第十六話 あの日の約束、新たな始まり
「……ははっ……負けちゃった……」
マッドは地に伏せたまま、掠れた声で笑った。アゲハは肩で息をしながら、マッドの方に歩みを進める。
「……証明、してやったぞ。お前が間違ってることをな……」
「……そうだね。認めてあげるよ……ボクは、間違ってた。そんなの、分かってたさ……」
マッドは転がって仰向けになり、空を見上げた。アゲハはその近くに腰掛け、息を整えながらマッドの方を見る。
「……随分と素直じゃねえか」
「そりゃ、ここまで完璧に負けちゃったらね……あーあ、ここに来るまで、大変だったのになぁ……」
「……ハッ、お前が何かを企んでるんだったら、止めてやるって決めてたからな。あたしと会ったのが、お前の運の尽きだ」
「……倒れてる相手に容赦ないね。全く、サグルはどうしてこんなやつを笑顔にしたいと思ったのか……不思議で仕方ないよ……」
「……そうか。お前、サグルの友達だったんだよな」
「羨ましいかい?赤羽アゲハ。ボクは四年前から、ずっとサグルの友達で、家にいなかった君よりも一緒に過ごした時間が多かったんだよ?」
マッドはサグルと瓜二つの顔で、弱々しく笑ってみせる。アゲハはそれを見て苦笑しながら、どこか遠くを見つめる。
「……もっとあいつと一緒にいてやれば良かった。あたしが四年前に、グレて家を出なければ……助けられたかもしれないのに」
「……本当だね。君がサグルを助けてくれたら、サグルが死ぬことも、ボクがこんな馬鹿なことをすることもなかったかもしれない。……でもまぁ、所詮は仮定の話だ。ボクが君たちを欺いた事は変わらないし、サグルを失ったことも変わらない。そういう……ものさ」
「……お前、やっぱりサグルとは似ても似つかないな。サクラはもっと、素直で可愛げのあるやつだったぞ」
「知ってるよ。君とは全然似てないよね」
「この野郎」
互いに戦いの疲れを誤魔化すように軽口を叩きながら、二人は話を続けていく。
「……お前こそ、その性悪な性格じゃ、サグルの友達でいるのは無理だろ」
「わかってないね……正反対な性格だからこそ、ボクはサグルを認めたんだよ」
「……あたしのことは認めてくれないんだな」
「当然。ボクは君のことが……大嫌いだからね」
「奇遇だな。あたしもお前が……大嫌いだ」
「アハハハハ……」
マッドは可笑しそうに笑い、ゆっくりと身体を起こした。その瞳はどこか悲哀に満ちていて、先程までのマッドからは考えられない様子だった。マッドはアゲハの方を向いて、こう言った。
「ねぇ、君は……サグルが死んで……悲しいと思わないのかい?」
「……そんなの決まってんだろ。悲しいよ。涙が出そうで、胸が痛くて、ちょっとでも話してないと気が狂いそうだ」
「なら、どうして……そんなふうにいつもの調子でいられるんだい?」
マッドはアゲハを咎めるように眉を潜め、苛立っているかのようにアゲハを睨む。アゲハはマッドから目を逸らさず、少し言葉に詰まりながらも、マッドの問いに答えた。
「……お前が、サグルとそっくりの見た目をしてるからかもな。なんでか、お前と話してると……しっかりしなきゃって気分になるんだ。サグルの前で涙は見せられない、泣いていられない……ってな」
「……ハッ、馬鹿みたいだね。姉としての性とでも言うのかい?ボクは、サグルじゃないってのに……」
「そんなの分かってる。けど、お前を見てたらさ……まるで、サグルがそこにいるかのように感じるんだ。お前は弟じゃねぇって、あたしが自分で言ったのに……ほんとに、馬鹿みたいだ」
……マッドはしおらしいアゲハを見て、苛立ちを覚えた。まただ。こいつはまた、ボクの事を無視する。こいつが見てるのは自分と同じ……サグルだけだ。それが、たまらなく腹立たしい。ボクの気持ちなんか、一ミリも理解していない。その事実が、マッドの胸中にしこりを残す。……だが、アゲハの話を聞くたびに、彼女に対する敵意が薄まっているのも、また事実だった。こいつは気に食わない。けど、ボクと同じなんだ。それがすれ違いを生んだというだけで。
「……君は、本当にサグルの事を大切に想ってるんだね」
「そりゃそうだ。あたしはあいつの姉貴だからな」
「妬ましいよ。ボクだって、彼の事が、ずっと……」
「……でも、あたしはあいつを避けた」
「……!」
「あたしみたいな乱暴者は、サグルに悪影響を与えるって親に言われて……サグルのためを想って、ずっと避けちまってた。あいつの意思を無視して」
「赤羽アゲハ……」
「今でも後悔してる。あたしは守ってやると決めたあいつを傷つけたんだ。……姉貴失格だよ」
