第十二話 ギガントな敵っ!三人のダイ決戦!
――見慣れた天井の下で、アゲハは目を覚ました。視線を辺りに向けると、サグルが上から顔を覗き込んでいた。
「……おっ、目が覚めたんだね、お姉ちゃん」
「サグル……?何でここに……?」
「何でって、ここはボク達の家じゃないか。まさか怪我のせいで記憶まで失くしちゃったの?」
「……ほんとだ。ここ、あたしの部屋だ……痛っ」
アゲハが身体を起こして部屋の確認をしていると、アゲハの右腕がズキリと痛んだ。視線を下げてみると、腕や足に包帯を巻かれた自分の身体があった。服装も制服ではなく、いつものジャージ姿である。
「……なんだ、これ」
「お姉ちゃん、大怪我して意識を失ってたんだよ。サクラ姉から連絡が来た時はびっくりしたんだからね?」
「サクラ姉……そうだ、あたしは……」
アゲハはやっと、直前までの記憶を思い出した。謎の白い戦士――マッドホワイトに完膚なきまでに叩きのめされ、奴の拳銃で撃たれたのだ。そして奴が呼んだトカゲみたいな怪物のせいで、自分は――
「どれも命に関わる怪我じゃなかったけど、今後はこういう無茶は控えてね。お姉ちゃんが≪聖鎧装着≫したまま倒れたら一般の病院に運べないから」
「……そっか。あたし、倒れたのか」
「そうだよ。緊急事態だったから、ボクが応急処置して寝かせてたんだ。あ、着替えはサクラ姉ね。仕事があるからってもう帰っちゃったけど、お姉ちゃんの事滅茶苦茶心配してたよ」
「サクラ姉が……また今度礼を言わないとな」
「あ、身体が動けるくらいに回復したら、≪突然変異種対策本部≫の管轄下の病院に連れて行くからね。お姉ちゃんのその怪我、まだ治ってないから。しばらく学校も休みだよ」
「うげ……病院……」
アゲハは嫌そうに顔をしかめた。昔、アゲハが喧嘩ばかりしていた頃、アゲハは怪我で何度も病院のお世話になっていた。怪我が酷くて入院したこともあり、担当の医者からは「流石に怪我しすぎ!もっと自分を大切にしなさい!」と怒られた。そういうわけで、あまり病院にいい思い出はない。
「さて、目を覚ましたんなら、ボクはお役御免かな。そろそろご飯を作らないと」
「……ああ。ありがとな、サグル」
アゲハの感謝の言葉を聞き、サグルは笑みを浮かべながら、部屋を後にした。アゲハはサグルが部屋を出るのを見届けると、ベッドの上に寝転んだ。その際に身体が痛み、アゲハは小さく声をあげた。
「痛っ……ああクソ、何でこんな事に……」
アゲハは頭を抱えた。……今日は厄日だ、とアゲハは思った。リリスと気まずくなってしまった事、酷い怪我を負ってしまった事……これが厄日でなくてなんだというのだ。
「……あ、そうだ……リリスと話さないと」
そういえば自分は、リリスと仲直りをしようとしたのだった。ベッドの近くに置いてあった携帯を取り、アゲハはリリスに電話を掛ける。
「……繋がらねぇ」
しかし、リリスは電話にでなかった。もしかしたら、都合の悪い時間帯だったのかもしれない。……やはり今日は厄日だ、とアゲハは思った。
「……寝るか」
怪我のせいで半ば投げやりな気分になったアゲハは、少しでも身体を回復するために寝ることにした。布団を深く被り、アゲハはそのまま眠りについた。
――――
≪ギャオオオオオオオ!!≫
人が行き交う町の中で、トカゲ型の怪物が咆哮する。怪物は空の穴から隕石を降らせ、人々を混乱の渦に巻き込んでいく。
「あっちに逃げるのだ!早く!」
「早く、逃げてくださーい……!私が、先導しますので……!」
「アカン!矢が届かへん!お嬢様、こっちからの攻撃は無理や!」
「くっ……なんだあのデカブツは……!あんなの、今までに見たことがないぞ……!」
そんな町中に、人々を混乱から救っている戦士達がいた。――ゴシキジャーである。アゲハとリリスを除いた三人が、混乱する人々を避難させ、怪物を撃退しようと試みていた。
「あの距離では、我の≪緑の戦斧≫の一撃も届かない……!ラブピンクよ!貴殿も攻撃をしてみてはくれないか!」
「え、ええ〜!?私の攻撃じゃ、あんなとこまで届きませんよ〜……!」
≪ギャオオオオオオオ!!≫
