第十三話 ずっと隣で
家で眠っていたアゲハは、窓から差す光に照らされて目を覚ました。……いや、正確に言えば、身体の痛みによって目を覚ました。
「痛た……ったく、最悪の目覚めだな……」
アゲハは自分の腕を擦りながら、身体を起こした。外を見ると、もうすでに日が暮れそうだった。アゲハは寝起きでぼんやりとした頭で、部屋の中を見渡す。
「……ん?」
すると、自分の部屋の中に、黒髪の少女がいるのが見えた。少女は部屋の真ん中にある机に身を預け、すやすやと寝息を立てている。……その少女は、アゲハにとってとても見覚えのある人物だった。
「……リリス?」
少女――リリスは、学校の帰りに直接来たのか、制服姿のままで眠っていた。傍らには、学生鞄がそっと置かれていた。机の上には、リリスのものらしき携帯が置かれていた。それを見て、アゲハは数時間前の自分の行動を思い出した。
「……そういや、リリスに電話掛けたんだっけ」
あの時は不在着信になっていたが、きっとリリスが携帯を確認して、訪ねてきてくれたのだろう。アゲハは身体が痛むのも忘れてベッドから降り、リリスに自分の布団を掛けた。
「ごめんな……リリス」
アゲハはリリスの頭を撫でて、自分の気持ちを口にした。避けてしまった事に対する謝罪と、未だリリスをまともに見れない事に対する謝罪。アゲハの胸中には、怪我よりも痛いトゲが刺さっていた。
(……いつまでアレを気にしてんだ、あたしは。もう子供じゃないんだから、恥ずかしさくらいなんとかしろよ……!)
アゲハは自分の頬を叩き――腕が痛いのも忘れて――もやもやとする思考を断ち切った。リリスに視線を合わせ、眠る彼女を見つめる。――眠っていてもなお、リリスの顔は人形のように可愛らしいものだった。
(……あれ?リリスの顔って……こんな、可愛かったか?)
どうも今朝の騒動――いろんな事がありすぎて今朝の事とは思えないが――から、元々綺麗なリリスの顔が更に綺麗に見える。ちらりと覗く首元の肌も艶めかしく、どこか色香を纏っているように見え……
(……って、あたしは変態か!?しっかりしろ赤羽アゲハ!お前はそんなキャラじゃなかっただろ!?これはただ、恥ずかしさを克服しているだけで……!)
「……じー……」
「……はっ!?」
一人思考を繰り広げていると、いつの間にか部屋に入ってきていたサグルが、ニヤニヤとした笑みを浮かべながらこちらを見ていた。
「お、お前……いつから見てた!?」
「お姉ちゃんがリリスお姉ちゃんの頭撫でてた所からだよ。いやぁ、お姉ちゃんが一人で唸ってるの、見てて面白かったなぁ」
「人が真剣に悩んでるのに、こいつ……!」
アゲハは拳を握ってサグルを睨んだ。一発でいいからこいつをぶん殴ってやりたい、とアゲハは思った。まぁ、年下の弟を殴るのはアゲハの信条に反するので実際に殴りはしないが。サグルは未だニヤニヤとした笑みを浮かべながら、リリスの元に駆け寄ってこう言った。
「――ほら、リリスお姉ちゃんもそろそろ起きたらどう?」
サグルの言葉に、今まで眠っていたはずのリリスが、ゆっくりと、どこか気まずそうに身体を起こした。
「……何で、バレたの?」
「リリス!?おまっ、起きて……!?」
「だって、お姉ちゃんに見られてる時、ちょっとリリスお姉ちゃんの息が荒くなってたからねぇ。顔も赤くなってたし。こんなことにも気付かないなんて……お姉ちゃん、目が節穴なんじゃないの?」
「うるせぇ!何しに来たんだお前は!とっとと出ていけ!」
「はーい」
いろいろと暴露したサグルを怒鳴りつけ、アゲハは部屋からサグルを追い出した。部屋にはリリスとアゲハだけが残る。気まずい雰囲気の中、アゲハはため息をつきながら口を開いた。
「……あー……弟が、すまん」
「大丈夫……私も、寝たフリしてたから……それより、怪我、大丈夫……?」
「おう、全然平気……と言えたら良かったんだが。ご覧の通り、痛くて動きにくい」
「……っ!寝てて……!酷くなったら、大変……!」
