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ダミアン バクランド 〜第二王子殿下の親友の日常〜  作者: 島田すい


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 疑問は山ほどある。


「殿下は、何に対しての反乱だと予想しますか?」

「そうですね。平民だけでしたら税率や王政に関することでしょうが、もし首謀者がフィリップ叔父上だと仮定しますと、王座を狙っていると考えるのが自然だと思います」

「ただ、国王陛下は民衆からも貴族からも支持されていますよね。反乱者が集まりますか?」 

「思想より利益で動く者は少なくありません。特に没落貴族や地下組織の者たちは、王家への忠誠より目前の金を優先しますからね」


 ロイは淡々と、思考する様子も見せずに言った。


「もし国王陛下が、その……」

「ダミアン君、ここには私たち三人しかいません。いつもの調子で話してくれてかまわないですよ」

「はい、すみません。えっと、その……例えば反乱が成功し、国王陛下を王座から下ろしたとしても、次の継承権はシャルル殿下、そしてロイ殿下ですよね」

「はい、そうですよ」

「でしたら、彼が王座に就ける可能性は低いのではないですか?」


 僕の問いにも、ロイはいつもの雰囲気を崩さない。


「叔父上は私に続いて継承権第三位ですから、私たち三人ともがいなくなれば、次は彼になります。ダミアン君もご存知でしょう?」

「はい、それは理解しています。ですが仮に彼が王座を奪えたとしても、その後の統治は難しいのではないかと思うのですが……」

「ええ、良い着眼点ですね」


 ロイは言った後、すでに冷めている茶を飲み干した。空になったカップを見たエステルが、ティーポットから紅茶を注ぎ足す。令嬢といえど気取らない女性である妹としては普段の行動の延長だが、その自然な様子は二人の距離の近さを表しているように見えてしまう。

 僕の前では恋人を装う必要はない。正直なところ、これは二人の演技が続いているというより……。

 この先は頭に浮かべるだけでも心配になるので、何も考えないようにした方が自分のためだ。話もまだ終わっていないしね。



「正直、叔父上のことをこう言ってしまうのは少々気が引けますが、彼には人望というものがございません」

「……ええ」

「はい」


 少し緩んだ空気が、再び引き締まる。

 申し訳ないと思いつつも、僕たちは同意した。まあ、フィリップから見れば周りの人間は全て取るに足らない存在なのだから、慕われることなど不要なはずだ。


「でしたら、恐怖政治を敷くということでしょうか」


 エステルが尋ね、僕も疑問を投げかける。


「でもそれだと、またすぐに別の内乱が起きそうですが」

「当然、問題は出てくるでしょう。リシャール叔父上がどうなるのかは不明ですが、ただ、リシャール叔父上はご存知の通り内気で、兄のフィリップに頭が上がりません。そのため不満を抱く者はいたとしても、反乱勢力をまとめ上げられる人物は、すぐには現れないでしょう」



 ロイの言うことは理解できるが……。そんな甘い見通しだけで、あの狡猾そうなフィリップが動いているとも思い難いのだが。

 その思考を読むように、ロイが言った。


「法を変え、反逆的な行為への処罰を重くすれば、そう簡単に逆らえなくなります」



 確かにそうなのだろうか。でも、そのようなやり方が長く続くとも思えない。

 その疑問を口にすると、ロイはそれを分かっていたかのように言った。


「叔父上は結婚しておらず、子供がおりません。一代のみの天下と割り切っているのなら、案外持つのではないでしょうか」


 ロイは一呼吸置いてから、話を続ける。


「実行は――そうですね、施設事業もこれからですし、今すぐではないでしょう。もしかしたら今後、結婚するかもしれませんが……いえ、これまで浮いた噂ひとつなかった潔癖な叔父上ですから、可能性としては低いですね」


 僕も一応バクランド侯爵子息だが、爵位を継ぎたいなどと考えたことは一度もない。まあ僕の場合は(両親が全く区別をしていないといえども)異母弟だし、兄たちとは年も離れているため、物心ついた時から一番上のファブリス兄が父の跡を継ぐということ以外を意識したことすらなかった。


