第十八話 スパルタ特訓!先代の集い!
新章です。
これまでの、≪聖鎧戦隊ゴシキジャー≫は――
突然変異種に襲われ、成り行きでゴシキジャーとなった不良少女、赤羽アゲハ。厨二病魔王のご令嬢や愛が重い系幼馴染が引き起こしたトラブルに巻き込まれ、以前とは違う壮絶な生活を送っていた彼女は、ある時毒舌系インテリ弟(偽物)の陰謀に巻き込まれて、死んだ弟(本物)の事を知る。本当の弟の願いを知った彼女はゴシキジャーを続ける意義を見つけ、今日も突然変異種から人々を守るために戦うのであった――
――――
――事実は小説よりも奇なり、という言葉がある。現実に起こる出来事は、小説よりも複雑である……今、赤羽アゲハが直面している出来事は、まさにそれを体現しているように見えた。
「…………手加減は、致しませんよ」
「ワタクシ、燃えてキマシター!先輩の洗礼というやつ、教えて差し上げマス!」
「思考が小学生で止まっているような貴様が、私の後継者だなんて、認められない。私の頭脳で、全力で叩き潰してやろう」
「ツクモちゃんの力、見せちゃうよ〜?まっ、ツクモちゃんが負けることはないけどね~」
アゲハ……いや、アゲハ達の前に立つ、四人の女性(一人少女)。先代ゴシキジャーである彼女らは、闘志を剥き出しにしてそれぞれの武器を構えていた。
「……負けられない」
「何が先輩や。……散々うちにちょっかい出して、生きて帰れるとは、思ってへんよなぁ?」
「――この戦いは、我の覇道に刻まれし宿命。この魔王を愚弄した罪、その身で贖え」
「……が、頑張らなきゃ……私のような人間でも、人を救えるようになるんだ……!」
そんな先代ゴシキジャーを前に、アゲハを除いた四人は闘志マシマシだった。というか、魔王主従コンビは殺気すら放っていた。闘志というより殺る気マンマンだった。
「「はぁ……」」
八人がそれぞれの反応を見せる中……アゲハとオトは、呆れたようにため息を吐いた……
――――
何故、先程のような事になったのか。ここで、数刻前の彼女達の様子を見てみよう。
「……特訓?」
ある日の放課後。オトに≪突然変異種対策本部≫の基地――つまり、オトの家に呼び出されたアゲハは、オトから言われた言葉に目を丸くしていた。
「ああ。ゴシキジャーを続けると決めた君のために、さらなる力をつけてやろうと考えていてな。……突然変異種との戦いも、いつ過酷になるか分からない。万が一があってからでは遅いんだ」
「それで、あたしを呼び出したのか……いや待て、他の奴らは?」
「丁度予定が取れなかったんだ。リリスちゃんは委員会の仕事、レモンちゃんとマオちゃんは家の事情、サクラは教師の仕事……だから、仕方なくアゲハだけを呼び出したわけだ」
「おい、仕方なくってなんだよ。あたしの事を一体何だと……」
「本当はアゲハを含めた五人の美少女に囲まれたかったのに……!」
「ああ、そういうこと……」
涙を流して床に膝をついたオトに、アゲハはドン引きしたような視線を向ける。……ここ最近のいざこざで忘れていたが、この叔母は美少女が何よりも好きなのだ。特に胸と尻のでかい女が。
「……それで?特訓って何をするんだ?」
「そんな短いスカートでかがみ込んで私を見るんじゃない。視線が動くだろう」
「蹴り飛ばすぞ」
真面目に話を聞こうとしたのに、このザマである。ゴシキジャー続けようとしたの、間違ってたかな……などとアゲハは思った。少なくともこの叔母は間違いだらけである。
「はぁ……用がないなら、もう帰っていいか?」
「いや、待ってくれ。用はあるんだ」
「あたしのパンツを覗く事か?」
「……………………違う。ああ、違うとも。君を呼んだのは、先程言ったように、特訓についての話をするためだ」
「何だよ今の間は」
せめて速攻で否定して欲しかった。アゲハが呆れたような瞳を向けていると、床から立ち上がったオトが咳払いをして、白衣のポケットに手を突っ込んで話を続けた。
「コホン。それで、特訓の話なんだが……私を含めた先代ゴシキジャーに、協力を頼もうと思っている」
「先代って……つまり、姉御が直々に鍛えてくれるってことか?」
