第十一話 離れる二人は幼馴染
――翌朝。目を覚ましたアゲハの視線の先には、見慣れない天井があった。アゲハは違和感を感じ、内心首を傾げる。
「……?どこだ、ここ?」
疑問を口に出しながら、アゲハは身体を起こし、辺りを見渡した。見慣れない勉強机に、自分の寝ている青いベッド……どこか見覚えのある風景に、アゲハの頭に電流が走った。
(……っ!ここ、リリスの家じゃねぇか!?もしかしてあたし……ずっと寝ていたのか!?)
直前の記憶――リリスに眠ると告げた時の記憶を思い出す。ちょっと昼寝するつもりだったのだが、いつの間にか夜を越していたらしい。
「……ん?」
ふと、アゲハは自分の身体を見下ろした。少し肌寒いと感じたからだ。今は夏半ばで、そんな感想を抱くのにアゲハは違和感を感じた。――しかし、すぐに違和感の正体は分かった。
「……あれ?なんであたし、服着てないんだ?」
確か自分は寝る前、いつものジャージを来ていたはずだ。寝る時だって、必ず服は着る。今みたいに、下着姿で眠ることなんて……
「……ん?」
ここで、アゲハはもう一つの違和感に気がついた。具体的には自分の右隣から感じる、ベッドの上にいるもう一つの気配。……手を伸ばしてみると、それが存在している事が一瞬で分かった。リリスだ。どうやら彼女は、またアゲハの寝ている所に潜り込んできたらしい。なんだいつものか……とアゲハは思っていたが、同時に、何か嫌な予感を感じていた。右を見れば違和感の正体が分かるのだろうが、見たくない。
「…………」
だが、怖いもの見たさというものか、アゲハはゆっくりと右に視線を送った。――そこには案の定、リリスが眠っていた。しかし、いつものリリスとは違い……彼女は服を着ていなかった。下着姿のアゲハとは違い、彼女は完全に全裸だった。布団に覆われたきめ細やかな肌が、嫌でも目に入ってくる。当然、アゲハは混乱した。ベッドから飛び退き、思い切り叫ぶ。
「えええ!?リ、リリス!?何してんのお前!?」
「……ん?ふわぁぁ……アゲハ?」
リリスは起き上がり、地面にへたり込んでいるアゲハを見下げた。その際に布団が剥がれ、隠れていた肌が完全に露わになり、スタイルのいいリリスの身体が光に照らされる。……なんかもう、見ていられなくてアゲハは赤面していた。思わず視線を逸らす。
「お、お前、服……!」
「……?服が、どうかした?」
「気づいてないのか!?ふ、服!なんで、服着てないんだよ!?」
「……アゲハも、服、着てない」
「いやそうだけど!まだ裸じゃねぇよ!ていうかジャージ!あたしのジャージはどこだ!?」
リリスから目を逸らして辺りを見渡すと、ベッドの近くにアゲハのジャージとリリスの服らしきものが転がっていた。すぐさまアゲハはジャージを掻っ攫い、ほんの一瞬で身に着けた。
「……アゲハ、顔赤い。可愛い」
「うるせぇよ!?お前も早く服を着ろ!」
「……必要、ない。今日はもう疲れたし、学校……行きたく、ない」
「あ、そうか!学校!今から荷物取ってきて着替えて間に合うか……!?」
「アゲハも、一緒に……休む?」
「休まねぇよ!つかリリス!お前には後で聞きたいことがあるからな!なんであたしの服を脱がしたのか、なんで服を着てないのか!全部説明しろよ!」
アゲハが必死の形相でまくし立てると、リリスはこてんと首を傾げる。自分の身体を隠すこともせず、リリスは無表情でこう言った。
「……私の服、脱がせたの……アゲハ。脱いだのも……アゲハ。私、何もしてない」
「……は?」
アゲハの時が止まった。……ハッハッハ、そんなまさか。自分がそんな事するわけ……
「アゲハ、寒いって、言ってた。だから温めてほしいって言って……私の服、脱がせた」