「ああ、そうするよ。ごめんな、心配かけて」
アゲハは素直にベッドに戻り、寝転がった。リリスは自分に掛けられていた布団を、優しくアゲハに掛ける。リリスは悲痛な表情を浮かべ、顔を俯かせる。
「何で、そんな酷い怪我を……」
「……変な奴に襲われてな。相手してたらこのザマだ」
「……無茶しないって、言ってたのに」
「……すまん」
「謝らなくていい。今はゆっくり休んでて……私、もう帰るから」
「えっ……?お、おい!」
リリスは顔を俯かせたまま、そのまま部屋を出ていこうとする。いつもと違う様子のリリスを、アゲハは必死に呼び止める。
「待てよ!あたし、お前に話したいことが……!」
「話したいこと……?私、嫌われてるのに……?」
「それはお前の誤解だ!あたしは、お前を嫌ってなんかない!」
「……今日、ずっと無視してた」
「そ、それは……」
「……帰る」
「ま、待ってくれ!」
アゲハは身体が痛むのも構わず、ベッドから飛び降りてリリスの手を掴んだ。リリスの目が大きく開かれる。アゲハは身体の痛みで呻いた。
「痛っ……!」
「アゲハっ……!?何してるの!?アゲハ、怪我してるのに……!」
「……これくらい、どうってことねぇよ。それより、今お前と話せなくなる方が……嫌だ」
「アゲハ……」
「……話、聞いてくれるか?」
「……うん」
アゲハはリリスを連れ、机を挟んで座った。その時もアゲハの身体は悲鳴を上げたが、アゲハは鋼の精神で我慢した。不安そうな、そしてどこか悲しそうな表情を浮かべるリリスに、アゲハは真剣な表情で話を始める。
「……まずは、謝らせてくれ。無視したりして、ごめん」
「……ん」
「朝のアレ……あたし、変な意味に取っちゃってさ。リリスととんでもない事をしちゃったんじゃないかって……ちょっと、不安になったんだ」
「……不安?」
「だってあたしはその……は、初めてだし。知らない内にそういうのを終わらせたって思うと……ちょっとな」
「……確かに。私も、アゲハとの初めては、思い出深いものにしたい」
こんなシリアスな状況でもブレないリリスに、アゲハは苦笑する。以前のアゲハだったら間髪入れずにツッコミを入れていたのだが。もしかしたら、大分毒されてるのかもしれない。アゲハはそう思った。
「でも、昨夜の記憶を思い出して……あたしは情けなくリリス相手に泣きじゃくっただけだって分かった」
「……あの時のアゲハ、可愛かった」
「うぐっ……それを思い出すと、恥ずかしさでリリスの顔が見れなくなって……避けちまったんだ。それがお前を無視してた理由だ……本当にごめん」
「……謝る必要はない。確かに無視されたのは傷ついたけど……よく考えたら、冷たくされるのも、ご褒美」
「お前の変態思考は本当にブレないな」
アゲハは少し引き気味に身体を引いた。しかし、リリスがいつも通りのリリスに戻ってきた事を、嬉しく思ってしまう自分もいた。アゲハは咳払いをして、再び真剣な様子で話を続ける。
「……なぁ、リリス」
「何?」
「お前は……どうしてあたしのことが好きなんだ?」
「…………!」
「あたしは……お前に好かれるような人間じゃない。変な噂ばっかりされてる、不良生徒なんだぞ」
アゲハはそこまで言って、顔を俯かせる。リリスは一瞬、考え込むように顔に手を当て……アゲハの問いに、笑みを浮かべながら答えた。
「……アゲハは、私のヒーロー。アゲハがいたから、今の私がいる」
「えっ……」
「……私は小さい頃、外に出るのが怖かった。でも、アゲハはそんな私を、外に連れ出してくれた」
……昔、まだアゲハがリリスと出会ったばかりの頃。家が近所ということもあり、アゲハとリリスは互いの家で一緒に遊んでいた。しかし、その時のリリスは今より弱気で内気な性格で、外に出ることを極端に怖がっていた。未知のものに触れることを、受け入れられなかったのだ。そんなリリスを、アゲハは無理やりに外に連れ出した。
