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ダミアン・バクランド 〜第二王子殿下の親友は今日も振り回される〜  作者: 島田すい


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「……活動、ですか?」

「うん」


 声が上擦らなかったのは、日頃からロイに鍛えられているおかげだろう。エステルと相談をしたいが、それができないのは分かっている。


「よく意味が分かりませんが……」

「――分かっていると思うけど? そうじゃなければ、ここには来ていないだろうし」


 ニコラが右手で自分の髪の毛を掴み、ため息をついた。


「申し訳ない。僕は君たちのことを知っているけど、君たちは僕のことを完全には信用できないよね。ファブリスとスティーブがいればいいけど、今から呼ぶわけにもいかないし。困ったな……」


 なんて返せばいいのか……。エステルも沈黙している。

 ニコラは一人でぶつぶつと何かを言ったあと、視線を正面のエステル、そしてその横に立っている僕に向けた。


「今から僕が話をするけど、その内容に嘘はつかないよ。それを聞いて、君たちは判断してほしい」

「ええ」

「はい」

「ファブリスたちからルグランについて訊かれたと言ったけど、正確には彼らはバクランド侯爵に頼まれてここに来たんだ。ルグランで何か秘密裏に活動をしている人たちがいるらしい――という情報が元だ」

「……その情報というのは、どこからですか?」


 訊かずにはいられなかった。


「それは彼らも教えてもらってないみたいだ。というか、僕も他からルグランの話は聞いていてね。本当のことだし、知る必要もなかったから」


 親同士が貴族だ。大体の交流関係も把握していて想像がつく――という理由もありそうだ。逆にニコラが耳にした噂の出処も、僕たちに明かさないだろう。


「これはきちんと言っておくけど、僕らはそれを取り締まる側だ。ただ、ことは複雑でね」

「どのように複雑なのですか?」


 エステルが新聞記者として調査する時の感情を含まない声で言った。


「初めは余裕のある者たちの違法な遊びかと思っていたから、こっちも適度に泳がしていたんだ。でも最近、王都で荒くれ者たちを集めていた動きがあって。バクランド侯爵はその二つの繋がりを調べるために、ファブリスたちを寄越したんだ」


 掴んでいるのはどうやらロイだけではなかったらしい。父は確かに貿易もしているし交流も広い。だが、領地にいてなぜそこまで早く情報を得られるんだ? 王都やヴァルリナ宮殿にも太い繋がりがあるなら、僕とエステルがしているロイの助手の仕事まで……全て父たちに把握されているかもしれない。


 

「そこで僕たちも気づいてね。現在調査を進めているところだよ」

「僕たち――というのは、ニコラさんと兄様たちではなく、ニコラさんにルグランの話を伝えた人ってことですよね?」

「さすが、ファブリスとスティーブが優秀な弟たちだと誇るだけあるね。そうだよ、僕はバクランド侯爵たちとは別のところで動いている」


 ニコラが口角を上げた。兄たちのように親しみやすいが、世間知らずの貴族子息にはないしたたかさも合わせ持っている。


「ダミアン君とエステルさん。僕の見立てでは君たちが新聞記者として調べていたことと大きく変わらないと思うんだけど、どうかな?」


 椅子に座っているエステルを見ると、彼女も顔を上げたので目が合った。妹が微笑んだので、僕も頷いて意思を伝える。


「もしそうだとして、ニコラさんの考え……いや、現在動いているって言ってましたけど、どのように動いているんですか?」

「動いている――というか、動かされているんだけどね」

「指示を出しているのは管理局の長官ですか?」


 誰だったか……と思い出そうとしたが、名前が出てくる前にニコラに「違うよ」と否定された。すかさずエステルが返す。


「では、どなたかしら?」

「申し訳ないけど、僕から口にすることはできない。だが、僕の他にもその方から命を受けて動いている者はいるし、バクランド侯爵もおそらく同じ方か、近い方からの情報提供で調べている」

「その方の下で動いているのは、何人くらいなのですか?」

「僕が知っている限りだけど、他に三人はいるかな。ああ、管理局じゃなくてそれぞれ別のところにいるよ」


 エステルが言う前に、僕が尋ねた。

  