「その通り。先代のゴシキジャーは、私とともに数多の修羅場を乗り越えてきた猛者達だ。彼女達の特訓は、きっと君達にいい経験を与えてくれるだろう。もちろん、私もそのつもりで君達を指導する」
「おお、頼りになるな!で、その人達は?」
「……呼び出したはずなんだが、まだ来ていないんだ」
「いや来てないのかよ!」
「……だからもう、今日は解散しようと思う」
「おかしいだろ!あたしの時間返せよ!」
……アゲハの文句を聞きながら、オトは気まずそうに視線を逸らすのだった……
――――
「……もし、そこのお方」
「……え、私?」
放課後。委員会の仕事を終え、帰路についていたリリスに、一人の女性が声を掛けてきた。長く艷やかな黒髪に整った顔、リリスよりも大きな等身。更に、黒いスーツを纏っている彼女を見て、リリスは少し身を引かせた。
「……誰?」
「怪しいものではございません。少し、道を尋ねたいのですが……」
「道を……?」
「ええ、恥ずかしながら、迷ってしまいまして。この辺りに、赤羽さんのお宅があると聞いたのですが……」
「……え?アゲハの、知り合い?」
突然出てきた幼馴染の名前に、リリスは目を見開いて驚く。同時に、こんな美人がアゲハの家に……?と、疑いの視線を向けた。あ、疑いとは浮気の疑いである。いや、アゲハに至ってそんな事はないと分かっているけど、それでも……というのが乙女心である。……途端に警戒心を強めたリリスに、女性は首を傾げた。
「……アゲハというのは、どなたのことでしょうか?」
「え……?」
「私の探しているお宅というのは、赤羽オトさんのお宅なのですが……」
――――
「……はぁ……疲れたわぁ」
「うむ、父上との話が長かったからな……月一の報告など、父上はいささか過保護だと思うのだが」
「それにしても、なんでうちまでついてこなあかんねん……あの空間に一人取り残される身になってみて欲しいんやけど」
マオとレモンは、実家での用事を終え、二人の住んでいる家へと向かっていた。……大企業の社長令嬢であるマオには、とても過保護な父がいる。幼い頃からマオを花よ蝶よと育ててきたため、彼女が今の高校に通うために独り立ちした時、翠川グループの社長でもある彼女の父はこう言った。
――私の跡継ぎとなる愛しき娘よ。月に一度、お前の得た見分を私に聞かせたまえ。お前が次期社長に相応しいかどうか、見極めるためにもな。
……それっぽいことを言っているが、用は思春期の娘が大事なく暮らせているか確認したいだけである。しかも、その報告では親子そろって意味の分からない厨二病言語で話をするので、今のレモンの精神は限界に近かった。例えるなら、外国人が会話している横で一人取り残されているようなものだった。
「ハッハッハ!レモンは我の一番の従者であるからな!我の行くところに常にレモンあり……そういう定めなのだ」
「その定めぶち壊したいわぁ……」
「……!?どういう意味だレモンよ!我の何が不満だというのだ!?」
……いや、そういうところなんやけど。とレモンは思った。このお嬢様は悪い人ではないのだが、ボッチを拗らせているせいでかなりめんどくさいのだ。そのためどこに行こうにもマオがついてくるので、レモンは常日頃から一人の時間を欲していた。
「お願いレモン!何でもするから見捨てないでぇ!わたし、レモンがいないとボッチになっちゃう!」
「……赤羽さんや青宮さんがおるやないの」
「い、いや、赤羽アゲハは我の好敵手だし、青宮リリスはあんまり話したことないし……」
「めんどくさっ」
「レモン!?」
主の弱音を切って捨て、マオに泣きつかれるレモン。そんな情けない主を実にうっとおしそうにしながら歩いていると、ふと、レモンの目に二つの人影が入った。……それを見たレモンは、思わず足を止めた。
「ん?レモン、どうしたの……?」
レモンにしがみついていたマオが訝しんだ表情になり、レモンの見ている方に視線を動かした。……すると、マオの目にも、二人の人影が写った。そこで、二人が見たものは――
「ヘーイ、ミドリサン!久しぶりデスネー!ちょっと、背が大きくなったんじゃないデスカ!?」
「……おい、あまり近くに寄るな。馬鹿が伝染る」
「ヒドイ!?ワタクシ達、一緒に戦った仲間デショ!?ほらほら、友情のハグデース!」