「外に出るのは怖かった。けど、アゲハはずっと笑顔で、私を支えてくれた。一緒に走り回って、笑って、怖くて泣いた私を元気づけてくれて……そんな日々を送ってる内に、気づいたら怖さはなくなっていた。アゲハのおかげ」
「……いや、昔のあたし、結構酷くね?」
リリスを泣かせたのはアゲハであり、泣くほど嫌な外に出ることを強制したのもアゲハだ。人によっては、トラウマになりかねないと思う。しかし、リリスはアゲハの言葉に首を横に振った。
「あのまま外に出なかったら、私はきっと駄目な人間になっていた。外の世界のことを知らずに、無知なままで、空の青さすら知らない箱入り娘になっていた。アゲハが外に出してくれなかったら、今の私はない」
「……あたしがいなくても、お前は外に出れただろうに」
「……そんなことない。だって私は、まだ外に出るのが好きじゃない。家の中で過ごすほうが、落ち着く」
「リリス……」
「それに、それだけが原因じゃない。アゲハはいつだって、私と一緒にいてくれた。友達のいない私に仲良くしてくれた。虐められそうになったら守ってくれた。私がアゲハを怒らせた時も、最後には笑って許してくれた。……私には、アゲハがいないと駄目なの」
リリスは怪我をしているアゲハの手を、自分の手でそっと包みこんだ。リリスの顔は赤く、恥ずかしいのか少し眉尻が下がっていた。その顔を見て、アゲハも少し顔を赤くする。リリスは視線をアゲハに合わせながら、言葉を紡いでいく。
「アゲハ……私は、アゲハが好き。大好き。ずっと一緒にいたい……この気持ちは嘘じゃない」
「……リリス」
「アゲハは……いや?私と一緒に、いたくない……?」
「……そんなわけないだろ。あたしもリリスと一緒にいたい。お前はあたしの……唯一の幼馴染で、友達だからな」
「……っ、友達……」
アゲハの言葉を聞いて、リリスが一瞬言葉を詰まらせる。下唇をかみ、何かを堪えているような表情をしていた。リリスのそんな表情を見て、アゲハは――何かを決意したように、言葉を続けた。
「……と、前までのあたしは思ってた」
「……え?」
リリスは思わず、アゲハの顔を見た。……アゲハは、笑っていた。どこか楽しそうに、慈しむように……リリスの顔を見ていた。
「なぁ、リリス。お前は、あたしとずっと一緒にいてくれるんだよな?」
「……うん。アゲハが望むなら、ずっと」
「――なら、あたしがこれから何をしても、許してくれるよな?」
「え、アゲハ……?」
アゲハの言葉を聞くと同時に、リリスの視界が真っ白になった。正確に言えば……部屋の天井が視界に広がっていた。気づけば、視線の中央にアゲハが現れた。アゲハは自分の手を掴んだまま、リリスをじっと見下ろしていた。状況が飲み込めないリリスは、目を丸くしてアゲハを見あげていた……やがて、自分が押し倒された事に気がついたリリスの顔が、林檎のように赤くなった。
「ふぇ……?」
「……お前のそんな顔は珍しいな。てっきり、もっと冷静なもんかと思ってた」
「ア、アゲハ……!?一体、何を……!?」
「何って、いつもお前がやって来たことなんだが……お前が可愛くて可愛くて仕方ないから、押し倒した」
「か、かわっ……!?」
リリスの顔が更に赤くなり、アゲハは可笑しそうに笑った。普段リリスがそんな表情を見せたことがないので、珍しいと思ったのだ。やがて、アゲハは笑うのを止め、リリスを愛おしそうに見つめながら、笑顔でこう言った。
「リリス。あたし、お前の事……好きなのかもしれん」
紡がれた言葉に、リリスは固まった。
――今、何が起こった?アゲハに、告白された……?……アゲハが、私を……?いや、ありえない。だってアゲハは、私の事を友達としてしか……いや、でも好きって……
思考が加速し、リリスの顔がみるみる赤くなっていく。気づけば、リリスは上手く言葉を発せなくなっていた。リリスは途切れ途切れに、必死に言葉を紡ぐ。
「そ、それは……ライク、の、意味……?」