アゲハは膝を抱えて、顔を俯かせた。何かを堪えるように顔をしかめ、強く拳を握っていた。……その様子を見たマッドは、何故かそれ以上追求することが出来なかった。重苦しい雰囲気の中、ふと、アゲハは顔を上げてこう言った。
「……でもさ。そんなあたしの代わりに、あいつに、優しくしてくれたやつがいる」
「え……?」
「あいつは四年前に言ってたんだ。大切な友達ができたって。サグルがあたしの所に遊びに来た時、あいつはずっとその友達との話ばっかりしててな。その時のあいつは、凄く楽しそうだった」
「それって……!」
「お前の事だよ。マッド。いや……怪物さん」
「……!」
「あいつはずっと言ってた。怪物さんに恩返しがしたい。もっと喜んで欲しいってな」
「サグルが……ボクに……?」
「ああ。あいつがあそこまで楽しそうだったのは初めて見た。悔しいが、お前のおかげなんだろうな……マッド」
「……ずるいよ、サグル。ボクにはそんな事、一言も言ってくれなかったのに……」
マッドは顔を手で覆い、震えた声色のまま俯く。すると、陽炎のように姿が揺らめき、マッドはサグルの姿から、白髪の少女に姿を変えた。
「……それが、お前の本当の姿か。怪物さん」
「……怪物さんって呼ばないで。それは、サグルだけが呼んでいい名前だよ。大切な、ボクだけの名前だ……」
「な、言ったろ……お前の望みは、叶わないって。お前の信じたサグルが、人を絶望に陥れる事を望むわけがないだろ?」
「……そんなの、わかってたさ……ただ、ボクはサグルの死が受け入れられなかっただけなんだ。生まれて初めて、悲しいと思った。泣きたいと思った。けど、その隣で、ボクより先に悲しんでいた君が……腹立たしかったんだ。ボクをサグルを殺した犯人だと決めつけた君が……!」
「…………」
「初めてだった。ボクに興味を持った奴は。奪うことしか知らなかったボクに、サグルは色んな事を教えてくれた。楽しい事を、友と一緒にいる喜びを」
「マッド……」
「なんで殺されたんだよ……サグル……ボクはまだ、君と共にいたかった……なんで、なんで……」
――その時、自然に身体が動いた。気づけば、アゲハはマッドを抱きしめていた。マッドは言葉を止め、アゲハの方を向く。
「……赤羽アゲハ?」
「……悪い。つい身体が……」
「……なんだよ、慰めてるつもりかい?哀れんでるのかい?こんな事しても、ボクは……」
「……そんなつもりはねぇよ。ただ、サグルは小さい頃、落ち込んだ時にこうしたら落ち着いた。お前にも、効果があると思っただけだ」
「……!ははっ……全く君は、本当に、傲慢だ……!傲慢で、自分勝手、で……サグルとは、正反対、だよ……!」
「……なんとでも言え」
アゲハはしばらく、マッドを抱きしめていた。耳に響くすすり泣くような声に、聞こえないフリをしながら。
――――
「……落ち着いたか?」
「……落ち着いたよ。屈辱的な感情と引き換えにね」
その後、アゲハの抱擁で落ち着いたマッドは、複雑な表情を浮かべながらため息をついた。
「落ち着いてもらわないと困る。一応、怪我してる身で身体張ったんだからな」
「ぷっ……そういえば君は怪我人だったね。わざわざボクを止めるために、ご苦労なことだよ」
「てめぇ……もっかいぶん殴られてぇのか」
再び剣呑な雰囲気となる二人。二人はしばらく視線をバチバチと交錯し……途端に吹き出した。
「……ははっ、やっぱりあたし達は、気が合わないみたいだな」
「……そうだね。一応、二年間姉弟を演じたはずなのにね」
「今のお前は弟っていうより、妹みたいだしな」
「実際はボクの方が、もっと年上だけど」
「あたしの方がでかいから、あたしが年上だ」
二人は他愛もない話をしながら、互いを見る。互いに互いを嫌っているはずなのに、何故か、二人は笑っていた。――ひとしきりくだらない話を終えたあと、ふと、アゲハは気になっていることを尋ねた。
「……なぁ。お前、これからどうするんだ?」
「そうだね……今まで通り、君達のサポートをすることになるかな。……勿論、こんな事になった以上、ボクは赤羽オトから制裁を受ける事になるだろうね」
「そうか。しっかり罪を償ってこいよ」
「言われなくてもわかってるよ。君は本当に、口うるさい奴だね」
「あたしはどうやら傲慢みたいだからなぁ?」
アゲハがニッと笑いながらそう言うのを見て、マッドは目を見開いた。彼女の顔に、サグルの面影を感じたからだ。マッドは目を伏せ、アゲハから顔を逸らす。
「君は、本当に――」
「――ここにいたか。個体番号四十四番」
突然聞こえてきた声に、マッドは顔を上げ、後ろを振り返った。アゲハもつられてマッドの見ている方を見る。――そこには、頭と上半身を龍の鱗のような鎧に身を包んだ、黒い異形の怪物が立っていた。マッドはそれを見て、驚いたような顔をして呟いた。