「ということは、ニコラさんはここに送り込まれたってことですか?」

「そういうことになるのかな。まあ、元々市庁舎で働いていたんだけど、父を通じてその方から頼まれてこっちに来たんだ」


 さらっと重要なことを言われた気がする。 

 ニコラは僕たちの思考が終わるのを待つように、少し経ってから言った。


「二人はヴァルリナ宮殿付きの新聞記者だ。もちろん上の人がいるよね。安心して、名前は聞かないよ。でもその上の人が君たちに今回の調査を依頼したってことで合っているかな?」


 ロイの意向も聞かずにこちらの手の内を明かすようで悪いと思うけど、これ以上、口を噤むのは無理そうだ。ニコラが黒幕側でないと信じるしかない。万が一の場合には……パトリックたちには中心地に行くとしか言ってないし、助けは期待できない。

 

「はい」

「ルグランのことは、どこまで知ってる?」

「品の良い男性がやっている、美味しい珈琲を出す喫茶店だと。ルグランは数年前にできたようなので、その店主の身元を管理局で調べられるかと思って来たんです」

「残念だけど、それは言えないんだ」


 落胆した僕たちに、ニコラが続けた。


「言えない――という言葉には、二つの意味がある。知っているけど言えない場合と、分からないから言えない場合。今回は後者だよ」

「え? 管理局でも分からないってことですか?」

「ああ。ルグランはあの男性の店じゃなくて別の人物のものだ」

「じゃあ、その人物は誰なんですか?」


 ニコラが首を振った。


「照会不可で、管理局の長官ですら閲覧できないんだ。だがおそらく、僕に依頼してきた方やバクランド侯爵は目星がついているんじゃないかな。君たちの上の人も含めて」


 管理局長官よりも上の人物……やはりロイや僕たちの予想と一致している可能性が高い。

 

「ニコラさん。ルグランの店主の身元も分からないというのは、少しおかしいと思うのですが……品のある佇まいですし、元貴族らしいとの話も耳にしました」


 エステルが言ったが、ニコラは苦い表情を変えなかった。


「うん、元貴族だとは僕たちも聞いている。でも、どの貴族だったかまでは分からないんだ」


 ニコラが小さくため息をついた。どうやら、この話はここまでらしい。


 

 

「ニコラさん」

「なんだい? ダミアン君」

「兄様たちとは、頻繁に会っているんですか?」

「その時にもよるけど、彼らが王都に来る時には大体会っているかな。僕の実家の領地は王都に近くてね、そっちで会うこともあるよ。ああ、そういえばパトリックさんたちは元気?」

「はい」


 いまさらだが、僕たちを安心させるためにあえてパトリックの名前を出したように思えた。


「これは余計なお世話かもしれないけど、ファブリスたちは本当に君たちを心配していたよ。次は会えそうかな?」

「…………」

「…………」

「はは、そんなに君たちは社交界デビューをしたくないみたいだね」

「ええ。いま以上にわたくしを楽しませてくださる方がいらっしゃれば考えますけれど」

「おや? エステルさん。すでにそういう人がいるようにも聞こえるよ」


 そう言いながら実直な雰囲気には似合わない笑みを浮かべたニコラ。


「ふふ。人とは限りませんわ」

「まあそうだよね。ファブリスたちもだけど、僕も未だに一人身だし」

「そうですよ。まずは兄様たちが先なのに、なんで……」 

「う〜ん。ダミアン君の意見に僕も賛成なんだけど、仕事が充実していると後回しになっちゃうんだよね。それと……僕たちの両親が関係しているかな」

「両親ですか?」


 ニコラが頷いた。


「うん。僕の両親もバクランド夫妻も貴族なのに子供の意思――自由を尊重してくれるし、政略結婚とかを好まないからね」


 だから気が合うのか。

 

「確かにそうですね」


 ロイとエステルの場合は、普通の恋愛になるのか政略結婚だと思われるのか、どっちなんだろう。


「それじゃあ僕はそろそろ仕事に戻らないと。君たちとの連絡は、パトリックさんを通せばいいかな?」

「はい」

「僕へはワグネル家宛に送ってほしい。パトリックさんが知っているから頼んで。急ぎなら直接管理局でもかまわない。ただ、その時は差出人をパトリック・ワグネルと書いてほしい」

「分かりました」


 ニコラが立ち上がったので、僕たちも礼を言って管理局を後にした。

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