「はぁぁぁぁぁぁぁ!?」
リリスの衝撃の発言に、アゲハは悲鳴にも近い叫びをあげた。あり得ない。信じられない。そんな考えが胸中を支配する。しかし、リリスが嘘を言っているようにも見えない。リリスは恥ずかしそうに頬をかきながら、口角を少しあげていた。
「恥ずかしかった、けど……アゲハのために、頑張った」
「……なぁ、リリス……?あたし達、何も……してないよな……?」
混乱する中、それが、アゲハが言える精一杯だった。自分はまさか……その、いろいろ失ったりとか、してないよな……?と、アゲハの顔は引きつっていた。そんなアゲハを見ながら、リリスは……顔を少し赤くして、残酷な答えを返した。
「……一晩中、抱かれた……」
――再び、時が止まった。リリスの言葉が脳内を駆け巡り、アゲハの顔が真っ赤に染まる。……リリスの発言は、少し……というか全く、言葉が足りていなかった。リリスは単に「ずっと抱きしめられていただけ」と言ったつもりだったのだが、彼女の致命的な口下手さが、アゲハの脳内をピンク色に染め上げていた。
「…………」
「……?アゲハ……?」
顔を真っ赤にして物言わぬ置物と化したアゲハに、リリスは首を傾げる。――――しばらくの静寂の後、アゲハは息を吹き返したかのように動き出した。身体をプルプルと震わせ、必死に何かを堪えていたようだったが……やがて、彼女は口を動かし、思い切り叫んだ。
「――へ、変態っ!淫乱っ!うわああああーーーー!!」
それは誰に向けた言葉か。アゲハは生娘のように顔を真っ赤にして、叫びながら部屋を飛び出していった。後にはポカンとした未だ裸のリリスが残る。彼女はアゲハの後ろ姿を見ながら、ぼそっと呟いた。
「……親、今日いなくて、良かった」
今更羞恥心を抱いたのか、リリスは若干顔を赤らめて、身体を布団で隠すのだった。
――――
制服に着替え、荷物を持って遅刻しながらも登校したアゲハは、未だ赤い顔を両手で隠して悶えていた。彼女の脳裏にあるのは、昨夜の記憶――何故か恐怖が襲ってきて、子どものようにリリス相手に泣きじゃくっていた自分を思い出し、今まで感じたことのない羞恥心を感じていた。ちなみに、リリスの発言への誤解は、もう解けている。自分は貞操を失っていなかった。しかしもっと大切な何かを失っていた。
「……見ろよ、赤羽の奴、ずっとあの変な格好のままだぞ」
「何してるのかしら……ハッ!もしかして、滅茶苦茶に怒ってて、それが抑えきれないとか……!?」
「やべーじゃねぇか!今日の赤羽に近づいたら、皆やられちゃうんじゃ……!」
周囲の人物の話す内容を聞いたのか、アゲハは机を思い切り叩き、顔を赤くして叫んだ。
「今、あたしの前でヤられるとか言うんじゃねぇっ!!あ、あたしはそんな事してねぇからっ!!」
内容を字にしてみると思春期の少女が過敏に反応しているだけのように見えるが、クラスメイト達はそうは受け取らなかった。というかアゲハの怒鳴り声が怖がられすぎて内容を聞いてすらもいなかった。
「「「ひいいいいぃぃ!」」」
アゲハの威圧感に怯え、去っていくクラスメイト。今は羞恥に悶え、ピンク色の妄想を必死に振り払っているのだから、近くで変な雑談をされるのが許せなかったのだ。
「……どうしたんだ、赤羽アゲハは?」
「さぁなぁ……でも、今はそっとしといた方がいいんとちゃう?なんか機嫌悪いみたいやし」
休み時間でたまたま通りかかったマオとレモンは、そんなアゲハを見て、不思議そうに首を傾げていた。
――――
「……で、何があったん?」
昼休み。マオとレモンがいつもの空き教室に呼び出したアゲハは、膝を抱え込みながら隅っこで昼飯の菓子パンをもそもそと食べていた。どう考えても様子がおかしいので、レモンは尋問を開始したのだが……