「……バベル、様……?」
「ようやく見つけたぞ。裏切り者の四十四番。我らが同胞を欺き、利用し、あまつさえギガンダイルまで持ち出した。我らが王の元に――貴様を処刑する」
「処刑……?待て、こいつに何をする気だ!」
アゲハが叫んでも、バベルと呼ばれたものは耳を貸さず、自らの腕に剣を生成した。バベルはそれを両手で構え、圧倒的な威圧感を放つ。それは、アゲハの足が竦む程のものだった。
「……っ!なんだ、こいつは……!」
「バベル様……!ボクは、決して裏切ってなど……!」
「罪人の言葉に耳を貸す余地はなし。その罪……己の命をもって償え」
バベルはそう言うと同時に地面を蹴り、マッドの身体目掛けて剣を一閃。あわや、マッドが真っ二つになると思われたが……
「させるかよ……!」
それは、マッドの腕を引いたアゲハによって回避された。マッドは地面に倒れ込み、アゲハを巻き込んで地面を転がる。その拍子に、マッドの着けている白い腕輪が外れた。腕輪はそのまま、バベルの足元に転がった。
「……なんだ、これは」
バベルは自分の攻撃が回避された事も気にせず、目に写った白い腕輪を拾い上げた。バベルはそれを数秒眺め……目を見張った。
「これは、まさか……!そんな馬鹿な……四十四番は、既にこれを手にしていたというのか……!」
バベルは腕輪を眺め、兜の奥に隠された顔に笑みを浮かべた。アゲハとマッドは警戒心を抱きながら、バベルから距離を取る。ふと、バベルは腕輪から視線を外し、マッドの方を見た。
「四十四番。貴様の処刑は止めだ。その代わり、この腕輪は回収させてもらう」
「バベル様……?何故……」
「我が王の命は何よりも優先される。ただそれだけのことだ――だがいずれ、貴様の命は私が奪う。……さらばだ」
バベルはそう言って、陽炎のように姿を消した。周囲に放たれていた威圧感が消え、アゲハとマッドは安堵の息を吐いた。
「……なんだったんだ、あいつは」
「……あの方は、「常闇」のバベル。ボクをこの星に送り出した方だよ」
「お前を、この星に……?」
「……ああ。ボクは突然変異種の王に仕えている個体だったんだ。バベル様は、王の右腕……つまり、ボクの上司ってことさ」
「……そんな奴に、命を狙われてるのか?」
「そう。……今回は助かったけど、いずれボクはあの方に処刑されてしまう」
そう言ってどこか遠い目をするマッドの肩に、アゲハは優しく手を乗せた。
「そんな事させねぇよ。お前には、あたしらのサポートをしてもらわないといけないからな。あたしが守ってやる」
「……おやおや、いいのかなぁ?君には心に決めた人がいるんじゃないのかい?ボクにうつつを抜かしていたら彼女に怒られるんじゃない?」
「変な勘違いすんな。……というか、それを知ってるってことは、お前まさか……あの時……!」
「お姉ちゃんって、思ったより情熱的なんだね。ボクが家にいること、忘れてたでしょ」
「あ、あ……」
「――あたし、お前のことが――」
「あああああ!聞こえない聞こえない!」
妙に上手い声真似でアゲハのこっ恥ずかしい台詞を再現しようとするマッドに、アゲハは顔を赤くして、耳を塞ぎながら自分の大声で声真似をかき消す。
「おーい、アゲハー!」
そんな茶番を繰り広げていると、遠くから、聞き覚えのある声が聞こえてきた。アゲハが目を向けると、声の主――赤羽オトが走ってくるのが見えた。オトはアゲハの元に辿り着くと、ぜぇはぁと息を吐く。
「オトさん?なんでここに……」
「戻る途中に、倒れている他の四人を見つけてな。さっきまで、彼女達の介抱をしていたんだ」
「……!そうだ、皆が……!」
「彼女達は無事だ。レモンちゃんを除いて他は軽傷だったし、レモンちゃんは今ウチの管轄下の病院に運んでいる」
「そ、そうか……よかった……」
「……その様子を見るに、そっちも何とかなったようだな、アゲハ。それで、そっちの子は……」
「やぁ、オトさん。この姿で会うのは初めてだね」
「……その口調、マッドか。随分と可愛らし――コホン、小憎たらしい見た目になったじゃないか」
「まぁ、いろいろあってね。安心しなよ。もう君達と敵対するつもりはないから」
「……そうか。ならば、私は何も言うまい」
「……えっ、オトさんはマッドのことを知ってたのか?」
アゲハが驚いた様子でそう聞くと、オトは嫌そうに顔をしかめながらこう言った。
「……二年前からの付き合いだ。サグルと瓜二つの姿のこいつに協力を持ちかけられてな。「ボクと協力すれば、突然変異種に対抗できる力を得ることができる」と言われて、渋々協力関係を結んだ。四年前に組織を作ったあの頃は、まだ弱小組織の身の上だったからな」
「……ん?ってことは、前にこいつがあたしに話したことは……」
