブを続ける。
「「「ガアッ!ガアッ!ガアッ!」」」
観客も盛り上がり、二人の踊りに合わせてペンライトを振る。やがてサビが終点に差し掛かり、二人の動きもクライマックスに移行する。
(……凄い。凄いよ、サクラ!短時間で、こんなに上達するなんて……!)
ツクモは胸の内でサクラを絶賛した。最初はステップすらままならなかった友人が、今やツクモが思わず舌を巻くようなレベルにまで成長した。これが称えるべきことでないというなら一体何だというのか。
「……凄いなぁ」
ツクモはステップを踏みながら、ボソッと呟く。……いつも自分が引っ張っていた、弱気で臆病な少女。彼女は自分をそのように自虐するが、ツクモはサクラの事を、一度も臆病だなんて思ったことはない。
(だってサクラは、一度も逃げなかった)
サクラは自分と出会った時も、クラスメイトと関わった時も。コミュニケーション能力に難はあったが、それで逃げ出したりはしなかった。少しずつ、本当に少しずつ歩み寄り、自分を馴染ませていった。
(……度胸を鍛える、なんて言ったけど……本当は、サクラの自己肯定感を高めるための特訓、だったんだよね……)
サクラは間違いなく、強くて賢い人間だ。ただ、本人がそれを否定してしまっているため、本領が発揮できていないだけで。だからこそ、ツクモはこの特訓方法を選んだ。かつて自分を引き上げた高みへとサクラを導くために。
(頑張れ、サクラ。あたしには無理だったけど……)
ツクモは彼女を横目で見ながら、軽快に自分のステップを踏んでいく。少しでも、友人を鼓舞できるように。
(サクラなら出来る。ゴシキジャーも、自分を信じる事も)
――曲が終わると同時に、サクラとツクモはビシッとポーズを取りながら動きを止める。それと同時に、客席から「「「ガアアアアアアア!」」」と歓声が鳴り響く。充実感が胸に満たされるのを感じながら、ツクモは朗らかな笑みを浮かべるのだった。
――――
「――ゴシキジャー諸君。君達は見事に私達からの特訓を完遂してみせた。その根性と実力に敬意を表する」
アゲハ達五人が特訓を終え、現実世界に戻ってきた後。再びオトに招集を受けた五人――現ゴシキジャーは、オト達五人――先代ゴシキジャーからの激励の言葉を受けていた。
「素晴らしい腕前でした。皆さんなら、きっとさらなる高みへと昇れるでしょう」
「最高の筋肉、そして根性デシター!……少し怖かったですけど……ワタクシから教えることはもうありマセーン!免許皆伝デース!」
「ふん、せいぜいマオ姉に恥じぬ振る舞いを心掛けることだな」
「ツクモちゃんとしては、皆無理せずに程々に〜ってことで〜」
お手本のような激励をするミコトに、少し怯えた様子を見せながらも元気にサムズアップするメアリー。何故かマオだけを特別扱いするミドリに、緩い言葉を投げかけるツクモ。四者四様の激励に、特訓を受けた五人も言葉を返す。
「……ま、すっきりはしたな」
「……もっと強くなって、アゲハを守る」
「二度とやりたないわ……」
「ハーッハッハッハ!また我の力が、世に示されてしまったな!」
「なんだか、強くなれた気がする……!」
うんざりしたような表情をしたアゲハとレモンに、目をキラキラと輝かせてスッキリとした表情をしている他三人。テンションの違いはあれど、皆達成感を感じていた。そんな五人を見たオトは満足そうに頷くと、白衣のポケットから何かを取り出した。そして、五人に向かってそれを差し出す。
「――それでは、君達五人にこのアイテムを託すとしよう」
――それは、二つの腕輪だった。一つは金色の装飾が散りばめられた黒い腕輪。もう一つは銀色の装飾が散りばめられた白い腕輪。しかしアゲハ達の身につけている腕輪より一回りほど小さく、幅もそれ程なかった。二つの腕輪を見ながら、アゲハが呟く。
「これは……?」
「この腕輪は、君達のゴシキジャーの力を大幅に向上させるアイテムだ。これらを使えば、強力な突然変異種とも渡り合えるようになるはずだ」
オトはアゲハの問いに答えると、金色の装飾が散りばめられた黒い腕輪を片手に持ち、アゲハがゴシキジャーの腕輪を着けている腕を掴む。キョトンとしているアゲハを他所に、オトは黒い腕輪をアゲハの腕輪にかざす。すると、黒い腕輪が消失し、アゲハの赤い腕輪に金色の装飾が施された。
「なっ……!?なんだ、これ……!」
「よし、上手くいったようだな。この状態で≪聖鎧装着≫をすれば、強大な力を扱うことが出来る」
「ま、マジかよ……」
驚くアゲハの呟きを聞きながら、オトは腕輪にある一際大きな金色の装飾に手を触れる。すると、アゲハの腕輪が元の姿に戻り、オトの手の中に黒い腕輪が現れた。
「このように、取り外しは自由だ。五人で上手くこのアイテムを活用してくれたまえ。しかし、無闇矢鱈に使っては駄目だぞ。力の使い方を誤れば、さらなる被害を呼び込む事になってしまうからな」
オトはそう言って、アゲハに二つの腕輪を渡した。金色の装飾と銀色の装飾がアゲハの手のなかで光を放った。
「……分かった。気をつけるよ」
アゲハはそう言うと、仲間達の元へ戻る。途端に、マオが目を輝かせてアゲハの近くに駆け寄った。
「赤羽アゲハよ!その腕輪、我に預けてみないか!?我が真なる魔王へと進化するために!」
「いや、話聞いてたか?無闇矢鱈に使うなってオトさんが……」
「アゲハ。私が片方使う。そしてもう片方をアゲハが使えば、お揃い……」
「いや、金と銀なんだからお揃いとかなくないか?」
「お嬢様、青宮さん。こういうのは慎重に使うもんやで。暴走とかして怪我したらどうするんや」
「そ、そうですね……木戸さんの言う通りです」
明らかに不純な動機で腕輪に手を伸ばしてきた二人に、三人が苦言を呈する。しかしそこは頑固なマオと強情なリリスというべきか。二人は全く引く様子がなかった。
「我は魔王である!民のために力を求めずして何が王であろうか!その腕輪の力を使い、我はさらなる覇道へと進むのだ!」
「腕輪は二つ。つまり、私とアゲハが選ばれし二人になれる。二人は互いに高め合って、その果てに愛を再確認して……んっ……」
一人は無茶苦茶な魔王理論を展開する子供(18)。もう一人は妄想を拗らせて身体を震わせているただの変態である。ジリジリと迫ってくる二人に、アゲハは顔を引きつらせる。
「お、お前ら正気か……?」
「ふふん、赤羽アゲハよ。観念して腕輪を渡すのだ……!」
「アゲハ……一緒に気持ちよく、なろ……?」
明らかに正気でない様子の二人に、アゲハはくるりと背を向ける。アゲハは顔を真っ青にしながら、その場から逃げ出した。
「あっ!逃げたぞ!追うのだ、青宮リリスよ!」
「逃さない……!」
据わった目でアゲハを追いかける二人。そんな二人を、レモンはため息を吐きながら、サクラはどうすればいいのかと困惑しながら見ていた。五人の様子を見ていたオトは、自分の同僚――先代ゴシキジャーの方を見ながら呟く。
「私は……彼女らにアレを渡してよかったのか……?」
「「「「………」」」」
残念ながら、答えてくれる者は一人もいなかった。