「……なんでもねぇ」
「さっきも同じ事言っとったやんか。そんな様子で「なんでもねぇ」はないやろ」
「何かあったとしても、お前には話さない」
「ほぉ~?こっちが下手に出てりゃ、よくもそんな生意気な事が言えたもんやねぇ……?」
バチバチと睨み合うレモンとアゲハ。何度も見た光景にマオはため息を吐きながら、反対側の隅っこに顔を向けた。そこには、同じく膝を抱えている黒髪の美少女――数時間前に遅刻して学校に来たリリスがいた。
「……青宮リリス。いい加減こちらに来たらどうだ?そのような場所にいては埃まみれとなるぞ?」
「……アゲハが話しかけてくれない……目も会わせてくれない……悲しい……」
「ほら、赤羽アゲハが落ち込んでいるぞ。慰めてやったらどうだ?」
「……!アゲハ、どうかしたの……?相談なら、私が……!」
「……っ」
リリスがマオの言葉に一瞬正気に戻ってアゲハに話しかけるも、アゲハは顔を赤くして目を逸らしてしまった。それを見てリリスの目から光が消え、彼女は再び膝を抱える。
「ぐすっ……アゲハに無視された……悲しい……この世の終わり……私、嫌われた……?」
とうとう泣き出してしまった。……先程からこの二人はずっとこんな感じで、レモンとマオにため息をつかせている。いつまでもこの調子だと、今後のゴシキジャーとしての活動に支障が出るため、レモンは面倒くささから、マオは純粋な心配から先程から二人を元に戻そうと必死だった。
「はぁー……喧嘩でもしたんか?そんなん一発「ごめんなさい」言うたら解決やろ」
「……そんな単純じゃねぇよ。いいからほっといてくれ……今、来世への生まれ変わりを考えてるんだ……」
「うっわ……これガチの鬱状態やな……」
膝を抱えて虚空を見つめ出したアゲハ。羞恥心が天元突破した彼女は、今世との別れまで考えていた。……しかし、アゲハの脳内には、もう一つの考えがあった。
(……あれから、リリスと話せてない。あいつを見ると朝の事を思い出しちまう……!)
――リリスのことである。アゲハは朝の一件以来、リリスと口を聞いていない。リリスを見ると今朝の事を思い出して羞恥心で顔が赤くなり、まともに喋れなくなってしまうのだ。……それがリリスを傷つけてしまっている。
(……あいつと話さないといけない事は分かってるのに……!どうしても、あいつの顔が見れねぇ……!)
思い出すのは、昨夜の自分の姿。みっともなく泣きわめいて、リリスに縋りつき、とんだ痴態を晒してしまった。どんな顔をしてリリスを見ればいいか分からない。もし普通に話そうものなら、恥ずかしさで地面に埋まりたくなってしまう。
「ひぐっ……ぐすっ……」
「お、おい。落ち着け青宮リリス。赤羽アゲハが貴様を嫌うわけがないだろう?」
「でも……目、合わせて、くれない……ううっ」
「きっと何か理由があるのだ。大丈夫、大丈夫だから……」
泣いているリリスをマオは必死に慰めようとするが、リリスの涙は止まらない。
「…………っ」
そんな彼女を見て、アゲハは苦しそうに顔を歪め、昼飯を食べるのを止めた。菓子パンの食べかけが入った袋を抱えながら、アゲハは空き教室を飛び出した。
「ちょっと、赤羽さん!?」
レモンの声を背に受けながら、アゲハは廊下を走った。途中で教師に静止されたが、構わずに走り続けた。
――――
「……はぁ」
放課後。結局リリスと話せずじまいだったアゲハは、珍しく一人で下校していた。
「……どうしたんだ、あたし」
今日の自分は……いや、昨夜からの自分は変だ。ちょっとしたことで気分が悪くなったり、反応が過剰になったり……今までのアゲハだったら、そんな事はなかった。
「リリス……」