「よくできた話だったでしょ?お姉ちゃんってほんとに単純だよねー」
「なっ……!てめぇ……!ていうか、お姉ちゃんって呼ぶな!お前はあたしのきょうだいじゃないだろ!」
「えー、お姉ちゃんひどーい。ボク、一応お姉ちゃんのためにいろいろしてあげたのにー」
「うるせぇ!それとこれとは話が別だ!やっぱりお前、もう一回ぶん殴ってやる!」
「わー、お姉ちゃんが怒ったー」
マッドは棒読みでそう言いながら、アゲハから逃げようと走り出す。頭に血がのぼっていたアゲハは、怒りの表情を浮かべてマッドを追いかける。そんな二人を見て、オトはため息を吐いた。
「……はぁ。あの二人は本当に、世話がやけるな」
オトの視線の先では、アゲハがマッドに追いつき、二人は取っ組み合いの喧嘩を始めていた。オトは二人を眺めながら、少し呆れたように呟いた。
「……まるで、本物の姉妹みたいだ。ここにサグルがいれば、どれほど良かったことか」
その呟きはアゲハとマッドの喧騒にかき消され、二人はしばらく喧嘩を続けていたという。
――――
「……リリス、大丈夫か?もう少し休んでた方が……」
「大げさ。私はただ、頭を撃っただけ。それより、アゲハの方が心配」
一週間後。マッドとの戦いを終え、オトにマッドを任せたアゲハは、病院で入院をしていた。今回の戦いで怪我が酷くなり、普段の生活もままならない程になっていた。オトの管轄下の病院の医者に叱られ、しばらく入院するようにと言い渡された。それに加え、勝手に無茶をしないようにと、比較的軽傷で済んでいたリリスが療養と同時に監視役として派遣されたのだ。
「でも、レモンも重症で入院してるんだろ?リリスやサクラ姉、魔王もマッドにやられたんだ。もしかしたら、酷い怪我になってるかもしれな」
「大げさ。そんな事考えなくていい」
「でもなぁ……」
「……アゲハ、意外と過保護。心配しなくても、私も療養する。そして一緒に寝る」
「いやいや、ベッドが狭すぎるだろ」
「……広いベッドなら、いいの?」
「いやいや、あたし寝相悪いし、もしリリスの頭を叩いたりしたら大変なことになるだろ」
「……一緒に寝ることは、いいんだ」
リリスの呟きに、アゲハは若干顔を赤くしながら答える。
「べ、別に断る理由もないしな。それに、リリスは……その、恋人だし」
「……………………冗談。いくらなんでも、怪我人のベッドに潜り込んだりしない」
「……今、「冗談」っていうまでに凄く間がなかったか?ていうか、顔が赤――」
「見ないで」
リリスはアゲハの目を手で覆い、顔を赤く染めたままそっぽを向いた。顔の赤みが引いた頃、リリスはアゲハから手を離した。
「……アゲハ、ずるい。急に優しくされたら、戸惑っちゃう」
「……いや、なんかリリスの見え方が変わってさ。何しても可愛く見えるようになっちまって……」
「…………ふぇ」
「リリス?」
「な、なんでもないっ……!わ、私、飲み物買ってくりゅ……!」
再び顔を赤くしたリリスは、盛大にかみながら病室を後にした。アゲハはキョトンとして首を傾げ、不思議そうに呟いた。
「……どうしたんだ、あいつ」
「どうしたんだ、じゃないよ。お姉ちゃん。病院で何を見せつけてくれてるわけ?」
聞き覚えのある声と同時に、白髪の少女……マッドが病室の中に入ってきた。一週間ぶりに見た彼女は、学校の制服のような服を身に纏っていた。
「……マッドか。なんだ、その格好」
「オトさんの組織の制服だってさ。ボク、一応正式にゴシキジャーの技術担当になったから。格好だけでもきちんとしろって」
「制服とかあったのか……?」
「まぁ、そんな事はどうでもいいんだ。問題はお姉ちゃんだよ。何、さっきの甘ったるい会話は」
マッドは呆れたように肩をすくめ、病室に置いてある椅子に腰かける。マッドの言葉を聞いたアゲハは「えっ」と間の抜けた声をあげた。
「さっきの、聞いてたのか?」
「そりゃまぁ。さっきからボク、病室の外にいたし。リリスお姉ちゃんがいたから入らなかったけどさ。何あの甘ったるい雰囲気。お姉ちゃんもいつもの世紀末思考出さなかったし、リリスお姉ちゃんはなんか純情キャラみたいになってるし」
「……確かに、最近リリスの可愛さが増してるよな」
「うわぁー、惚気?そう来る?一応見舞いに来てやった奴にそんなことするかい?」
「なんだよ、別にあたしは変な事言ってねぇだろ」
「うっわ、きっつ……これがいわゆるキャラ崩壊ってやつか……寒気がするね」
「おい、喧嘩を売ってるのか?」
「むしろお姉ちゃんが喧嘩売ってるよね?今はいろいろ忙しい時期だっていうのに、惚気を聞かされるボクの気持ちにもなってよ」
「なんで見舞いに来たんだよ……そんなに言うなら帰ったらどうだ?」