 フィリップは兄と一歳違いで、双子と間違われるくらい似通っている。だがその立場は生まれた時から全く違う。兄のジョルジュは将来の国王になる王太子として丁重に扱われ、重責や重圧も果てしないだろうが、それに見合うだけの栄光を享受する……国王になった今現在、している。

 一方のフィリップは、常に兄の控えとして扱われ、兄がいなくならない限り、表に出ることを許されない。


 ロイはフィリップと同じ第二王子という立場だ。ロイは聡明で偏屈だから自身の考えを周りの悟らせるようなことはしないが、彼も胸中では兄シャルルに対して、妬みの気持ちを燻らせているのだろうか。




「ロイ殿下」

「はい、エステル嬢」

「先ほど殿下がおっしゃった、『私たち三人がいなくなれば……』ということですが、その、それはどのような状況になると、お考えですか?」


 僕も尋ねたかったが、少し遠慮していた内容だ。だがロイは相変わらずの、他人事(ひとごと)のような調子で答える。


「おそらく殺されるでしょうね。反乱に乗じてか、公開処刑かは分かりませんが」

「…………」

「…………」

「それか良くて――生涯にわたって幽閉、でしょうか」


 僕たちが何かを言う前に、ロイが「おや?」という顔をした。


「君たちにそのような顔をしていただけるとは、大変光栄ですよ。ですが私はもしそうなった後も、あなたを縛るつもりはございませんからね。ご自由に新しい方を見つけていただいて、かまいません」

「あら、殿下ともあろうお方がご自分をそのようにおっしゃるなんて。あなたはわたくしの恋人ですよ。わたくしのあなたへの想いは、それくらいで諦めてしまわれる程度のものだと、思われていらっしゃったのですか?」

「違いますよ、エステル嬢。私はあなたが何よりも大切だからこそ、幸せになってもらいたいと、そう願っているんですよ」


 エステルが返事をする前に、すかさず割り込んだ。


「『ロイ殿下以外の方との幸せなんて、考えられませんわ』とか、続けるつもり?」

「――あら兄様、さすがよく理解していらっしゃるのね」

「ええ。私も思わず嫉妬してしまうほどですよ」

「殿下がそういう感情を持っていたなんて、驚きましたよ」

「ダミアン君。私は君が思っているよりも、意外と複雑にできているのですよ」


 怪人が微笑んだ。


「それは十分承知していますが、まさかあなたの口から嫉妬という単語を聞くとは思っていなかったので」

「兄様は、恋愛感情には疎いものね」


 それは否定できないが、そういう意味で言ったのではない。まあエステルはそれも分かっていて、言っているはずだけど。



「ロイ殿下。いくら彼が王座に固執していて冷酷だとしても、家族に対してそのような残虐な行為をできると思いますか?」

「世の中には一定数、そのような人間がいるのは君たちも知っているはずです。その見返りが大きければ大きいほど、人はそれを得るための手段を選びません」

「確かにそうですが……」


 僕たちは家族仲が良いから、理解できないのかもしれない。その考えに追加するように、ロイが言う。


「そもそも、彼にとったら私たちは邪魔な障害物という認識であり、家族だとは思っていないのではないでしょうか。実際王家の人間は、幼少期から愛情を掛けられずに育てられますので」


 その結果が、目の前のような人物を生み出しているわけではあるが……。


「ダミアン君」

「――はい、殿下」

「君は優秀な私の相棒ですよ? 考えが顔に出ては困ります」

「失礼……しました」

「いえ、意地悪が過ぎましたね。表に出ていたというより、私の推測が当たっただけですよ」

「いや、それも困るんですが……」

「十年来の親友という理由からですので、安心してください」


 ロイは表情を引き締め、エステルと僕を見つめた。


「もう少し話したいところですが、あいにくフィリップ叔父上との約束がございまして。エステル嬢、ダミアン君、捜査内容は分かっていますね? よろしく頼みますよ」

「はい」

「ええ」


 二人の返事が重なった。

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