青宮リリス。アゲハにとって大切な友達であり幼馴染。幼稚園の頃から付き合いがあり、小中高ずっと一緒の学校だった。リリスは中学校くらいからアゲハを避け始めていたので、その間には関わりはなかったが。それでも、気兼ねなく話が出来たり、一緒に遊んだりする時間は……本当に楽しかった。
「……やっぱり、話をしないとな」
自分がどこかおかしいとか、関係ない。今、リリスは傷ついて、悲しんでいる。その原因である自分が安心させてあげねばならないのだ。そう思ったアゲハは、来た道を引き返そうと……
「――おやおや、こんな所にいたとはね?」
突然聞こえてきた中性的な声に、アゲハは思わず足を止めて、振り返った。――そこにいたのは、黒いローブに身を包んだ小柄な人間だった。その某は頭にフードを被り、フードの奥には仮面を身に着けている。ローブで身体の線が隠されており、男女の区別もつかない。一言で言えば……怪しい奴だった。
「……誰だ?悪いが、今あたしは急いでるんだ。冷やかしなら後に……!?」
アゲハの言葉の途中で、地面から火花が飛んできた。アゲハが謎の人物の方を見てみると、彼の手には白い拳銃のようなものが握られていた。
「まぁまぁ、そう焦らないで。お楽しみはここからなんだからさ」
謎の人物は意味深にそう言って笑うと、自分のローブの右腕の袖をめくった。右腕には、どこか見覚えのある白い腕輪がつけられていた。……それを見て、アゲハは驚愕の表情を浮かべた。なぜなら、その腕輪は……アゲハの身につけている腕輪に、瓜二つだったからだ。驚くアゲハを他所に、謎の人物は腕輪のパーツを回す。
「お前、それは……!?」
「――≪聖鎧装着≫」
――ズバババーン……!
――マッドネスマシーン……!マッドホワイト……!
腕輪から地を這うような低い声が響き、謎の人物の身体が白い光を纏っていく。彼の身体には黒ではなく、白い鎧が現れ、鎧は彼の全身を包んだ。光が収まり、アゲハの前に現れたのは……全身を白い鎧で覆った戦士だった。
「なんで≪聖鎧装着≫を……」
「いい反応をしてくれるね。流石はフレアレッドと言った所かな」
「お前は……味方、なのか……?」
「……残念、敵だよ」
白い戦士はいつの間にか手に持っていた白い拳銃をアゲハに向ける。アゲハはそれを見て、必死の形相ですぐに腕輪を回した。
「≪聖鎧装着≫!」
――ズバババーン!
――レッド・フレイム!フレアレッド!
アゲハの姿が赤い戦士――フレアレッドへと変わり、アゲハは≪赤い剣≫を構えた。白い戦士は銃の引き金を引き、アゲハに向けて銃弾を放つ。
「はぁっ!」
アゲハは剣で銃弾を弾き、白い戦士の元に迫る。アゲハはすぐさま剣を振り、白い戦士に一撃を食らわせようと試みるが……それは叶わなかった。彼は自分の銃を前に出し、剣を受け止めたのだ。
「なっ……!?」
「んー……力は十分だけど、まだまだだよ」
白い戦士はアゲハの剣を受け止めたまま、もう片方の手に白い拳銃を生成する。白い戦士が引き金を引くと、光の球がアゲハの身体を撃ち抜いた。スーツの鎧部分が砕かれ、アゲハは吹き飛ばされる。
「がっ……!」
地面を転がったアゲハは、撃たれた箇所から血を流す。スーツでダメージが軽減されているとはいえ、受けた衝撃は相当のものだった。
「どうしたの、君はまだそんな所で終わる人じゃないでしょ?」
「てめぇ……うっ」
「あーあ……せっかくのスーツがボロボロだ。ほらほら、早く抵抗しないと、死んじゃうよ?」
アゲハは撃たれた箇所を抑え、地面に倒れながら白い戦士を睨んだ。白い戦士は飄々とした様子で両手に銃を構え、銃口をアゲハに向ける。
「……っ」
「いいねぇ、まだ闘志は失ってないって感じだ。ほら、早く立って、君の強さを見せてよ」