二人が話している間に、怪物の一際大きな咆哮が響いた。
「……っ、くるで、二人共!」
レモンが叫ぶと同時に、再び隕石が降り注ぐ。避難誘導をしていたマオとサクラは避難誘導を止め、互いに武器を構えた。
「≪深淵・ミスティックブロー≫!」
「≪苛烈・パニッシュスター≫!」
マオの戦斧が隕石を細かく切り裂き、サクラのモーニングスターが他の隕石を粉砕する。小さな石の欠片と化した隕石が、彼女らの周りに転がった。
「ハッハッハ!やるではないか、桃橋サクラよ!」
「い、いえいえ……私には、これくらいしか出来ませんから……魔王さんこそ、かっこよかったです……!」
「ハッハッハ!これしきのこと、魔王にとっては朝飯前だ!」
マオとサクラは互いに称賛しあい、気分の良くなったマオは高笑いをあげる。そんな二人を他所に、レモンは怪物に向かってもう一度光の矢を放つ。
「――≪狙撃・グランドショット≫」
レモンが弓を構えて放ったその一撃は、凄まじい速さで真っ直ぐ怪物へと向かう。しかし、怪物までの距離が遠すぎるのか、矢は途中で落下し、離散してしまった。
「……チッ、これもアカンか……なぁ、お嬢様。避難誘導も終わったし、ここは撤退した方がいいんとちゃうか?」
「な、何を言うかレモンよ!この我に敵を前にして逃亡しろと申すか!?」
「そ、そうですよ……!このままじゃ、町が……!」
「でも、あのデカブツには矢が届かへん。もちろん二人の攻撃もな。あいつの隕石の対応ばっかりしてたら、こっちが消耗するだけや」
レモンの指摘に、二人は反論することが出来なかった。今の状況は、まさしくレモンの言葉だったからだ。三人は隕石ばかり相手にして、肝心の本体には何もダメージを与えられていない。空を飛ぶことが出来る者でもなければ、怪物に攻撃は届かないだろう。
「せめて、こっちの攻撃が届けばええんやけど……」
≪お困りのようだね。皆≫
レモンが呟くと同時に、三人の耳にサグルの声が響いた。声の発信源は、彼女達の変身スーツからだった。
「その声……赤羽サグルか!?」
≪そうだよ。皆が怪物相手に困ってるって聞いたから、助けてあげようと思ってね≫
サグルがそう言うと同時に、三人の腕輪がホログラムのように何かを映し出し、それを実体化させた。三人は思わず手でそれを受け止め、掌の上にそれを乗せる。
「これは……戦闘機か?」
「なんやこれ?虎の玩具か?」
「これ、車かなぁ……?私の車に似てるけど……」
マオの手には、緑色の戦闘機の飾りをつけた指輪。レモンの手には、黄色の虎の形をした小さなロボット。サクラの手には、桃色の手のひらサイズの車が乗っていた。首を傾げる三人に、サグルは説明を始める。
≪それを腕輪にかざせば、あのデカブツ――≪ギガンダイナ≫の穴の中に行けるよ。君たちはそれを使ってあいつを倒すんだ≫
「いや、こんな玩具で倒せとか言われても、困るんやけど……」
「これをかざせばよいのか?」
困り顔をしていたレモンを他所に、マオは指輪を自身の腕輪にかざした。――すると、一瞬にしてマオの姿が消えた。
「え!?魔王さんが、消えちゃいましたよ……!?」
「はぁ!?……ったく、あのポンコツがぁ……!ちょっとは考えてから行動せいや!……しゃーない、うちらも行くで、先生」
「は、はい……!行きましょう、木戸さん!」
レモンは悪態をつきながら、自身のロボットを腕輪にかざした。サクラも同じように車を腕輪にかざし、二人は姿を消した。
――――
……レモンとサクラの視界が切り替わったのは、それから一瞬の事だった。彼女達の目の前には先程までの町中の景色はなかった。無限に広がる緑色の床に星空が広がるその不思議な空間にレモンは首を傾げる。
「……なんやここは?まさか、ほんとにあの穴の中に入ったんか?」
「……あ!見てください、木戸さん!魔王さんがいますよ!」
サクラの指差す先には、戸惑ったように辺りを見渡しているマオの姿があった。すると、マオもこちらに気がついたのか、レモン達の方に歩いてきた。
「見つけたぞ、レモン!何故我を一人で行かせたのだ!?」
「お嬢様が勝手に飛び込んだんやろ……?帰ったら説教やから、覚悟しときや……?」