「いや、ラブだよ。あたしはお前が恋愛的に、その……好きなのかもしれん」
軽い冗談で平静を保とうとしたが、無理だった。なんというか、リリスにとってのクリティカルヒットが来てしまった。もうリリスの意識が飛びそうである。
「な、なん、で……?」
「……リリスと話せなくなった時さ。あたし、今朝の光景がずっと頭を離れなかったんだ」
「今朝、の……?」
それは、リリスが全裸でアゲハに抱き着いていた時の事を言っているのだろうか。自分達がギクシャクしてしまった原因で、流石のリリスも羞恥心を覚えたあの出来事……何故、今になってそんな話が?
「あ、変な意味とかじゃなくてな……その、経緯はどうあれ、お前はあたしが辛い時に一緒にいてくれただろ?あたしが無茶苦茶な事を言っても、文句の一つも言わずにあたしを受け入れてくれた……いつだって、リリスはあたしの側にいてくれた。お前の事を考えるだけで、心が暖かくなる。安心できる……ずっと一緒にいたいって思える。そんな奴、リリス以外にはいないよ」
「ちょ、ちょっと……待って……!」
アゲハの突然の赤裸々な思いを聞いて、リリスはいろいろと限界だった。アゲハの顔が見れない。嬉しさで感情が抑えきれない。心臓の鼓動が聞こえなければ、夢だと錯覚してしまいそうだった。そんなリリスなどお構い無しに、アゲハは美しい笑みを浮かべながら、リリスの頭を撫でた。
「……はは、本当に可愛いやつだな」
「……っ!ア、アゲハ……!?」
「おっと、悪い。そういやこの体勢のままだったな……今戻すよ」
顔を赤くしてわなわなと震え出したリリスの身体を、アゲハは背中を手で支えながら、地面から起こして座らせる。アゲハも身体を起こし、机を前にしてリリスの隣に座る。それだけでも、リリスの心臓はドキドキしっぱなしだった。この気持ちを伝えなければ、今すぐにでも爆発してしまいそうなほどに。
「ア、アゲハ……!私……!」
「――その先は、あたしに言わせてくれ」
「えっ……」
気づけば、リリスはアゲハに顎を引かれ、アゲハの顔とゼロ距離の所まで迫っていた。アゲハは真剣な表情で、リリスを見つめ……抱えた思いを吐露する。
「――リリス。あたしはまだ、好きとか嫌いとかわからない。けど、お前ともう離れたくない。今はまだ、こんな曖昧な答えしか出せないけど……それでも、あたしと……一生一緒にいてくれるか?」
「……は、はい……よ、よろしく、お願い……します……」
リリスは弱々しく、だがしっかりと頷いた。それを見たアゲハはリリスの顔から手を離し、リリスをその両腕でしっかりと抱きしめた。……今この瞬間から、アゲハとリリスはただの幼馴染から、別の関係性へと変わった。
「……よろしくな、リリス」
「ふぁ、あ、ああ……ふにゅ……」
それまで耐えていたリリスの精神は、アゲハの耳元からの低く美しい囁き声で崩壊した。リリスは熱でも出たかのような真っ赤な顔で、気を失い……しばらく、アゲハに身を預けるのだった。
――――
「ふぅ……」
一世一代の告白の後。今更怪我の事を思い出したアゲハは、リリスに三十分程抱擁したあと、しばらく痛みで悶えていた。やっと痛みが落ち着き、アゲハはベッドに腰掛けて安堵の息を漏らした。
「……リリスに、告白したんだよな……あたし」
アゲハは先程リリスと話していた机を見る。まさか自分があそこまでリリスを想っていたなんて、自分でも驚いた。ちなみに、リリスはアゲハの抱擁から解放されたあと、「もう無理。限界っ……」と言って部屋を出てそのまま帰宅した。足取りがフラフラしていたが、果たして彼女は大丈夫だろうか。
(……まぁ、大分恥ずかしがってたみたいだったし。それに、あいつの家はすぐ近くだしな。すぐに帰れるだろ)
リリスが交通事故に巻き込まれない事を願いながら、アゲハはベッドに寝転がり、先程の出来事を思い返していた。
(ていうかあたし、なんて格好で告白してんだよ……それに、なんか恥ずかしいことばっか言ってた気がするし……メンタル鋼か?)