「帰らないよ。一応お姉ちゃんに伝えたいことがあるからね」
マッドはため息を吐きながらも、椅子から腰を上げ、アゲハの元へ歩いてくる。どこか疲れたような表情で話を始めた。
「まずは他の三人についての報告。魔王さんとサクラ姉は特に酷い怪我はなかったから、もう日常生活に復帰はできている。レモンさんも昨日目を覚ました。後数週間は入院してもらうけどね」
……先日のマッドとの戦いで、リリス、サクラ、マオは軽傷、レモンは命に関わる怪我ではなかったものの、意識不明の重体だった。だが、不幸中の幸いとでも言うべきか、負傷した民間人はゼロで、建物への被害もほとんどなかったらしい。騒ぎを引き起こした張本人であるマッド曰く、「民間人に危害を加えないように」と突然変異種に命令を下していたのだとか。マッドの狙いは、最初からアゲハだけだったとのこと。
「目が覚めてよかったな。魔王も安心したんじゃねぇか?」
「そうだね。レモンさんが入院してからずっと「レモンは無事なのか!?」「目は覚めたか!?」ってオトさんに聞いてたらしいからね」
「……思ったより良いやつなんだな、あいつ」
「まぁ、ボクはもう魔王さんには口を聞いてもらえないだろうね。他の三人からも」
「え……」
「ボクはもう悪者認定されちゃったからね。これからは組織の中で、ひっそりと君達のアイテムを開発する予定だよ。謝罪は済ませたけど、ボクが君達にしたことは許されないことだから」
「……じゃあ、この用事が済んだら、もう会えないのか?」
「そうだろうね。よっぽどのことがない限りは」
マッドは肩をすくめて笑い、窓の方に目を向けた。その瞳は、どこか寂しげな雰囲気を纏っているように見えた。しかしマッドはいつもの調子で、話を続ける。
「さて、次の報告だ。サクラ姉に掛けていた催眠についての話だ」
「催眠……?」
「ボクが赤羽サグルとして君達の側にいるには、ボクの能力……≪印象操作≫による催眠が必要だった。ボクが日常に違和感なく溶け込めるようにね。まぁ、お姉ちゃんは自力で解いたんだけど。でも、サグルにほとんど関心のなかったリリスお姉ちゃんはともかく、サグルをよく知っているサクラ姉には、ボクがサグルを演じていることがバレてしまう。だから、催眠して記憶を改ざんしたんだ。サグルが死んだことを隠すために」
「……待てよ、そんなことをサクラ姉にしたのか……!?」
「お姉ちゃんにも同じ事をしていたんだ。ボクの正体がもうバレてしまった以上、もう催眠は必要ない。サクラ姉には、ボクの作った夢から覚めてもらう」
「……それって、サクラ姉にも昔の記憶を思い出してもらうってことか?」
「そういうことになるね」
「……サクラ姉がサグルが死んだ事を思い出したら……きっと、ショックを受けるぞ」
「でも、このままにしておくわけにはいかないよ。じゃないと、サクラ姉はボクの事をサグルだと誤認したままになる。そんなの、サクラ姉も……サグルも、望んでないだろう?」
「でも……」
「きっとサクラ姉なら大丈夫さ。ああ見えて、お姉ちゃんよりずっと強いから。むしろサクラ姉は、お姉ちゃんの事を心配するんじゃない?」
「それは……」
アゲハは眉を潜めたまま目を伏せた。……サクラは誰に対しても心優しい人間だ。特に、幼馴染であるアゲハやサグルには、まるでアゲハ達の本当の姉であるかのように優しくしてくれた。だから彼女がサグルの死を知ったとき、どんな反応をするか想像できてしまう。心優しい彼女はきっと、アゲハより心を痛め、サグルの死を嘆くはずだ。そうなることを、アゲハは不安だと思った。
「……君は本当に変わった奴だ。こんな状況でも、自分のことより、人のことばかり考えてるんだね」
「……悪いかよ」
「いや、別に。とにかく、催眠は解くから。不安に思うんだったら、君がサクラ姉を支えてあげてよ。サグルの代わりにさ」
「……お前がやったことなのに、他人事みたいに言いやがって」
「ボクじゃサクラ姉の力にはなれないから。ボクだって、結構反省してるんだよ?」
飄々としたマッドの様子を見て、アゲハはふと、一つの疑問を口にした。
「……なぁ、一つ聞きたいんだけどさ」
「なんだい?」
「……お前は、なんでゴシキジャーを創ったんだ?リリスや魔王、レモンやサクラ姉を巻き込んで……お前は、結局何を企んでたんだ?」
「……なんで、そんな事を聞くんだい?」
「だっておかしいだろ。お前の狙いがあたしなんだったら、わざわざ皆を巻き込む必要はなかったはずだ。サグルに化けてたお前はいつでも、恐怖であたしを笑顔にするって願いを叶えることは出来ただろ?なのに、なんで……」
「……はぁ。お姉ちゃんは、普段は馬鹿な癖に本当に鋭いね。いいよ、教えてあげるよ。ボクは――」