「ひっ……!も、桃橋サクラぁ!我を助けよ!」
「わっ……!?ま、魔王さん……!?」
笑顔で殺気を放つレモンに、マオが怯えながらサクラを盾にする。そんな状況の中、呆れたようなサグルの声が彼女らの耳に響いてきた。
≪ほら、遊んでないで、目の前の敵に集中して≫
マオ達はサグルの言葉を聞き、顔を見上げた。――そこには、マオ達に隕石を落とした存在――穴の外から見えていたトカゲ型の巨大な怪物がいた。怪物はまるでタイミングを見計らっていたかのように咆哮した。
≪ギャオオオオオオオ!!≫
「うわぁぁぁぁぁ!?レモン!レモーン!」
「ちょ、お嬢様、叫んだらアカンて!」
「あわわわ……こっちを見てますよぉ……!?」
怪物の咆哮に慌てふためく三人。怪物は三人の声が聞こえたのか、マオ達の方に歩いてくる。焦る三人に、サグルは冷静に指示を下した。
≪もう一度、さっき渡したアイテムを腕輪にかざして!≫
三人は言われたとおりに、指輪、ロボット、車を腕輪にかざす。すると、彼女らの持っているアイテムが光を放った。光は徐々に大きくなり、その場にいる全員の視界を奪った。
≪ギャオオオオオオオ!?≫
怪物は目を焼かれたのか、その場でのたうち回る。
「眩しっ……!?二人共、目ぇ閉じるんや!」
「わわっ……わ、わかりました……!」
「……くっ、なんだ、この光は――!?」
マオとサクラはレモンの指示を受け、視界を腕で覆う。……やがて、光は収まり、三人は恐る恐る顔をあげる。そして、目の前にある光景を見て、驚愕で目を見開いた。
「……これは……まさか、あの指輪についていた飾りか?」
「でっかい戦闘機やねぇ……しかも、あの虎ロボットも、桃橋先生が持ってた車もあるで」
「凄いですね……どれも、本物みたいです……」
≪うん、本物だよ?≫
突然聞こえてきたサグルの声に、サクラは「ひゃっ」と声をあげた。サグルは大仰な素振りでもしているかのような、抑揚のある声で話を続ける。
≪君たちはそれに乗って、あの怪物と戦うんだ。安心して。操作は簡単だし、武器もしっかり積んである。まぁサクラ姉に渡した奴は免許持ってないと難しいだろうけど……他の二人は大丈夫かな。ゲームセンターに置いてあるゲーム機体みたいな操作方法だから≫
そう言って説明を終えたサグルに、レモンは一つ、気になることを尋ねた。
「……ちょっと待って。これ、うちらの色に合わせたやつに乗るんか?」
≪そうだけど……それがどうかした?≫
「何でうちのだけ、虎型のロボットなん?他二人が乗り物やのに」
≪先代のランドイエローのセンスだよ。動物が大好きな人だったからね。これらを造る時に、機体は虎型にして欲しいって言い出したからその通りに作ったんだ≫
「……うち、その人とセンス合わへんかもしれへん」
レモンはやけに可愛らしくデフォルメされた、大きな虎型のロボットを眺め……大きなため息を吐くのだった。
――――
視界が回復し、咆哮する怪物――ギガンダイナの周りを、三つの光が飛び回る。一つは緑に光る巨大な戦闘機。もう一つは黄色く光る虎型の巨大ロボット。そしてあと一つは……桃色に輝く自動車の2倍程の大きさの巨大な車。
「行くぞ!まずは我の攻撃だ!」
マオの叫び声が響くと同時に、戦闘機から無数の弾丸が放たれた。その内の数十発がギガンダイナに命中し、身体に傷のついたギガンダイナが、動きを止める。
「隙だらけやで……!」
ギガンダイナの背後からレモンの乗った虎型のロボットが迫り、ロボットは鋭い爪でギガンダイナの身体を切り裂く。
≪ギャオオオオオオオ!?≫
ギガンダイナは身体を仰け反らせ、器用に身体を捻ってその場を離れる。そこに、桃色の巨大な車が突っ込んでくる。
「い、行きます……!」
サクラがハンドルの横にあるボタンを押すと、車の屋根の部分が開く。そこから、巨大な一つの砲塔が現れた。砲塔は桃色の光を一極に集め、そのまま放出する。光の砲弾が、ギガンダイナに命中した。
≪ギャオオオオオオオ……!!≫
ギガンダイナの身体が少し吹き飛び、ギガンダイナは再び悲鳴をあげる。
≪ギャ、ギャオオオオオオオ!!≫