「暑い。友情も何も、私達はただの仕事仲間だ。それ以上でもそれ以下でもない」
「ううっ、ミドリサン、ヒドイデース……でも、そんな所も素敵デース!」
……黒髪の眼鏡を掛けた小柄な少女に、金髪碧眼の女性がハグをしている姿だった。少女は明らかに迷惑そうな表情を浮かべていたが、女性はそんなのお構いなし、といった様子だった。それを見た二人は、おもむろに携帯を取り出して――
「「よし、通報しよう」」
迷うことなく、110番通報した――
――――
「……というわけで、彼女らが先代ゴシキジャーのメンバーだ」
リリスがオトの家に案内した女性――そして、マオとレモンが通報一歩手前までいった女性と暫定被害者の少女――その三人をオトは手で指し示した。彼女がどこか複雑そうな表情を浮かべているのは言うまでもない。
「……元マリンブルー、白河ミコトと申します。普段は≪突然変異種対策本部≫の≪秘密結社ファイブカラー≫の異世界支部で働いております。よろしくお願いします」
リリスに連れてこられた、黒髪ストレートの等身の大きい女性――白河ミコトは、簡単に自己紹介して一礼した。自己紹介を聞いたアゲハは、ミコトの言葉に首を傾げる。
「秘密結社ファイブカラー……って何だ?」
「……秘密結社ファイブカラーは、≪突然変異種対策本部≫から派遣された精鋭達で構成されている組織だ。彼女はその中でも、異世界……突然変異種にも関わりのある、こことは異なる世界を調査している支部の一員なんだ」
アゲハの疑問に、オトが懇切丁寧に答えてくれた。なんだかアニメでしか聞かないような話だと、アゲハは思った。まぁ、ざっくりまとめると、組織のなかにあるもう一つの組織ということか。
「……まぁ、つまりあなた方の先輩になりますね。名前だけでも、覚えていただければ幸いです」
「ありがとう、ミコト。さて、次はそこの二人だな」
オトが金髪碧眼の女性と黒髪眼鏡ポニーテールの少女の方を向くと、彼女達も続いて自己紹介を始めた。
「ワタクシは、元ランドイエローの横田メアリーと申しマース!隣町の高校で、英語教師をしてマース!動物が大好きデース!仲良くシマショー!」
「私の名は古賀ミドリ。元アカシアグリーン。なれ合うつもりはない。以上だ」
金髪碧眼の女性――メアリーはフレンドリーに自己紹介をして、反対に黒髪眼鏡ポニーテールの少女――ミドリははっきりと拒絶を含んだ自己紹介をした。彼女らを連れてきた現ゴシキジャー……レモンとマオは、呆気に取られた様子で二人を見ていた。
「随分と、癖の強い二人やな……」
「というか、今なれ合うつもりはないと言わなかったか……?小さい見た目をして、かなり厳しい事を言うのだな」
……マオがそう言った時、ミドリの首がグワン、とマオの方を向いた。ミドリは瞳孔が開いていて、マオは思わず「ヒッ」と言って身体を引かせた。そんなマオの元に、ミドリは一気に距離を詰める。
「おい、ガキ。今、私を「小さい」と言ったか?」
「い、言ったけど……というか今、わた――我の事をガキって……」
「その腕輪……まさか、貴様が私の後継者か?後輩の分際で、よくも私に、「小さい」などと言えたものだな。私と変わらない背丈のくせに」
「なっ……!?な、何故そんな事を言われなければならない!我は魔王であるぞ!我の放つ圧倒的なオーラが見えぬのか!?それに、我の方がちょっと背が高いもんね!」
「ハッ、背の高さがなんだ。私にはこの完璧な頭脳と完璧な肉体がある。貴様のような頭お花畑な奴と比べるまでもなく、私が優秀であると分かるだろ」
「……っ!?……わ、わたしだって、わたしだって……!」
怒りに表情を歪めるマオだが、反論材料がないのか何も言えずにプルプルと身体を震わせている。ミドリの言っていることは、少なからず的を得たものだったのだ。
「うわーん!レモンー!」
「いや子供か」
「あの子がガキとか頭お花畑とか言ってくるよぉ……!」
「はいはい、酷いやっちゃなー」
……その場にいる誰もが、マオの方が子供だと思ったが……まだ人の心がある者達は、それを口にしたりはしなかった。マオに抱きつかれているレモンを見て、ミドリは未だ不機嫌そうにそっぽを向いた。そんな彼女らを見て、オトはマオ達に頭を下げる。