マッドはため息をつきながら、アゲハにその真実を語った。アゲハはそれを、神妙な様子で聞いていた。
――――
「……バベル様。あの腕輪の解析が終わりました」
「うむ、ご苦労。後は私の方でやっておく」
暗い部屋の中で、黒い鎧を身に纏った怪物――バベルと、ローブのフードで顔を覆った何者かが会話をしている。バベルは何者かから白い腕輪を受け取ると、それを興味深いとばかりに眺める。その様子を見た何者かが、畏まった様子でバベルに問う。
「……失礼ながら、バベル様。何故、そのようなものに興味を持たれたのですか?」
「……これは、我が王が求めたものなのだ。我が王の目的である、地球の侵略……その足掛かりになるものだと、王は仰っていた」
「この腕輪が、ですか」
「個体番号九番。まさか疑っているのか?」
「いえ、滅相もございません」
九番と呼ばれた者は、平坦な声でそう言って頭を下げた。バベルは険しい声色を元に戻し、鼻を鳴らしてこう言った。
「ふん、まぁいい。時が来れば、貴様にも分かる」
「左様でございますか。ならば、私は何もお聞き致しません。全ては、我が王のために」
「それでよい。……ところで、九番よ。貴様は何故いつも顔を隠しているのだ?」
「私は、少々変わった体質でございまして。他の個体と同じように、他の何かに化ける事が出来ないのでございます。我らに必要なのは他者を欺く力。その為には、この顔も隠す必要があると思ったのです」
「……ふむ、なるほどな。確かに、少し前に貴様を拾った時は、人間の顔をしていたな。少し妙だとは思っていたが、そういう事情があったのだな」
バベルはそう言いながら、九番との記憶を思い出す。人間の家で、人間の死体と共に並んでいた九番。その時の九番は命が失われていたが、人間の手に突然変異種の死体が渡るのはまずいと考えたバベルが、一瞬の内に回収したのだ。
「今考えても不思議なものだ。死体を回収したと思ったら、すぐさま動き出した……何者かの罠かと思ったぞ」
「その節はご迷惑をおかけしました。バベル様の手を煩わせてしまって、申し訳ございません」
「いや、良いのだ。今の貴様は、他の個体よりも役に立ってくれているのだからな。これからも引き続き、その調子で頼むぞ、九番よ」
「はっ。承知致しました」
「……一つ、命令だ。そのフードは、私の前では取れ。顔が見えぬと、貴様だと判別できん」
「承知致しました。それでは……」
九番はフードを外し、その顔を露わにした。――九番の顔は、黒髪の少年のものだった。男とも女とも取れるような美貌を持っており、小柄な体格と相まって、どこか幼い印象を与えるものだった。
「……やはり、どこからどう見ても人間だな。その容貌では、他の個体と会うときに苦労するのではないか?」
「いえ、特には。そもそも私は、他の個体とは交流を取っていませんので」
「なるほど……その姿は確か、昔に食った人間を真似ているのだったか?」
「はい。そのように記憶しております」
「確か、名前は――」
バベルが自分の記憶を探っていると、九番が無表情で口を開いた。
「――赤羽サグル。そのように、記憶しております」
――――
それから、更に数週間後。ようやく退院することが出来たアゲハは、オトの家――≪突然変異種対策本部≫の基地に呼び出されていた。アゲハの入院していた病院と併設されているらしく、家というよりは基地と呼んだ方がふさわしい見た目をしていた。
「すげぇな、ここ……」
「うむ、我の実家の屋敷と遜色ない広さだ。日本にこのような場所があったとは……心が踊るな!」
「うわぁ……凄いです……」
「……凄い」
アゲハ達は見慣れない光景に感嘆の息を漏らし、キョロキョロと辺りを見渡す。そんな浮ついた空気の中、一人、不満そうに顔をしかめて壁にもたれかかっている茶髪ツインテールの少女がいた。
「……なぁ、お嬢様。傷に響くから、大声出すのやめてもらってもええか?」
「あっ……す、すまない。我としたことが、配慮に掛けていたな」
少女――レモンはテンション低めにマオを窘め、マオは素直に謝罪の言葉を口にする。レモンは壁にもたれかかるのを止め、四人の元まで歩いてきた。
「はぁ……全くお嬢様は、こんなときでもノンデリ自慢女なんやから……」
「ノンデリ自慢女!?レ、レモンよ、少し言葉が強すぎるのではないか!?」
「気のせいやろ。……あっ、久しぶりやな赤羽さん。相変わらずの間抜け面や」
「ま、間抜け面!?てめ、喧嘩売ってんのか……待て、なんかお前、テンション低くないか?」
思わず激昂しそうになったアゲハだったが、レモンの異様な程の元気のなさに、思わず怒りが引っ込んでしまった。アゲハの言葉通り、レモンはどこか生気の抜けたような表情をしていた。