怒涛の攻撃に怒りを覚えたギガンダイナは、その獰猛な瞳を更にギラつかせて咆哮する。……すると、星空から複数個の隕石が降り注いできた。すぐさま、マオとサクラが対応する。
「≪緑の戦斧≫よ!我が戦闘機に無双の力を与えよ!」
「≪桃色のモーニングスター≫……!力を、貸してください……!」
二人の言葉が聞き届けられたのか、彼女達の乗り物の上に緑の戦斧と、桃色のモーニングスターが現れる。それらは光の粒子となって乗り物に纏わりつき、戦闘機と車の姿を変えた。
「切り拓け!≪疾風・ジェノサイドブレイド≫!」
「≪裂空・ライジングドライブ≫……!」
機体そのものを刃に変えた戦闘機がギガンダイナの全身を切り裂き、無数の鉄球を振り回す車がギガンダイナの身体を貫き削っていく。
≪ギャオオオオオオオ――!?≫
「まだ元気みたいやなぁ……?……≪黄色い弓≫」
悲鳴を上げてのたうち回るギガンダイナを見ながら、レモンも自身の虎型ロボットを黄色い弓によって変型させる。全身に弓型砲台を装備した虎型ロボットが、文字通りギガンダイナに牙を向く。
「……≪流星・スターライトバスター≫」
レモンの声と同時に、弓型砲台が一斉に火を吹く。流星の如き大量の矢が、ギガンダイナの身体を貫き、地面に縫い留める。その隙に虎型ロボットは高く飛び上がり、自らの牙に光を反射させた。
「とどめや」
≪ギャオオオオオオオ……!!≫
虎型ロボットはギガンダイナに牙は突き立て、その身体を食い破った。ギガンダイナの動きが止まり、断末魔がその空間に響いた。レモンの戦い方はまさしく、草食動物を喰らう肉食獣そのもので、とても正義の味方の戦い方には見えなかった。率直に言うと――滅茶苦茶にグロかった。
「ひぃっ……!木戸さん、やり過ぎですよぉ……!」
「おいレモン!それ以上は止めるのだ!お茶の間に映せない光景になるぞ!」
トドメと言いながらもなおも攻撃を続けるレモンを、マオとサクラは必死に止めるのだった。
――――
「……ふぅ、なんとか勝つことができたな」
ギガンダイナを倒し、≪聖鎧装着≫を解いた三人は、無事に町の中に戻ってくることができた。ちなみに、あの謎の空間から脱出出来たのはサグルのおかげである。戦いを終えたマオ達を、丸ごと元の場所に転移させたのだ。
「全く、あんまり無茶させんといて欲しいわ。サグル君には、また今度会ったら文句を言わんと」
「さ、サグル君になら……どんな無茶苦茶な事でも……えへへ……」
「も、桃橋先生?」
いきなり笑い出したサクラに、レモンは首を傾げる。マオはそんな二人を他所に、キョロキョロと辺りを見渡しながら呟く。
「……どうやら、人々は無事のようであるな。町にもそれ程損害がないようで何よりだ」
「後は、サグル君に任せてええんとちゃう?うち、そろそろ帰って休みたいわぁ……」
「そ、そうですね……私も、明日の授業の準備が……」
「うむ。我も家に戻らねばならん。そろそろここで解散するとしよう。レモン、桃橋サクラ。よい働きであったぞ」
「どうも……ていうかお嬢様。桃橋先生は先生なんやから、その言葉遣いは止めたほうが……」
「わ、私は構いませんよ。ですが、学校では止めておいた方がいいと思いますよ……?」
「ハーッハッハッハ!問題ない!何故なら我は魔王だからだ!礼儀は尽くされるものである!では、さらばだ!」
「ちょ、お嬢様!いきなり走ったら……!桃橋先生、また学校で!」
マオは颯爽と身を翻して去っていき、レモンはサクラに頭を下げながらマオを追いかけていった。サクラは小さく手を振りながら、二人を見送った。
「……あ、私も帰らないと……」
サクラは自分のやることを思い出し、帰路へとつく。その道中でふと、頭にある人物の事がよぎった。
「……アゲハちゃん、大丈夫かな……?」
サクラの脳裏に、怪我をして倒れていたアゲハの姿が思い浮かんだ。ゴシキジャーとしての戦いに呼び出されたせいで、サグルに任せっきりにしてしまっていたが……今、彼女はどうしているだろうか。
「……お見舞い、行こうかな……」
サクラは自分の家に帰る道を引き返し、アゲハの家へと足へ進めた。