「……ミドリがすまない。あの子はまだ小学生なんだ。多目に見てやってくれ」
「はぁ、別にかまへんけど……え、小学生?」
「小学生!?わたしよりも年下じゃん!わたし、小学生にガキとか言われたの!?」
「ん?年上だったのか?すまんな、てっきり同年代だとばかり」
「むきー!許せない!わたし、もう十八歳なのにー!」
「魔王、口調が戻ってない……」
小学生相手に地団駄を踏む高校生を見て、リリスは可哀想なものをみるような目でマオを見た。それを見かねたオトが、ミドリをマオから遠ざける。
「……コホン。とりあえず、今いるメンバーの自己紹介は終わりだ。後は、元ラブピンクだけなんだが……サクラもいないし、今日はこのくらいで解散――」
「――ちょっとまったぁ〜!」
オトが解散を言い渡そうとしたその時……部屋の中全体に、女性の大きな声が響き渡った。次の瞬間、部屋の中に、一人の人影がゆらりと入ってきた。一同は入ってきた人影に視線を向け、呆気に取られたような様子だ。
「お待たせ〜!元ラブピンクの、桃井ツクモちゃんだよ〜!道が渋滞してて、遅れちゃった♡」
オトの隣に立った、綺麗な桃髪をウルフカットにした天使と見紛うような美貌。そして、フリフリのリボンをあしらった衣装を着た美少女――桃井ツクモは。可愛らしく片手を腰に当ててピースを決めながら、そう言い放った。
――――
「オー!ツクモ!お久しぶりデース!昔と、お変わりないようデ!」
「五月蝿い羽虫が増えたか……おい、オト。解散だと言うのなら、私はもう帰ってもいいか?」
「えー、酷いよミドリちゃん!せっかく可愛いツクモちゃんが、車かっ飛ばしてきたっていうのにー」
目を輝かせているメアリーと、心底嫌そうな顔をしているミドリ。そんなミドリにうざ絡みをしているツクモという女性……なんというか、アゲハとリリスは置いてけぼりだった。
「……先代ゴシキジャーって、いつもこんな感じなのか?」
「……凄く……癖が強い」
「その感覚は正常ですよ。昔は私も頭を悩ませたものです……」
二人にそう声を掛けるのは、先代マリンブルーの白河ミコト。先程から空気と化して事態を見守っていた彼女は、無表情ながらもどこか疲れているように見えた。彼女の後ろには、珍しく頭を抱えているオトの姿もあった。
「……なぁ、姉御は一体どうしたんだ?」
「仲間の醜態を見ていられないのでしょう。オトさんは私と同じく、彼女らを止める側の人間でしたから」
ミコトの言葉を聞いて、アゲハは首を傾げた。リリスも同じように首を傾げている。
((あのオトさんが、止める側……?))
二人の記憶の中にいるオトは、美少女に目がなく、美少女を見たら見境なくスキンシップを図ろうとする変態だ。そんなオトが止める側というのは、少し違和感を感じたのだ。二人の視線を感じたのか、オトは気まずそうに視線を逸らした。その素振りで不信感を増した二人は、思わずオトをミコトから離して部屋の隅に寄る。そして顔を寄せて、三人でひそひそと話し始めた。
「……なぁ、オトさんってそんな感じだったのか?」
「正直、信じられない」
「そうだな。オトさんがあんな美少女三人を見て、手を出さないはずがないしな」
「……二人は私を何だと思っているんだ。私だって、人を選ぶ権利はあるんだぞ?」
アゲハの言葉に、オトは本当に嫌そうに顔をしかめた。どうやらあの美少女三人は対象外らしい。人間、外見よりも中身が大切とは、よく言ったものである。
「……どうかしましたか、オトさん?」
「な、何でもないよ、ミコト君。少し、二人と例の件について話し合いをしていてね」
「そうでしたか。では、私はあの三人をそろそろ止めてまいりますね。時間もないようですし」
「……ああ。宜しく頼むよ」
そう言ってミコトは、アゲハ達が目を逸らしていた混沌とした空間の方に歩いていった。オトはふぅ、とため息を吐いて、頭を押さえた。アゲハとリリスは、そんなオトの様子を見て、一言。
「「……え、誰?」」
「君達、失礼じゃないか!?私にも外面というものはあるんだぞ!?」
日頃の行いが完全に裏目に出ているオトは、涙目で反論するのだった――