「……うちが入院してる間、同僚に死ぬ程煽られたんや。そいつはうちを目の敵にしとる奴なんやけど、うちが意識を取り戻した頃から、毎日煽りにきよってな。面倒くさいし怒りで調子悪くなるしで散々やったんや」
「お、おう……大変だったんだな」
「せやねん。おかげで今、めっちゃ気分が悪くてな。今度会ったらあの女殺――ボコボコにしたろうと思うんやけど、どう思う?赤羽さん?」
「いや、どう思うって言われても……というか今、殺すって言わなかったか?」
「気のせいや。ふふ、ふふふふ……」
いや、絶対殺すって言おうとしただろ、とアゲハは思った。アゲハは何やら乾いた笑い声をあげ始めたレモンから目を逸らし、マオの方に目を向けた。
「……なぁ、魔王。大丈夫なのか、レモンのやつは」
「わ、わからん。怪我は殆ど治ったはずなのだが……こんなレモンを見るのは、我も初めてだ」
心配そうにレモンを見つめるマオの肩に、アゲハは慰めの気持ちを込めてポンと手を置いた。……とりあえず、そっとしておこう。そう思ったアゲハは二人から視線を逸らし、リリスとサクラの元へ。
「よう、二人共」
「……!アゲハ……!」
「アゲハちゃん……久しぶりだね。怪我は、大丈夫なの……?」
「大丈夫だ。サクラ姉こそ、頭を撃ったんだろ?それに、サクラ姉は、記憶を……」
「……うん。マッドさんに、戻してもらったよ。全部……思い出した」
……サクラは、マッドによって昔の記憶を取り戻した。サグルが死んだ時の記憶を。サグルとの思い出を。その記憶はサクラに気が狂う程の苦痛を与えた。実際、アゲハがマッドに聞いた所によると、記憶を取り戻した時のサクラは、泣きながら悲鳴を上げていたらしい。しかし、今のサクラは泣き喚いたりもせず、いつもの調子で笑みを浮かべている。
「……本当に、大丈夫なのか?」
「大丈夫……と言えたらいいんだけど……やっぱり、辛いよ。思い出すだけで、涙が出そう……」
「サクラ姉……」
「でも、もう忘れたりしないよ。サグル君と過ごした時間は、大切な思い出だもん……」
サクラは手を胸に抱いて、口を引き結んだ。その表情は何かを堪えているようなものだったが、同時に、純粋な決意の表れでもあった。
「……分かった。じゃあ、あたしはもう何も言わねぇよ」
「う、うん……」
「……でも、無理しないでくれよ。サクラ姉はよく抱え込むからな」
「あ、アゲハちゃんも、ね……」
「……そうだな」
アゲハとサクラは共に頷き、互いに笑った。すると、間にリリスが割り込んできた。
「ん?リリス?」
「……じー……」
「り、リリスちゃん……?」
「……いくらサクラ姉でも、アゲハはあげない」
「……え?」
「ちょ、リリスっ……!?」
アゲハはリリスの口を塞ぎ、サクラから距離を取って部屋の隅へ。リリスは首を傾げながら、目を白黒させているアゲハを見る。
「……ふぁに(何)?」
「……一応言っておくが、あたし達が付き合ってる事はほかの皆には内緒だからな?」
「……ふぁんふぇ(何で)?」
「サクラ姉や魔王ならともかく、レモンに知られたら絶対にからかわれるからな……」
自分で言って嫌そうに顔をしかめるアゲハを見て、リリスはアゲハの手を口から離し、強い意思を宿した表情のまま口を開く。
「……ぷはっ……そんなの、気にしなくていい。アゲハを馬鹿にする奴は私が許さない」
「リリス……」
「というわけでもっとイチャイチャしよう。具体的には、キスとか……まだ私、アゲハとキスしてない」
「……えっと、ここではちょっと」
「むっ、どうして?まさか……私とするの、嫌なの?」
「……違う。そういうのは、人気のないところでやりたいんだ。リリスへの気持ちが、抑えられなくなるから……」
「……え?」
キョトンとするリリスに、アゲハは真剣な表情でリリスの瞳を見つめる。
「今のあたし、キスだけじゃ済まないかもしれないぞ?もしかしたら、もっと凄いことまでするかもしれない……公衆の面前でそういう事をするのは、ちょっとな」
「……!?す、すごいこと……!?」
「だからまぁ、今だけは抑えてくれ。後でたっぷり相手してやるから、な?」
「〜〜っ!ひ、卑怯……!え、えっち……!」
「……お前が言うか。お前が」
顔を赤く染めてアゲハの胸元をポコポコと叩き出したリリスを、アゲハはそんなリリスを見て苦笑しながらも、自分の彼女を愛おしそうに見つめていた。そんな二人を、遠巻きに眺める者が一人。
(は、はわ……!リリスちゃんが顔を真っ赤に……!それにアゲハちゃんのあの優しい顔……!やっぱり、この前のアゲハちゃんが言ってた通り、二人は付き合ってるんだ……!ど、どんな会話してるのかな……!?)
