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向かい合ってソファーに腰を下ろし、ロイに伝えていく。
ジュリアンとコンスタンスが出会ったルグランという喫茶店の主人が元貴族で、二十年くらい前から働いているらしいということ。そして、二十五年くらい前に宮殿であったかもしれない反乱。
その二つから、ルグランの主人が誰かの罪を被って爵位を剥奪された可能性があると言った時、普段は口を挟まないロイが反応した。
「ダミアン君」
「はい」
「おそらくですが、それは王太子位簒奪のための反乱でしょう」
「あ、殿下はやっぱり知っていたんですね」
「いえ、私も詳しくは分かりません。主導者はフィリップ叔父上だろうと思いますが、それも推測にすぎません。ですが……そうでしょうね」
「そのルグランで、アランという男――殺されたジュリアンに似ている、遊び慣れている雰囲気の色男と知り合ったのですが、王都の警備隊に所属していると言っていました。そこで現在は王都にあるバクランド家の屋敷で働いている元警備隊員のトニーに聞いたところ、アランはシェール伯爵家三男だと」
ロイの口角が上がった。もちろん対外的な貴公子のほうではなく、僕とエステルにしか見せない怪人のほうの顔つきで。
「シェール伯爵はフィリップ叔父上の腰巾着――失礼、つい本音が出てしまいました。側近ですね」
「トニーによると、アランは警備隊では貴族出身を隠して働いているそうです」
「断定はできませんが、家族ぐるみで協力しているのでしょう。数年前から警備隊に入り、何らかの役目を担っている可能性はあります」
ロイは、自分が知っていた内容と新しい情報を擦り合わせて推理するためか、視線を下げて沈黙している。
「ここ数十年の間で爵位を返上した家はございましたが、剥奪はダヴィルー侯爵家のみです」
「……ではあの主人は、そのダヴィルー侯爵家出身ということですか?」
「ダミアン君の家の侍従たちの話が正しいと仮定すれば、そうでしょうね」
あの品の良い佇まい、元とはいえやはり侯爵家で教育を受けていた。
「当時の王太子――現在の国王陛下を狙ったのだとしたら、剥奪は軽すぎる罪だと思いますが」
「処刑されなかったということからも、別の人物の身代わりだった可能性が高いです」
「それができるのは、侯爵家よりも高い身分の人ってことですよね」
「ええ。そして今も支配下に置き、反乱のための資金作りとして賭博場を管理させているのではないでしょうか。自分が王座に就いた際の報奨を約束して」
どれだけ理不尽でも、権力に逆らえなかったのだろう。
「それはやはりフィリップ王弟殿下が……?」
「今の時点では確定はできませんが、少なくとも何かは知っていると思います」
王族として接する時間が長く性格を十分理解しているロイは、断言こそしないが強く疑っているようだ。
正直、国王の椅子はそれほどまでの価値があるのか理解できない。強大な権力を持つが重圧と殺されるかもしれない恐怖を抱え続けることを考えると、その見返りとしては不十分に感じる。ただ、それは僕が完全にその資格を持たないからこそ思うのかもしれない。
王族は生まれる順番が違ったり、王太子に何かあれば王位を手にすることのできる身分だ。だからこそ、執着するのだろう。
「ロイ殿下。テルナ伯爵は中立派だったと思いますが、親しくしている人は分かりますか?」
「テルナ伯爵と親しいといいますと、強いて言うならば……ワグネル伯爵でしょうか。ワグネル伯爵は君の父上、バクランド侯爵とも友人ですね」
「えっ?!」
「ダミアン君、父親の交流関係を知りませんでしたか?」
「いえ、そうではなく、実はルグランについて調べるために管理局へ行ったんですが、そこでワグネル伯爵の息子のニコラに会いまして……」
その時の会話の内容と、兄たちが本当に王都に来ていたことを伝えたら、ロイは腑に落ちたような顔をした。