アゲハは自分のジャージ姿と包帯に巻かれた手足を見て、頭を押さえた。自信のメンタルの強さに畏怖の感情を抱きながら、アゲハは自分の言った言葉を脳内で繰り返す。
――お前の事が、好きなのかもしれん。
(は、恥ずかし……!でも、よろしくって言われたし、リリスと付き合うってことで……いいんだよな?うわー、マジか。実感がねぇ……)
リリスに言ったことは全てアゲハの本心だ。しかし、今朝の出来事までは、アゲハはリリスの事を意識していなかったわけで。自分の想いにも、気がつかなかったわけで。急ピッチで物事を進めている感が拭えない。もしかしたら、リリスと仲直りをしようとして、焦りが出たのかもしれない。
(マジかよ……あたし、どんだけリリスの事を……)
アゲハは自分の顔を手で押さえ、そのまま項垂れた。指の隙間から覗く顔は少し赤みを帯びていた。
「……水でも飲んで、落ち着こう」
少し冷静になろう。そう思ったアゲハは、リビングに飲み物を取りに行こうとドアの方へ向かう。そして、ドアノブを捻ってドアを開けると……誰かの声が、聞こえた。
「ひゃっ……!?」
「……ん?」
部屋を出たアゲハは思わず、声のした方を向く。――そこには前髪で顔が覆われる程の長い髪をした、どこか見覚えのある女性……サクラが、へたり込んでいた。
「えっ、サクラ姉……?何で、そんなとこにいるんだ?」
「はわっ……!?え、えっと、アゲハちゃんのお見舞いに行こうと思って……アゲハちゃん、酷い怪我、だったし……」
「そ、そっか。わざわざありがとな?でも、何であたしの部屋の前で…………あっ」
アゲハはそこまで言って、サクラの顔がどこか赤い事に気がついた。サクラは何やらもじもじとし、アゲハから視線を逸らしている。……その何かを隠すような素振りを見て、勘の良いアゲハは察した。察してしまった。
「もしかして、あたしとリリスの会話……聞いて……!?」
「……うん。最初から…………こ、こんな事やっちゃ駄目だって思ったんだけど……聞くたびに、話の続きが、気になっちゃって……ご、ごめんなさいぃ……!」
サクラは申し訳なさそうにそう言って、立ち上がってアゲハに頭を下げて謝罪する。しかし、アゲハはその謝罪を聞いていなかった。アゲハは先程のリリスのように顔を赤くし、泣きそうな顔でプルプルと震えていた。
「……ぁ」
「……え?」
「あああああぁぁぁぁぁぁぁ!き、聞かなかったことにしてくれぇぇぇぇ!」
「ア、アゲハちゃん……!?」
サクラが顔を上げて手を伸ばしたのも束の間。アゲハは叫びながら、凄まじいスピードでその場を去るのだった……無論、それでアゲハの怪我が悪化したのは、言うまでもない。