……アゲハのリリスへの告白を聞き、二人が付き合っていることを知っていたサクラは、若干顔を赤くしながら二人を眺めるのだった。
――――
しばらくして、オトが部屋に入ってきた。
「遅れてしまってすまない。少々立て込んでいてな……?」
オトは部屋に入るなり辺りを見渡し、言葉を止めた。……顔を赤くしてそっぽを向いているリリスにどこか不穏な笑い声を上げているレモン。そのレモンを不安そうに見つめるマオに何やら考え込んでいるサクラ。……彼女達を見て、オトは思わず首を傾げながら呟いた。
「……どういう状況だ?」
「おっ、やっと来たのか、姉御。待ちくたびれたぜ」
「アゲハ……?き、君はいつも通りなんだな……私のいない間に、いったい何が……」
「さ、さぁな……」
オトの問いに、アゲハはサッと目を逸らした。
――――
「……コホン。さて、今日君達に集まってもらったのには、理由がある」
平静を取り戻した一同を席に着かせ、オトは立ったまま落ち着いた様子で話を始めた。
「……まずは謝罪を。組織の一員であるマッドが、君達を勝手にゴシキジャーに誘い、君達の身を危険にさらしたこと。そして彼……いや、彼女の正体を黙っていたこと。どちらも私の不甲斐なさが招いた失態だ。この場を借りて、謝罪させていただく。本当に、申し訳なかった」
オトは五人に向かって頭を下げる。しばしの間沈黙が続いていたが……一人だけ、口を開いた人物がいた。レモンだ。彼女は壁に背を預けながら、オトを睨む。
「……オトさん、やったか?うちのお嬢様とうちらを危険にさらした事、謝罪だけでけりつけるつもりか?」
「……勿論、それだけではない。怪我の治療費はこちらで負担しよう。ゴシキジャーも解体だ。君たちには突然変異種とは無縁の平穏な暮らしを送れることを約束する」
「……っ!?姉御、それは……!」
オトの言葉に、アゲハは目を見開いて彼女を見る。他の三人も同様に、驚愕の表情を浮かべてオトを見ていた。
「我に魔王の座を降りろというのか!?そんな事は認めぬぞ!」
「そ、そうですよぉ……私達がいなくなったら、突然変異種はどうするんですか……?」
「……解体の理由を求める」
「君達はまだ若い。本来ならゴシキジャーは、私のような年代の者が戦うことを想定として、マッドと創った機関だ。突然変異種との戦いは、一歩間違えれば死に繋がる。今回の件もそうだ。私の到着が遅れていれば、死人が出ていた……また同じような事があれば、今度はどうなるか分からない。突然変異種の相手ならば、私達でも何とかなる。だから……ゴシキジャーは解体する」
三人の言葉に、オトは真剣な様子でそう言った。有無を言わせぬその語気に、三人は言葉に詰まる。
「……うちは別にかまへん。元々、お嬢様を危険に晒さんように入っただけやしな。また怪我でもさしたら、うちの首が飛んでまうわ」
「レモン……!?貴様、我を裏切ると言うのか!?」
「裏切るなんて言うてへんやろ。危ないもんには近づかんのが普通や。……お嬢様はただの社長令嬢でうちはそのボディーガード。現実逃避すんのは今日までやで、お嬢様」
「……っ」
「おい、レモン。そんな言い方……」
アゲハが二人の間に口を挟むと、レモンは威圧感を放ちながら睨んでくる。思わず、アゲハはたじろいだ。
「……赤羽さん。これはうちとお嬢様の問題や。口出さんといて」
「ご、ごめん……でも、魔王は……」
「お嬢様を引き止めても無駄やで。どうせゴシキジャーは解体されるんや。赤羽さんが抵抗しても意味あらへん」
「なっ……!てめぇ、言い方ってもんがあるだろ!」
「事実を述べただけや。……その感じやと、赤羽さんはゴシキジャー解体に反対なんやな?」
「…………っ」
「……図星か。赤羽さんは、無理やりゴシキジャーにされたんやろ?なら、別に解体されてもええんとちゃうの?」
「それは……」
レモンの言葉に、アゲハは言葉を詰まらせる。……自分の意志は決まっているのに、口が動かなかったのだ。そんな風に俯いていると……ふと、アゲハの手にそっとリリスの手が添えられた。
「……リリス……?」
「アゲハ……言いたいことが、あるんでしょ?」
「…………」
「……大丈夫。私がついてる。今、この場を収められるのは、アゲハだけ」
「……あたしを、信じてくれるのか?」
「当然。私はずっと、アゲハの味方」
リリスの言葉に、アゲハは自分の心が温かくなるのを感じた。自分の恋人の助けを受けて……意を決したように、アゲハは口を開いた。
「……姉御、皆。あたしは――」