「エステル嬢があの麗しい瞳を潤ませながら、『ロイ殿下、わたくしに付きまとう方たちがいて困っておりますの。もしよろしければ、その方たちが来る日にわたくしと過ごしていただけませんか』と言っていたので心配していたのですよ。ファブリスさんたちだったと知って、安心しましたよ」
「今の話を聞いて、一番の感想がそれですか」
「ええ。私の一番大切なものが何か、ダミアン君もご存知かと思いますが」
「はい、よく知っていますよ。殿下が人を揶揄い、自分の本心を見せないことを徹底していることとか」
「さすが、私の一番大切な友人ですね」
微笑みながら片目を閉じたロイ。その顔を令嬢じゃなくて僕に向けるのは、もったいないと思いますけど。
「――テルナ伯爵がルグランの賭博場に出入りしていたのは、何が目的なのか……」
「二つの可能性がございますね。ダミアン君、バクランド侯爵とテルナ伯爵の交流関係は分かりますか?」
数年前から離れて暮らしているので、確信はないが……。
「最近は分かりませんが、以前は話題に出たこともなかったかと」
「私はバクランド侯爵を信頼しております。そのご友人でいらっしゃる、ワグネル伯爵においてもです。先ほども言いましたが、伯爵は特定の誰かに近い印象はありませんね。夜会への出席も断ることが多かったと思います」
「はい。ですので、彼が賭博場にいたのは意外でした」
「ええ、私も少々気になります」
そう言った後、顎に手を当てたロイ。
怪人の仮面を付け普段は喜怒哀楽を表に出さないので、気になると言っただけでも注目している点だということが分かる。
「テルナ伯爵は息子がリュー地区の市庁舎に勤務していたと思います。そして確かバードン男爵の弟も、リュー地区の市庁舎ではなかったでしょうか。二人には何かしらの繋がりがあるかもしれませんね」
大量の資料から欲しい部分を探し出すように、少しの時間を置いてからロイが言った。
記憶力が良いというだけではなく、そもそもこの情報が頭の中に入っていることに驚いてしまうが、第二王子としてそつなく振る舞うロイには普通のことなのだろう。
僕には、『中身は実は怪人でした』って言われた方が理解できるけどね。
「バードン男爵とテルナ伯爵に共通点があるとすると、テルナ伯爵は向こう側……でしょうか」
「まだ分かりません。ですが証拠がないうちは、そのように考えて行動したほうが安全でしょう」
頷いて返事をしたが、ロイはなかなか続きを話さなかったので、気になっていることを訊いた。
「ロイ殿下。フィリップ王弟殿下が今回の件にどう関わっているのか、まだ見えてこないですが……」
「ええ、あの叔父上ですからね。証拠が残らないよう、慎重にしているはずです。そこでひとつ、ダミアン君に頼みたいことがあるのですが、いかがでしょうか?」
こういう場合、僕がする返事はいつも同じだが、確認は必要だ。
「どのような内容ですか?」
「前にお伝えした子供を預かる事業なのですが、ダミアン君に責任者になってもらいたいと考えております」
「責任者――ですか」
「ええ。フィリップ叔父上から、この件は私に一任すると言われましたので」
いくら親友といえども、第二王子からの依頼だ。普通ならば断らない。だが、この話には異議がある。
「ロイ殿下。周りから見たら、僕はファロンヌ語が話せない外国人の助手ですよ? 無理がありますし、周りからも反発されると思うのですが」
「裏で動いてほしいのです。表に出す責任者の名前は私か……君のお兄様でもかまいません。もちろん、君との繋がりは完全に隠しますから安心してください」
僕は功名心があるわけではないので、それならば受け入れるしかない。
「でしたら、殿下の名前にしてください。万が一、家族に僕たちがしていることが露見したら困りますので」
もう知られているかもしれないという疑問には、今は触れないことにする。
「助かります、ダミアン君」
初めから僕の返事は分かっていたはずだ。礼ではなく、思った通り――という微笑みだろう。