「なんなんだよ、お前……!よくわかんねぇこと、言ってんじゃねぇ……!」
アゲハはなんとか身体を動かし、ゆっくりと立ち上がる。そして剣を構え直し、白い戦士の元に駆けていく。
「はああああぁぁぁぁ!」
「……またそれか。がっかりだよ、フレアレッド」
やけくそ気味に走ってきたアゲハに、白い戦士はため息を吐いた。両手の銃の銃口をアゲハに向け、引き金を引く。
「≪双銃・マッドネスバースト≫」
無数の光でできた銃弾が、アゲハ目掛けて放たれる。銃弾は弧を描いて複雑な軌道を描くと、アゲハの腕や足を容赦なく貫いた。アゲハは動きを止め、その場に崩れ落ちる。あちこちから流れる血が、彼女の受けたダメージを物語っていた。
「うっ……あぁ……」
「まさか、ここまで弱くなっていたとはね。平和な日常に足を突っ込みすぎて、身体がなまったんじゃない?」
「何を……言って……」
「昔はもっと強かったのになぁ。そうでしょ――赤羽アゲハ」
白い戦士から告げられた自分の名前に、アゲハは目を見開いて驚く。アゲハはかろうじて意識を保ちながら、もはやまともに動かない口を無理やり動かす。
「あたしを、知ってるのか……?」
「おっと、口が滑っちゃった。今日はここまでにしておこうかな…………あっ、そうそう、名前を名乗るのを忘れていたね。ボクと初めて出会った記念に、教えてあげよう」
白い戦士は銃を手から消失させると、自分の事を指差しながら、明るい声で名乗りをあげた。
「――ボクは、マッドホワイト。今日のところははこれでお別れ。今からの相手は……こいつさ」
白い戦士――マッドホワイトは懐から青い球体を取り出し、その球体を空にかざした。すると、空に大きな穴が開き、その中から咆哮が響いた。アゲハが目を向けると、その穴の中に巨大なトカゲのような怪物がいるのが見えた。
≪ギャオオオオオオオ!!≫
「じゃあね、フレアレッド。生きて帰れることを願ってるよ」
マッドホワイトはそう言うと同時に姿を消した。すると、穴の中からアゲハを覗く怪物が咆哮をあげる。
≪ギャオオオオオオオ!!≫
(……やべぇ……身体が動かねぇ……あたし、このまま死ぬのか……?)
アゲハはぼんやりとした思考の中、自らに迫る死を自覚した。指一本も動かず、身体の痛みも残ったまま。周りに人はおらず、アゲハを助ける者はいない。――まるで、あの時みたいだ。
「…………っ!」
それを考えた時、アゲハの身体を恐怖が襲った。何に恐怖しているのかは分からない。とにかく手が震え、呼吸が荒くなり、目の焦点が合わない。怖くて、怖くて、気が狂いそうだった。
「はぁ…………はぁ…………!」
――駄目だ。考えるな。
「誰か…………!」
――誰も助けてはくれない。
「一人に、しないでくれ……!」
――誰も寄り添ってはくれない。
「お願い……」
――あたしの願いは……叶わない。
(……やめろ!やめろやめろやめろっ!)
あたしの前に現れるな。姿を見せるな。これ以上あたしの無力さを痛感させないでくれ。みっともない姿を晒さないでくれ。あたしの生きる希望を……奪わないでくれ。
「――アゲハちゃん!どうしたの……!?」
ハッと、アゲハは思考を断ち切り、聞こえてきた声に視線を向けた。……そこには、アゲハの顔を心配そうに覗き込むサクラの姿があった。驚いたアゲハは少しだけ、目を見開いた。
「サクラ、姉……?」
「あわわわ……と、とりあえず病院……!でも、≪聖鎧装着≫したままだし……サグル君に電話かな……!?あ、安心して、アゲハちゃん……!絶対に助けるから……!」
あたふたと携帯をいじり、必死に電話を掛けようとするサクラ。そんな彼女を見て気が抜けたのか、アゲハは先程まで考えていた事も忘れ、眠るように意識を失った――




